聞いてない | ナノ



(先天性♀臨也)





「いぃざぁやぁぁ………てめぇその自慢の頭は飾りか?俺は池袋に来るなっつったよなぁ…!?」
「やだなぁシズちゃん、君と一緒にしないでくれる?俺は今日仕事があって池袋に来たんですー、まともな職につけないシズちゃんには分からないかもしれないけど、大変なんだからね?」
「情報屋なんつぅ胡散臭ぇことやってるてめぇにゃ言われる筋合いねぇよ!」
「ちっちっ、残念俺の本職はフィナンシャルプランナーですよーあ、シズちゃん意味分かる?ちょっと難しい単語だもんねぇ分かりやすく日本語で言おうか?」
「死ねこのノミ虫野郎が!!!!」


頭に超が付くほど短気なシズちゃんは、問答無用とばかりに俺めがけてそばの自販機をぶん投げてきた。避けたすぐ脇を轟音を立てて飛んでいく哀れな被害者(人じゃないけどね)を横目に、数メートルを置いて彼と相対する。


全く、予定外だ。


言い合う間もしくしくと痛みを訴えていた下腹部を分からないように撫で、俺ははぁと分かりやすく溜め息をついた。すぐ脇の標識をぶちりと捻り切り真っ直ぐに俺へ向けてくるシズちゃんに声をかける。

「あのさぁ、今日は俺、ほんと急いでるんだ。シズちゃんなんかにかまってあげる時間さえ惜しみたいの。このあと一週間くらいは池袋近づかないって約束してもいいから、今日は見て見ぬ振りをしようよ」
「手前の都合なんざ知ったことか…そう言って次の日にゃ顔出すのはどこのどいつだおらあああっ!!!」
「くそ、今日ばかりは日頃の態度を猛省したい気分だ…っと!」

まあ俺の訴えなんてはなから相手にしないシズちゃんは手に持っている標識をおもいきり横にスイングする。シズちゃんそれバットか何かと勘違いしてない?
迫り来る丸い部分を紙一重でかわし、詰められた距離を飛び退くことでまた引き伸ばす。が、


ジクリ、


「…………っ!!」


あ、ヤバい。
一際強い鈍痛の波に、そう思えたのが奇跡なくらい、俺の意識はそのまま飲み込まれた。




◇◆◇




「…………………………………なんでおれしんらのとこにいるの」

ふわりと浮かぶように覚醒してはじめに目に入ったのは、天国でも地獄でも、ましてや都会のビル群からのぞく青空でもなかった。
見慣れた天井を前に呟くと、「ああ起きたかい?」なんて暢気な声が左から聞こえてきて。そちらを見やると、中学来の腐れ縁である新羅がマグカップ片手に笑っていた。

「ただの月経痛だろ、だいたい…二日目あたりかな?」
「残念三日目だよ」
「というか来たの数ヶ月振りなんだから私のところにすぐ来なよ」
「もうガキじゃないんだ、自分の体調管理くらい出来る」
「ならなんでここで寝てたんだろうねぇ?」

思わず言葉に詰まるが、それはこちらも聞きたいところだ。倒れる前の記憶を引っ張り出す。どうしても依頼人と直接会わなきゃならない仕事で池袋までやってきて、仕事が終わって帰ろうとしたところでシズちゃんに見つかって…。

「…なんで俺、五体満足でここにいるの?」

そうだ、あんまりにも腹が痛くて適当に撒こうと思ったのにあの単細胞はこちらの気も知らないで自販機を投げてきたんだった。その最中に気を失ったというのに、どうして俺は息をしている?あいつにとって絶好のチャンスをわざわざ見逃したと?
覚醒したばかりの脳で悶々と考える臨也に爆弾を落としたのは、にこりと食えない笑みを浮かべたままの主治医だった。
「なんでって、君をここまで連れてきた本人がそんなことしてどうするんだい」
「…………………………………は?」

自分でも分かる間抜け面を晒す俺など気にも止めず、新羅はぺらぺらと、信じられないような言葉を続ける。

「いやぁまさに驚天動地!ま、彼だって目の前で倒れられちゃ慌てもするさ。荷物かと思うような抱え方で僕の家に飛び込んできたけど、ただの月経…所謂生理痛だから来週にはまた復活して君に嫌がらせしてくるよ!って言ったらやけに大人しく帰ってったなぁ…」

新羅の長台詞を適当な相槌で聞き流しながら、俺はそばのコートを手に取る。携帯、は落としてないようだ。袖を通しながらリビングへ戻る新羅の後を追う形で玄関へ向かう。

「はい、これ」
「…これ眠くなったり」
「しないから安心して飲んでくれ。また静雄の前でぶっ倒れたくないだろ?」

その言葉に激しく同意しつつ、小さな紙袋をコートのポケットに押し込む。
それじゃ、とマンションをあとにしようと扉に手をかけた俺の背に、新羅の小さな呟きがあたる。

「まさか静雄、君が女だって知らないなんて…」
「えぇ?それはないだろ。認めたくは無いけど、俺とシズちゃんの付き合いの長さ分かるだろ?」
「そう、だよねぇ」

腑に落ちない、という表情の新羅も気にはなったが、ポケットの中で着信を伝える振動を感じ俺はかけたままの手で扉を押し開ける。

「それじゃ、」
「あぁうん、きちんと薬は服用してくれよ?」
「はいはいっと」



バタン、









「でも静雄のあの顔は知らなさそうな感じだったけど…」


「うわっ着信5件…やばい誰からだ……あ、もしもし?すみません手間を取らせて…えぇ、その件でしたら……」









「なぁ、ヴァローナ…生理痛ってのは男にもあるのか?」
「否定します。生理痛、月経痛とも呼ばれ、子宮内の子宮内膜が受精せず剥がれ落ちる際の痛みをさします。それ故女性特有のものであり男性には見られない症状かと」
「…………そうか…………」

「おーい静雄ー、それ一歩間違えるとセクハラになるぞー」







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