80万hit記念リクエスト

バレンタイン逃走劇!

80万記念リクエスト作品


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私立 春空(はるぞら)学園。
この学園に通う生徒は、世界各地で活躍する事を約束・義務づけられたエリートばかり。
能力さえあれば老若男女問わず通う事が出来る学園だ。
その中でも主に戦闘を行う生徒達が集まる学部、通称スマブラ学部はエリート中のエリート。
ただし戦闘がメインというだけあって、エリートの意味合いが他とだいぶ違う。
個性豊かな生徒が集まり易く、それぞれが学園内外を問わず人気があった。

9年間の学園生活で入学3年目に学園全体の生徒会長に任命され、6年目となった今でも生徒会長を務めているミコト。
彼女もスマブラ学部に所属し、我の強い仲間達を纏めるのに一苦労している。
そんな彼女の幼馴染みであり共にスマブラ学部に通うアイク。
ズバ抜けて高い戦闘能力を持つ彼はその容姿と性格も相まって人気が高い。
特に女子生徒からはアイドルもかくやという程のモテっぷり。
そんな彼の最大の悩みと言えば……。


「アイク、学校に行く時間だよ」
「……今日は休む」
「駄目、そろそろ試験でしょ」
「今日だけは休む」


この日ばかりは毎年のようにアイクが学校に行こうとしない。
起こしてくれと彼の妹に頼まれて部屋まで上がり込んだミコトは、ろくに支度も済んでいないベッドの上の幼馴染みを脇から見下ろす。
食べるのが大好きな彼が朝食も取らずに部屋から出ようとしないとは一大事だが、こうなった原因の一端はミコトが担っていたりする。


「そりゃ許可したのは私だけどさぁ……」
「……何なんだあの女どもは。どんな敵より厄介だろ……!」
「うーん……」


本日は2月14日。
世の女子達、そして一部男子達が色めき立つ聖バレンタインデー。

それはミコトが生徒会長に任命された年度の事。
とある生徒からの意見書に、バレンタインデーチョコの学園持ち込みを許可して欲しいというものがあった。
購買部で普通に菓子類が売ってあるどころか、カフェやスイーツショップまで学園敷地内にあるのに、バレンタインと名が付くだけでチョコ禁止になるのは納得がいかないと。

その言い分は尤もだし禁止理由も今や曖昧で、規則だから、という理由だけ。
それなら許可が下りても良いだろうと学園長のマスター&クレイジーに意見すると、彼らも理由が分からないようでアッサリOKが出た。
恋する乙女のタメになったのなら良かった、と人助けが出来て良い気分だったのだが。

当日ミコトが目にしたのは、チョコレートを持った女子生徒に追い回されるアイクの姿だった……。


「まさかあんな事になるなんて思わなかったよ」
「俺はチョコレートなんぞいらんし、あいつらにも興味が無い」
「断れば良いんじゃない?」
「断ったら断ったで酷いだの言われたり泣かれたりする。まるで俺が悪い事でもしたみたいだ」
「それは同情するけど」


モテない男子から見たら殴り飛ばしたくなる程の贅沢な悩みだが、本人は真剣に悩んでいるので勘弁して貰いたい。

迫って来る女子生徒達は戦闘系の学科ではないので下手に攻撃も出来ず、ある意味絶対に倒せない相手なのでアイクが嫌がるのも分かる。
しかしもうすぐ試験があるので、落として進級できない事になると厄介だ。
幼馴染みとしてアイクには何のマイナス点も無く卒業して欲しいし、一緒に卒業したいとも思うのだから。

そう言うと、アイクが返して来た言葉は。


「それならミコト、今日一日お前が俺をサポートしてくれ」
「えっ?」
「俺が女どもに捕まらないように」
「ちょ、ちょっと待って。ただでさえ私あなたのファンの一部から目の敵にされてるのに、ずっと一緒に居たんじゃ火に油注いじゃうでしょ……!」
「起こしに来た責任があるだろ」
「そんな無茶苦茶な……」


突然の言い分に呆れるやら戸惑うやらのミコトだったが、ここで押し問答していても遅刻するだけ。
しぶしぶ了承して、今日一日アイクのサポートとして付いて回る事になった。

入学して2年目くらいまでは一緒に登下校していたが、3年目辺りから妙に気恥ずかしくなってあまり一緒には登下校しなくなった二人。
久し振りに並んで登校した訳だが、年齢の関係で周囲からの視線が以前とは変わる訳で。


「……ねえアイク、視線が痛い」
「気にするな、お前のお陰で誰も寄って来てない」
「睨まれてる、私めっちゃ睨まれてる」
「気にするな」
「これを気にするなと申すのですか、あなたは……!」


恋する乙女の熱視線が敵意に変わる恐ろしさをアイクは知らないのか。
熱視線の方しか向けられないので無理は無いだろうが。

授業中は慣れ親しんだ(かつアイクに恋愛的な興味が無い)学友ばかりなので安心だが、やはり問題は休み時間、特に昼休み。
学食へ行くのも購買部へ行くのも諦めて弁当にしたので、教室を出る必要も無い……筈だったのだが、ふと気付くとアイクの姿が見えない。


「あれ、アイク? ねえリンク、アイク見てない?」
「アイク? さっき教室を出て行ったけど」
「えぇ? 女子生徒に追われるって自分で言ったのに何してるのよ……」


そうしてミコトが言い終わるか終わらないかの時、教室の外、遠くから何かざわめくような声が聞こえて来る。
嫌な予感がして廊下へ出てみたミコトが目にしたのは……。
きゃあきゃあと黄色い声を上げる女子生徒達に追われるアイク……。


「ア、アイク! 何連れて来てんのっ!」
「逃げるぞミコト!」
「はいっ!?」


走って来たアイクがすれ違いざまにミコトの手を取り引っ張る。
否応なしに走らされたミコトは、息を弾ませながら怒りの質問。


「追われるって分かってるのに何で勝手に教室出たの!?」
「トイレに行った」
「あ、はい」


それなら付いて行く訳にもいかない。
行きは良かったが帰りに見付かり追われたという訳。
しかし連れて行かれたミコトにとっては災難で。


「ちょっと生徒会長、何アイク君にくっ付いてるのよ!」
「見れば私がくっ付いてる訳じゃない事くらい分かるでしょ!?」


多くの女子はあんな風ではないのだが、一部にタチの悪い者が居る。
このままではミコトが逆恨みされてしまうと危惧したか、アイクが一つ思い付いた事を実行した。

……してしまった。

彼は振り返ると、追って来ている女子達に向かって。


「おい、お前ら聞け!」
「?」
「俺はミコトと付き合ってる、お前らの出る幕は無いぞ!」
「……」


全員がぴたりと止まる。
暫くは辺りを沈黙が覆っていたが、次いで響く女子生徒達の悲鳴。


「イヤアァァァァーーーッ!!」
「!?」


ヤケになったらしい女子生徒達が一斉に向かって来る。
アイクは慌ててミコトを小脇に抱えるようにし、そのまま走り出した。
荷物のように抱えられている事を気にする余裕も無く、ミコトはひとまず今のアイクの愚行に対して抗議。


「アイク、何で爆弾投下したの……!」
「ああ言えば諦めるかと」
「そんな訳ないでしょもおぉぉっ!」


これだけモテているにもかかわらず、本当に恋する女の子事情が分からないらしい。
世の非モテ男子から非難囂々だろうが本人は困っているので勘弁して貰いたい。
このままでは本当に逆恨みされてしまうと、ミコトはこれからの学園生活を想像しゾッとした。
ここまで過激な女子は極一部だが、恨みや憎しみを糧に一致団結した集団ほど怖いものは無い。
戦闘学科でもない彼女達へ無闇に攻撃する訳にもいかないし、自分がバレンタインデーを解禁したも同然なので文句も言えない。

……いや、文句なら言える。


「アイクの馬鹿ぁぁっ! (一部の)過激派女子に恨まれるっ!」
「す、すまん。しかしサポートしてくれるって言っただろ」
「これもうサポートじゃなくて生贄じゃないの! いくら女子に追われなくなると思ったからって、心にも無いこと言って私を危険に晒すなんて薄情者っ……!」


そう言った瞬間、ピタリとアイクが止まった。
何してるの逃げないと、とミコトに言われて再び走り出したが、明らかについ今さっきまでとは雰囲気が違っている。


「……アイク?」


声を掛けても反応が無い。
何か怒らせるような事を言っただろうかと考えても思い当たらない、というか今怒るのは自分の方ではないかと言いたいミコト。

やがて1階まで下りて来たアイクはお構い無しに外へ出た。
校舎などに挟まれて道は広くなく、一応 死角にはなっており、アイクは近くにあった補助用の狭めな体育倉庫の中に入り込む。
中は走り高跳び等で使う分厚いマットが2つ置いてあり、1つは普通に置いてあるが、もう1つは壁へ斜めに立て掛けられるようにしてあり、下に置かれたマットを屋根のように覆っている。

アイクはミコトを抱えたまま2つのマットの隙間に入り込んだ。
マットは小さなものではないが、一方を壁、もう一方をマットでは、圧迫感と共に自然と体が密着してしまう。


「あ、あの、アイクさーん?」
「心にも無い事、って、本気でそう思うか?」
「え……」
「正直な話をすると、俺も今の今まで気付かなかった。だが何とかしてこの状況を脱さないといけないと思った時、自然とあの言葉が口を突いて出たんだ」
「それは女子達から逃げる為に……」


そこまで言いかけてミコトはある事に気付く。
アイクはあんな風に冗談で、誰かとの恋愛関係を示唆する事を言う人ではない。
普段 色恋沙汰に興味が無いからこそ、それを口に出すのは真剣な時。

気付けばミコトはマットの上で仰向けになっており、その上にアイクが覆い被さるような姿勢になっていた。
近い。アイクの微かな呼吸音が聞こえる。
ミコトの心臓は自分でうるさいくらいに高鳴っていたが、ひょっとしたらこの時、アイクも緊張していたのかもしれない。


「小さい頃から、ずっと一緒だったな」
「う、うん」
「俺が春空学園のスマブラ学部に行くと決めた時、お前とは離ればなれになるだろうと覚悟していた。だが一緒に来てくれて……本当に嬉しかったんだ。まあその一方で恥ずかしいやら情けないやらだったがな」
「どうして」
「春空学園を卒業して、立派になってから迎えに行きたかったから」
「……迎えに?」
「……そうだ。俺は、お前を、迎えに行きたかった」


迎えに行くという事は、連れて帰りたい場所があるという事。
しかしそれは当然 家とか故郷とか地理的な話ではない。
ミコトを連れて帰りたい場所、それは自分の所に他ならない。


「ミコト、お前が欲しい」
「……」


頭が付いて行かない。
好きだの愛してるだのではなく“欲しい”と行動を直接表す言葉なのは彼らしいが、慣れ親しんだ幼馴染みからそんな事を言われて戸惑った。
勿論アイクの事は大好きで大切だが、突然そんな関係が変わってしまうような事を言われても……。


「学校で不純異性交遊はどうかと思いますよ生徒会長〜」
「わぁ!?」


突然聞こえた声に思わずそちらを見ると、立て掛けられたマットの向こうからリンクが覗き込んでいた。
ハッとして、今の状況はアイクに押し倒されているように見える事に気付き、慌てて彼を押し退けて身なりを正すミコト。
どうやら逃げたミコト達を気にして追ってくれたらしい。


「あの女子達なら、アイクは別の方だって言って追い払っといたよ」
「あ、ありがとうリンク! どうやって教室に戻ろうか困ってたの!」
「ま、今日一日耐えれば明日からは落ち着くと思うから、もう少しの辛抱だな」


やや不自然に明るく声を張り上げるミコト。
良い所で邪魔が入り少々不機嫌になるアイクだったが、リンクが助けてくれたのは事実なので文句も言えない。

いそいそとマットから降りてしまったミコトに倣い、アイクも降りる。
どうにも隠せずムッとした表情のままで居たアイクへ、リンクが小声で面白そうにこそりと話す。


「大変だな、邪魔が多くて」
「一応今はお前もそうだが、助けて貰った礼は言っておく。ありがとう」
「いいって事よ親友。まあ理性失くして学校で襲い掛かんなよ〜」
「する訳ないだろ。……多分」
「おいこら。ミコトの名誉と評判にもかかわるんだからヤメロ」
「分かってる」


こそこそ2人で話す様子にミコトは疑問符を浮かべていたが、そこで昼食もまだだという事を思い出す。


「ねえ、早く教室に戻ろう。リンクもお昼食べてないんじゃない?」
「そう言われればそうだな。アイクも戻ろうぜ」
「ああ、腹が減ってたのを今思い出した」
「も〜アイクったら」


言いながら、体育倉庫の扉を開くミコト。
するとそこにはアイクを追い回していた女子生徒達がずらり……。


「あ」
「あ」


この反応、どうやら待ち伏せしていたのではなく、通りすがっただけのようだ。
しかし先程の爆弾発言+リンクの吐いた嘘で、3人とも凄まじい捜索対象で……。


「い、居たぁアイク君っ!」
「ちょっと来なさいよ生徒会長!」
「そこの嘘吐き男も許さないからね!」
「……」


どうやら今日は昼食も食べられないらしい。
が、捕まってしまうよりはずっとマシ。


「逃げるぞお前ら!!」
「りょーかーい!!」


さすが戦闘学部と言うべきか、女子生徒達をスルリと擦り抜けて走り出す3人。
彼らを追う女子生徒達、またかと言いたげに視線を送る他の生徒達。
その恒例行事とも言うべき光景を、学園長のマスター&クレイジーは微笑ましく見ている。


「うんうん、これも学びの一環だよ、特に戦闘学部の彼らにとっては!」
「逃げるってのは大事な能力の一つだからな。本日も学業に励めよ生徒諸君」


世界のエリートを輩出し続ける春空学園、今日も今日とて通常運転。






*END*



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