100万hit記念リクエスト

宿屋にて

100万記念リクエスト作品


主人公設定:長編夢【時のオカリナ】主人公
その他設定:7年間でダークと再会してからの話



++++++



聖地に封じられたリンクの目覚めを待ち、ガノンドロフ一派との遭遇を避ける為にハイラル各地を転々と旅していたミコト。
そんな彼女の傍には妖精のナビィ、子竜のナーガ、そしてリンクの影から生まれたダーク。
ミコトは17歳になり、ダークの年齢はリンクと同じであれば彼は16歳となる。
かつてはミコトの方が高かった身長はとっくに抜かれ、段々と少年の面影が抜けて青年へと変化していた。


「ねえねえミコト、ダーク随分とカッコよくなったわよね!」
「ナビィ……はしゃいでる?」
「当たり前でしょぉ? ミコトと誰がカップルになるのか、楽しみで楽しみでしょうがないんだもん! 幸せになってくれるなら誰でも良いけど〜、やっぱりリンクかダークがお勧めかなっ!」


相変わらずの恋愛脳ナビィに苦笑しつつ、確かにダークは成長したなと考えるミコト。
有り体に言えば相当なイケメンになりつつある。
相変わらず表情が変わらず口数も抑揚も少なく、見ようによっては不気味とさえ言える風貌だが、その容姿は、とても。


「リンクも、同じ感じなのかな」
「リンクがどうした」
「わっ!」


急に新たな声が聞こえ、そちらを見ればダーク。
今はカカリコ村の宿屋に宿泊中で、彼とは部屋を別にしているのだが。


「ダ、ダーク、部屋にはノックして入って。鍵を掛け忘れた私も悪いけど……」
「ノックはした」
「……入室許可を得てから入って」
「きゅう! だーく、あわてんぼ!」


ダークの頭に乗っかっていたナーガが楽しそうに笑う。
相変わらず無表情で常に冷静なダークが慌てるとは考え辛いが、返事も待たずに入ったダークは、ナーガにとってそう見えるのかもしれない。


「ところで、リンクがどうした」
「え……別に、どうにも。ただダークと瓜二つだったから、リンクも今頃ダークみたいに……」
「俺みたいに?」
「……なってるのかな、って」


危ない、考えたままに『ダークみたいに格好良くなってるのかな』なんて言おうとした。
別に褒めているのだから躊躇う必要は無いのかもしれないが、年頃の男女故にどうにも照れ臭い。
しかし、恥ずかしい思いをしなくて済んだと思っていたミコトの思いも虚しく。


「うふふ、ミコトったらね、ダークがカッコよくなったからリンクも? って思ってるのよ」
「ちょっとナビィ!」


ナビィが意気揚々とダークに着火した。
格好よくなった、と言われればダークは喜ぶだろうが、同時にリンクの話題を出し彼の容姿を想像している事を知れば、機嫌は悪くなるだろう。
恋愛話が大好きなナビィはミコトがダークを褒める事で彼の好感度を上げ、ライバルの話題を出して嫉妬を煽ろうと思ったらしい。
基本的に無表情のダークは表情こそ変わらない……いや、一瞬だけ顔を顰めた。
そこにどういう感情があったかは分からないが、珍しい物が見られてミコトも少し目を見開く。


「えっと、ダーク?」
「……どう反応したらいい」
「え」
「褒められた事に喜ぶべきか、リンクを想っていた事に怒るべきか」
「……」


至って素直に現在の想いを話される。
思えばダークは昔からこうだった。
リンクの“誰かを(特別に強く)大切に思う心”を分散されて生まれた存在なので、余計な思考はあまり持っていないようで。
照れたり強がったりという事が無さそうだ。


「ダークの好きにしたらいいんじゃない?」
「じゃあ喜んでから怒ろう。ミコト、ありがとう」
「う、うん?」
「そして今お前の傍に居るのはリンクじゃない。俺を見ろ。俺の事を考えて、俺の事を話せ」
「ん、えっと、うーん……?」
「何故そこで悩む」
「今、リンクの帰還を待ってるのは確かだし、どうしても考えてしまうというか……」
「……」


少し離れた位置に立っていたダークが再び顔を顰め、ミコトの方に歩いて来る。
雰囲気の変化を感じ取ったらしいナーガがダークの頭から飛び降り、ミコトの傍に居たナビィもどこかうきうきした様子で離れてしまう。
待って一人にしないで、と同室に居る二人に思いながらも、ミコトはほんの1、2歩下がっただけで碌に逃げられない。
すぐ傍まで寄られ、少し見上げるようになった位置の顔を改めて間近で確認すると。


「……」
「なぜ目を逸らす」
「……あまり近くで、じっと見つめられないから……」
「俺はお前の事ならいくらでも見ていられる。どうしたらお前もそうなってくれる?」
「難しいかな……」


こんなに端麗な顔を間近で見つめ続けられるほど場慣れしていないミコト。
しかし、たった今リンクの事を話し、傍に居なくても彼の事を考えてしまうと言った為か、“ダークの顔を見つめていられない”という言葉を、彼はマイナス方面で受け取ってしまったようだ。


「そこまで、リンクの奴を想っているんだな。俺が傍に居てもずっと奴の事を考えてしまう程に」
「えっ……」
「俺が奴に瓜二つだから。俺を見てもお前が想うのはリンクばかりなんだろう。俺は奴の代わりでしかない」
「た、確かによく似ていたけど、ダークはダークでしょう。リンクと同じだなんて思ってないわ!」


リンクの方は幼い頃しか知らないが、当時の二人は確かに同じ顔をしていた。
ただし表情豊かで言葉も明るいリンクは確かにダークとは違うし、そもそも基本的な性格と思考回路もあまり似ていない。
更に成長してからはダークの方しか見ていない為、ますますリンクと同一とは思えていなかった。
同じ顔だから成長したリンクもこんな容姿かな、と考えたりはするが、今こうして傍に居るダークを同一視し、あまつさえリンクの代わりなどと。


「た、ただ、ダークを見つめるのが恥ずかしいから、だから出来ないの!」
「なぜ」
「なぜって……」
「ミコトはね、ダークがカッコいいから照れちゃうんだって!」
「ちょっとナビィ、さっきから!」


やや離れた所から、またもナビィがダークに着火。
少し目を見開いてそちらを見たダークが、再びミコトに向き直る。
少しだけ何かを考える素振りを見せた後。


「じゃあこうする」
「!?」


思い切りミコトを抱き締めた。
以前もこんな事があったなと頭の片隅で呑気に考えようとしたが、当然それ所ではない。


「ダークちょっと、ちょっと待って!」
「顔を見るのが恥ずかしいなら、こうすれば見えない」
「本末転倒って言葉知ってる!?」
「重要な事と些細な事を取り違える事……つまり?」
「逆効果だって意味もあるのよ!」
「つまりミコトはこうされると余計に恥ずかしくなるのか」
「あ、当たり前でしょう!? むしろダークは恥ずかしくならないの!?」
「お前に触れられてそんな事を思う訳がない。ただただ幸せで、ずっとこうしていたくなる」
「……!!」


ナビィが小声できゃー!なんて言ったのが耳に届いたが、もうそんな反応に突っ込む余裕は無い。
なかよし! なんて嬉しそうに言うナーガにこの光景を見せても良いものか迷うが、力的にも自分では振り解けなかった。
にっちもさっちも行かず照れと困惑で何も言えなくなったミコトがされるがままになっていると、不意にダークに放される。
ホッとしたのも束の間、またもダークの発言で心を乱された。


「お前を抱きしめても恥ずかしくはないが、やはり鼓動が早まるし、体も熱くなるな」
「え……」
「しかし愛している女に触れた反応としては正常だろう。このまま、いいか?」
「な、何を……?」
「共寝しても」
「!?!?!?」


まさか、まさかそこまで踏み込まれるとは思わなかった。
ダークはその印象から子供のような純真無垢を想像してしまいがちだが、普通に知識も感覚も持っている。
そしてミコトへの愛情表現に関しては恥という意識が無いので、こういう事もサラリと言ってしまう。
しかしさすがにというか、そればかりはナビィが阻止して来た。
慌てた様子で飛んで来るとミコトとダークの間に割って入る。


「まだだーめっ! きちんと想いが通じ合ってからにしなさい!」
「む……」


簡単に抱き締められるし共寝したいとサラリと言えても、さすがに最後の一線に対する常識は持っていた。
ムッとした様子(これも顔に出すのは珍しい)でミコトから一歩距離を取ったが、次いでナビィが爆弾発言。


「ただし、ワタシとナーガも一緒なら添い寝する事だけは許します!」
「ナビィ!?」


こっちは本当にそのままの意味での“寝る”だが、それだけでも恋愛経験の浅いミコトには大事。
直接 断るのも何となく気まずいので、一般的な内容で拒否を試みる。


「や、宿代が勿体ないでしょ、せっかく二部屋取ったのに」
「その分は俺が稼ぐ」
「頼もしいけど! でもそう簡単に同じ部屋……しかも同じベッドなんて……」
「ナビィとナーガも居るから何もしない」
「そ、それでも……!」
「いっしょ! みんなでいっしょにねる! やったー!」


ナーガが楽しそうに言った事で、拒否しかけていたミコトの心が一気に折れた。
彼こそ純真無垢に自分達を慕ってくれているので尚更。
結局その日は全員で一緒に寝る事になってしまい……。

妥協案として、ミコトとダークの間にナーガが入る事になった。
潰してしまわないかと少し不安になったが、彼は竜らしく結構な頑丈さを持っているので無用な心配だろう。
ナビィはベッドのヘッドボードの上、ミコト側に枝で休む鳥のように留まっている。
これナビィは一緒に寝てる事にならないんじゃ……? と思ったが、監視も兼ねてくれていそうなので黙っていた。
さすがに寝ている間に無体な事をするダークではないが、思春期男子が好きな子と添い寝して万一が起こる可能性は0ではない筈なので、一応。


「ミコト。いつか二人きりで、隣で寝るからな」
「堂々と宣言するのね……」
「いつもの事じゃない、愛されてるわね〜ミコト!」
「ナビィったら……」


苦笑しつつも、毛布に包まれていると眠気が襲って来る。


「(そう言えばいつもよりずっと暖かいな……一人じゃないって、いいな……)」


リンクが居ないのは寂しいけれど、こんなにも頼もしい仲間達に支えられているのだから、きっと耐えて待つ。
うとうとし始めたミコトに気付いたダーク達に、おやすみ、と声を掛けられ、眠り半分で返すミコト。
その晩はリンクやゼルダも含めた皆で楽しく笑っている、幸せな夢を見たミコトだった。





*END*



- ナノ -