60万hit記念リクエスト

輝きに愛を

60万記念リクエスト作品


 
主人公設定:−−−−−
その他設定:スマブラ世界。恋愛ではなく親子愛的なもの



++++++



デデデ大王の故郷となるポップスターでは、どこへ行っても星がよく見える。
少なくともこの前出掛けた大都市のように地上の光が夜空の星を掻き消す事は殆ど無い。
スマブラファイター達が暮らしているピーチ城から庭に出たデデデは、何をするでもなくボーッと夜空を見上げていた。

時折、本当にここは異世界なのかと疑問に思う事がある。
この世界はファイター達の誰の故郷とも違う異世界だという話だが、ここから見える夜空をずっと行けば、いずれポップスターに辿り着くのでは、と思えた。

宇宙の端っこ、太陽と月が仲良く暮らす夢の楽園ポップスター。
まるでホームシックのような自分の思考に、デデデは自嘲の笑みを漏らす。
別に帰れない訳ではなく、マスターハンドに頼めばいつでも帰れるのだが、何となく理由を作れないままずるずると日が過ぎ、結局この世界に来てから一度も帰郷していない。

暫く涼むように風に当たっていたが、そろそろ休むかと踵を返した。
……その瞬間、聞こえて来る何かの音。
初めは小さかったものの段々と近付いてくるような気が。
思わず背後を振り返ったデデデは、何も見えなかったので次いで夜空を見上げ……。
我が目を、疑った。


「おじちゃん危なぁぁい!!」
「ぬおぉぉぉぉぉ!?」


避ける間も無く“それ”に激突される。
遠く背後へ吹っ飛ばされ仰向けに倒れた彼の腹に、一人の少女が乗っかっていた。
少女……まだ幼い。姿形は人間で、どう歳を見積もっても年齢一桁といった所。
慌てて少女を退かして起き上がり、文句と疑問を矢継ぎ早に繰り出す。


「ななな何だお前は! 何をする! 誰だ! どこから来た! 何をしに来た!」
「ごめんなさい、うまく落ちるのって難しいの……」
「ん、お、おう……」


こんな小さな少女に素直に謝罪されれば、それで納得するしかない。
しかし見覚えの無い少女だ。迷子だろうか。
放っておこうかとも思ったが、このまま放置してどうにかなられても後味が悪いので、デデデは仕方なしに相手をして素性を訊ねる。


「お前、どこから来た」
「んーとね、お空!」
「それは分かっとるわ! 家はどこかと訊いとるんだ!」
「だからお空だよ。お星さまいーっぱいのとこ」
「……名前は?」
「ミコトだよ」
「親は?」
「いないよ」
「……」


まずい面倒な事になったと、デデデは疲れた顔をする。かなり複雑な事情があるようだ。
というか“星がいっぱいの空”とは宇宙の事としか思えないが、果たして彼女は人間か。
姿形はどう見ても人間だが、特殊な例はいくらでもあるので断じるのは早い。
自分達と同じようにファイターとして異世界から喚ばれた可能性もある。
デデデは仲間に相談しようと、ミコトの手を引いて城内のサロンへ。
幼い少女を連れて現れたデデデに、当然ファイター達は驚愕の表情。


「デデデ大王、お前子供が居たのか!」
「ワシの子ではない! 種族が違うだろうが!」
「いや奥さんが人間とか……」
「とにかくワシの子じゃないから、どうすれば良いか相談に乗ってくれ……」


不毛なやりとりが繰り広げられそうな雰囲気にげんなりしたデデデが、余計な会話が続かないうちに話を無理やり進めた。
しかしやはりと言うか、ファイターの仲間達もミコトに心当たりは無い様子。
どうしようか、迷子として届けを出そうかと話し合っていると、ミコトがデデデに擦り寄って来た。


「ん、どうした」
「おじちゃん、眠い……」
「ああー……ピーチかゼルダか、誰かの部屋で寝かせてもらえ」
「やだ……おじちゃんと寝る……」
「お前なぁ……」


呆れた顔で溜息を吐くと、ふふっ、とファイター達から吹き出す音。
そちらを見やれば、大抵の者達がニコニコしてデデデとミコトを見ている。
その視線に耐えられなくなったのか、すぐミコトを抱えてサロンを後にするデデデ。
割り振られた部屋へ駆け戻ると、体格に合わせた大きなベッドにミコトを突っ込む。


「よし、そのでかいベッドは好きに使っていいぞ! ワシは戻る」
「ええ? やだよ、おじちゃんも一緒に寝ようよ」
「……子供の面倒なんぞ見た事ないぞワシは」
「わたしは子供じゃないよ」
「馬鹿を言え、見た目も中身も子供だろうがよ」
「子供じゃ……子供だったっけ? あれ? でも違うもん、子供じゃないもん!」
「あーあーはいはい……分かった、一緒に寝てやるから落ち着け」
「ほんと? わーい!」
「現金な奴だなオイ」


ミコトが寝転がるベッドにデデデも入り、毛布を掛けてポンポン叩いてやる。
えへへ……と嬉しそうに笑むミコトを見ていると、満更でもなくなったり。
寝付きが良いのか、彼女は少し経つとすぐ寝息を立て始める。
この世の幸いしか知らないような寝顔が実に可愛らしい。
ふにゃふにゃの柔らかい体を撫でていると、知らず優しい気持ちになる。


「子供が居たらこんな感じか?」


らしくない感情かとも思ったが、こんな寝顔を見せられてはそう考えたくもなる。
気持ちの良さげな眠りに誘われたデデデは、いつもよりずっと早く就寝した。


++++++


翌日、マスターハンドがミコトについて調べてくれる事に決まっており、その結果が出るまで彼女をピーチ城で預かる事になった。
ファイター達に囲まれ楽しそうなミコトは、今は画用紙にクレヨンで絵を描いている。
カービィやピカチュウと一緒に きゃっきゃと笑いながら遊んでいる様は、見ている誰をも和ませてしまいそうな愛らしさ。

キッチンでは先程から一部のファイター達が、ミコトの為におやつ作りに取り掛かっていた。
普段からそういう事はあるのだが、今日は特別に腕を奮っているようで。
そのおやつが到着する辺りで、ソファーに座っていたデデデの元にミコトがやって来る。
隣に飛び乗ると、にこにこしながら手に持った画用紙を差し出した。


「見て、おじちゃん描いたの!」
「おお、見せてみろ……おい何だこのペンギン!」
「おじちゃんだよ」
「ワシはもっと男前だ!」
「そっくりだよー」
「そっくりー!」


最後のはカービィである。
そうだ、ミコトを見て何やらどこかで接した事があるような気がしたが、カービィに似た精神年齢とタイプだった訳だ。
しかしカービィに対して、ミコトに抱いたような親心に似た気持ちを持った事は一度も無い。
どうやらミコトには、ふわふわ心が温かくなる雰囲気があるらしい。
それはカービィも同じ気もするが、彼とは違う感じだ。

無邪気なふたりの笑顔に怒る気も失せたデデデは、一生懸命描いたであろう画用紙を困ったような笑顔で見つめる。
クレヨンでぐりぐりに描かれたデデデは線がガタガタで歪み放題。
それでも温かみと親しみを全力で込めたらしい落書きは、何のマジックか段々微笑ましく見えて来る。
やれやれと言いたげな溜め息を吐いて、ミコトの頭を撫でてあげた。


「ま、努力賞だな。ほら、賞品のおやつだ」
「やったー!」


別にデデデが作った訳ではないけれど、テーブルに並べられた菓子類を手ずから渡すと、ミコトは満面の笑みで受け取り食べ始める。
その様子にデデデもファイター達も顔が綻んだ。

それからミコトはピーチ城にすっかり馴染み、ファイター達も話したり遊んだりとよく相手をしている。
だがマスターハンドがいくら調べても素性が分からないそうだ。
勿論ファイターとして喚ばれた訳でもなく、どこの子なのかさっぱり分からない。

成り行きで特に良くミコトの子守りをしているデデデは、初め出会った時に彼女が言った事が気になっていた。
星がいっぱいの空から来た、と。
いつも通りミコトに添い寝しながら、デデデは彼女に訊ねてみる。


「なあミコトよ、お前、空から来たと言ってたな」
「うん。お星さまいっぱいのとこ」
「一体何をしに来たんだ」
「んー……。なんだろ? えっとねえ、わたし、やる事があったの」
「それは何だ?」
「おぼえてない。だけどそれが終わって、だから降ったの」
「終わった……」


まるで意味が分からないが、その“やる事”が分かればミコトの正体も判明するだろうか。
しかし「終わった」と言っているし、手掛かりにはならないかもしれない。
後は色々と忘れているらしいミコトが何か思い出すのに賭けるか。

……さらりと流してしまったが、まさか記憶喪失なのだろうか。
名前は覚えていたが、それ以外の事がほぼ何も分からない。
親が居ないというのも忘れているだけかもしれない。
しかし親は「いない」とキッパリ言っていた……本当に意味不明である。

何にせよ、ミコトはすっかりこの城に馴染んでしまった。
このまま家族や故郷が見付からないなら、ずっと居れば良い。
誰も反対などしないだろうしデデデも大賛成だ。


「丁度いい、このまま親が見付からなければワシの子にしてやるぞ」
「おじちゃんの子供になれるの!?」
「そうだ。しかもワシの子という事はお姫様だ!」
「お姫さま……!」


小さな少女らしく、その単語には弱いらしい。
目をきらきらと星のように輝かせる様は、ミコトには悪いものの、このまま親が見付からなければ良いとデデデに思わせる程。
お姫様になった自分を想像しているのか、毛布に顔を埋めて自然に笑ってしまう顔を半分だけ隠すミコト。
しかし何かを思い付いたように真顔に戻ると、隣に居るデデデの方を向いて、少し遠慮を感じる小さな声音で。


「……おとうさん」


瞬間、デデデの心にぶわーっと沸き上がる親心と愛しさ。
身悶えるようにシーツに顔を擦り付けたかと思うと、ミコトを抱き締めて撫でる。
くすぐったくて笑う彼女に、更に愛しさを刺激されてどうしようもない。

それからミコトはデデデを「おとうさん」と呼ぶようになり、それを聞いて誤解したファイター達への説明を面倒に思うデデデだったが、こうして父と慕われる事への嬉しさには負ける。
初めは少数のファイターがデデデをからかっていたものの、ミコトが無邪気に彼を父として慕う様子を見慣れる頃には、そんな事はすっかり無くなってしまったのだった。


++++++


ミコトがピーチ城に住むようになって二ヶ月。
父娘関係がすっかり板についた頃、マリオが楽しい情報を持って来た。
週末に流星群が見られるらしく、見晴らしの良い丘に出掛けようと。
この世界に来てから初めての天体ショーにファイター達が浮かれムードな中、ミコトは何が起きるか分からないらしく、疑問符を浮かべている。


「おとうさん、何があるの?」
「流星群が見られるらしいぞ。お前も見に行くだろ?」
「りゅーせーぐん?」
「流れ星だな。それが沢山 夜空を流れるんだ」
「えー、すごい! わたしも行く!」


はしゃいで飛び付いて来るミコトを難なく受け止めるデデデ。
すっかり父親の顔になっている彼の愛情たっぷりな言動は、ミコトの心にしっかり刻み込まれている。
彼女がデデデだけ特別に懐くのを羨ましがる仲間もおり、そんな仲間に、良いだろー、とドヤ顔で自慢するのはいつもの彼でもあるが。

そして週末。
城を離れ見晴らしの良い丘にやって来たファイター達。
到着するや否やトゥーンリンクが流れ星を見付け、早く頂上へ行こうとちびっ子達が我先に駆けて行く。
後をのんびり歩いて行く他のファイター達も、頭上を次々と流れる星に感嘆の息を漏らした。
デデデはといえば、ミコトを肩車して大人げなくちびっ子達を追い掛け走ったり。
実に彼らしいし、“娘”であるミコトと楽しく過ごすには、“父親”である彼が子供に成り切って楽しく過ごすのが一番。

足の速いちびっ子達からやや遅れて頂上に辿り着いたミコトとデデデ。
次々と流れる星の光が見上げた夜空を彩り、嬉しくなったデデデは楽しげに声を上げる。


「ほら見ろミコト! キレイだろうが!」
「……」
「おい何とか言えミコト、このワシがせっかく走ったんだぞ!」
「……」
「ミコト?」


デデデが話し掛けても、何故か何も言わないミコト。
さすがに不安になって肩車したミコトを見上げると、彼女はただ夜空を見ていた。
もう一度名を呼んだデデデの声に、空を見上げたまま呟くような声で応える。


「おとうさん、わたし、思い出した」
「何を……」
「わたしが、どうしてここへ来たのか」


ひゅ、とデデデの息が詰まる。
冷や汗まで流れるような思いがして何も言えない。
ここ、とは、この丘の事ではなく、ピーチ城へ落ちて来た事を言っているのだろう。
そんな彼に構わず、ミコトは呟くような声のまま続きを口にした。


「別に、ここに来ようと思って来たんじゃないの。たまたまなの。わたしは役目を終えて、ここへ降って来た」
「な、何だ、その役目っつーのは」
「わたしね、流れ星なの」
「……は?」
「その前は小さな星だった。だけど星としての寿命が終わって、粉々になって、宇宙をさまよってからここに落ちて来た」


かつて自分は、少数の生き物を育んでいた星だったと、ミコトはそう言う。
突然の主張に目眩がするような気さえして、デデデはまともな言葉を返せない。
つまり、ミコトは今、死人も同然。
次に新しい星として転生するまでの期間が今らしい。
普通は宇宙をさまよったまま消滅する筈なのだが、偶然に偶然が重なって、流れ星として地上へ降って来た。


「もしかしたら、神さまが生き物の姿にしてくれたのかもしれない。みんなに幸せをもらって、次にもっといい星になれるように」
「ミコト……」
「わたし、帰らなきゃ」
「ど、どこへ」
「宇宙へ。前よりもっと大きな星になって、いろんな生き物のおかあさんになるの。そして おとうさんやみんなにもらった幸せを、いろんな生き物にあげるの」


たまらず肩車をやめ、ミコトを前に抱きかかえるデデデ。
そこにあったのは、今までの幼さが消えたような表情。
外見は相変わらずの幼い少女なのに、その表情は聖母のような慈愛に満ちている。
信じられなくて、信じたくなくて、呆然としたような表情と声音のまま。


「ダメだ」
「おとうさん」
「ダメだミコト、お前はワシの娘になったんだ。星になんてなる必要は無い」
「……ありがとう。おとうさん、わたしのこと好きでいてくれるんだね」
「当たり前だろうが……! ワシはお前の父親だぞ!」
「おとうさんが、わたしのおとうさんになってくれて……本当によかった」


天球を無数の星が流れて行く。
それを寂しげな笑顔で見上げたミコトは、自分を抱きかかえるデデデの頬に手を添える。
そして頬に一つキスを贈ると、ありったけの親愛を込めて囁いた。


「おとうさん、だいすきだよ」


瞬間、ミコトを取り巻く強烈な光。
驚いてファイター達がそちらを見た瞬間、一筋の光が勢い良く天へ昇って行く。
流れ落ちる星々さえ掻き消す程の閃光は、天頂へ辿り着くと消えてしまった。
慌てて駆け寄るファイター達。
けれどそこに残っていたのは、泣き崩れるデデデだけ。
ミコトの姿は、いくら探しても見付かる事は無かった。


++++++


ミコトが消えて数日。
元気の無くなっていたデデデも少しずつ以前の調子を取り戻しつつあるが、夜に星空を眺める癖が消えそうもない。

ミコトは今、どこでどんな星になっているだろうか。
近くに生き物が存在する星が無い限り、生命を宿す星になるには長い時が掛かってしまう。
だがきっとミコトならば、その時間に耐えて生命の母となるだろう。


「まったく……ひょっとしてこれが娘を嫁に出した気分か?」


短い父娘関係だった。
けれどその中には確かに愛情が存在したと、自信を持って言える。
もう少し時間が経てば、良い思い出として心に残ってくれるだろう。
ある日、そうやって感傷に浸るデデデを、マスターハンドが訊ねて来た。


「おー、居た居た。元気取り戻したかな」
「何を言うかと思えば。ワシはいつでも元気に決まっとろうが」
「強がりなさんな。今日は提案があって来たんだけど、ちょい里帰りしてみない?」
「は? 急に何だよ……」
「ポップスターからそう遠くない所にね、新しい星が生まれてるんだ」


ぴたり、とデデデの動きが止まる。
その意味が分からない彼ではない。
今はまだ荒れているが、近辺には生き物の生息する星が数多く存在する事だし、数年も経てば沢山の生命が住み着きそうだという。


「ポップスターからだと綺麗なお月様みたいに見えるよ。オススメ月見天体だと思う」
「……じゃあ、酒でも飲みながら月見するかな」


嬉しそうに綻ぶデデデの顔。
それはまさしく、父親の表情だった。





−END−



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