(情事後) 赤黒く変色した手首を確かめるように軽く動かす。僅かに鈍痛が走ったが、まぁ帰宅に支障のないレベルだ、僥倖僥倖。それにしたって、 「その馬鹿力、手加減てものを学ぶべきだよ」 呟けば、情事後の気だるさなど微塵も感じさせない様子でミネラルウォーターを呷る金髪が振り返った。 「あ?なんか言ったか」 「だから、手加減」 「手前もノリノリじゃねぇか」 「セックスの回数じゃない」 じゃあ何だよ、と眉をひそめながら未だベッドに横たわる俺に向かってペットボトルを放り投げてきた。弧を描いたそれは腹の近くのスプリングを軋ませる。俺はよく見えるように目の前に腕を掲げた。 「シズちゃんが力任せに押さえ込むからほら、俺の手首見てよこの色。携帯操作とか地味にやりにくくなるんだよ分かる?」 「手前が暴れなきゃいい話だろうが」 「じゃあもっとちゃんと慣らせ」 「待てねぇ」 躾のなってない犬かこの野郎。 とは心の中におさめ、その代わりに「やだなぁいい歳した大人ががっついちゃって」と笑いながら起き上がり投げ置かれたままのペットボトルに手を伸ばす。 と、指先のボトルが別の掌にかっさらわれた。言わずもがなこの部屋には部屋の主である俺とシズちゃんしかいないのでそれはシズちゃんの掌ということになる。 自分で投げといて何するんだよ、そう言おうと顔を上げると、シズちゃんはそれだけでは飽きたらず自分でまた飲もうとしているではないか。 「ちょ、なにしてんの、」 そのあとの文句は音にならなかった。ぐいとボトルを呷ったシズちゃんの手が俺の後頭部辺りに伸びたかと思えば、そのまま上向かされ降ってくる荒れた唇。 口を閉じる暇も無く、舌と共にぬるい水が流れ込んできた。 「ん゛っ!?」 「…………、ほれ」 「げほっ、はっ……なにしてんの!?」 いきなりの暴挙に咳込みつつ睨みあげれば、水に濡れた唇がしれっと「手首、いてぇんだろ?」とかほざきやがった。言葉の出ない俺にべ、と舌を見せてシズちゃんは悪そうに笑う。 「文句ねぇだろ」 「大有りだよばか!」 「鏡見てから言えよ」 「ぐっ……」 火照る頬を指摘され、かと言って布団に隠れるのは癪で、結局だんまりを決め込む俺の頭は大分回っていないに違いない。 「もういいのか?」 「いらない」 「ふぅん」 「……………」 もう一度、なんて誰が言うものか。 |