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14章 秘めたるもの



ルミザ達がネブラに来てから4日目の朝。
突然光魔法を使えた2日前から、更に魔力の安定を目指して魔道士達に教えを請うていたルミザ。
あの謎の魔法発動から順調に精進した彼女は、バランスやコントロール力を一定以上身に付け、ついに今日、大賢者に報告する事となった。


「お早うルミザ様、大賢者の所に行くんなら付いて行くけど」
「お早うございます、ロイ、エリウッド、エフラム王子。折角だけれど、魔道士の皆さんがついて来て下さるらしいの。あまり大人数でお邪魔するのも悪い気がするし……」
「そうか、それは残念だ。じゃあ今日も俺達は鍛錬という事で……」


エフラムがそう言い終わらないうちに入口のドアがノックされる。
エリウッドが扉の前に立ち、誰か尋ねようとする前に向こうから名乗った。


「セネリオです。どうやら安定したようですので、魔法を教えに来ました」
「セネリオ様!? わざわざ出向いて下さるなんて」


突然やって来たセネリオを招き入れるルミザ。
光魔法を感じ取り、魔力の操作が安定したのを見計らったそうだ。
何も告げていない筈なのにそんな事が分かるなんて、大賢者の為せる技だろうか。
セネリオはルミザの手を取り、祝詞を告げる。


「あまねく光彩の瀑布よ、この者に降り注ぎて、大いなる叡智を与え賜え」


その瞬間辺りが眩い光に包み込まれ、更なる輝きが流星の如く降り注いだ。
それらは全てルミザとセネリオに集まり、やがてルミザに吸収される。
一瞬だけ苦しくなってぎゅっと目を閉じたルミザだがそれはすぐに終わり、後には体中を温かい物が満たしてホッと息を吐けるような安心感が湧いて来た。


「元々の素質がありましたから、これで光魔法を完全にものに出来た筈。大きな魔法を使うには力不足ですから、まずは簡単な光魔法の呪文や使い方をお教えしましょう」
「はい。セネリオ様、宜しくお願い致します」


どんどん進んで行く魔法修行に、ルミザは心が弾むような思いだ。
思いの外あっさりと光魔法を授けられて少し拍子抜けな側面もあるが。
そんなルミザを見てセネリオは少し冷たげな表情を浮かべる。
嘲っている訳ではなく、どことなく複雑そうな何とも言えない表情だ。


「ルミザ……そんなに、聖神を信じているのですか」
「えっ……。そうですね、私、恥ずかしい事に邪神や聖神の存在は、最近まで夢物語程度にしか認識していませんでした。この旅に出て、虹の巫女様達に出会って、聖神様の事も意識できたんです」


邪神を倒し、世界を守った聖神の話を思うと、自分も彼のように国や民を守りたいと考える。
聖神のような大いなる力があったならと分不相応な願いさえ出るが、手本にする分には構わない筈だ。
セネリオはそんな彼女へ何かを確認するように、抑え目に口を開く。


「聖神と、その娘。あまり文献は残っていませんが、どうも聖神の娘には子供が居たようですよ」
「え? それは初めて聞きました。聖神様の姫に御子が居たなんて……」
「聖神の娘は、その子供を下界へ捨てたそうですが」


唐突に、水流を見送ったような何でも無いような感覚でとんでもない情報が齎された。
セネリオの話によれば、聖神の娘が産んだ子は災いを呼ぶとして天の国からこの地上へ突き落とされたらしい。
その子は死んだのか……聖神の血筋であれば生きていると思われるが、親に捨てられたとあってはショックが大きいだろう。


「天より落つる子……ただ生まれて来ただけだというのに、災いを呼ぶからと捨てられたのです」
「聖神様の姫が、まさかご自分の御子を捨てるだなんて」
「僕が嘘を吐いているとでも言うのですか?」
「い、いえ、決してそんなつもりでは……」


セネリオが嘘を吐いていると思いたくなど無い。
だが、まさか聖神の娘ともあろう人が自らの子を下界に捨てるとは……。
捨てられた子は、この大地で何を思い生きているのだろうか。
ひょっとしたら旅をしていれば、いつか会う事が出来るかもしれないが。

……その瞬間、ルミザの脳裏に何かが浮かんだ。
記憶の水底は鏡のように磨き上げられ、覗き込んでも自分が映るだけ。
手繰る記憶は自分が体験したものばかりの筈なのに、なぜか今、水底に映っているのは自分が知らない筈の記憶。

痛い、苦しい、悲しい。

やめて。
やめて。
やめて。


「ルミザ」
「あ……」


記憶の水底より更に下、溺れそうになっていた所へセネリオが手を差し伸べた。
その顔は先程までの複雑そうな表情ではない、優しげな慈悲に溢れた表情。
やはり親近感がある。
初めに出会った時に感じた事だが、ルミザはセネリオが自分と近しい存在だと思えてならない。


「疲れましたか?」
「あ、いえ、大丈夫です。魔法を教えて下さい」


気を取り直し、本格的に光魔法を教えて貰う事に。
大賢者の出現に驚いたのはルミザばかりではない。
いつも鍛錬している建物へ行くと、周りの魔道士達も驚いて姿勢を正す。


「うわわ、何で大賢者様がここに来てるの!?」
「ちょ、ちょっとユアン、抑えて抑えて!」


ひそひそと話しているつもりらしいユアンとルゥを一瞥もせず、セネリオはさっさと本題に入る。

魔法を使うには、主に呪文を唱える“詠唱法”と、魔印や魔法陣を描く、つまり俗に印を切ると言われる“描仕法”の二つが存在する。
ただ描仕法は印を切ると同時に詠唱せねばならず、詠唱法に慣れなければ行使するのは非常に困難。
それ以前に描仕法は魔力が足りない者が詠唱を補う為にする物で、魔力がある者が使うのは正当ではない魔法を使う時や、あとは魔力の消費を遅らせるという理由しかない。
なので、セネリオ曰くなかなかの魔力を持っているらしいルミザは、必然的に詠唱を学ぶ事に。
消費を後回しにするような誤魔化しより、使う魔力の消費を抑える練習をした方が為になる筈だ。
ルミザが以前に放った光の矢、それを練習する為セネリオが手本になる。


「神の射手よ、審判の矢を放ちて制裁を下し賜え!」


やや早口で素早い詠唱だが、ルミザは確かに、魔力が美しい波紋のようにセネリオの手先へ集中し放出されたのを感じた。
しかも放たれた光の矢は壁に当たる直前で綺麗に掻き消える。
ただ放出するだけではなく、体を離れた魔力でさえも正確にコントロールしたのだ。
速い。呆然と見ていたルミザはセネリオに、やってみて下さいと声を掛けられようやく我に返る。
集中し、同様に手を差し出して詠唱を試みた。
セネリオのように素早く詠唱しても魔力を操作できる自信が無かったので、一言一言、噛み締めるように呪文を唱えた。


「神の射手よ、審判の矢を放ちて制裁を下し賜え!」


唱えつつ、今まで散々練習した魔力の放出の仕方を思い出してやってみる。
するとまるで呪文に乗るように魔力が光の矢の形を取り放出された。
放たれた魔法はセネリオがマジックシールドで受け止めてくれる。


「出来た……! セネリオ様、私、出来ました!」
「あなたには素質がありますからね。ですが、このままでは実戦で使い物になりませんから、もっと素早く出来るよう鍛錬しましょうか」
「はい!」


嬉しい、とにかく嬉しい。
それ以外に言葉が出ない。
ついに魔法が本格的に自分のものになり始めて心が踊る気分になる。
まだ実戦で人を傷付ける覚悟は出来ないが、やはり守られてばかりの自分から脱却できる可能性を得られたのは嬉しかった。
それから更に練習を続けるが、なかなか上手く行ってくれない。
ある程度速く詠唱出来るようになったが、まだまだ実戦で役には立たない。


「なかなか上手くいかないものですね」
「魔法の名前を唱える事が出来ればすぐに魔法が発動するので、詠唱より遥かに早いのですが。相当な魔力の器が必要ですし、発音が難しすぎるので困難でしょうね」
「地道にやるしかない、という事ですか」
「……まぁ、あなたなら不可能ではありませんよ」


何だか意味深だが、やはり真面目に練習して基本を身に付けるべきだろう。
基礎を疎かにしては、いざという時自身に足下を掬われかねない。
途中で休憩したりセネリオや魔道士達から魔力を分けて貰ったりしながら練習を続ける。
目の前に差し出された強さの切っ掛けを、易々と諦める気は無かった。

その頃のエリウッド達は。
ネブラに来てからと同じように三人で手合わせしていたのだが、エフラムの様子が少しおかしいのを気にし、エリウッドが問い掛けていた。


「エフラム、最近なにかを考え込んでないか? 僕達に出来る事があるなら言って欲しいんだ」
「あぁ……。貴国を侵略した我が国……叔父上の事を考えていたんだ。なぜ友好国のラエティアに侵略したのか、ルミザ王女が目的だったらしいが一体彼女に何の用があったのか。何かの手掛かりになるかもと以前の叔父に異変は無かったか思い出そうとしているんだが、なかなか、な」


エフラムは、武人としても王族としても優秀な叔父を尊敬していた。
ひょっとすると父より尊敬していたかもしれないと今となっては思う。
そう言えば、父と叔父は仲が良くなかったのかもしれない、と、以前二人が何かの口論をしているのを見掛けた事のあるエフラムは考えていた。
父への意地か、熱心な聖神の信者である父が主催していた生誕祭や感謝祭に叔父が参加している姿を目にした事が無い。
そんな大陸全土で行われる一般的な恒例行事にまで敵意を引き摺っていたのだろうか。
ルミザの話では巫女は各国に一人ずつ居るらしいので、いずれルネス国にも行かねばならない。
その時に真実を知れるだろうかと、エフラムは一人緊張していた。


++++++


一方、ルネス王国。
数日前、セネリオの杖によって移動して来たアイクはルネス軍の動きを探り回っていた。
兵士から鎧を拝借したり見つからぬよう細心の注意を払って動きつつ得た情報は、思い通りの物。
エフラムの叔父……ギルベルトは今ラエティア王都に居て、ルネスの王都は指導者が居ない。
エフラムの父は既に処刑されている。
ルネス軍の兵達はギルベルトの命令に忠実で、彼の留守にも更なる反乱を起こそうとはしなかった。


「(ここで野心と実力のある奴なら、ギルベルトの寝首を掻くぐらいの事はしそうなものだが……まぁ無理もないな)」


ルネスは今やラエティア全土に侵略の手を伸ばし、他国としても無視など出来ない事になっている。
いつか自国も侵略されるのではないか。各国の王はそんな疑心暗鬼に陥ったりもしていた。


「(ギルベルトの目的は侵略じゃない。周りは穏健派の王ばかりだからな、ギルベルトが自ら動かない限り戦争は起きんだろう。まぁそれより、俺は俺の目的を果たすか)」


アイクは他の兵と見張りを交代し、とある一室に忍び込んだ。
そこに居たのはウェーブの掛かった赤い長髪の大人っぽい、しかし清楚な格好をした女性で、アイクを見るなり悲しそうな顔をする。


「あなた、なのね。今度は何の用かしら」
「赤の巫女、ルブルム。お前の持つマテリア、渡して貰おうか」
「……それがあなたの、彼女を愛する方法なの? 人それぞれな事を間違ってるだなんて断定はしない。だけど私は、そのまま直接ラエティア第四王女の害になるような事は、決して出来ないわ」
「なら、あんたを殺してでも奪い取るが」
「同じでしょう。そうしたいのなら、そうなさい。行方の知れない青紫の巫女・レオラも、ひょっとするとあなたが消したのかしら……?」


ルブルムの言葉にアイクは眉一つ動かさない。
そして腰の剣に手を掛けると、常人には何が起きているか分からないであろう速さで一閃させた。
ルブルムは呻いたが、そこらの娘のように悲鳴を上げたりはしない。
巫女としての彼女のプライドが、聖神と虹の神の加護に包まれ静かに生を終える事を望んだ。
これも運命なのだと、ただ静かに、受け入れる。


「聖神よ……虹の神よ……あなた方に久遠の栄光を、そしてラエティア第四王女に、あなた方の御加護を……」


赤を司る虹の巫女はその存在に相応しい色に染まり、短い生涯を終えたのだった。
アイクはルブルムが持っていたマテリアを奪い取ると、何かを確認するように辺りを見回す。


「セネリオ……は、いま忙しいようだな。なら自分で戻るか」


アイクが左手の人差し指に着けていた指輪を翳すと、軽く光を放ち、その姿を掻き消してしまう。
指定した拠点へ一瞬で戻る事が出来るリターンリング。
それを使い、セネリオが居たネブラ神殿の隠し部屋へ一瞬で戻った。
ルミザは順調とまでは行かなくとも、ゆっくり、しかし着実に光魔法を身に付けているようだ。
この分なら光魔法を覚えたルミザの力を嗅ぎ付けて“奴ら”が来るかもしれないと考える。
先程ついた血を綺麗に拭って愛用の剣を磨き、来たるべき襲撃に備えるアイク。

暫くそうしていると、扉が開いてセネリオがやって来た。
アイクの傍らにある赤のマテリアを見て目を丸くする。


「マテリアを奪って来たのですか? 巫女がルミザ以外に渡す筈がありません」
「あぁ。マテリアが全て揃ってしまうと都合が悪いからな、時が来るまでは俺が預かっている」


アイクの当面の目的は邪神を倒す事。
その為にマテリアは必須だが、物事には順序という物がある。
準備が全て整って、それからマテリアをルミザに渡す必要があった。


「そうだセネリオ、そろそろ警戒した方がいいぞ。ルミザが力に目覚めたのを嗅ぎ付けて、邪神の手先が来かねない」
「そうですね……アイクはどうなさいますか?」
「ルミザやお前に危害が及ぶようなら、俺も戦いに出ようと思う」


そろそろルミザの身に危険が及ぶ可能性が増える。
彼女が自らの内に眠る力に目覚めれば、それに群がる亡者どもが現れるに違いないのだ。
アイクもルミザと一緒に旅をする事を考えていた。


++++++


次の日。
いつも通り魔法の鍛錬を開始しようと、同じく鍛錬に向かうエリウッド達と外に出ていたルミザ。
空は相変わらず雲一つ無い真っ青な色で、見上げていると吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る。
大通りに出てそれぞれの目的地に向かおうとした所で、向こうに魔道士達が歩いているのを見た。
どこか急いだ様子で、ルミザを見つけるなり慌てて走って来る。


「ルミザ様、こちらに……いらっしゃいましたか」
「ソフィーヤさん、一体どうなさったんです?」


その質問にソフィーヤが答える前に、ルーテが二人の間に出た。
それは他の緊迫した魔道士達とは違う、何とも浮かれて嬉しそうな様子。
喋り方は相変わらず淡々としているものの、どこか興奮しているようだ。


「邪神の手先と言われる魔物が出ました。まさかこの目で見られる日が来るなんて……あぁ、感動です」
「ま、魔物っ……!?」
「今は里の魔道士達が総出で防御壁を張り、追い返す為に攻撃しています。こうしてはいられません、私も行きましょう」


ルミザに質問させる間を与えずに、魔道士達の援護……もとい、魔物観察に行ってしまうルーテ。
邪神の手先だなんて、自分達の立場を考えるとヒヤリとしてしまい、ロイが緊張した様子で話す。


「まさかルミザ様が生贄にならなかったから、邪神が怒って無理やり奪いに来たとか?」
「考えられるかも……まさかこんな事になるなんて」
「ルミザ王女、落ち着くんだ。取り敢えず数を確認して、倒せそうなら倒してしまうから」


エフラムは魔道士達に、魔物の数や状況を訊く。
エルクが言うには、魔物の数はおよそ50。
骸骨兵士のスケルトンや死人ゾンビなどが主な編成で、どれも大した強さではなさそうらしい。
それならば何とかなるかもしれないと、迎え討ち全滅させる事にした。


「では僕達が魔道士の方々と一緒に出ますから、姫は町で待機を……」
「ま、待ってエリウッド。私も一緒に行くわ!」

これは折角の機会だ。
まだ熟練には程遠い実力だが、こんな時の為に光魔法を習い習得した。
どうしようか迷うエリウッドだったが、トパックやエフラムに、他の魔道士が援護に回るし、本当に危なくなったら離脱すればいいと言われ、少々心配ながら承諾する。
何より、足手まといから脱却したい、強くなりたいと思うルミザの意志を、尊重したいと思った。


「分かりました。ただし、僕達が前衛になりますから、ルミザ姫は後衛から援護に徹して下さいね」
「分かったわ。まだ未熟だもの、無理はしない」


魔道士達と連れ立って、里の出口へ駆けて行く。
ルミザの初めての実戦が幕を開ける。
魔道士の里ネブラを背後に守りつつ魔物を撃退して行く勇士達。
ルミザはエリウッド達の背後から、呪文を唱え光魔法を放って行く。


「神の射手よ、審判の矢を放ちて制裁を下し賜え!」

一つ一つ噛み締めるように唱えていた初めとは違い、なかなか速く詠唱して魔法を放つ事が出来るようになった。
大賢者セネリオには遠く及ばないが、混戦のさなかでなければ確実に敵を仕留められる。


「ルミザ様、すごい! 魔法を放つの速くなったじゃないですか!」
「ありがとうルゥ君。でもまだまだ遅いもの、修行不足だわ」


セネリオはルミザに素質があると言ってくれた。
大賢者のお墨付きを貰ったからには、その通りな使い手になりたいと思う。

魔物も粗方が片付き、里は守られたようだった。
エリウッド達は里だけでなくルミザも守れた事に安堵するが、ふと、空から何か不吉な音がする。


「あら……? 何かしら、風の音?」


はっと、それが自分の方へ向かっているのではないかと思ったルミザ。
考えるより早く空を見上げると、翼の生えた魔物が槍を手に舞い降りて来るのが目に入る。
とっさに、側に居たルゥがルミザを突き飛ばして魔物から庇った。
逃げ場を失くしたルゥが恐怖に染まった、だが毅然とした瞳で魔物を睨み付けた瞬間、ルミザの体が反射的に動く。

いけない、このままではルゥ君が……!


「бαΓηθτα!」


詠唱法では間に合わない……その緊迫した思考の中で、ルミザはほぼ無意識のうちに謎の単語を口にしていた。
言いながらルミザの魔力が手先に集まり矢の形を作って放出される。
その矢は空中の魔物へ向かって行き、奴を貫いてその命を奪い去った。
呆然とするルゥ、そして魔法を放ったルミザ。
ルミザ自身も何が起きたのか全く分からず、ただ己の手を眺めるばかり。


「い、今のは一体……?」
「ルミザ王女、無事か!」


エフラム達が駆けて来て念の為に落ちた魔物に止めを刺した。
ルーテがやって来て、これはガーゴイルという魔物ですねと説明を開始するが、ルミザの耳には届いていない。
そこでルミザはセネリオが言っていた事を思い出した。
魔法名を唱えればすぐに魔法が発動する……もしかしたら、それかもしれないと期待が湧く。
相当な魔力の器が無いと出来ないし発音がかなり難しいとの事だが……。
確かに先程、自分が言った謎の単語をいま口にしようとしても上手く言う事が出来なかった。
トパックが感心して、嬉しそうに声を張る。


「すげぇルミザ様、いま詠唱無しで魔法使った!?」
「え、えぇ。どうやったのか自分でもサッパリ……」
「待って下さい、まだ何か妙な気配が……!」


途中でエルクが割って入り、その言葉にルミザ達も妙な気配に気付く。
息が詰まりそうな重苦しい空気。
何事かと武器を構えたり魔力を集中させたりする中、彼らが見据える先に魔法陣が現れる。
息を飲み見つめると紫色の重い光が溢れ、そこから魔物が次々と出現した。


「あの魔法陣から増援が現れているのか!?」
「待ってくれエフラム、数が多すぎる!」


飛び出そうとするエフラムをエリウッドが留める。
一つの魔法陣から絶え間なく何体もの魔物が出現し、止まる事を知らない。
倒さなければどうにもならないが、余りにも数が多すぎて気が遠くなる。
一旦引いて籠城し先程と同じ様に防御壁の内側から撃退する。
そんなルーテの提案に、それが良いと同意するルミザ達。
だが次の瞬間、里入り口の重厚な門が開かれ、中から二人の人物が現れる。


「その必要はありません」


現れたのは大賢者セネリオと、何と、アイクだ。
突然の再会にルミザが驚く暇も無く、セネリオと大剣を構えたアイクが魔物の大軍に向かう。
そこから先は……もう何が起きているのか良く理解が出来なかった。
セネリオが莫大な魔力を惜しげも無く使って強力な魔法を放ち、大剣を軽々と片手で振るうアイクが敵に突っ込み、勢い良く群を切り崩して行く。
数えるのも面倒になる程に居た魔物が、凄まじい勢いで減って行った。
それを呆然と見ていたルミザに、セネリオが強い口調で指令を出す。


「さぁルミザ、魔物の増援が出て来る魔法陣を壊して下さい!」
「えっ!? でも私、どうすればいいか……」
「なたの本能で考えるのですよ、必ず分かります。取り敢えず僕とアイクが守りますから、魔法陣まで来て下さい」


そう言われては、拒否する事も出来ないルミザは行くしかない。
同行を申し出るエリウッド達を断り、緊張する心を誤魔化して魔法陣まで一気に駆け抜けて行った。
さて、どうする。
どうにかして魔法陣を壊さなければ、魔物の増援は止まる事なく続く。
アイクとセネリオが凄まじい勢いで魔物を倒して行く中、ルミザはひたすらに考えていた。
エリウッド達や他の魔道士達も魔物の殲滅に協力しながら彼女の動向を見守ってくれている。

本能で考える……。
魔物の消滅を願いながら祈るようにしていると、ふと、ルミザの頭に妙な言葉が浮かび上がった。
今は迷っている場合などではないと、魔法を放つようにその言葉を発する。


「σΕΑρ!」


唱えた瞬間、手先から魔力が放出する感覚が。
練習した通りに普通の魔法を放つ感覚で魔力を魔法陣へ解き放つ。
放たれた光は禍々しい紫色の光を飲み込み、波紋が広がるような格好で魔法陣を掻き消した。


「で、出来た……」
「やはりあなたは此処へ来た事で目覚めつつあるようですね。いずれ自分の全てに気付く日が来るでしょう、それまで力を付けておく事です」


セネリオの言葉に頷きつつも、ルミザの視線はアイクへ向けられている。
まさかこんなに早く再会が叶うとは……何故か胸が高鳴り、落ち着かなくなるルミザだった。





−続く−



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