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8章 歌い、語りて



「……エフラム王子?」
「ルミザ王女……」


動かない2人に観客席からのブーイングが響く。
広い試合場を囲む衛兵達は下ろしていた武器を構え、様子を窺っていた。
それに気付いたエフラムは唇を噛み締め、槍を握りルミザに飛びかかる。
息を飲み一歩後退る事しか出来ないルミザを、槍の柄で打った。
痛みに悲鳴を上げてよろけるも、何とか踏みとどまるルミザ。
その様子に、ブーイングばかりだった観客席が歓声に湧き上がった。
それに苦々しい表情をしながらも、エフラムは再びルミザの傍へ寄り、胸ぐらを掴んで顔を寄せる。
そして苦しそうに、一言だけを告げた。


「すまないルミザ王女。今あなたを助けるには、こうするしか思いつかないんだ」
「え……」
「耐えてくれ、頼む」


言い終わるや否や、再び槍の柄でルミザを打つエフラム。
横から強く打たれ軽く飛ばされたルミザ、彼女が痛みに悲鳴を上げ、それでも耐えようとすればするほど観客は喜ぶ。
ルミザは何が何だか分からなかったが、試合場を取り囲む衛兵を見て、この状況が分かった。

彼らは武器を構えている。
ちゃんと試合をしなければ殺される事もあるのだろう。
今はこうするしか無いと、ルミザは打ち据えられるまで耐えていた……。


++++++


「ルミザっ……良かった、生きてたよ……!」


試合の後、気絶したらしいルミザは医務室で目を覚ました。
粗末なベッドに寝かされていて、目の前にはワユ。
上半身を起こしたルミザは、開口一番彼女に謝った。


「ごめんね、ワユ」
「なんであんたが謝るの、ほら、手当てするから……」


心配させてしまった事への謝罪だったのだが、何となく言い出せないままワユに手当てして貰う。
薬を塗って貰ったりしながら、ルミザはエフラムの事を思い出していた。
どうして彼は、こんな大陸の反対側にある国に居るのだろう。
しかも剣奴だなんて、売られたという事だ。
一国の王子である彼が何故こんな事に……。

ふと思い出したのは、ラエティアに侵攻して来たルネス軍の事。
城を出る時、ヘクトルが囮になって逃がしてくれた時に、ルミザの家族の首を、土産だと言って見せつけて来た男。
彼の顔を思い出したら、スッと全身が冷えるような感覚に襲われた。
似ているのだ、以前エフラムがラエティアに滞在していた時、会った彼の父……ルネス国王に。

確かあの男は……そうだ、
『貴女は私の兄とその息子にしか会った事がないのだな』と言っていた。
ルネス国王にソックリな男の兄と息子に会った。
ルネス国の要人は……国王と王子エフラムがラエティアに滞在した事がある。

あの男は、ルネス王弟だったのだろう。
その王弟率いるルネス軍が友好国ラエティアに侵攻し、王子である筈のエフラムが剣奴に……。


「ねぇ、ワユ。あの……エイリークって、いつ頃この闘技場に?」
「確か2ヶ月くらい前だったと思うよ。しかし、よく殺されなかったね……。ルミザ、ひょっとしてあいつのタイプだったんじゃない?」
「タイプって……」


場を明るくしようとしてくれているワユの冗談に苦笑しながら、ルミザは自分が生贄となる前の事を考える。
2ヶ月ほど前、生贄になる事が決まった時にエフラムへ手紙を出した。
別れの手紙だったのに、いくら待っても返事が一向に来なかったのは……きっと間違いない、売られてしまったからだろう。
こんな形で再会できるとは思っていなかったが、無事で良かった。
ラエティア侵攻に関しても、きっと彼の賛同は無かった筈だ。
ルミザは安心して、ホッと息をついた。

エフラムが上手く手加減してくれたのか、傷自体は大した事は無かった。
まだ少々痛みはあるが、歩くのに支障は無かったので部屋へ帰る事にする。
帰りながら、明日は自由に街へ出られる日だから買い物に行こうよ、と提案するワユと会話していると前方に誰かが立っているのが見えた。

緩やかなウェーブが掛かった金の髪、流れるような長髪は後ろで1つに編まれている。
手にはハープを携えて柔和な笑みを湛えていた。
その人物はルミザに気付くなり、近寄って来て一礼をする。


「貴女は先程の試合、エイリーク殿と戦っていらした方ですね?」
「そうですが、貴方は」
「失礼、申し遅れました。私はエルフィンと申す者……しがない吟遊詩人です」
「あぁ、あんたが」


ワユは以前、旅の吟遊詩人がふらりとやって来て住み着いてしまったという噂を聞いていた。
特に害も無さそうな上、素晴らしい音楽と歌は剣奴や兵達の不満を抑える効果も期待でき、衛兵達は放置しているらしい。
何かご用ですか、と訊ねると、エルフィンは少しだけ躊躇ってから口を開いた。


「貴女を見ていると、是非とも歌をお聞かせしたくなりまして。聴いて頂けますでしょうか」
「私に……?」
「はい。聖神がおわすという天の国にまつわる歌なのですが」


その言葉に、ルミザの心臓が跳ね上がった。
聖神の……自分はそれに関する虹の巫女に会う為、旅をしていたのだから。
気になって、歌を聞こうとするルミザ。
ワユも付き合ってくれて、近くの誰もいない待合室へ行き、椅子に座る。
やがてエルフィンは、ハープに合わせ、澄んだ声で歌い始めた。





戒めから互いを解き放ち
交わる明暗の主よ
背負うは 罪 咎 幸
そして生命(いのち)

宿りし血脈を支えに
立ち向かうは己の血脈

さあ 抗いなさい
貴女はそれを望んでいる


やがて全てが歪曲し
理想に殉ずるも叶わず
離愁が身を満たしても

さあ 耐えなさい
貴女はそれを望んでいる


やがて来(きた)る
その名に違わぬ苦行
それは運命(さだめ)

やがて目覚める明の主
その名は運命(さだめ)
追懐など 今は無意味
愁嘆など 今は無意味

さあ 戦いなさい
貴女はそれを望んでいる


天より落つる子よ
背には運命
四肢には大地
駆け巡り なに思う

遺恨もなく
身に流るる血脈の主を
ただ想うのか


さあ 行きなさい
さあ 生きなさい
それが禊となろう

御身に宿るは 罪 咎 罰
なればこそ

さあ 行きなさい
さあ 生きなさい
やがて結果となろう


そして 祈れ
愛するがいい


運命と云う
御身の名の下に






エルフィンが歌い終わった後、ルミザは呆然としてコメントさえ忘れてしまっていた。
ワユは普通に、歌詞は意味不明だけどメロディーは綺麗じゃないの、と笑っていたが。
今の歌を聞いている間中、何か得体の知れない感覚が全身を駆け巡った。
今の歌は一体……。


「ご静聴、感謝致します」
「あ……はい、有難うございました」


ハッと我に帰り笑顔で礼を言うルミザだが、
どうにも胸に引っ掛かりが出来てスッキリしない。
やがてエルフィンと別れ今度こそ部屋へ戻る。
歩きながらも気になって仕方がないらしい彼女を見て、ワユが怪訝そうに訊ねた。


「どしたの? あの歌、気に入らなかった?」
「え? ううん、凄く綺麗な歌だったけど……」


ちょっと気になる事があるの、と言ってまた考え込んでしまうルミザ。
きっと疲れたのだろうと判断したワユは、ルミザの肩を抱いて明るく言う。


「もー、んな暗い顔しなくていいからさぁ、明日んなったら遊びに行こっ!」
「……そうね」


気になるが、何の根拠もないものだ。
それより今は、エリウッド達やエフラム、自分自身を気にするべき。
ルミザは息を吐き、気を落ち着かせた。


++++++


そして翌日。
配給された粗末な朝食を取って、ルミザはワユと共に街へ繰り出した。
日付が変わるまでに帰らなかったら酷い目に遭わされるから、ウッカリ爆睡しないようにねーと冗談めかして言うワユに、ルミザも笑って応える。
賑やかな街並みは、今までの事を忘れてしまいそうだ。
まぁそんな訳にはいかないが、少しだけ息抜きしたかった。

2人で店を回り、あちこち散策する。
罪人の手錠を付けているから嫌な顔をされる時もあるのだが、ワユの顔が利いているらしく、すぐ普通に対応してくれた。
彼女の明るい性格は、色んな人を絆してしまう。
見習いたいなぁと微笑むルミザの耳に、どこからか喧騒が聞こえた。


「え……なに?」
「うわぁ、また荒くれ者が騒ぎ起こしてるよ」


人混みの向こうを見れば、そこだけぽっかりと空間が空いていた。
金髪の少年が柄の悪そうな男達に囲まれていて、危機的状況かと思ったが男達はすぐに立ち去って行ってしまった。
後には地面に膝をつき、慌てて何かを探している少年が残される。
弓を手にした、どことなく品の良さそうな少年。
見ていられなくなり、2人は少年の許へ寄った。


「大丈夫ですか? 何を探しているんです」
「あ、いえ、その……。十字架の真ん中に青い石が嵌めてあるロザリオを…」
「ロザリオね」


言って、ルミザとワユは躊躇いなく探し出す。
申し訳なさそうにしている少年を見ると少しだけ気が引けたが、悪い事をしている訳ではないのだ。
やがてルミザが、少年が言っていたロザリオを発見する。


「見つけましたよ、そこの花壇ににありました」
「あ、有難うございます! 母の形見で……良かった」


喜ぶ少年にこちらも微笑ましい気持ちになりつつ、ルミザ達は立ち去ろうと踵を返す。
何かお礼を、と言い出す少年に、いいからいいからと断った時、少年の向こうから声が聞こえた。


「おぉーいレオナルドー! どこ行ったんだー!?」
「あっ、エディ……」
「お友達ですか? 早く行ってあげて下さい」


お礼だなんて気を使わせないように、微笑んで告げるルミザ。
レオナルドと呼ばれた少年は躊躇いがちにしつつも、もう一度礼を言いながら一礼して去る。
彼の向かう先には、落ち着いた育ちの良さそうな彼とは正反対に、素朴で、しかし活発そうな茶髪の少年が。
2人仲良く並んで立ち去って行った。


++++++


やがて日も暮れ、闘技場へと帰り着いた2人。
ルミザにとって久し振りの穏やかな時間は、満足できるものだった。
しかし、今エリウッドとロイはどうしているのだろうか……不安になる。
エフラムにも会ってみたくて、どこに行けば会えるかワユに訊ねようとした時、剣奴が出入りする闘技場の裏口に、誰かが居るのが見えた。


「ねぇワユ、あれってまさかエルフィンさん?」
「え……あ、ホントだ。一緒に居るの誰だろ」


エルフィンは、黒馬に乗った金髪の男と話をしているようだった。
遠くて内容は聞こえないのだが、近寄ると気付かれて、黒馬の男は去って行く。
去り際に見えた顔は整った美丈夫だったが、鋭い眼光はただ者ではない事を表していた。


「おや、あなた達ですか」
「今日はエルフィンさん。今の方は?」
「友人です。様々な場所へ行くと、色んな方と出会うものですから」


果たしてそうだろうかと、ルミザは気になる。
今の男……身なりは普通だったが、纏う雰囲気が尋常ではなかった。
まあそうだとしても、誰にでも知られたくない事はあるだろうし、何か自分に関係が無い限りは、あまり追求しないでおこうとルミザは考える。


「そう言えばルミザさん、私が歌って差し上げた歌は如何でしたか?」
「あ……昨日のあの歌ですか……えっと……」


どう言おうかと迷う。
歌自体は好きで、メロディーも良かった。
しかし、何かを確信しているような歌詞は、不気味ささえ感じるほど。
嫌いではないのだが、ドキリとしてしまった。
ルミザは迷った挙句、正直に言おうと試みる。


「とても素敵な旋律でしたが……歌詞が何か、引っ掛かりを感じてしまって。嫌いな訳ではないのですが不思議な気分でした」
「そうですか。ただ気に入られただけではなくて、私もひと安心です。あれは私が普段歌うものではなく、高名な賢者様に教えて頂いた特別な歌なのですよ」


かなり気になる一言だが何かを質問される前に一礼して去ったエルフィン。
彼が何を思っているのか疑問で呆然としていた所に、ワユが話し掛けて来る。


「あのさルミザ。昨日アイツが歌ってくれたのって、聖神が居る天の国にまつわる歌だったけど、天の国の伝説ってどんなのだったっけ。むかし婆ちゃんに聞いたんだけど忘れちゃってさ」
「あぁ、あの物語ね」


天の国の伝説は、簡単な物語が残されているのみ。
多くは絵本や子供向けの物語などにされていて、本格的に何があったか記されている物は少ない。
ルミザは記憶の中の物語を思い出し、簡単にワユに語った。




昔々、この大陸の空の上には神々の住まわれる国がありました。
神々は偉大なる聖神さまのもとに平和な日々を暮らしていたのです。
聖神さまには姫がおり、とても優しく美しい娘で、聖神さまはとても可愛がっておられました。

そんなある日、聖神さまの姫が行方知れずになってしまいました。
姫は、同じく空に浮いていた邪神が治める国に連れ去られてしまったのです。
聖神さまは虹の神と共に邪神の国へ乗り込み、悪魔どもを倒しながら姫を探しました。
聖神さまにとっては大事な娘であり、次の聖神さまとなる姫です。

やがて虹の神が、姫は邪神の花嫁にされそうになっている事を知りました。
聖神さまは邪神の城へと乗り込みます。
強い悪魔たちとの戦いに苦戦しますが、大事な姫のために、聖神さまは戦い続けました。
やがて聖神さまは邪神を見つけ、姫を取り戻す為に戦います。
邪神はとても強かったのですが、それでも聖神さまは強大な光の魔法で、邪悪なる闇の力を消し去りました。

その時、負けると焦った邪神はなんと、人間達の住む下界へ闇魔法を落とし始めたのです。
人間を人質にして、聖神さまを倒すつもりでした。
たくさんの人間が死に、聖神さまは窮地に立たされます。

しかしその時、虹の神が美しい装飾のついた杖を振るいました。
闇魔法は、たちまちその杖に吸収されます。
聖神さまは、その機を逃さずに邪神に最後の一撃を加えました。
それでもなお、立ち向かって来る邪神。
聖神さまは、邪神が二度と悪さをしないように、
邪神の国を地の底に沈め封印してしまいました。

邪悪なる闇の化身を封じ込めた聖神さまは、
大事な姫を助け出し、平和を守ったのでした。

その後、邪神が人間を攻撃した事に不安を感じた聖神さまは、もうこんな事が無いようにすると人間たちに約束しました。
そして虹の神に、それまで天の国にしかなかった虹を下界にも作らせ、
それを、下界と天界を繋ぐ約束の証とします。
そして下界から離れる為に、天の国を更に空高く上げました。

こうして聖神さまは、天の国だけではなく、下界をも救われました。
今もきっと高い空の上で、私達を見守って下さっている事でしょう…。





「あぁ、そうそう! そんな話だったっけ」
「天の国……聖神に邪神、まるでお伽話ね」
「なーに言ってんの、お伽話でしょこんなの!」


ルミザも、以前までならそう言って笑っていたかもしれない。
邪神が実在し生贄を要求している事は、数年前に知ったばかり。
小さい頃は何の疑問も無く、聖神さまが邪神をやっつけたと喜んでいた。

物語を思い出したら考えついた事だが、物語の中に出て来た虹の神が持っていた杖。
闇魔法を吸収する杖のようだが、あれが邪神に対抗できる術なのだろうか。
マテリアを集めれば、復活するとか……。


「私……行かなきゃ」
「えっ?」


この物語を思い出したら恐ろしくなってしまった。
早く邪神を何とかしなければ……この国の巫女を探してマテリアを受け取らなくては。
しかし逃げ出そうにも、まずは手錠をどうにかしなければならない。
ルネス軍に追われている最中、国際手配までされてしまったら…。
それにエフラムの事や、関わってしまった闘技場の事も放っておけない。


「ワユ、男性の剣奴とは会えるの?」
「え? 反対側の区間に居るから会えるけど……行ったってロクな事ないよ」


会えるならいい。
エフラムに、ルネス王国の事を伝えなければならないと思ったルミザ。
王子である彼には、知る権利と義務がある筈だ。


「私そちらの男性達が居る方へ行くわ。どうしても逢いたい人が居るの」
「だれー!? って言うかあんたって意外に無茶だよね……。よし、あたしも付き合ってあげる!」
「ありがとう、ワユ」


微笑んで、2人は女性剣奴の居住区と反対にある居住区へ向かった。
造りは変わらないが、異様な雰囲気を感じる。
エフラム……エイリークの部屋を探していると、案の定と言うか。


「おい見ろよ、こんな所に女が居やがるぜ」
「どっちもカワイイじゃねぇかよ」


剣奴であろう男と鉢合わせになった。
無視して通り過ぎようとするが、ふと、エイリークの部屋なら彼らが知っているのではないかと考える。
ルミザは意を決して、男達に話しかけた。


「あの、エイリークさんの部屋をご存知ではありませんか?」
「おいおい、あんたみたいなお嬢ちゃんが、こんなトコロ彷徨くなよ」
「恐い目に遭うぜぇ?」


ゲラゲラ笑って取り合おうとしない彼ら。
やはり無謀だったかと立ち去りかけた腕を掴まれ引き止められる。


「あの……放して下さい」
「おい、この嬢ちゃん、昨日エイリークの野郎と戦って生き残った女だ」
「何だぁ? 助けて貰う代わりにカラダ差し出す約束でもしたか?」
「ちょっとあんたら!」


不躾で一方的な物言いにワユが怒って反抗する。
剣を抜いた彼女に本気を感じたのか、男達はルミザを放して臨戦態勢。
一触即発かと思われたその時、男達の背後から毅然とした声が響いた。


「よせ、彼女はワユだ、聞き覚えあるだろう。お前らじゃ敵わない」
「……!」


現れたのはエイリーク……もとい、エフラム。
彼がワユの名前を出した途端にギョッとして顔を見合わせた男達は、暫し呆然とワユを眺めた後に、慌てて逃げ出した。


「凄い……ワユって本当に強いのね」
「へへっ、今度ルミザ、あたしが戦う所見るといいよ、ビックリするから」


調子良く笑うワユがおかしくて笑顔になりながら、ルミザは現れたエフラムへ視線を送る。
本当に彼なのだ。
昔、ラエティアの王城に滞在して仲良くなった……再び会えるなんて思ってもいなかった。

しかし、いざ顔を突き合わせると何から切り出せばいいのか分からない。
自分の事、エフラムの事…ラエティアやルネス、それに邪神や虹の巫女。
話したい事がありすぎて迷ってしまう。
そんなルミザを見かねたのか、エフラムの方から声を掛けてくれた。


「久しいな、またあなたに会えて……良かった。昨日は酷い事をしてすまない」
「いいえ。昨日の事は止むを得なかった筈です。それより私も、あなたに会えて良かった……」
「え? え? 何なの、2人って知り合い?」


そうだ、ワユだけは事情を知らないのだ。
まだたった2日だが、随分と世話を焼いてくれた彼女になら、話してもいいだろうと判断する。
彼女が自分を裏切るなんてルミザには考えられなかった。


「エイリークさん…いえ、エフラム王子。折り入って話があるのです。彼女も同席の上で、少しお時間を戴けませんか?」
「構わないが、彼女も?」
「はい、彼女なら大丈夫です、私が保証します」


なら構わないが、と言うエフラムに、ワユは王子だの何だのと入ってくる単語に混乱する。
やがて3人は、エフラムの部屋へ足を踏み入れた。





−続く−



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