EXTENSIVE BLUE
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カナタ
117番道路
バッジ2個

手持ち
ジュプトル♂
グラエナ♂
マッスグマ♀
キルリア♀
オオスバメ♂
ラクライ♂

旅時間:21日目



ミツルと別れ、キンセツシティに戻ったカナタ。
広大なショッピングモールのような街は今すぐにでも観光して回りたいが、2週間近くも観光目当てでカイナシティに滞在していたので、そろそろジムに挑戦しておきたい。
キンセツシティの屋上、手持ち達を出して側で遊ばせつつ、ベンチに座って対策を考える。


「ここは電気タイプのジムなんだ。有利な攻撃が出来るタイプの技は持ってないな……」


ただ、幸いにも草タイプのジュプトルが電気技のダメージを受け難い。
ここはジュプトル中心で行くか……と考えていたら、突然グラエナとオオスバメがカナタの許へ。
街のパンフレットを手にジムのページを見ていたカナタが座るベンチに飛び乗り、ぐいぐいと体を押して来る。


「ちょ、ちょ、ちょ、なに、何どうしたの? あ、お腹すいた? 何かあったかな……キーの実しかないけど、これでいい?」


ちょうど手持ちにあったキーの実を差し出す。
一応グラエナが受け取ってくれたものの食べる事は無く、再び体を押し始めた。
本当に何事かと左右を挟むふたりへ交互に視線を送ると、今度はカナタが持つパンフレットをぐりぐりと押す。
困惑するカナタだったが、開いているのがジムのページだと思い出して何となく分かった。


「もしかして、ジムで戦いたいの?」


訊ねると、どちらも肯定するように鳴き声を上げる。
急にどうしたのだろう。
進化前は焦っていたオオスバメも、もう焦る理由も無いだろうに。
ひょっとしてまだ進化を残しているのだろうか?

断る理由も無いので了承したい……と思ったが、少なくともオオスバメを出す訳にはいかない。
彼は飛行タイプ。電気タイプとは相性が悪い。


「ごめんねオオスバメ。あなたはちょっとタイプの相性が悪いから……。また別のジム戦で活躍してくれたら嬉しいな」


言うと、しゅんと落ち込んだ様子になる。
進化前のように頭に乗って髪を引っ張る事が無くなった彼は、そのまま飛び立ち、屋上に建っている塔に留まってしまった。
拗ねたのだろうか?
ジュプトルが何か言いたそうにしているが、少なくとも今回はオオスバメの出番を作れない。
以前のムロジムでは大活躍だったし、我慢して貰おう。

グラエナをジムで戦わせる事に決めると、自分も出たいとばかりにマッスグマが寄って来る。
思えばグラエナとマッスグマは、進化前も合わせて一度もジムで戦った事が無い。
ここはこの2匹をメインに考える事にする。
ラクライもジム戦の経験が無いが、まだ心許ないのでお預けだ。


「そうと決まればもうちょっと特訓しておこうか。この辺も都会だから、カイナみたいにトレーナーが沢山いる筈よ」


手持ち達をボールに戻し、ジュプトルを連れてキンセツシティを出るカナタ。
この街は東西南北に道が通じており、沢山の人がやって来るようだ。
取り敢えず東へ抜けて118番道路の方へ出てみる。
平原を暫く進むと砂浜に辿り着いた。
その向こうは湾になっており、ずっと向こうに対岸が見える。
ユウキと初めて戦った103番道路の湾と似た感じだが、あの時とは違い、必要以上の恐怖は感じない。
波打ち際まで歩み寄っても少しドキドキする程度。


「これもユウキ君やジュプトル達のお陰ね。本当にありがとう」


隣のジュプトルに微笑んで言うと、彼はニッと得意げな顔で笑う。
今は手段が無いが、いつかこの湾を渡る事になるだろう。
マルチナビでマップを見てみると、ここが一番まともに東側へアクセス出来る場所のようだ。


「さ、グラエナとマッスグマを中心に鍛えないとね。トレーナーを探して相手して貰おう!」


以前は自分からトレーナー戦をしようとしなかったし、カナズミジムへ挑戦する前に初めてこちらから挑んだ時は、それなりにビビリながらだった。
今はこんな積極的にトレーナー戦へ挑戦が出来るようになっている。

カナタ自身が成長し、自分とポケモンを信じられるようになったのが大きい。

以前のカナタはトレーナーとしての自分に自信が持てず、自分がトレーナーではポケモン達は不満だろう、自分がトレーナーでは勝てないだろうと考えていた。
はっきりとそう思っていた訳ではないが、それに近い自信の無さ故、自分が駄目だからポケモン達がいくら頑張っても無駄だろうと、結果的に手持ち達の力を心から信じてやれていなかった。

ジムを二つ突破して、手持ち達も進化して、様々な人に助けられながら旅を続けて、海もだいぶ克服して。
そうして自分に自信が持てるようになり、深く繋がる手持ち達の事も信じる事が出来るようになった。

自分がトレーナーとして立派にやればポケモン達は付いて来てくれる。
自分がトレーナーとしてポケモン達に協力すれば勝てる可能性はある。


「一緒に頑張ろう、みんな!」


カナタはようやく、本当の意味で“トレーナー”になれていた。


++++++++


そして、4日後。

ジムトレーナー戦を制してリーダーへの挑戦権を得たカナタ。
キンセツジムの試合場、対戦相手の場所には膨よかな初老の男性。
彼がキンセツジムのリーダー・テッセンだ。


「おおー!! ジムの精鋭達を倒したというのかっ!!」
「ひえっ……」
「わっははははは! こりゃ面白い!」


だいぶ声の大きい元気なおじさん。
いかにも人の良さそうな外見をしているが、一頻り笑った後は、力強い瞳で真っ直ぐにカナタを見据える。


「お前さんのような若きトレーナーとの勝負が、わしの生き甲斐なんじゃよ! キンセツシティジムリーダー、このテッセンがビリビリと痺れさせてやるぞい!」
「負けませんよ……! 宜しくお願いします!」


今回のルールは3vs3。
ジャッジの合図と同時に、お互いポケモンを繰り出す。
カナタはジュプトル、テッセンはコイル。
初手でいきなり出て来た懸念対象に、少々顔が引き攣ってしまった。
電気タイプに効果的なタイプの技を持つ手持ちが居ない今、警戒していたのが電気以外にも厄介なタイプを持つポケモン。
コイルは鋼という弱点の少ないタイプを持っている。
鋼タイプに対しては効果が今一つな技しかない。

実はグラエナの持つ悪タイプの技が鋼にそれなりのダメージを与えられるのだが、テッセンの手持ちが分からないので、
いざという時の切り札として温存しておかなければならない。


「ジュプトル、“リーフブレード”!」
「コイル、“でんじは”!」


素早いジュプトルの方が先に床を蹴って“リーフブレード”を叩き込んだが、“でんじは”によって麻痺させられた事により、素早さがぐっと落ちる。
どうせ効果は今一つ。ここは先制確実な技で攻めるが吉。


「“でんこうせっか”!」
「“ボルトチェンジ”じゃ!」


ジュプトルが“でんこうせっか”で勢い良くコイルへ向かった瞬間、
相手も電気を放って攻撃を加えた……と思いきや、そのまま凄い勢いでテッセンの手元に戻り、すぐにボールへと戻ってしまった。


「!?」
「行け、レアコイル!」


新たに繰り出されたのは、コイルの進化形レアコイル。
どうやら今の技は、相手に攻撃を加えつつ場に出ているポケモンを手持ちと交換できるらしい。
“でんこうせっか”は確実に当たっていた。
もう少しでコイルを倒せる筈だったのに……。


「ジュプトル“メガドレイン”!」
「“マグネットボム”!」


進化形の上に攻撃が通じ難い相手、少しでも体力を回復して攻撃に備えておきたい。
レアコイルが放った“マグネットボム”は、名前の通り磁石のようにジュプトルに吸い付いて爆発する。


「ジュプトルッ!」
「もう一度“ボルトチェンジ”!」


ジュプトルが派手に吹っ飛ばされている間に、テッセンは再度、技を使って攻撃を加えつつ手持ちを変える。
次に繰り出されたのはビリリダマ。
草タイプのジュプトルに電気技はダメージが通り難い。
しかし麻痺状態では持ち味の素早さが殺されてしまい、攻撃を避けられたり、避けられる攻撃を受けてしまったりするだろう。
それに電気タイプ以外の技も覚えているかもしれない。


「(手負いのコイルだったら続行できたけど……もう危ない)」


カナタはすぐさま判断してジュプトルをボールに戻す。
そしてマッスグマを繰り出した。

ボルトチェンジはころころと相手が変わって鬱陶しいが、一つだけカナタにとって有利に働いた事がある。
それは切り札であるグラエナを出す前に、テッセンの手持ちを全て確認できた事だ。

厄介な鋼タイプを持つコイルの、更に進化形レアコイルを持っていた。
それが分かっただけでも今後の対策を練り易くなる。
今の手持ちで唯一 鋼タイプへまともなダメージを与えられるグラエナを隠しつつ、ビリリダマとコイルはマッスグマに頑張って貰うしかない。


「マッスグマ“たいあたり”!」
「“ころがる”じゃビリリダマ!」


来た、勝てる。
ホエルコの“ころがる”も弾き飛ばしたマッスグマだ。
威力が上がる前にぶつかる事さえ出来れば……!

マッスグマとビリリダマが真正面からぶつかり、ビリリダマが弾き飛ばされる。
一瞬だけ顔色を変えたテッセンは、すぐに指示を変更。
再度ボルトチェンジでマッスグマにダメージを与えつつ、手負いのコイルを繰り出した。


「(コイル……! これなら上手く行くかも!)」


カナタは今、一つの作戦を考えている。
それはマッスグマが覚えている、電気技のダメージを下げる事が出来る“どろあそび”を使用し、その状態を駆使して相手を壊滅状態へ追い込む事。
理想はコイルとビリリダマを倒し、レアコイルにもある程度ダメージを与えている状態。
そしてテッセンの切り札であろうレアコイルをグラエナで倒す。

やる気を見せていたグラエナに花を持たせてあげたいのだ。
勝ち方にこだわる余裕があるのか? と自問する心が無い訳ではないが、何故かどうしてもグラエナのやる気を叶えてあげたかった。
それは同様にやる気に満ちていたオオスバメの事も、タイプの相性など無視して出してあげようかと思った程。
さすがにそれは出来なかったが……。

ジュプトルは恐らく出さない方が良い。
万一を考えグラエナは無傷状態でレアコイルに対峙させたい。


「ジグザグマ、“どろあそび”!」
「! ……コイル“たいあたり”!」


思った通りだ。
“どろあそび”で泥まみれになったジグザグマを見て、テッセンは電気技の使用を控えた。
ポケモンは自分と一致するタイプの技が得意で、違うタイプの技を使うより威力が上がると聞く。
それを封じられただけでも儲けものだ。

これなら労せず上手く行くかもしれない。
……カナタがそう思った瞬間。
“たいあたり”を受けたマッスグマが思ったより派手に吹っ飛ばされた。


「え、えっ!? マッスグマッ!!」
「ふう、運が良かった。どうやら急所に当たったようじゃな!」


こんな時に運に見放されてしまうとは……。
突然の事に驚いてしまい、頭の中で組み立てていたバトルの流れがぶわっと抜けて行く。
テンパった状態になり指示を出すのも忘れ、その隙にコイルがもう一度“たいあたり”を繰り出して来る。

負けたかもしれない。
そう思って指示も出せずに呆然としていたカナタは、ふと視線をマッスグマの方へ移した。
すると彼女の方もカナタを見ており、その態度に揺らぎが無い。

指示を待っている。
大ダメージを負っても予想外の事が起きても、カナタを信じる心だけは揺らがない。

それに気付いたカナタに勇気が湧いて来た。
コイルの“たいあたり”がマッスグマに命中する直前、カナタは瞬時に方向を見極めて示す。


「マッスグマ左へ跳んで!」


鋭く飛ばした指示を一瞬すら疑わず、言われた方向へ跳ぶマッスグマ。
コイルの“たいあたり”が外れ、その隙にマッスグマは体勢を整える。
しかし浮遊しているコイルは体勢を立て直すのが早い。


「コイル、もう一度“たいあたり”!」
「今度は“ずつき”!」


勢いを付けた一撃がぶつかり、お互いに吹っ飛ばされる。
ジャッジの声が響いた。


「マッスグマ、コイル、両者とも戦闘不能!
 互いに同時にポケモンを出し、それを以て試合再開とします!」


急所に当たった攻撃のせいで、マッスグマの体力も落ちていたようだ。
残りは麻痺状態のジュプトルと無傷のグラエナ。
テッセンはきっとビリリダマを繰り出して来るだろう。
まだ体力も多く残っている切り札のレアコイルは、最後に残しておくに違いない。
上手くいけば初手でビリリダマを倒せる。

カナタはグラエナの入ったボールを手にする。
ジャッジの合図で同時にボールを出すと、読み通りに相手はビリリダマ。
指示を受けてすかさず転がって来たビリリダマに“たいあたり”をかますと、マッスグマが与えてくれていたダメージのお陰で、一撃KOできた。

そしていよいよ繰り出されるレアコイル。
相手が受けているダメージはジュプトルの“メガドレイン”による、今一つな効果の微々たるもののみ。
それでもグラエナの悪タイプの技ならば、きっとやってくれる。


「グラエナ“かみつく”!」
「レアコイル“マグネットボム”!」


勢い良く向かって行ったグラエナがレアコイルに噛み付くが、すぐさま相手の放ったボムが吸い付いた。
爆発と同時に吹き飛ばされたものの、体勢を整えるまでもなく綺麗に着地する。


「(さっきより威力が少し低いような……。あ、グラエナの特性!)」


グラエナの特性“いかく”。
相手の攻撃力を少し下げる事が出来る……これのお陰だ。
それでも軽いダメージという訳ではないが、最低でもあと1、2発は大丈夫の筈。


「頑張って、勝てるよグラエナ!“とおぼえ”!」
「焦るなレアコイル、“ちょうおんぱ”じゃ!」


“ちょうおんぱ”。
対象のポケモンを混乱させ、自分を攻撃させてしまう技。
まさかこの局面で状態異常の技を放って来るとは思わなかった。

……思わなくて少し焦ったが、その後、カナタは衝撃ではなく喜びで震える事になる。

“ちょうおんぱ”は確実に命中するが、直後、グラエナは隠し持っていたキーの実を口にした。
4日前にキンセツシティの屋上で渡したものだ。
混乱を回復する木の実。まだ食べずに持っていたらしい。
何気ない行動がこんな所で活きるなんて。

混乱を瞬時に回復したグラエナは、“とおぼえ”で一気に士気を上げる。
呆気に取られて少しだけ指示が遅れてしまったテッセンより先に、最後の一撃となる指示を飛ばす。


「いっけぇぇ“かみつく”!!」


“とおぼえ”によって上がった攻撃力。
その鋼の身体では防御が効かず、レアコイルは床に崩れ落ちた。


++++++++


「かんぱーい!」


キンセツキッチンでビレッジサンドセットを幾つか買い、自動販売機でジュースも買って街の屋上へやって来たカナタ。
ポケモン達にジュースを配り(手で持てない子にはストローも挿してあげて)、ささやかなお祝いパーティの始まりだ。
思い思いにサンドイッチやフライド木の実を食べるポケモン達を横に、カナタは手に入れたダイナモバッジを抓み笑顔で眺める。


「3つ目のバッジゲット……! 前は考えもしなかったなあ……」


あと数日で旅立ってから一ヶ月が経つ。
動物を恐れ、海を恐れ、萎縮してばかりだったあの頃が懐かしい。
控え目だった自信や態度も少しはマシになって来た。

ポケモン達を優先しながら自分もサンドイッチを食べたりしていると、グラエナがカナタに近付き顔を擦り寄せて来る。
持っていたジュースを置いて思いっ切り抱き締め、もふもふの体を存分に撫でた。


「まさかキーの実まだ持ってるなんて思わなかったよグラエナ! 運が良かっただけだけど、運も実力のうちだよね!」


マッスグマとジュプトルも後で思いっ切り撫でてあげるつもりだ。
特に今回はマッスグマの協力があってこそ、あそこまで上手く行った。
グラエナと親友である彼女は、タッグバトルでなくても連携を発揮できるようだ。

手持ち達が食事を終わらせ、カナタは出たゴミを片付ける。
これからまた暫くはキンセツシティに滞在して、近辺を探索して……。
なんて考えていると、上空に何かの影が掛かった。
思わず見上げた空からポケモンが舞い降りて来る。

鋼の体を持った鳥ポケモン・エアームド。
そしてその背に乗っていたのは……。


「やあ、カナタちゃん。石の洞窟で会った者だけど覚えているかな」
「ダイゴさん!?」


ツワブキ社長からの手紙を届けたダイゴ。
まさかこんな所で急に会うとは思わなかった。


「あれから2週間以上は経ってるけど、覚えててくれたんだね。元気に旅を続けられているようで何よりだよ」
「びっくりした……どうかなさったんですか?」
「いいや。ちょっと見掛けたから降りてみただけさ」


見掛けた?
カナタが見上げた時、エアームドはそこそこ上空を飛んでいた。
そんな所からカナタを見付けてわざわざ降りて来たというのだろうか。
飛んでいて偶然……なんて事は無いだろう。
何かを探す為に、飛びながら下を見ていたとしか思えない。


「本当に偶然ですか? 何かご用があったんじゃなくて?」
「……警戒させちゃったかな。何だか放っておけない存在なんだよね、キミは。怖い思いをさせたのなら謝るよ」
「い、いえ! 何というかその……嫌ではないです。嬉しいです」


何故だろうか。
いくら格好良いお兄さんとはいえ、少し会っただけの者にこうして気にされるのは、本来なら嬉しさよりも不気味さや警戒心が湧くものだろう。
なのにカナタは今、当たり前のように喜んでしまっている。


「キンセツシティには来たばっかり?」
「5日くらい経ちます。少し滞在して近辺を探索したら、次は北の方へ向かおうかと」
「……つまり“まだ”って訳か……」
「え?」
「! いや、こっちの話だから気にしないで」


あっさりはぐらかされてしまったが、やはりそれでもカナタに嫌な気持ちは湧いて来ない。
……外見の為せる業だろうか。だとしたらずるい。そして自分が情けない。


「キミはこれからも旅を続けるんだろうね」
「はい。自信が無かったんですけど、ジムを3つも突破できたので。もう行ける所まで頑張ってみようかなと思ってます」
「それを僕が止める権利は無いって、分かってるんだけどなあ」
「止める……? 私の旅をやめさせたいんですか? どうして……」
「やめさせたい、と言ったら語弊があるな。旅をするのは構わないんだ。ただキミは何と言うか……危ない事に首を突っ込みそうだから」


ダイゴの言葉にギクリとするカナタ。
ひょっとしてこの人はカンが良いのだろうか。
主にアクア団の事でカナタの旅には懸念すべき事がある。
もう関わりたくないと思っても、アクア団のせいで誰かが困っていたら、きっとカナタは自分から関わって行くだろう。


「変な事を言ってしまったね。一応あっちの方はお勧めなんだよ。火山や砂漠、流星の滝なんかがあって、珍しい石が見付かる事も多い」
「石がお好きなんですか?」
「ああ。よくあちこちへ石探しに行くんだ」
「そういえば初めてお会いした時に言ってましたね、そんな事」


気分が乗って、カナタは暫くダイゴと話し込む。
お使いで手紙を渡して、それだけだった筈の人とこうして親しく話すのは、何だか不思議だ。

暫くお喋りした後、ダイゴは再びエアームドに乗る。


「じゃあそろそろ行くよ」
「はい。心配して下さって有難うございます」
「とんでもない、僕は野暮な事を言っただけさ。色んな場所を旅するのは良い経験になるのに、妙な口出しをして。まあ本当に大怪我しないよう気を付けて。……特にえんとつ山へ行くなら、溶岩に近付かないようにね」


それは勿論、えんとつ山は活火山のようだし、そんな所へ行く事になったら注意を払うつもりだ。
空へ飛び立ったダイゴを暫く見送っていたカナタだったが、やがて手持ち達をボールに戻し、ジュプトルと共に建物の中へ戻って行った。



一方、空の上。
風を切って飛ぶエアームドの背中、ダイゴは一つ息を吐く。


「……僕がいつでも一緒に居られれば良いけど、そういう訳にもいかない。運命の波に乗っている以上、彼女自身が強くならなければ……。でもそうしたら、そのまま運命に飲み込まれてしまうんだろうか」


出会ってからというもの、ダイゴはしょっちゅうカナタの事を考えていた。
初めて見た時は驚いたが、彼女の旅は『ダイゴが思った通り』順調に進んでいる。
正直この予想は外れていて欲しかったが……間違い無い。

もう二度と、『あんな思い』はしたくない。
あの時ほど自分の無力と自分自身を呪った事は無かった。


「カナタちゃん、どうか……どうか負けないでくれ」


考えなければならない。
彼女の邪魔をせず、今度こそ彼女を助ける方法を。

今度こそ。





to be continued......


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