100万hit記念リクエスト

ご愁傷様ケンカップル

100万記念リクエスト作品


主人公設定:−−−−−
その他設定:オリジナルのゼルダ世界



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「だーっからさっきの道は左に行くべきだって言ったでしょうがっ!」
「お前もこっちだっつってただろ!」
「仕方ないから折れてあげただけよ!」


ゼルダ姫から託された魔物討伐の旅。
気付けば勇者なんて称号を背負っていたリンクとミコトは今日も今日とてハイラルを行く。
間違えた道の行く末は女神様だって分かりゃしない。


「はぁー、どっかの誰かさんのせいで帰る頃には日が暮れそうだな」
「自省するなんて殊勝ね」
「ア゙ァ゙!?」


二人は幼馴染なのだが、武術も学術も同程度の成績の二人はライバルのまま成長してしまった。
年頃の男女が二人きりで居れば浮いた話になる筈なのに、何の噂も聞こえて来ない。


「勇者の称号を頂いてるのが自分だけだと思わない事ね、この前の手合わせでは私が勝ったって事を忘れないように!」
「勝ち数と同じくらい負けてるクセに何言ってんだ、大体その前は俺が勝っただろ!?」
「あー、そう言えば前々回の仕事で行ったゾーラ族の里で、水中の敵をほっとんど倒せなかったのはどこの誰だったかしら〜?」
「あー、前回の仕事で行ったゴロン族の町で、暑さに体調崩して敵をほっとんど倒せなかったのはどこの誰だったかなぁ〜?」


これでは浮いた話にもなりようが無い。
近くないが遠くもない微妙な距離を空けながら来た道を戻っていると、近くの草むらが揺れた。
そこから飛び出して来るモンスター達。


「おっと!」
「あっ!」


瞬時にリンクがミコトの前に飛び出しモンスターを屠った。
一歩遅れてミコトも後続のモンスターに魔法を放ち、そこへリンクが追い打ちを掛けてモンスターを殲滅する。
リンクは戻って来ながらミコトの方を見ないまま。


「びっくりしたな、後でも尾けられてたか?」
「……一応お礼は言うけど、大きなお世話だったからね」
「それ礼じゃないからな」


言いつつも怒った様子ではない。
残りのモンスターが居ないか辺りを警戒するリンクを見ながら、ミコトは悔しそうに握りこぶしを作ると……。


「(それ〜〜っ! そういうトコ〜〜っ! カッコ良くてムカツク〜〜ッ!!)」


心の中で叫んだ。
決してミコトがモンスターに反応できなかった訳ではないが、瞬時に庇うように立ち塞がって敵を倒してくれるなんて普通はときめく。
そう、周囲で浮いた噂の立たない関係性の二人だが、当人達はさすがに相手の成長を思い知っていた。
小さな頃からお互いをよく知るからこそ変化が胸にクるもので。


「(大体なんなの、昔は私の方が大きかったのに背なんてすっかり伸びちゃって、体つきも逞しくなって……!)」


街や城の娘達から熱視線を浴びているのは嫌でも目にする。
それに思わず嫉妬してしまう自分が腹立たしくてしょうがない。


「(何よアンタの上辺しか知らない女の子達にデレデレしちゃって! 私だって、私だってモテるのよ! なのにリンクをずっと見て来たせいでどの男も大して良く見えないし、どーすりゃいいのよ!)」


これを言いたいが言ってしまうと何か大事なものが崩れてしまう気がして言えない。
というか言ったが最後、恋人としてくっ付くか完全に離れるかのどちらかにしかならない気がする。


「(私とリンクが恋人……!? 無い無い無い無い有り得ない、今更そういう関係とか無理っ!)」


それなら完全に離れて、競うのも共に仕事をするのもやめれば良いかもしれないが、逆に今更離れる事も出来ない。
寂しいからとかそういう理由ではなく、強さが王国のツートップである二人は、同じレベルで仕事が出来るのはお互いだけだし、戦いで高揚させてくれるのもお互いだけだから。
喧嘩は多いが強さを認めているのも確かで、共に戦ったり訓練したりするのは正直に楽しい。
だから万一にも弱体化してこの地位から転落し、相手に興味を無くされたりしないように、鍛錬を怠ってはいけない……。


「(……え、何これ私ひょっとして、リンクに見捨てられたくないって思ってる……? く、悔しいからよ、アイツに後れを取るなんて! 理由はそれだけ!)」


自分の感情もきちんと整理できないまま日々を過ごすミコトにとって、リンクへの感情は正も負も大爆発していた。

その後、何とか正しい道に戻りモンスターの巣に辿り着いた二人は、無事に親玉を倒してハイラル城への帰路につく。
途中、旅人の為に建てられた小屋を見つけ、遅くなりそうだったので今日はそこで一泊する事に。
簡易的な台所があったので近くの小川で水を汲み、スープを作る。
出来上がったスープを口に運ぼうとした時、リンクはふとある香りに気付いた。


「ん? この香り……」
「その香草好きだったでしょ? あんたが水汲みに行ってる時見つけたから使ったの」
「あ、ああ、サンキュ」


そこでリンクはミコトから顔を逸らし、悔しそうに握りこぶしを作ると……。


「(それ〜〜っ! そういうトコ〜〜っ! 優しさ溢れててムカツク〜〜ッ!!)」


心の中で叫んだ。
握りこぶしを作ったのはテーブルの下だし、ミコトは食べるのに集中していて気付いてない。


「(そうなんだよ、人の好物覚えてて しれっとこういう気遣いするんだよコイツ! 食べさせる相手の事考えてるのがひしひし伝わって来るんだよ!)」


強い上にリンクとの喧嘩が多く乱暴な面が目につき易いが、元々ミコトは気遣いが出来るタイプだ。
小さい頃から付き合いが多いのだから、端々にそういう面がある事はよく分かっている。
訓練や戦いで破れた服を直してくれていたり、仕事の連絡や報告を済ませておいたり、纏めてくれたりしていた事もあった。
それでいて恩に着せる訳でもないという出来っぷり、普通はときめく。
外見の可愛らしさから寄って来る男は多く、ストーカーレベルにまでミコトに惚れ込んだ者すら居る。
それに思わず嫉妬してしまう自分が腹立たしくてしょうがない。


「(どいつもこいつも、ミコトの事をよく知らない癖に鬱陶しい。相手してる間に俺との訓練や仕事の時間が減るだろ!)」


恋愛感情があるかといえば、こんなキツイ女相手にそんなものある訳が無いと言いたい。
しかしミコトとの戦いや仕事は正直に楽しく、その時間を奪われる事は我慢ならなかった。
王国でも最強クラスのリンクを満足させてくれる相手などミコトだけだ。


「(俺だって、俺だってモテるんだよ! なのにミコトをずっと見て来たせいでどの女も物足りないし、どーすりゃいいんだよ!)」


それならくっ付けばいい、そう思うが二人はお互いに相手が自分へ持っている感情を知らない。
もし告白でもして相手にその気が無ければ一生ネタにされ笑われる気がする。
そんなの悔し過ぎる……負けず嫌いな感情が先走る彼らは、当たって砕ける事すら出来そうになかった。


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翌日、城へ帰還し報告を済ませた二人。
リンクと別れ家へ戻ったミコトは、母親からとんでもない話を聞かされる。


「え、ちょっ、待って母様! お見合いって私が!?」
「ええ。あなたも年頃なのだから早すぎる事もないわ」
「き、聞いてないよ……」
「今 言ったもの。来週には会うから準備はしておいてね」


ミコトはこれでも貴族の娘である。
武勲でなる一家なだけに普通の貴族とは一線を画しているが、こういう所は同じだ。
翌日、元気が出ないのを隠しながら鍛錬に励んでいたミコトに、リンクが声を掛けて来る。


「お前どうしたんだよ」
「何が」
「元気ないな。張り合いないから調子戻せ」
「うるさいわね、人の気も知らないで勝手な事ばっかり!」
「そりゃ教えられてないんだから知らないな」


教えられてないから知らない、なんて言いつつもミコトの元気が無い事は見抜いた訳だ。
母親の紹介だから、お見合いの相手はミコトの家が武勲を挙げている事は知っているだろうが、果たして上手く行くのか。
女が戦うなど好ましくない、妻になったのだから……とあの手この手で戦いをやめさせようとして来るかもしれない。


「……リンクなら戦い続ける事も許してくれるだろうに」
「何だよ急に」
「お見合いする事になったの、来週。多分その人と結婚する」
「……」


瞬時にリンクの脳内を駆け巡る思考回路。

は? お見合いってミコトが? つまり結婚? まさか家庭に入ったりするのか?
こいつの家の事だからその辺は大丈夫かもしれないけど相手の意向によっては戦いを辞める事になるかもしれないよな?
待てよ冗談じゃねぇよコイツが居なかったら誰が俺の鍛錬の相手するんだよ一緒に仕事するんだよ俺に付いて来られるのコイツくらいしか居ないだろ仕事に支障あったらどうしてくれるんだふざけんな。


「……ざっけんな」
「え?」
「それで戦いを辞めざるを得なくなったらどうすんだ」
「……しょうがないじゃない。私の家だって一応は貴族なのよ? 他家との繋がりだって大事だし、いつまでも相手が居ないと外聞が悪いのかもね」
「絶対に結婚しないといけないのか?」
「母の紹介だからね、私がよっぽど無理って泣きつかない限りは結婚すると思う」


リンクとしても、貴族の家の事情にあまり首は突っ込めない。
今は王女ゼルダの計らいで特別に地位を頂いているが、元々は平民なのだから。


「俺の方がお前の事わかってるのに」
「私だってそう思う。アンタが相手なら私の生き方を変えずに済むんでしょうね」
「……じゃあ、俺にしとけよ」
「……」


そこで会話が止まる。
お互いが見つめ合って、その視線は普段 鍛錬や試合をする時とは違う色を湛えていた。


「どこの誰とも知れない男に邪魔されてお前が居なくなるくらいなら、そっちのがよっぽど良い! 結婚しないと外聞が悪いなら俺にしとけ!」
「そりゃ……私だって、理解してくれる相手って意味なら、アンタ以上の相手なんて居ないけど……でも母の紹介が……」
「紹介どうこうじゃない、お前自身はどう思ってんだ! 俺が相手でも良いのか!?」
「……わ、私も、アンタと戦ったり仕事したり出来なくなるくらいなら、いっそ……。アンタと、結婚、したい……」
「あらあら、まあまあ!」


突然響いた、ミコトでもリンクでもない声。
そちらを見ればミコトの母が驚いた顔で二人を見ていた。


「か、母様!?」
「まあ二人とも、そんな仲だったの? 母様、ミコトとリンクさんの仲が宜しくないようだから、当日まで伏せておくつもりだったのよ」
「え……」
「まさかお見合い中に喧嘩して暴れる事も無いでしょうから、お見合いさえ始まってしまえばこっちのものと思っていたけれど……」
「あ、あのあの、母様……」
「結婚したいとまでいう仲だったのね! 母様、勘違いしていたわ」
「……まさか、私のお見合い相手って……」
「リンクさんよ」


ぴし、と二人が固まる。
ちなみにミコトの一族には親戚もおり、ミコト一人が結婚しない程度で外聞の事は気にしなくても良いらしい。
つまり、ただ単に嫁き遅れを心配した母のお節介だったという訳で……。


「ミコトのお相手はリンクさんしか居ないと思っていましたわぁ。他の殿方にはミコトなんて手に負えないでしょう」
「……」
「ではリンクさん、改めてゼルダ姫様からお話が行くと思いますので、来週は宜しくお願いしますわ」


うきうきと歌でも歌いそうに上機嫌で去るミコトの母。
彼女の姿が見えなくなり、辺りが静寂に包まれて数秒、二人は叫んだ。


「イヤーーーーーッ!! やっぱり無し無し、今の発言無し!!」
「取り消し! 無効! 俺は何も言わなかった!」
「あーもう無理、鳥肌立って来た!」
「俺だって何か蕁麻疹みたいなの出て来た気がする!!」


素早い前言撤回と言い合い。
気付いた城仕えの者達が、またか、と半ば呆れつつも微笑ましく見守るいつもの光景。
しかし二人の胸中を占めるのは安堵だった。
きっともう、お互いが望む限りずっと一緒に居られる。
その安心によって生まれた余裕が、二人を再び元通りの関係に戻してくれた。


「さっきのは一時の気の迷いよ、誰がアンタなんかと結婚したがるもんですか!」
「こっちのセリフだよ! 誰がお前みたいな乱暴女と一緒になるか! 絶対ゴメンだね!!」


幼稚な喧嘩は、二人の何よりの信頼関係の証。
憎たらしいけど憎めない、大嫌いだけど大好き、そんな相手とこれからも関係を続けなければならないケンカップルさん達、ご愁傷様。





*END*



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