秘書である波江の出勤と入れ替わるように池袋へと赴いた臨也は、普段の倍の人ごみに改めて連休中であることを実感した。 (今回は飛び石があるから、あまり遠出はしないんだろうね) 出がけに確認したカレンダーによると、月曜日と週末の金曜日が平日な分、連休が寸断される形になっていた。それでも人によっては10連休という人間もいるらしい。 人ごみをすいすいと通り抜けながら大通りをひとつ抜けると、前方に見知った同級生を見つけ、臨也は本人の嫌がるあだ名を叫んだ。 「ドッタチーン!久しぶり!」 「臨也…お前この距離でそのあだ名で俺を呼ぶなよ…」 あきれ顔で臨也を出迎えた京平の近くに、いつもの面々がいないことに気付いた臨也が問う。 「あれ、いつものメンバーは?どうしたの?」 「ああ、あいつらか」 どうやらそれぞれに趣味の買い出しに向かったらしく、京平が留守を預かっているらしい。 ふぅん、と呟く臨也を見下ろし、京平は眉をひそめる。 「お前また無茶やってんだろ」 「なんのこと?」 「とぼけるなって。徹夜しましたって顔だぞ」 「うわっマジで?顔に出るようになったらおしまいだなぁ」 ぺたぺたと自分の顔を撫でたりつねったりする臨也に、京平ははぁとため息をつく。 そのまますぐ近くの自販機でミルクティーを買うと、おら、やるよと缶を放り投げた。 缶は綺麗な放物線を描き、臨也の手元に吸い込まれる。 「ドタチン、俺缶コーヒーのがよかった」 「疲れてんだろ?甘いもんでも飲んどけ。それに…」 今日、お前誕生日だろ?おめでとさん。 さらりと告げられた言葉に、臨也は苦笑する。いくら付き合いが長くとも、男同士で誕生日を覚え尚且つさりげなく祝うことができるのはこの男くらいだろう。 礼を言って、缶のプルタブを起こす。 甘さがほどよく広がり、やっぱり二徹はもう無理かなぁと心の中で呟いた。 「おや、こんなところで珍しい組み合わせだ」 聞き慣れた声に顔を上げる。道路を挟んだ向かいの歩道に、ひらひらと手を振る白衣の男がいた。 「やあ、またなにか企みでもあるのかい?」 「挨拶がそれって、俺それほど信用ないかなぁ?」 「否定しきれないな」 「ドタチンひどっ」 「岸谷もこんな昼間に会うなんて珍しいな、どうしたんだ?」 「僕はこれからお得意さんの出張治療だよ。買い物がてら向かってるところさ」 「早く行けよ…」 見ればなるほど、新羅の手には量販店の見慣れたロゴの入ったビニル袋がある。いかにも買い物を済ませてからやってきましたという様子を見せるのもどうかと思いながらミルクティーをこくこくと飲み干す。 あれ、と声を上げたのは新羅だ。 「臨也、珍しいね。君がミルクティーなんて」 「ああこれ?ドタチンが奢ってくれたんだ」 「へぇ?…ああ、そうか、君今日誕生日だもんね」 「あれ、新羅も覚えてたの?俺の誕生日」 「私の場合は覚えていた、というより、見慣れた、といったほうが正しいかな」 見慣れた、という単語に疑問符を浮かべる臨也と京平だが、すぐに理由を推測できた。 「カルテか」 「一応書いているからね、しょっちゅう僕とセルティの愛の巣に怪我を治しにやってくる君と静雄くんの誕生日は否応がな覚えてしまったよ」 「シズちゃんの誕生日は忘れていいよ、俺のはしっかり覚えて是非祝ってもらおうかなぁ」 「当日に会わなきゃ私は祝わないよ?まあともあれ、誕生日おめでとう」「なんだそれ…まあいいや、ありがとう」 なんかないの?ちょっとこれはセルティに買っていくお土産なんだからあげないよ!だって首なしなんだから食べられないだろ? やいのやいの繰り返す二人を見ていた京平がやっと口を挟んだのは、時計を確認しない新羅にじれた20分後だった。 (おい岸谷、時間大丈夫なのか?) (おっと、それじゃあ俺は行くよ。じゃあね臨也、擦り傷くらいで我が家に来ないように) (はいはい) |