なにこいつ化け物?が、俺の彼に対するファーストインプレッションだった。 コントラバスをご存知だろうか。 オーケストラ演奏では大体端にいる、低音を担当する弦楽器。 近年女性や子ども向けに改良が重ねられ大きさにばらつきはあるが、平均して成人男性がようやっと抱えられる程度のサイズが一般的だ。俺も身長はそこそこあるが細身なため、まあ抱えることはできても持ち上げたり背負って運んだりなんて無理な話だ。まあ話したように大きさは様々で、勿論俺も男だからそこそこの大きさまでなら運ぶことは可能だろう。 しかし、今俺の斜め前で信号待ちをしている男はそんな常識を軽く無視した姿をしていた。 服装が奇抜だとか、そういう意味ではない。その男は、明らかに持ち運びに車を使うべきサイズの楽器ケースを、リュックのように背負って立っているのだ。体格もごく普通の、しかし中肉中背でもなくあえて言うなら無駄のないモデルかと思うような身体つきをしている。後ろからちらちら見える髪は金色で、じゃあ外人かな、と思った。 息を切らせて汗だくになりながら運んでいるようには見えず、ぼんやりと信号が変わるのを待っているようにしか見えない。手元を見ると指先が僅かにリズムを刻んでいる。きっと頭の中で曲が流れてるんだろうなぁ、なんて思いながら俺はそれとなく一歩前に出た。 なんとなく、こんな大きな楽器を運ぶ男の顔が見てみたいなと、ただそれだけの理由だった。 並ぶとかなり背が高いことに気付いた。俺も小さくは無いのに、10センチくらい差がありそうだ。高けりゃいいってもんじゃない、と脳内で呟いて、ちらと見上げる。 結論から言うと、男は外人ではなく日本人だった。金髪は染めたもので、確かによく見ればブリーチで毛先が傷んでいるのが見てとれる。 しかし、それよりもその容姿に目を奪われた。 すっと通った輪郭、精悍というには幼さの残る目元、欠伸をかみ殺す薄い唇。 次の瞬間、視界からそれが外れた。あっと思わず声に出したら、その男が一瞬だけこちらに視線をやった。 明るい茶色の双眸が、俺の色素の薄い赤い目と絡む。 それもすぐに外れ、それきり男は信号の変わった横断歩道を歩いていってしまった。 背が高いので人波に埋もれることなく、渡り終えたあと左に曲がったところまで視線で追うことができた。 「…っやば、」 好みど真ん中だ。 声は喧騒に呑まれ、誰の耳にも、勿論名も知らぬ男にも届かず消えた。 ゲイというより両刀みたいな← |