※夢主死ネタ

「……名前が助けてくれたんです。名前が、鬼から私を庇って、名前は……」

 名前とアオイの二人が参加したその年の最終選別で、戻ってきたのはアオイひとりだけだった。しのぶは決して彼女を責めはしなかったが、アオイは何度も何度も自分のせいだと繰り返した。いつもは気丈なアオイの姿が小さく見えて、カナヲはどうしたらいいのかわからなかった。

 アオイと一緒に選別に参加し、そして戻ってこなかった名前は、他のみんなと同じようにこの蝶屋敷に身を寄せる少女のひとりだった。名前は家族を失った悲しみを少しも表に出さず、いつも元気に笑っていた。はしゃぎすぎてしのぶに叱られていることも時々あったけど、そこにいるだけで周りを明るくさせるような女の子だった。この名前のことが、カナヲは少し苦手だった。

「見て、カナヲちゃん! 綺麗な花!」

 名前がカナヲにかける言葉は、表と裏で返事を決められないことばかりだったから。カナヲはいつも上手に答えられなくて、ほんの一瞬、名前に困った顔をさせてしまうから。

「それでは、行ってまいります」

 あの日。名前とアオイが選別に出立した日。屋敷を出て行く二人に皆が言葉をかける中、カナヲは黙って手を振った。あの時が最後の別れになると知っていたら。アオイと二人で無事に帰ってきてほしいと、伝えることができていたら。

 屋敷の庭に、一輪の花が咲いている。名前が綺麗だと言っていた花だ。風に揺れるその花弁を、カナヲはいつまでもじっと見つめていた。

2021/04/18

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