時のオカリナ

ゼルダの伝説 時のオカリナ

第5話 ゴロンとドドンゴ


コッコ姉さん・アンジュのお礼でインパの家に泊めて貰ったカヤノ達。
翌日、炎の精霊石を求めてデスマウンテン登山道を登り始める。
緑に溢れていた平原やカカリコ村とは一変し、草木が殆ど生えていない、味気ない土色と石、岩だらけの世界。
しかしカヤノの目には、これはこれで美しいように映った。
荒々しくて力強くて、草木の緑とは違う生命力に溢れているようにも見える。


「ふーっ、けっこう登り坂きついなあ……カヤノ、大丈夫?」
「まだ平気。リンク、やっぱりバッグ私が背負う。結局 私の方が手ぶらになってしまっているし……」
「そう? なんか悪いね」
「モンスターが出たらリンクに頼るんだから気にしないで、体力を温存して」
「じゃあお願いするよ」


一昨日はリンクに笑顔を見せたカヤノだが、あれからまた変化の少ない無表情と抑揚の少ない声に戻ってしまった。
リンクがそれを残念に思っている事に気付かず、彼からバッグを受け取り背負うカヤノ。
何も持たないよりは登りがきつくなるが、たいした重さではない。
あまり言葉を交わさずに山を登り続けているとナビィが鋭く声を上げた。


「二人とも、モンスターよ!」
「!」


リンクは剣を、カヤノはパチンコを構える。
坂の上からゆっくり飛び跳ねながら現れたのは、アメンボのような姿の魔物。
しかし大きさはリンクやカヤノよりだいぶ大きく、足も体も太くて当然ながら外観はアメンボとは程遠い。


「あれは赤テクタイト! 体当たりしかして来ないから落ち着いて、跳ねる動きを見切って!」
「オッケーナビィ!」


ナビィのアドバイスにリンクとカヤノはその場で動きを止め、跳ねながら近付くテクタイトに狙いを定める。
あと少しで接触するという時にカヤノがパチンコを撃ち、命中した奴が押されて怯んだ隙を逃さずリンクが剣で斬り付けた。
甲高い悲鳴を上げてバラバラになり、消滅するテクタイト。
リンクはそれを見るなり坂の上へ向けて走り出す。


「リンク……!?」
「上にもまだ居る! あれくらいならオレがちゃっちゃと倒すから!」


確かに上を見ると、テクタイトがあと2、3体居るようだ。
しかし一人で大丈夫なのだろうか……。
少し足を止めて戸惑っていたカヤノも坂の上へ駆け上がる。
その間に聞こえていた喧噪も追い付く頃には静まり、後にはリンクしか残っていない。どうやらみんな倒してしまったらしい。


「リンク、大丈夫?」
「へーきへーき。ハイラルを救うんだから、こんなヤツらくらい倒せないと!」
「んもう、無茶しないで! カヤノにイイトコ見せたいのは分かるけど!」
「はぁ!? ち、違うし! 別にカヤノは関係ないよ!」


リンクとナビィがやいやい言い合っている横で、あまり彼を揶揄わないでと言ったのに……と呆れ気味のカヤノ。
しかしふとさっきのナビィの言葉が気になり、訊ねてみる事に。


「ナビィ。あなたモンスターの事をよく知っていたみたいだけど、あれはどういう事なの?」
「さっきの? あれはデクの樹サマから譲り受けた力よ。覚えてないかな。デクの樹サマが亡くなる前、ワタシに……」


言われて思い出した。
確かデクの樹は、神から授かった力の一部を託すとナビィに言っていた。
どうやらモンスターの事が分かるようになる能力だったらしい。
この力はきっとこれから先 大いに役立つだろう。

しかしそこで、自分には何が出来るだろうと考えが浮かんでしまった。
パチンコでの援護もたいした事は出来ないし、カヤノが持っている巫女の力は、傷や病を癒やしたり出来るものではない。
出来る事と言えば……。


「……あ」


ふと。
ふと今、自分が持つ力の一つを思い出した。
この力をリンクに発揮するのは まずいのではないかと。
もしかして今、リンクが一人でモンスターに向かって行ったのは、自分が無意識のうちにリンクに対し力を発揮していたのではないかと。

カヤノ達 巫女の一族が持つ力の一つ、それは悪い考えを抑制する力。
“悪い”というのは悪だくみの事ではなく、言わばマイナス思考の事。
どうしても嫌な考えが浮かんでしまい、単なる想像で本気の恐怖に震える者は少なくない。
そんな者の心が軽くなるよう、悪い事が起こるような想像ばかりしてしまうマイナス思考を抑制する。

そうすれば相手は単なる想像でしかない“悪い事”を考える事が激減し、何かに挑戦し易くなったり日常を過ごし易くなったりする。
危機管理能力まで奪ってはいけないので、飽くまでマイナス思考により日常や行動に支障が出るような相手にのみ使うのだが。

不安や恐怖心を和らげてしまうそれは、敵と戦わねばならないリンクに使うには危険だろう。
彼が敵に怯えているならまだしも、そういう事は今の所 無いのだし。
怯えてもいない彼から、誰もが持つ不安や恐怖心を奪い去ってしまえば、今 一人で敵に立ち向かったような無茶が増えるかもしれない。


「(もしかして一昨日、宿で落ち込んだリンクにも……)」


城下町の宿で、故郷やデクの樹を恋しがり寂しさで落ち込んだリンク。
そんな彼を抱き締めて慰めたカヤノだが、彼は泣く事も無くすぐに立ち直った。
あの時も、自分がリンクの心から不安などを消してしまったのだろう。

自分の力は、元から勇気溢れる彼には邪魔でしかないのかもしれない。
無茶を誘発する上に落ち込む事すら許さないのだから。
そう考えてカヤノの気は滅入ってしまいそうだった。


「(この力は駄目ね。リンクの役に立ちそうにない)」


何か他の力で役立ちそうなものを……と考えていたら足が止まっていたらしく、割と上の方から おーい、とリンクの声が掛かる。
今は考えるのは後にして、炎の精霊石探しに集中する事にした。



デスマウンテンを登り続けてだいぶ標高の高い所まで来た。
つづら折りになっている道を上ると、道端に巨大な岩が落ちているのに気付く。


「うわっ、こんな大きな岩が落ちて来るんだ!」
「頭上には気を付けないとね。小石がパラパラ落ちて来るような事があったら……」


カヤノが言いかけた瞬間、突然その岩が動いた。
バッと飛び退った二人は武器を構えて臨戦態勢。
岩は暫く微動していたが、やがてムクリと起き上がる。

……そう、起き上がった。
それは、まさに岩のような体に頭が乗っかり、手足が生えた生物。
体は大きいが瞳がつぶらで顔は可愛らしい印象。
何となく悪意を感じなかったカヤノは、声を掛けてみた。


「突然すみません。あなたは……」
「オラかい? オラはデスマウンテンに住んでるゴロン族だゴロ」
「ゴロン族!」


炎の精霊石を持っている種族だ。
ハイラル王家に頼まれ精霊石を探している事を伝えると、それは族長のダルニアが持っている筈だと言う。
親切な彼に案内して貰い、カヤノ達はゴロン族の住むゴロンシティへ足を踏み入れた。

山の中腹辺りの洞窟に作られたゴロンシティ。
中はそれなりの広さで、特に深さがある。
その最下層にダルニアが居るらしいので行ってみたカヤノ達。

他のゴロンより大きな体に筋肉質な太い腕。
瞳は他と同じでつぶらなのに、どこか威厳を感じる佇まい。
族長ダルニアに会う事は出来たが、どうにも彼の機嫌が悪い。


「あ、あの……」
「何だ何だ何だ! 王家の使者が来たと聞いたからどんな奴かと思えば、ガキンちょじゃないか! このダルニア様も甘く見られたもんゴロ!」
「ガキって何だよ、オレ達はちゃんと王家から命を受けて……」
「もう完全にヘソ曲げたゴロ、とっとと帰れゴロ!」
「話聞いてよっっ!」


リンクとダルニアがやいやい言い合っている。
それを少し離れた所で遠巻きに見ていたカヤノとナビィだが、このままでは埒があかない。


「カヤノ、あれどうしよう」
「とにかく落ち着いて貰わないと駄目ね」


何とかしてダルニアを宥められないか。
方法を考えていたカヤノは、ふとコキリの森での出来事を思い出した。
レリーフの素材を探しに入り込んだ迷いの森で、モンスターに襲われた自分をサリアが助けてくれた。
あの時サリアはオカリナで歌を吹いて、モンスターを大人しくさせていた筈……あの曲はモンスターならずとも心を落ち着けてくれる気がする。

カヤノは荷物入れからオカリナを取り出すと、祭りでサリアに教えて貰ったあの歌を吹いてみた。
踊り出したくなる軽快さながらどこか郷愁を感じさせる旋律。
そのメロディーが流れ始めた途端、リンクとダルニアが言葉と動きを止めてカヤノを見たので、落ち着かせる事に成功した……と思ったカヤノだったが。


「キャッホ〜ッ!」
「うわっ!?」


突然ダルニアが腕を振り回して踊り始めた。
落ち着いてくれると思ったカヤノは予想外の事に唖然。
イェイ! とかキタキタキタ〜! とか叫びながら踊り狂うダルニアに、リンクは怪訝な顔で後退りを始める。
カヤノはダルニアの気が済むまでサリアの歌を吹き続け、彼が満足して踊りやめた頃には疲れたように息を吐き出した。


「う〜ん良い曲だ、沈んだ気分もスッキリだ! 踊りまくっちまったぜ!」
「そ、それは良かったです……。あの、一つお訊ねしたい事がありまして……。こちらに炎の精霊石があると伺って来たのですが」
「なに? オメエ達も炎の精霊石を探してるのか? 炎の精霊石は別名【ゴロンのルビー】、オレ達一族の大事な秘宝。簡単にゃ渡せねえゴロ」
「そんな……ハイラルが危ないんだよ、そんな事を言ってる場合じゃ……」
「やかましいっ!!」


リンクの抗議にダルニアが声を荒げる。
話を聞くと彼らゴロン族は岩を食べる種族だという。
どんな岩でも良いという訳ではなく、主にドドンゴの洞窟という場所にある岩を食べていたそうだ。
しかしその洞窟に住む生物ドドンゴが凶暴化してしまい、岩を取りに行けなくなってしまったらしい。
碌な岩を食べられないゴロン達は常に空腹と栄養不足に苛まれ続けており、こんな時に一族の秘宝まで無くなってしまえば、もはや彼らから希望という希望が失われてしまうだろうと。


「っつー訳だ。どうしても精霊石が欲しけりゃ、ドドンゴの親玉を倒してオトコになってみな!」
「……分かった。絶対にそいつを倒してみせる!」


リンクは真っ直ぐに告げると、カヤノの手を引いてダルニアの元を後にした。
町のゴロン達にドドンゴの洞窟の場所を聞いてそこへ向かう。


「リンク、本当に行くのね」
「うん。そうしないと精霊石が手に入らないし、何よりあんなに困った事になってるのを放っておけないよ」
「……リンクならそう言うと思った」


うっすらとではあるが微笑んでカヤノは言う。
彼のこういう優しい所は いっそ痛快な気分にさえなる。
普通なら綺麗事だと言われる事も、彼は本当にやってのけるだろうから。

一方リンク。
また見る事の出来たカヤノの笑顔に心が上擦って良い気分だ。
しかし彼女が微笑むのはほんの少しで、またすぐ無表情に戻ってしまう。
もっともっとカヤノの笑顔が見たい。
彼女を守って笑顔に出来るならモンスターにも果敢に立ち向かうし、他にも彼女を笑顔にしてあげられる事なら何だってしたい。


「(オレ、ハイラルを守るって決めたのにカヤノの事ばっかりだ)」


リンクの行動原理がカヤノで埋め尽くされようとしている。
今はまだ分けて考える事が出来ているが、もしハイラルとカヤノのどちらか一方だけを取らなければならなくなった時、ハイラルを選べる自信がリンクには無かった。


「(ま、それでもいいよな。オレは別に英雄でも何でもない ただの一般人なんだし)」


ゼルダが見たという夢はリンクがハイラルを救うかのような内容だったが、かと言って自分は特別な事なんて何も無い人物だとリンクは思っていた。
ゼルダの夢を疑っている訳ではなく、ただ実感が無いだけ。
勿論 困っている人が居るなら助けるつもりだが、自分に出来るのはそういう人助けだけだと。

自分はカヤノの為に行動したいのかもしれない。

リンクがそう考えた時、またも彼から伸びる影に異変が現れた。
影が主の動きとは関係なく動くという異常事態。
しかしまたも誰にも気付かれず、やがては収まったのだった。



リンクとカヤノはドドンゴの洞窟に辿り着いた。
中は結構な広大さで、所々に溶岩の溜まっている場所もある。


「二人とも、落ちないように気をつけてネ」
「ナビィは飛べていいなあ、落ちる心配ないじゃん」
「なに言ってるのよ、飛べない代わりにリンクとカヤノはワタシが出来ないコト沢山できるじゃないの。そう言えば教えて貰ったバクダン花のこと覚えてる?」


洞窟内には引っこ抜くと爆弾になる奇妙な花が咲いていて、もし必要であれば使うと良いとゴロンに教えて貰っていた。
洞窟内はゴロン達が岩を採りに来るだけあってそれなりに整備されているが、ドドンゴ達が暴れている弊害か所々不自然に塞がれている場所があったので、例のバクダン花を用いて壊し、通路を解放して行く。
時折 地面から出て来る小さなドドンゴ達を二人で倒しながら進むと、溶岩に囲まれた複数の足場の上、2足歩行のトカゲのようなモンスターを発見。


「ナビィ、あいつは? 武器を持ってるけど」
「あれはリザルフォスね。攻撃を上手く防ぐか避けるかしたら隙が生まれるハズよ、そこを攻撃するの!」
「分かった。カヤノ、ここで待ってろよ」
「うん。気を付けて……」


足場の上へ飛び移り、リザルフォスと戦闘を始めるリンク。
相手は身軽で闇雲に剣を振ればあっさり避けられてしまう。
リンクは攻撃を盾で防ぎながら辛抱強く隙を窺い、攻撃を加えて行った。


「ナビィ。リンク、どんどん強くなってるわね」
「うん。この調子ならきっとハイラルなんて軽く救っちゃうよ!」


嬉しそうに言うナビィだが、カヤノは一つ思い悩む事が増えてしまった。
果たして自分は彼に必要なのだろうかと。
こうして付いて来ている以上それが運命なのだろうし、それ自体は癪ではあるが、ゼルダの為にもこのままハイラルを救う旅をしたいのに。
何の役にも立たないのであれば、付いて来る意味が無い。
それどころか、いつか邪魔にすらなってしまうかもしれない。


「(何とかリンクの役に立たないと……)」
「! リ、リンク!」
「え?」


突然ナビィが焦ったような声を上げる。
見ればリザルフォスがもう一体現れリンクに狙いを定めていた。
ただでさえ手強い相手なのに、今のリンクには二体を同時に相手する余裕など無い。
それに気付いたカヤノは一目散に駆け出し、足場の上に飛び移るとパチンコで一体のリザルフォスを攻撃した。
途端に標的がリンクからカヤノに移り、カヤノは奴が追い掛けて来るのを引き付けて逃げ回り始める。


「ちょっとカヤノ!?」
「一体は私が引き付けているから、リンクは早くそいつを倒して!」
「む、無茶するなあもう……!」


だが今は目の前の一体を倒すのが先決だと考え、リンクはカヤノの無事を信じて攻撃を続ける。
カヤノはカヤノで、逃げ回りながら少しの隙を突いてパチンコで攻撃。
やがて先に相手していた一体を倒したリンクは、カヤノを追い掛けていたリザルフォスに背後から近寄り、ジャンプ斬りで思い切り斬り付けた。


「カヤノから離れろっ!!」


渾身の斬りが無防備な背後から決まり、リザルフォスは消滅。
ホッと息を吐くカヤノに、リンクとナビィが慌てて寄って来る。


「カヤノ、大丈夫? ケガは!」
「無いわ、平気」
「ああいう無茶はオレがするから、カヤノはしなくていいよ」
「立ち向かってないんだから無茶じゃない。それにリンクはテクタイトに一人で向かって行ったじゃない」
「あれは……たいして強くなかったからで……」
「結果論でしょう。私もあなたと同じハイラルを救う一人なんだから、リンクがやる事だったら私だってやるわ」
「えぇーっ……」


こうでもしないと役に立てないと思ったカヤノは頑固で、彼女に無茶をして欲しくないリンクは困り顔。
ここで言い合っていても埒があかないので先に進むが、カヤノが今以上の無茶をしないかと気が気でない。


「(まあ、どうかなる前にオレが守ればいいか……)」


自己完結して考えを封じた。



何度かモンスターと戦いながら洞窟を奥へ進むカヤノ達。
もうそろそろ最奥かな、とカヤノが思っていたら、突然 洞窟内を揺るがす地響きが鳴り始める。


「な、何……!?」
「リンク、カヤノ! 何かがこっちへ来るよ!」


ナビィの言葉通り、地響きは段々と近付いて来ている。
ズシン……ズシン……と、巨大なものが歩を進めるような。
恐る恐る振り返った二人の目に入ったのは、見上げるほど巨大なドドンゴ。


「でけぇっ……! なんだよあれ!」
「古代竜キングドドンゴ! あいつが親玉みたいね」
「じゃあヤツを倒せばいいんだな。ナビィ、あいつの弱点は?」
「……えーっと」
「すぐ分かるワケじゃないのーっ!?」


まさかのまさか、こんな大事な時に考え始めたナビィに叫ぶリンク。
巨大な上に堅い鱗に覆われており、剣やパチンコでは倒せそうにない。
何とかナビィが弱点を探るまで時間稼ぎをしなければ……。

と、そこでリンクに走る嫌な予感。
ナビィに向けていた視線を隣へ動かせば、居たはずのカヤノが居ない。
案の定、カヤノはキングドドンゴへ向かっていた。


「うわーっ!! 何やってんだよカヤノーっ!!」
「私が時間稼ぎをするから、ナビィは奴の弱点を探って!」
「だからそういう無茶しないでってばぁ!!」


リンクの制止も聞かずキングドドンゴの近くまで来たカヤノは、パチンコで攻撃。
堅い鱗は全くダメージを受けていないが注目だけは集められる。
幸いにも動きはのろいので、軽く走るだけで逃げられそうだ……。

なんてカヤノが思ったのも束の間、突然キングドドンゴが丸まり、カヤノへ向かって転がり始めた。
巨体で勢いが凄い上に、歩くのとは比べものにならないスピード。


「え、う、うそっ!」
「カヤノ!」


泡を食って逃げ出すカヤノをリンクとナビィが追い掛ける。
追われたカヤノが逃げ込んだのは洞窟の最奥らしい巨大な空洞。
バクダン花があちこちに咲いていて、ひょっとしたらゴロン達がよく来ていたのかもしれない。
完全に行き止まりな上、端には溶岩。これ以上逃げるのは不可能そうだ。


「(なんとか方向転換して、追い詰められないようにしないと……)」


ほぼ全力で走っていたからか、カヤノの息がだいぶ上がっている。
そしてそれが祟り、足下がぐらりとふらついた。


「あっ……!」


派手に転んでしまうカヤノ。
背後からは巨体で転がって来るキングドドンゴが……。


「カヤノーーーーっ!!」


背後から追い掛けていたリンクとナビィが絶叫する。
今度は本当に駄目だと誰もが思った。

しかしキングドドンゴは、覚悟して伏せたカヤノの側をあっさり通過。
そして奥の壁へ派手に激突してしまう。


「え、あれ……?」
「あいつ図体が大きなだけであんまり利口じゃないのよ! リンク、あれならバクダン花を使えば……!」
「バクダン花……」


ようやく出て来たナビィのアドバイスにリンクも思い至り、空洞のあちこちに生えているバクダン花を確認。
キングドドンゴが立ち直ったのを確認してそこまで走ると、バクダン花を引っこ抜いて奴 目掛けブン投げた。


「これでも……食ってろっ!!」


何の抵抗も無くバクダン花を飲み込むキングドドンゴ。
バクダン花は腹の中で派手に爆発し、苦しみながら再び転がり始めたキングドドンゴは空洞の端にあった溶岩へ突っ込み沈んでしまった。

今までの騒動が嘘のように静まり返る空洞内。
三人とも呆然としていたが、一番にリンクが我に返り座り込んでいるカヤノに駆け寄る。


「カヤノ! またあんな無茶を……!」
「でも時間稼ぎの役に立ったでしょう? 私だって何かしないと、一緒に居る意味が無いじゃない」
「いいんだよ! カヤノはオレの傍に居てくれるだけでいいんだよ!」
「……」


何だか告白めいた事を言われ、少々気恥ずかしくなってしまうカヤノ。
リンクはどうやら、そんな内容を言った事に気付いていないようだ。


「こんなに心配してくれるなんて……」
「心配ぐらいするよ、ここまで危なっかしい子だとは思わなかった!」
「ごめんなさい。だけど私、リンクの役に立ちたかったの」
「オレだってカヤノを守りたいよっ!」
「……」


気恥ずかしい台詞2回目。
何だか雰囲気的にナビィが楽しそうだが、話題を振るのはやめておく。
どうせまた注意を忘れて揶揄って来るだろうから。



リンク達はドドンゴの洞窟を後にし、ゴロンシティへ戻った。
モンスターの親玉を倒した二人をゴロン達は大歓迎。
その中心に居たダルニアが、満面の笑みで二人へ駆け寄って来た。


「よくやったゴロ! まさか本当に一族を救われちまうとは!」
「へへっ、ただのガキンちょじゃないだろオレ達!」
「ああ、あの言葉は撤回する。今日からオメエ達とオレはキョーダイだぁ〜っ!」


暑苦しくバシバシ叩かれて咳き込むリンク。
それに巻き込まれないよう少し離れていたカヤノは、一通り収まってからダルニアに訊ねてみた。


「それにしても、どうしてあんなモンスターが……」
「ああ、実は前にガノンドロフって奴がここへ訪れたんだ」
「ガノンドロフ……!?」


まさかの、しかし心のどこかで予想していた名前が出て来て、リンクとカヤノは表情を引き締める。
ダルニアの話によると、ガノンドロフは突然この町を訪れ、配下に加えてやるから精霊石を寄越せだなどと言ったらしい。
それを断ったら洞窟のモンスターを凶暴化させ、更にキングドドンゴのような化け物まで生み出してしまった。


「それに比べて、オメエ達は危険を顧みずオレ達の為に……。オレからの感謝と友情の証だ、精霊石を渡すゴロ!」
「ありがとう、ダルニア!」


リンクはダルニアから精霊石を受け取る。
ゴロンのルビー……これで二つ目、残る精霊石はあと一つ。


「よっし! 真っ昼間だが構うもんか、宴会するゴロ! お前達も参加して行け!」
「うん!」
「私、またオカリナで演奏しますよ」


ようやくまともな岩を食べられるようになったゴロン達は、すぐさま洞窟へ行き山ほど採って来る。
それに特製の度のキツい酒(岩とかでなく普通に液体だった)を並べ、お祭り騒ぎの大宴会が開かれた。
カヤノは森の祭りでやったようにオカリナで曲を演奏し、ダルニアを筆頭に飲み食いと踊りが満面の笑顔の中で繰り広げられる。

暫くして ちょっと休憩をしようと、騒ぎの中心から離れていたリンクの隣に座ったカヤノ。
そんな彼女に、リンクがこっそり話し掛けた。


「カヤノ。オレ、今回の事で本当にお前を守らなきゃって思ったよ」
「え……」
「前から思ってたんだ。でも洞窟で、あんな死にそうな目に遭って。あの時 本当に怖かった。カヤノを失うかもって思うと耐えられなかった」
「でも、守られてばっかりじゃ足手纏いでしょう」
「カヤノがそれを気にするなら止めはしないけど、あんな死にそうな無茶だけはさせない。オレは絶対に、カヤノを失わないから」


まだ11歳の少年だというのに、その眼差しは少し大人のそれを感じさせる。
どうにも照れ臭くなってしまったカヤノは顔を逸らし、やっぱりまた演奏して来る、とゴロン達の輪の中に行ってしまった。
ナビィがその背中を見送りながら楽しそうに。


「リンク、カッコイイじゃないのっ」
「格好いいとか悪いとか関係ないよ。オレはただカヤノを守りたいだけ」
「アナタの気持ちがどうあれ、カヤノを大事に思ってくれるのは嬉しいわ。……これからもカヤノと仲良くしてね」
「え? う、うん。もちろん……」


ナビィの言葉に違和感を覚えてしまい、返事にどもるリンク。
当然仲良くするつもりだが、何だか今のナビィの言葉は……。


「(……何だろう?)」


心に芽生えた違和感の正体が分からないまま、リンクはそれを振り切るように立ち上がり、カヤノやゴロン達の中に交ざって行った。





−続く−



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