(ぬるいけどやってるよ) 事に及ぶ場所は彼の家が多い。 それは決して俺ばかりががっついているとかいう訳ではなく、俺がよく池袋に出向くからだ。仕事柄、彼は池袋からあまり出ないので。 むしろがっついているのは彼の方だ。俺が忙しくて二週間ほど東京から離れていたときは、冗談じゃなく抱き潰され、次の日の移動は彼の腕に頼るしか無いほどだった。 そういうわけで、今日も俺は熱帯夜にクーラーの無い部屋でシズちゃんに押し倒されている。 「んあ、っふ」 ぐちゅりと生々しい音を立てて指が引き抜かれる。三本を受け入れていたそこが名残惜しげにひくつくのが自分でもわかって、これじゃあ淫乱と言われても反論のしようがないなと詮方ないことを考えた。言葉遊びの一環なのでそれほどの意味を持つわけではないけれど。 普段口数の少ない彼だが、セックスのときは饒舌だ。所謂言葉攻め、とまではいかない(と思う)が、こちらの反応をいちいち拾っては「ここ、いいんだろ?」と聞いてきたりする。触れ合いに慣れない赤ん坊のように、強すぎる刺激の後におそるおそる撫でてくるその大きい手が、俺は好きだ。 「入れんぞ」 「っん、」 後孔に熱いものを押し付けられながらの言葉に小さく首を振る。内臓が押し上げられる感覚に歯を食いしばる。 「力、抜けよ」 無茶言うな、そう言おうとした口は一気に押し入ってきた熱の塊に悲鳴を上げる。どくりどくりと下腹部を、他人の熱に犯され侵される。 「は、あ、は…」 「息、しろよっ」 「してるっあぁう!」 見計らったように中を擦られ嬌声が漏れた。一度零れたが最後、熱の出入りに追いすがるように声が狭い部屋に響き互いの鼓膜を叩く。 「あぅ、あ、あっ、」 「っん、いざ、いざや」 ぽた、 不意に塩気を感じ、覚束無い視界の中金髪を見上げる。 いくら年中バーテン服で過ごす彼でも、30度近い熱帯夜にこんな運動をしていれば汗をかくらしい。昼間サングラス越しで見る薄茶の瞳はきゅうと細められ、こめかみから伝う汗の粒が不規則に俺の頬を、鼻先を、唇を濡らす。 「っは、あ、し、しずちゃ、」 「…いざや?」 シーツを握り締めていた指を引き剥がし、目の前の首に腕を回す。体勢が変わったことで中の別の場所が抉られ、情けない声が上がる。 彼は瞬間躊躇うような素振りを見せた後、こちらの背に同じように腕を回し抱きすくめてきた。 そのまま大きくグラインドされ、目がちかちかして限界を訴える。 「ひ、でる、出るっああぁ!!」 「く、ぁ」 一際強く押し込まれ、腹を白濁が濡らす。後孔の締めつけに息を飲んだ彼も、俺の中で果てた。 断続的に奥に注がれ、びくびくと身体が跳ねるのを止められない。あつぃ、とぼんやり呟くと、物足りなさそうな表情に劣情が上塗りされるのが見て取れ、つい口角が上がってしまった。 「馬鹿言ってんじゃねぇ」 「あお、られた?」 「ったり前だろ」 それでも彼はひとまず休ませてくれるらしい。ずるりと抜かれた反動でまた震えた俺を、普段からは想像できない力加減で抱き寄せる。 自然近づいた胸元に顔をうずめ、すん、と匂いを嗅ぐ。薄れた香水の匂いに混ざってあせくさい彼の匂いを感じ、気付かれないように微笑んだ。 |