60万hit記念リクエスト

二人の世界

60万記念リクエスト作品


 
主人公設定:アイクの姉
その他設定:穏やかに病んでるアイクと諦観してる姉貴。近親愛と少々の下ネタ注意



++++++



「あのねアイク青年」
「なんだ姉貴」
「あたし今そこそこ困ってるの」
「そうか。何かあるなら俺に相談してくれ」
「分かった。じゃあ今すぐ放して」


スマブラファイターとして登録されているアイクの部屋。
ピーチ城の一室であるその部屋に、ミコトとアイクの姉弟は居た。
ベッドの縁に座ったアイクがミコトを自分の足の間に座らせ、後ろからがっちりと抱き締めてしまっていた。
この高身長かつ筋肉の塊な弟に抱き締められては逃げ出せる筈も無く、ただただこの状況を享受するしか道は無い。
しかしこれが始まって30分も経つと、いい加減に我慢が出来なくなって来た。


「うーん、ずっと同じ体勢だとちょっとキツいのよね」
「そうか、悪かった。じゃあ体勢変えるか」


言うとアイクはミコトを抱き締めたままベッドに寝転んでしまった。
先程まで背中側にあったため見えなかったアイクの顔が、今は目の前にある。
何だかんだ言って精悍で男らしい顔は、姉の欲目を差し引いても格好良い。
しかしこれでは自由にはなれない。


「こう来るとは思わなかった。そもそもあたし、放してって言った気がする」
「確かに言ったな」
「じゃあ放して」
「相談してくれとは言ったが要望を叶えるとは言ってない」
「なるほど」


体を動かしたいならまた乱闘に行こうと言われ、じゃあそうするかと考えたミコトはそれきり何も言わなくなった。
結局アイクがミコトを放したくないと思っているなら諦める他ないのである。
本でも持って来れば良かった、次にアイクの部屋に来る時は持って来ようと、どんな内容の本を読もうか考えていると、アイクがミコトの胸に顔を埋めて来た。
それに対しても特に表情を変える事無く考える事も変わらないミコト。
そのうちアイクは胸に顔を擦り付けて来たが、それでもミコトは喜びも嫌がりも止めもしない。


「あー……ミステリーが読みたいかも。ねえアイク、なんか良い作品ない?」
「俺にお勧めの本を訊く時点で盛大に間違えてるな」
「仰る通りで」
「ゼルダ辺りにでも訊いてみたらどうだ」
「そうするかー。晩ご飯の時にでも訊いてみよ」
「晩飯の後でも良いだろ」
「食事が終わったらすぐ人を部屋に閉じ込めるのはどこの誰ですか」
「そう言えばそうだった」
「この野郎」


どちらも言葉に抑揚があまり無く表情一つ変えない。
代わり映えの無い日常の光景として今を受け入れている。
いい加減アイクの顔を動かす度合いが胸を揉むような感じになって来たが、ミコトは少々呼吸を深くさせるだけで止める気配が無い。


「この子ったら もー……。小さい頃にこれだけ甘えんぼだったら可愛かったのに」
「今も可愛がってくれれば良いだけの話だ」
「そうですね。しかし如何せん外見がアウト」
「筋肉と身長か。悪いのは筋肉と身長か」
「いぐざくとりー」
「だがその筋肉と身長が好きなのはどこの誰だ」
「私ですよコンチクショー」


そこまで口が上手くない筈の弟にやり込められる自分は何なんだと、ミコトは心の中で少々拗ねるような思いをする。
けれどそれさえこの弟にロックオンされたら受け入れるしかない。
色々と行われる行為は傍から見れば変態行為だが、姉弟で関係を持っている以上ミコト達にとってそんな事は何でもない。
一線を越えてしまえば後は転がり落ちるだけ、である。

さて夜もだいぶ更けて来た。
そろそろ眠たくなるがこのまま寝ると大事故の予感しかしない。
明日は姫達と買い物に行く予定があるため体調は万全にしておきたい。


「アイク、そろそろ部屋に帰りたいから本格的に放して」
「このまま俺の部屋で寝れば良いだろ」
「……明日は姫達と買い物に行くって話してたよね? あんたがこのまま黙って寝かせてくれるとは思えないから駄目」
「そうだ思い出した。明日の買い物、俺も一緒について行くからな」
「ちょっとお待ち」


本当の事を言うと可能性として考えていた事なのだが、まさか本気で言い出すとは。
一線を越えてから以前にも増して独占欲を放出するようになったアイク。
女性だけでのお出掛けにまでケチを付けて来るとは……呆れる。


「お姉ちゃんの話をよく聞いてね。一緒に出掛けるのは姫達だけで男性は居ません」
「街に出れば姉貴に声を掛ける輩なんていくらでも居るだろうが」
「それはあたしの事を信用してないの?」
「違う。詰まるところ姉貴に下心を持って接する奴は存在自体が気に食わん」
「下心無くたって気に食わないくせに」
「そうだな。もう姉貴の事はずっと大事に閉じ込めて仕舞っておきたい」
「お馬鹿さん。しょうがない子なんだから全く……」


しかしやはり女性だけの買い物について来させる訳にはいかない。
自分は下着だろうが何だろうが見られたって構わないのだが、さすがに姫達は気まずい思いをしてしまうだろう。
恋人である前に姉である立場として、弟のせいで迷惑を掛ける訳にはいかない。
というか女子会よろしい雰囲気の中にアイクのような厳つい男が居るのを想像するだけで、明日の買い物がコントか何かにしか思えなくなってしまう訳だが。
その場面の空気を思い浮かべると、楽しみだった気分が憂鬱に早変わり。


「普段アイクのやる事は何だって受け入れてるけど、たまにはお姉ちゃんの言う事も聞いて。先週に予定してずっと楽しみにしてたのよ」
「………」
「帰って来たらうんと甘えて良いから」
「………」
「どんな男にも靡かない。ナンパして来る奴は無視するし、しつこい奴は鉄拳制裁してでも追い払う。姫達も強いんだから大丈夫」
「………気を付けて行けよ」
「はいはい」


普段 戦闘する時の、鬼神のような姿からは想像も出来ない我が儘さと子供っぽさ。
我が強いのは周りの仲間達も知っている事だが、ここまで甘えたなのは知らない筈。
そう思うと優越感を覚えてしまう辺り、ミコトもアイクの事は言えない。
アイクが放してくれたので、おやすみーと挨拶して部屋を出る。

しかしこの時ミコトは気付いていなかった。
アイクがまだ納得していないような、そんな目付きをしていた事を。


++++++


翌日、昼前から街へ出掛け、アイクから解放された久々の日を満喫するミコト。
もう受け入れてしまっている以上 本気で嫌がっている訳ではないが、いくら好きな男だからといって四六時中一緒では息が詰まってしまう。
たまには女友達と自由な行動をゆっくり味わいたい。

思った以上に盛り上がってしまい夕飯も外で食べ、帰って来たのは午後8時。
ただいまー、とサロンに入りお土産を掲げながら仲間達へ挨拶すると、全員が微妙な顔をミコトへ向けて来る。


「ん、どうしたの皆。何かあった?」
「ミコト、なんていうか……ご愁傷様」
「??」
「取り敢えず自分の部屋に行ってみるといいよ」


彼らが一体何を言っているのか分からないミコトは、お土産を渡すと疑問符を浮かべながら自分の部屋へ向かった。
……そう言えば、たまにミコトが出掛けた時、いつもはサロンで待ち構えていて真っ先に飛び付いて来るアイクが居ない。
ひょっとしてあの仲間達の微妙な顔はアイク関連の事なのだろうか。
もしやついに仲間達の前でも拗ねて、子供っぽい面を大いに放出してしまったのか。
本当にしょうがないんだからなー……と思いながらクスリと笑い、ピーチ城に借りている自分の部屋の扉を開けると……。


「……え?」


そこには、何も無かった。
本当に何も無い。立派なベッドも、柔らかなソファーも、大きなテーブルも、自分の服を納めたタンスも、好きな本や魔道書を納めた本棚も、雑品を入れていたチェストとドレッサーも、お気に入りの柄のカーテンも。
どうしてこんな事になっているのか分からず、空っぽの部屋の中を意味無くウロウロして慌てるミコト。
そうしていると部屋の中にアイクが入って来た。


「帰ってたのか。お帰り姉貴」
「た、ただいま……っていうか見てよアイク、部屋の中が空っぽなの! どうしよう、家具どこに行ったか知らない!?」
「姉貴の私物なら全部俺の部屋に移動させたが」
「……」


アイクが何を言っているのか理解するまでに時間が掛かり、ミコトは少しの間 疑問符を浮かべながら首を傾げる。
しかしそれが脳に浸透し完全に理解してしまうと、彼がどういうつもりでそんな事をしたのか分かり、はあ、と溜め息を吐いた。
アイクはそんな姉にお構い無く、背中から抱き締めすっぽり包んでしまう。


「そんなに昨日、あたしが部屋に戻るのが嫌だったの?」
「まあ。これからは、女同士なら気軽に出掛けさせてやろうと思ったんだが、それで姉貴との時間が減るのがどうにも納得できなくてな。しかし減るならその分増やせば良いんだと思い付いて」
「それでこんな事を……っていうか一人でやったの?」
「いいや、仲間達にだいぶ手伝って貰った」
「ああ、それであの微妙な顔ね……じゃあお土産足りなかったなあ。そんな事までしてくれたなら、もっと買って来るべきだった」
「すまん。他の誰かを巻き込む時は次から前もって姉貴に言う」
「そうして」


前もって言う、というのはミコトの許可を得る為ではない。
飽くまで彼女が礼などを事前に用意する時間を持つ為だ。
そもそもこういった事に関して、アイクはミコトの許可を得るつもりなど無いだろう。
アイクが絶対に決めた事なら、もうミコトはそれに従うしか無いのだから。


「ていうかアイク、ベッドやタンスまでわざわざ移動させたの?」
「俺の部屋に入らない分の家具は倉庫に仕舞ったぞ」
「意味なくない?」
「姉貴が元自分の部屋へ戻れないようにする為だ」
「徹底してるね」
「姉貴と一緒に居る為だったらそのくらいするさ。一応俺の部屋に来てくれ。細々した物とか無くなってないか確認して欲しい」
「はーい」


文句も抵抗も無くアイクの後ろに付いて行くミコト。
アイクの部屋では、本棚はそのまま部屋に入れられ(アイクの部屋には元々本棚が無い)、服は彼のタンスに入れられているようだ(彼は持っている服が多くない)。
チェストとドレッサーもそのまま入れられるほど、元々彼の部屋には物が少なかった。
必要以上に狭くなる事なく納まっている自分の家具達を見ると、ここが本来の自分の部屋のように思えて来るので不思議なものだ。
カーテンもミコトの部屋にあったお気に入りの物に変えてくれている。


「んー、悪くないね。そのまま移動させたなら、無くなってる物も多分無いよ」
「そうか。万一何か無くなってたら探すから言ってくれ」
「おっけー」


ミコトとしても、自分の甘い態度がアイクを助長させている事は分かっている。
このまま放置すれば自分に対するアイクの行動が、本格的にヤバくなるであろう事も。
しかし彼女はアイクを甘やかすのをやめる気は無い。
何だかんだ言って結局、アイクの言動を左右しているのは自分。
それが嬉しくて、己の人生と命を賭けて楽しんでいる訳だ。

アイクだけではない。
矛先が相手へ向かない為に気付き難いが、ミコトだって充分に狂っている。
姉弟としての一線を越えた瞬間、二人は壊れてしまった。


「これで今までよりずっと一緒に居られるな。……好きだ姉貴、愛してる」
「あたしもだよアイク。ずっとずっと一緒に居てあげるからね」


これからアイクとミコト、2人の世界はより強固なものとなる。
誰も入って来られないように、二度と出られないように。





−END−



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