風のタクト
第3話 竜の島 後編


リンクがメドリを助けに竜の山へ行ったのを見送ったノティ。
暫くは対岸から入り口を見ていたが、やがてポストハウスに戻った。
やはりどうしてもリンクとメドリが心配で、落ち着き無く辺りを歩き回ったり、外に出て海を眺めたり。
オドリーにリンクの行方を訊ねられても笑って誤魔化すしか無い。

何度目か分からない溜め息を吐いて、外からポストハウス内に戻って来た時だった。
ふと視線を向けるとコモリが部屋から出ている。
気になって近寄ると向こうから話し掛けて来た。


「メドリが竜の山に行ったかもしれないって、本当?」
「……本当よ。ヴァルー様と話をするって」


やはりメドリが心配なのだろう、コモリの表情が一層暗くなる。それはノティとて同じ事。
一緒に居たリンクも山へ向かったのか訊ねられ、素直に肯定するノティ。
勇気ある行動を見せる彼らに、さすがのコモリも何もしない自分が悔しくなったのかもしれない。
素直にそれを言えず、口から出るのは憎まれ口。


「バ……っカじゃないの? わざわざ危険な場所に飛び込むなんてさ」
「な、何それ、みんな今の状況を何とかしようって頑張ってるのよ! アンタも引きこもってないで頑張りなさいよ!」
「励ますだけなら簡単だよな。自分が怖い思いをしてヴァルーの鱗を取ってくるワケじゃないんだし」


もう自棄になったのか、コモリは拗ねたような、冷めたような口調で溜め息混じりに言う。
ふと、そんな彼が手に抱えている大きな玉の事が気になったノティ。
美しいオレンジ色は海を染める朝焼けや夕焼けのようで、不思議な模様が中心に浮かんでいた。


「コモリ、その玉……」
「これ? これを抱くと不思議と落ち着くんだ……嫌な事も忘れられる。ディンの神珠って言って、昔ばあちゃんがくれたんだよ」
「ディンの神珠!?」
「な、なに? あげないよ、これはボクの宝物なんだ、分かる?」


リンクの妹アリルを助ける為にそれが必要……しかしどう必要なのか分からないノティは、易々と欲しいとは言えない。
黙り込んでしまったノティにコモリは八つ当たりのように声を荒げた。


「大体、キミはどうなんだよ。友達ひとり行かせて結局ボクと同じじゃないか!」
「……!」
「もしキミが竜の山に行ってヴァルーを大人しくさせられたら、何でも言うこと聞いてやるよ!」


それだけ言い捨てたコモリは再び部屋に戻った。
確かに自分はコモリを責められる立場じゃない。
こうしている間にも、リンクやメドリが危険な目に遭っているかもしれないというのに。
ただこうして心配しながら二人の帰りを待つしか出来ないなんて……。


「……出来ないワケじゃないわよね、きっと」


まだ何もしていない。
もしかしたらこんな自分でもリンクの役に立てるかもしれない。
コモリはノティがヴァルーを大人しくさせられたら何でも言う事を聞くと言っていた。
ならばディンの神珠も貰えるだろうか。


「(行こう。リンクの事も心配だよ……)」


ノティは意を決して竜の山 入り口へ向かう。
元に戻った泉ではリト族達が作ったのか、簡易的な吊り橋が架かっていた。
周りに誰も居ない事を確認しコッソリと渡った先、溶岩の上に石像が平らな背面を上にして倒れており、それを渡って山に入った。

この山の内部洞窟は“竜のほこら”とも呼ばれており、その名の通りに人工的な物も散見される。
妙な像が3つある小部屋を抜けると少し広めの部屋に出て……そこには2匹のモンスター。
小鬼のような、人型に近い豚のような奇妙な姿をした、ボコブリンという魔物。


「(ってあたし、つい来ちゃったけどモンスターとなんて戦えない!)」


しかし ここを抜けなければ先には進めなさそう。
奧には大きな石の扉がり、あそこまで駆け抜ければ何とかなるかもしれない。

ノティが表情を引き締め一気に駆け出すと、気付いたボコブリンが武器を振り上げて追って来る。
それに焦ったノティは扉まであと数歩という所で階段に躓き回り込まれてしまった。
すぐさま起き上がって駆け出すが、扉の方向にはボコブリンが……!
思わず目的の方向から逸れて左へ走ると段差のような地形になっており、下の段には緑色の煙を吐き出す大きな壷が。


「(うわっ、取り敢えずあの壷にだけは関わらない方向で!)」


緑色の煙が毒々しく見えてしまい避けて通ろうとするノティ。
とにかく体制を立て直す為に入り口へ戻ろうと段差を飛び降りようとした瞬間。


「うわっ!!」


またしても段を踏み外す。
それだけなら良かっただろうが、下には緑色の煙を吐き出す壷が。

あぁ、なんか滅茶苦茶ついてない日だな。

そんな事を穏やかに考えながら、ノティは壷の中へと落ちた……。


「わっ……とぉっ!!」


一瞬 頭がぼんやりとして意識が霞んだが、次の瞬間には勢い良く壷から吐き出され慌てて着地の体勢を取る。
ハッとして見回すと、さっきとは違う場所に居た。
広めなのは同様だが中央に溶岩の煮え滾る池があり、それを越えた向こうに巨大な扉が見える。

あそこに行かなければならない、何故か本能的にそう思ったノティは、何とか溶岩の池を越えられないかと考えた。
やがて隅の方に水の入った壷を見つけ、思い切って煮える池に投げ込むと溶岩が固まって上に乗れるように。
すぐに渡り、恐々としながらも大きな扉を開けて中に入る。

すると。


「えっ……! 何これ!」


中央に溶岩の池がある円形の巨大な部屋。
その溶岩の池には、また巨大なモンスターが。
ムカデのような姿に震え上がった瞬間、馴染んだ声が聞こえる。


「ノティっ! ど、どうして来たんだよ!」
「リンク、ごめん! でも神珠が貰えるチャンスだったから……」


走って来る親友にホッとするが、モンスターがこちらに気付いてしまった。
ゴーマという名らしいモンスターは二人に視線を向け、口から高温の炎を吐いて来る。
慌てて逃走しながらリンクはノティに相談した。


「あいつ、デカいし固いしでどう倒せば良いのか分かんなくて……」
「甲羅か何か纏ってるみたいね、確かに固そう」


あの固い殻を何とか出来れば良いだろうが、まずは逃げ続けの現状をどうにかしなければ。
何か手掛かりは……とノティが周囲を見渡すと、遥か上方の天井、太い筒のような形からして竜の山の天辺になるであろう場所に穴が開いており、巨大な尻尾のような何かが出ている。


「リンク、あれってまさかヴァルー様の尻尾?」
「だね。このゴーマがあの尻尾に悪さしてたからヴァルー様が暴れてたみたい」
「それはまあ、暴れるよね……って、今は矛先があたし達に向いてるんだった!」


ゴーマは炎だけでなくその両手(?)が鋭いハサミのようになっており、地面に居てはそれが襲い掛かって来て危険だ。
こうして見ると胴体はムカデのようだが、巨大なハサミのある頭の辺りはサソリのように見える。
どうにかならないかと考えた瞬間、リンクの持つ光る石から赤獅子の声が。


『リンク、ノティ、目の前の敵は強大だ! だがこんな時こそ視点を変えて、物事を見る必要がある。辺りの地形を見回して、自分に有利な戦況を把握する事も重要なのだぞ』
「地形……リンク、辺りの壁、高いとこに幾つか足場になってる場所があるよ!」


赤獅子の助言に反応したノティの言う通り、上の方に木の足場が複数見えた。
溶岩から出られないらしいゴーマを見ると、あそこまではハサミも届かないと思える。


「何とか足場に上がれない?」
「あの上の? あれなら、カギ爪ロープを引っ掛ける所があればきっと……」


ここへ来るまでの間にモンスターに捕まっていたメドリを救出し、その際に彼女から貰ったというカギ爪ロープ。
文字通り長いロープの先に大きなカギ爪が付いており、それを投げ飛ばして引っ掛け、振り子運動の要領で遠くへ跳躍できる。
よく見れば天井から出ているヴァルーの尻尾の先がまさにカギ爪のようになっており、あの部分に引っ掛けてみる事に。

ノティを自身に掴まらせ、ロープを思い切り投げたリンク。
引っかかった瞬間 凄い勢いで宙に浮き、二人でロープに掴まりながら一緒に体を揺らして勢いをつけた。


「飛ぶよ! せぇのっ!」


リンクのかけ声で跳躍し足場へ降りた二人。
着地の後、低い地鳴りのような音が聞こえた二人が振り返った瞬間、天井の岩盤が剥がれ落ち、ゴーマの上に落下した。
その力にゴーマを覆う殻が大破する。


「! リンク、カラが剥がれたよ! 今なら攻撃が通るかも!」
「よし。すぐ終わらせるからノティはここに居て」


リンクが足場から飛び降りゴーマと対峙する。
だが怒り心頭のゴーマはリンクを見つけるなり、両のハサミを振り下ろして挟み込むように道を塞いだ。
予想外のスピードに焦ったリンクは逃げ遅れてしまう。


「しまった……!」
「リンクっ!!」


ゴーマは顔を地面に近付け、リンクを燃やそうと炎を吐く口を開ける。
獲物を仕留める快感にゴーマの目が輝き……瞬間、ノティの脳裏に浮かぶ知らない光景。

どこかの洞窟……いや、まるで巨大な木の内部?
傍にはリンクが居て、彼の近くには羽の生えた不思議な光の玉が浮いていて、彼らが向ける視線の先、高所には今 目の前に居るものとは少し様子の違うゴーマが居る。
これは何だと戸惑っている間に、羽の生えた光の玉が発したであろう声が響いた。


『ゴーマの目を狙って! きっと弱点よ!』

「リンク、ゴーマの目を狙うのよ!!」


まるで本能のようにそれが真実だと“理解”したノティが叫ぶ。
その言葉に考えるより先に体が動き、力いっぱい突き出されたリンクの剣が確実にゴーマの瞳を貫くと、絶叫と共にその体がぼろぼろと崩れて行った。
奴が消え去った事で訪れる静寂。
復活の兆しも無く安堵の息を吐いたリンクを確認し、ノティは足場から飛び降りて彼の元へと駆け寄った。


「ちょっとノティ、飛び降りたら危ないよ!」
「なに言ってるのよ、忘れたの? プロロ島に居た頃は、よくリンクに引っ張り回されてやんちゃな事したんだから平気よ」
「ま、まぁそうだけど。……帰ろうか」
「うん。……あれ、何か……風が吹いてる」


洞窟の中なのに一陣の風が二人の頬をくすぐる。
ゴーマが消えた溶岩の池は冷えたように固まり、そうして歩けるようになった場所の中央に向かい吹いているようだ。
何だかその風が語り掛けて来たような気がして、ノティはリンクの手を引きそこへ向かう。


「風が……風が外まで送ってくれるんだって。行こう!」
「えっ!?」


リンクは有無を言わさず風の中へ飛び込むノティに引っ張られ、二人して風に乗るとスッと体が消える感覚。
気付けば竜の島へ来た時に上陸した浜へ戻されていた。
やっぱりねと笑うノティと驚くリンクの耳に、先程までとは違うヴァルーの機嫌良さそうな鳴き声が届いた。
もう大丈夫だろうと安心する二人の傍に、メドリとコモリがやって来る。


「メドリ、無事だったのね!」
「はい、リンクさんに助けて頂きましたから。……コモリ様、ホラッ?」


明るく笑うメドリが、少々バツの悪そうな顔をしているコモリを押す。
暫くオドオドしていた彼もやがて意を決した様子で口を開いた。


「リンク、ノティ、ありがとう! 突っぱねてゴメンなさい。それにノティには酷い事も言ったし……まさか本当に行くなんて思わなかったから」
「もういいの、ヴァルー様も大人しくなって、結果オーライよ」
「ボクも、二人みたいになれるだろうか……?」
「もちろんですとも!」


自信無さげなコモリの言葉に、メドリが頷いてリンクとノティを見る。
二人が笑って頷くとコモリも明るく笑い、手にしていたディンの神珠を差し出す。


「このディンの神珠、リンクとノティに持っててほしいんだ」
「え、良いの? おばあ様から貰った大切な物じゃ……」
「うん、いいんだ。ボクが嫌な事から逃げない勇気を持つためにも!」


元々の目的だったとは言えディンの神珠がコモリにとって祖母の形見同然である事を知っているノティは、受け取るのを少し躊躇った。
リンクもノティの言葉と様子から察したようだが、彼はコモリの決意に満ちた瞳に注目する。
もしかしたらプロロ島から旅立つ時の自分もこんな目をしていたかもしれない。
きっとコモリはいつまでも祖母の形見に、祖母に甘える自分を脱却したいと思っている。
そうして譲ろうと思ってくれているのなら受け取った方がきっとコモリの為になる。


「ありがとう、コモリ。ボク達これが必要だったんだ」
「やっぱり? ノティが何か言いたそうにしてたから、そのために竜の島に来たのかなって思った」
「あぁー……あたし分かり易かったよね……。ちょっと申し訳なさあるけど……」
「ノティさん、コモリ様はそうして頂きたいようなので、受け取って下さい。旅に必要なんでしょう?」


躊躇いを見せるノティにメドリも笑顔で後押しし、それでようやく気持ちが落ち着いた。
リンクがコモリから神珠を手渡された瞬間、ヴァルーが大きく鳴き声を上げる。


「ヴァルー様も、リンクさんとノティさんに感謝していますよ」
「そうか、メドリはヴァルー様の言葉が分かるのよね。凄いなぁ……」


褒められたメドリが照れて少し俯いた時、ノティの耳に自然と言葉が流れ込んで来た。
聞いた事の無い声で……だがどこか、懐かしい響き。


『ユウシャヨ カンシャスル ユウシャヨ カゼノカミノ カゼヲアヤツレ』
「風の神の……風を操れ……?」
「えっ!? ノティさん、ヴァルー様の言葉が分かるんですか!?」


メドリの言葉にリンクとコモリが、そしてノティ自身も驚いた。
今のがヴァルーの言葉……上手く細部を聞き取れなくて片言のようになっていたが、確かに理解できる内容だった。
リンクとコモリが理解できない所を見ると、誰でも分かる言葉で話している訳ではなさそうだ。
メドリが続ける。


「風の神って……この先の洞窟の、お社の神様の事でしょうか? それにヴァルー様ったら、リンクさんとノティさんの事を勇者だって言ってますよ。確かにワタシ達にとって、お二人は勇者かもしれませんね!」


勇者。
何だか大それた響きに、リンクとノティは照れたように顔を見合わせる。
人助けはその文字通りに他人の為……だがこうやって感謝されるのも悪くない気分だ。
そんな二人に負けていられないと思ったのか、コモリが奮い立つ。


「ボク、ヴァルー様の所へ行って来る! 今度は立派な翼を持って、二人に会いに行くよ。じゃあね!」
「あっ、コモリ様! ……リンクさん、ノティさん、ありがとう。また、お会いしましょう!」


走り去ったコモリの後を追うメドリ。
平和が訪れた竜の島を、穏やかな風が包んで流れて行った。


++++++


赤獅子の元へと戻ったリンクとノティは、得意げに神珠を見せる。


「赤獅子、やったよ! ディンの神珠ゲット!」
「うむ、どうやらガノンが魔物たちを送り込んでいたようだ。よくぞ魔物を倒したなリンク。ノティもリンクへの助言、的確だったぞ」
「えへへっ、この調子で残りも手に入れよう! 次の神珠はどこにあるの?」


やる気に満ちるノティとリンクだが、赤獅子は浮かない顔。
どうしたのか顔を見合わせると彼は溜め息を吐きながら言った。
次の目的地は遥か南の方角にある“森の島”らしいが、風向きが一向に南へ向かないのでノティ達を乗せられないと。
特に赤獅子のような小舟にとって不安定な風で出航するのは命取りになりかねない。


「えーっ! じゃあいつまで待てばいいんだよ」
「この島には風の神が住んでいると噂には聞いた事があるが、心当たりはないか?」
「風の神……さっきメドリが言ってた?」


何もやる事が無いのならと、リンクとノティはメドリの言っていた風神の社へ行く事に。
赤獅子が停泊している砂浜の先にトンネル程度の洞窟があり、そこを抜けると島の反対側に出た。
そちらにもあった砂浜の先、海上に浮いているようにも見える平らな岩場とその上の社を見つけて近寄ってみる。
二つの石碑があり右のものは壊れていたが、左の石碑は無事なようだ。
その石碑には方向を示す記号のようなものが、上・左・右の順で書かれている。


「何この記号。ノティ、これ知ってる?」
「これは確か指揮者の楽譜じゃなかったかな。リンク、赤獅子からタクト貰ったよね? あたしがリズムを取るからちょっとやってみない?」


ノティが手拍子で3拍子のリズムを取る。
それに合わせリンクが石碑の通りにタクトを振ると、風が一つ吹き抜けた。
何が起きたのかと風下の方角を見ると、突然、知らない声が聞こえる。


「うーん、実によい風ぢゃ!」
「えっ……うわっ!」


驚いて声のした方を向くと、黄緑色の雲に乗った青緑の巨大なカエルが満足そうに浮かんでいた。
カエルは優しげな笑みで二人を見ると楽しそうに笑い声を上げる。


「ワシの名前はフーチン、風の神様ぢゃよ。お前は新しい風使いぢゃな? 初めてにしては なかなかよい風カンをしておる。気に入ったぞ!」
「風の神様っ!?」
「風使いって、まさかボクの事だったりする?」
「うむ。お前が今 修得した“風の唄”は風の吹く方向をコントロールできる唄ぢゃ。風は、使い方次第でよいものにもなれば、悪いものにもなる」


フーチンの話によると、彼の弟であるライチンは自分の石碑が壊された事に腹を立て、海の上で竜巻を起こして人々を苦しめているらしい。
弟の石碑……きっと右にあるボロボロの石碑だ。
風の神の石碑だと言うのに、バチ当たりに壊した者の気が知れない。


「酷い、何で神様の石碑を壊すのかしら!」
「うん? お嬢さん、どこかで会ったかね?」


突然フーチンが雲を操りノティの前に来た。
覚えがあるようで まじまじと彼女の顔を見るが、どうにも思い出せないようである。


「え、えと、人違いじゃないですか。あたし この島に来たのも初めてだし、神様の知り合いなんて居ないし……」
「ふーむ……そうか、まぁいい。もし海上で竜巻に出会ったら、ちょっと弟を懲らしめてやってくれ。頼んだぞ!」


明るく言い放ち、笑いながら飛び去るフーチン。
そもそも石碑が壊された事が原因なのに懲らしめて良いのか……と思ったが、無関係な人を巻き込んでいるなら必要なのだろう。
そんな事より、とノティが期待に輝く瞳でリンクを見る。


「リンク、風を操る力を手に入れたのよね! それならきっと風向きも変えられるんじゃない!?」
「だろうね、やってみよう!」


リンクがタクトで“風の唄”を振ると風が南へ吹き抜け、風使いの導きに従って風向きが変わる。
赤獅子の元に戻った二人は、ヴァルーの激励するかのような鳴き声に見送られ南へと出航した。

……それをヴァルーの隣から、飛び去ったハズのフーチンが見ていた。
何とも言えない顔でリンク達に視線を向けながらヴァルーに語る。


「……そうぢゃ、あのお嬢さんは、数ヶ月前に夫婦で航海の無事を祈りに来た奥さんに似ておる。もしやあのお嬢さんは……お前も知っておるんぢゃないかね、ヴァルー」


フーチンの語りかけにヴァルーは何も言わず、ただ、旅立つ勇者を見送っていた。





‐続く‐



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