グランドホープ

act.23 外側と内側



ふっと目が覚めて、一瞬ここがどこなのか、自分が今どうなっているのか分からなかった。
横でサムスとゼルダ姫が壁に寄り掛かっているのを目にしてから状況を思い出す。
今はノースエリアを逃げ回っている最中で、休息を取る為に無人の倉庫に入り込んでるんだった。
政府の職員であるシュルクやルフレ、ゼルダ姫のお陰でだいぶ助かってる。
私が起きたのに気付いたサムス達が声を掛けて来た。


「起きたかコノハ?」
「うわ……すみません寝ちゃってました」
「大丈夫ですわ、色々あってお疲れなのでしょう」
「ゼルダさん達は大丈夫なんですか?」
「少しずつ睡眠は取っています」


うっかりしてるとゼルダ姫って呼びそうになるねこれ。
お姫様みたいなんでー、とか何とか言って逃げられそうだけど余計なボロは出したくない。

外で見張りをしてくれていたらしいシュルクとルフレが入って来る。
どうやら周囲は静まり返っていて人の気配は無いらしい。
人の気配が無くたって機械は居るかもしれないから油断は禁物だけど。
ルフレが怪訝そうな顔をしながら口を開く。


「戒厳令が敷かれたのにシェリフや政府の兵士が居ないって事は、レジスタンスの対応に回ってるのかな」
「……ピカチュウ達は大丈夫かな」
「時間を掛ければ掛けるだけ不利になるだろうね……」


ジェネラルインストールのアイクがレジスタンスに居るならシェリフの方は何とかなるかもしれないけど、政府直属の兵はどうにもならないはず。
どのくらいの人数が居るんだろう、少なくともレジスタンス総人数の5倍や6倍なんて少人数じゃないよね。
手間取るとグランドホープ中から兵士が集まって……なんて事態になりかねない。
サムスがシュルク達に訊ねる。


「事が終わるまでここに隠れられそうか?」
「隠れられそうだけど、その後どうなるかはレジスタンスの成否に懸かってる。今夜中に決着がつかないなら危ない」


政府を裏切った私達の行く末はレジスタンスに委ねられてる。

夢主人公になりたいからって訳じゃない(一応そういう気持ちもそこそこある)けど、私もピカチュウ達と一緒に戦ってみたかったと思う。
戦う為の力が無い私は、遠く離れた場所で不安になりながら祈るしか出来ない。
そうするぐらいなら彼らと同じ場所で一緒に立ち向かっていたかった。

結局は蚊帳の外にしか居られないのがこんなに辛いとは思わなかったなあ。
危ない事は他人がやれ、君子危うきに近寄らず、なんて以前は思ってたのに……。


「う、わぁっ!?」
「え」


突然聞こえた声。
あれこの声は、と思う間も無く、私達のすぐ側に複数の人がドサドサ降って来る。
瞬時に私を庇うように立ち塞がるサムス。
だけど、まるで空中に突然現れたかのような彼らは見知った人々だった。


「あっ!」


ロイとマルスとリンク、それにルキナとカービィ。
落下によって痛んだらしい体を押さえていた彼らが、私が叫んだ瞬間一斉にこちらを見た。
オフッとか変な声出ちゃったよ。


「コノハ! お前コノハなんだよな!?」
「う、うん、もしかしてルキナさん達に話聞いたの……」
「本当にコノハなんだーー!」
「うひょあぁっ!」


また変な声出た!
だってロイが思いっ切り抱き付いて来たんだよそりゃ焦るわ!
会いたかったー、とかもう死ぬなよー、とか言いながらぐりぐり頭を押し付けて来て何なのこれまさに今死にそうなんですが衝撃と羞恥と照れで。
私の困惑に気付いたマルスとリンクがロイを引き剥がしてくれて助かった。


「ロイ、コノハが困ってる」
「あとお前が一目散に飛び付いて騒ぐから俺達が感動示せなかっただろ、いいとこブン取りやがって」
「なんだよー、一番に行動しなかったお前らが悪いんだろー」
「君がさっきコノハの事どう言ってたか喋ってあげようか」
「スミマセンデシタ!!」


目の前で繰り広げられる日常が妙に懐かしくて、自然と涙が浮かんで来た。
下手したらもう二度と味わう事が出来なかったかもしれないのに……。
我慢しようとしても止まらない涙が次々と溢れ零れてしまう。


「ううっ……うぅーっ……」
「ちょ、な、泣くなよコノハ……!」
「あ、会えた、また……会えた……」


さっきもピカチュウと言葉を交わせなくて泣いたのに、泣きすぎな気もするけど止まらない。
俯いて涙を必死で止めようとしていると、頭にそっと手が乗せられ優しく撫でられる。
見上げると優しげな顔をしたリンクが私を撫でていて、マルスは目に涙を溜めながら同様に優しげな笑顔。
ロイはちょっと困ったような様子で、それでも笑顔だった。

涙を拭い一つ深呼吸して気を落ち着かせ、少し離れていたルキナとカービィに礼を言う。


「ルキナさん、カービィ、ありがとう。私の事話してくれたんですね。でも早いですね……」
「それがノースエリアへ向かおうとした矢先に、ある人が送ってくれたんです」
「送ってくれた?」
「なんかねー、銀色の髪したキレーなおねにーさん」


お、おねにーさん?
カービィが口にした単語に疑問符が浮かんだけど、銀髪の性別不明と言えば一人思い当たる。
セレナーデだ。
話を聞くに恐らく魔法の類いで、ここへ一瞬で送ってくれたのだろう。
私が黙ってしまったので信じていないと思ったのか、マルスがフォローを入れる。


「僕達もあの人が何者かは分からないけど、ここへ飛ばしてくれたのは本当だよ。このままだと移動に時間が掛かり過ぎちゃうからとか言われた」
「その人、瞳は金色で黒いスーツ着てなかった?」
「! 知ってるのかい?」
「多分だけど知ってる人。私を生き返らせて……いや生き返ってはないけど……とにかく、私の精神をアンドロイドに入れてくれた人だよ」
「じゃあ味方なんだね」


味方、で良いんだろうかあの人。
一応は私の事を気に入ってくれて、だいぶ協力してくれたのは事実。
だけどどうにも愉快犯的空気は消えてない気がするんだよなあ。
主(あるじ)に物語を捧げるとか何とか言ってた気がするし、引っ掻き回したいんじゃないの。

ところでさっきから気になってるんだけど、ロイ達がめっちゃ見慣れた武器持ってる。
封印の剣、ファルシオン、マスターソード。
知っている事は言えないので、その剣なに? と訊ねたら経緯を話してくれた。

あのカムイさんと交信して、前世の記憶と力が戻った事。
私が異世界からやって来たのを聞いた事。
私を助けたくて力を欲し、この剣たちを手に入れた事。

カムイさん……どうやらこの世界の神らしい。あのヒトが助けてくれたんだ。
セレナーデの言う主って訳じゃないんだよね多分。
めっちゃ関わって来るんだけどもしかして任天堂キャラだったりするのかな、カムイさん。
私は全く知らないんだけど、任天堂の作品全部知ってる訳じゃないし何かのゲームに出てるのかも。
少なくともスマブラでは見た事無いから他のゲームで。

いつか夢で見た、マナがやっていた未来のスマブラ……forだっけ? あれに出るかもしれない。
この世界に居るキャラクター? って、任天堂っていうよりスマブラって感じだし。
まあセレナーデやエメラルダの例もあるし、関わるのが任天堂のキャラばっかりって訳でもないよね。
言うなれば私のお婆ちゃんだって任天堂キャラじゃない訳だしさ。

と言うか……。


「異世界から来た事、黙っててごめん。信じて貰えないかもしれないと思って……」
「気にしてないさ。コノハがそんなに頑張ってた事を気付いてやれなくて、こっちが謝りたいぐらいだ」
「リンクさん……」
「これからはキッチリ守ってやるから心配すんなよ」


明るい笑顔で言ってくれるリンクに嬉しさが込み上げるけど、そこで一つの懸念を思い出した。

リンク・ロイ・マルスの3人はお婆ちゃんの守護戦士で、お婆ちゃんを守って死んだ。
それをカービィから聞いた時、今度は孫である私を守ろうとして歴史を繰り返さないか、心配になってしまったんだ。
彼らには事が解決するまで会わない方が良いかとも思ってた。

だけど今、私は沢山の人の庇護下で生きている。
既に私を守ってくれているサムス達が死なない保証なんてどこにも無い。
それなのにリンク達だけを遠ざけるのは違うんじゃないかって気もする。
彼らは私を守る為にやる気になってくれてる。
それなら甘えても良いんじゃないか……と、半ば自分に言い聞かせるように心中で反芻した。


「ありがとう、頼りにしてる!」


きっと彼らは謝罪より謝礼を喜んでくれるはず。
その通りに、3人とも屈託ない笑顔で返してくれた。

それにしても、守られるってこんなに緊張する事だったんだ……。
もし私を守って誰かが死ぬ事になった時、私は精神を壊さずに居られるだろうか。
壊さずに居られたとしても沈む事は間違い無いから、その時に立て直せるだろうか。
何の力も無い私には、ただそうならない事を祈るしか出来ない。

……それしか出来ない訳じゃないかな。
周囲に気を配れば少しは皆が危険な目に遭う可能性を減らせるかも。
幸いにも、人を殺さず無力化できる武器も持ってる事だし(さすがに人を殺す度胸は無い)。

リンク達はゼルダ姫との再会も喜んでいた。
まあゼルダ姫の方は記憶が戻ってないから初めは戸惑ってたみたいだけど、嬉しそうな雰囲気に絆されてすぐ笑顔になった。
お互いに現状を話し合い、結局は待機しか出来ない事を確認する。
それにロイが露骨にガッカリした様子。


「あーあー、せっかくオレが華麗に活躍するチャンスだったのになー」
「不謹慎だぞロイ、危険が少ないならその方が良いじゃないか」
「何だよマルス、お前はヒーローに憧れないのかよ。オレは憧れるね! 颯爽とヒロインを守って悪を倒して、英雄になるんだ!」


おおう、ロイってばそんな夢主になりたいみたいな願望あったんだ。
男の子なら一度は夢見るヒーロー願望ってやつなんだろうか。
惜しむらくはそのヒロインに相当しそうなのが、今のところ私のような平々凡々女しか居ないって事だ。
いずれ可愛いヒロインが現れるといいね、リリーナみたいな。
ってかリリーナ居ないのかな。任天堂ってよりスマブラって感じの世界だから居ないのかな。


「僕達これまで普通の学生だったろ? いきなりそんな英雄だとか勇者だとか、なれる訳ないじゃないか」
「夢がねーなぁマルスは。それに普通の学生だったのはこれまでの話! 今は神様から力を貰った守護戦士の生まれ変わりだぜ!」
「そういうのに憧れる気持ち、分かるよ」
「お、コノハは分かってくれるんだ。お前ももしかして そういう願望ある?」
「まーね。魔法使ってみたいとか、特殊能力が欲しいとか、美少女になって何かの大きな出来事の中心に居てみたいとか、そういう願望あるなぁ」
「だよなー、特殊な人物になってみたいよなー」


っていうかここに居るの、私を除いて世界の中心人物ばっかりじゃん。
主人公とかヒロインばっか。
まあ原作ゲームの方とは関係無いみたいだから言ったって無意味だし、そもそも言える訳ないけど。

そんな事を思っていたら、リンクが一言。


「だけどコノハはもう、このグランドホープの中心人物だろ」
「へっ? な、なに言ってるんですか、そんな訳ないでしょ。昔の王国の王妹殿下の孫娘って血筋だけで、特に何の出番も役割も無いし」
「前にも思った事なんだけどな」


この革命は私の死がトリガーとなって引き起こされた。
特にグランドホープで強大な力を持つアイクは私の死によって考えを変え、レジスタンスに協力を決めた。
これはとてつもなく大きな変化だろうとリンクは言う。
それに関して、シュルクが神妙に頷いた。


「それは思うよ。戒厳令が敷かれたのにシェリフの警備も監視も、何も無い……ジェネラルインストールが抑えてるんだ。彼はカリスマ的な絶大な人気があるからね」
「政府とシェリフって管轄が別なんでしたっけ」
「多くはね。この分だとシェリフはきっとレジスタンスの邪魔もしていないだろう。革命の成功率がだいぶ上がってるはずだ」
「俺達だって、お前が居るから戦う事を決めた。コノハはまるで運命を切り替えるスイッチみたいだな」
「私も同じだコノハ。今こうして政府と戦っているのはお前が居るからだ」
「サムスさんまで……」


そんな事を言われて頬が紅潮するのが分かった。
ちょっと心臓が高鳴り始めて少しだけ息苦しくなる。
私自身が中心人物かは微妙だけど、物事の中心に居るべき人物達に影響を与えられるだけの役割はあったんだ。
必要不可欠ではないけれど、居た方が物語が盛り上がると言った所かな。

うわ今セレナーデみたいなこと言っちゃったかもしれない……。
みんな命を賭けて真剣に戦ってるのに、物語だの何だのはちょっと不謹慎だ。

と、そこで突然倉庫の外から物音。
シュルクとルフレが一瞬で反応して飛び出して行き、リンク達も後を追う。
サムスが私を庇うようにして銃を構えた瞬間、外からロイの声。


「こんな時に亜空軍かよ!」
「亜空軍……!?」


何故かグランドホープの人々をどこかへ連れ去り、暫くして返すという謎の行動をしている機械仕掛けの兵士達。
スマブラXのストーリーモード、亜空の使者に出て来るあいつらだ。
あ、亜空の使者の事を考えたらマナを思い出した。
最後に別れた時、今度の休みに亜空の使者2人プレイしようって約束したんだ。

『明日の休み、あんたん家行くからスマブラしよっ! 二人プレイで亜空の使者ぶっ通しな!』

あー何か思い出したらまた泣けて来た。
死んでしまった私は多分、元の世界には帰れないんだろう。
お父さんにもお母さんにも、マナにもケンジにも、他の友達にも、皆にもう会えない。

悲しくても辛くても受け入れなくてはいけない。
こうして死んだ後も活動できるだけで有り難いんだから。
元の世界の事で泣きたいなら、レジスタンスの革命が成功して、それから思い切り泣けばいい。
今は自分と自分を守ってくれる皆の事を考えて行動しないと。

ルキナが少し慌てたようにゼルダへ話し掛ける。


「亜空軍出現の警報サイレン、鳴りませんでしたよね?」
「鳴っていませんわ。停電の影響でしょうか……」
「シェリフや政府がそれどころじゃないから、ってだけでは……」


私がそう口を挟むと、二人は首を横に振った。
亜空軍はグランドホープのどこにでも現れるため、警報サイレンは各地で別々に管理しているらしい。
万一政府やシェリフが機能しなくなっても動くので、停電の影響としか思えないという。


「それか……何者かが鳴らぬよう細工したか、ですね」
「細工……」


今までそんな細工しなかった(らしい)のに急にそんな事をするメリットは分からないけど、そのぐらいしか考えられないって。
ちなみにもちろん警報サイレンにも万一の停電時に備えて予備電力があるのに、それも機能してないらしい。

1つしか無い倉庫の入り口からルフレが顔をこちらへ出して来た。


「籠城できそうだ、壁を壊して侵入して来る可能性もあるから周囲に警戒してて!」
「りょーかい!」


カービィの声は相変わらず高くて可愛らしいけれど、こういう時は真剣さを感じ取れる。
すぐにルフレが扉を閉めて外へ戻り、聞こえて来る喧噪の音がくぐもる。
私も銃を構えて周囲に警戒していたものの、やがて騒ぎが静まった。
それから少ししてリンクとシュルクが倉庫に入って来る。
どうやら出番無く終われたみたい。


「ふーっ、政府ばっかり警戒してたから予想外だった」
「まさかこんな時に亜空軍なんてね……」


そう言えば亜空軍に関して、政府の差し金じゃないかと思った事があったなあ。
亜空の使者で亜空軍に荷担していたファミコンロボットが政府の所属みたいだし、もしその私の予想が当たっていたら……。
サイレンを鳴らさずに襲って来た亜空軍……まさか、私の居場所バレてる?

一応籠城し易い場所みたいだから、このままここに居るつもりだけど……。
なんて考えていたら、どこか遠くから凄まじい轟音と地響き。
何これ地震!? と思って側のサムスにしがみ付いていたら地響きが定期的に続くようになり、轟音の方も時折響いて来る。
この轟音、何かの鳴き声のようにも聞こえる。


「ちょ、っと、外に出てみませんか!?」
「そうだな、さすがに異常事態だ」


言って倉庫内の全員で出ると、外に残っていたロイ達が原因を探っている所。
それなりに遠くから聞こえたので近辺じゃないだろう。
相変わらず地響きは継続していて、次いでもう一度聞こえる轟音。
私の頭に乗っているカービィがハッとした様子でどこか一方を見た。


「……北!」
「北?」
「たぶんグランドタワーの方!」
「グランドタワー? まさかレジスタンス達に何かあったの!? 見える所まで行ってみよう!」
「それならこちらです!」


ルキナの案内で倉庫が密集している地帯を北へ抜ける。
すると遠くに見えるグランドタワーの方に巨大な砂埃のようなものが蔓延しており、それがこちらへ向かって伸びているような……。
この近辺は広大な道路で周囲は開けているけど、グランドタワー周辺はビル群の為よく見えない。


「あーもう何が起きてんの……!」
「……なにか、来る」


カービィが呟いた一言に全員がハッとする。
そう言えばさっきから継続してる地響き、段々と近付いて来るような……?

思った瞬間、この開けた地形にビルの合間から何かが飛び出して来た。
禍々しい気配を纏った巨大な……え、これって……。


「な、何だこのバケモノ!」


“これ”を見るのが初めてのリンクが声を上げる。
リンクだけじゃない、きっと私以外の全員が初めてだ。
本当ならみんなスマブラで知ってるはずなんだけど……。


「……ガノンドロフ」
「えっ? し、市長? これが?」


唖然とした様子でルフレが私の言葉に反応した。

そう、これはガノンドロフ。
正確には【魔獣ガノン】。
スマブラXやトワイライトプリンセスで見られる、4足歩行の巨大な猪のような姿。
当然、実際の猪とは程遠いけど。
こいつがグランドタワーの方から走って来たんだ、さっきまでの地響きはその足音……!

圧倒されて暫く眺めてしまっていた。
奴は辺りを見回していたけど、やがて巨大な道路を挟んだ向かいに居る私達に気付く。


「に、逃げよう!」


我に返るのも口に出すのも遅かった。
巨大な魔獣ガノンにとっては、この広大な道路も2、3回飛べば越せる距離。

自我があるのかどうかは分からない。
けれど私達を目にした瞬間こちらへ向かって来たという事は、私達を害する意思があるんだろう。
リンク達が私の前に立ち塞がり、サムスが銃を撃ちルフレとゼルダが魔法を放とうとするのに、間に合わない。

思わず目を瞑った直後に聞こえたのは、耳を劈くような轟音。
まるで雷が落ちたような……と思った瞬間、それは比喩でも何でもない事に気付いて目を開けた。
ダメージを負って怯み呻きながら止まった魔獣ガノンの前を、何か小さく黄色いものが落下している。
私はそれに気付いた瞬間、皆の制止も聞かずに飛び出した。


「ピカチュウーーーーーーッ!!」


くるくる落ちて来た彼を間一髪で受け止める。
落下による速度が加わった重さと衝撃が凄かったけれど、何とか落とさずに済んだ。
ハッとして見上げた黒い瞳と視線がぶつかる。


「あ……」
「ピカチュウ、良かった無事だね……!」


彼らにとって今の私は政府の支配下にあるアンドロイド。
それは分かっていたけど、もう我慢出来なかった。
瞬時に私の腕の中から飛び出して地面に降り、臨戦態勢を取って私を見るピカチュウ。
拒否されたも同然なのに思ったより辛くないのは、彼の顔が敵意でも憎しみでもなく、戸惑いに満ちていたからかもしれない。


「……」
「……」
「……コノハ?」
「……一応、だけどね」
「……」


少しの沈黙も、魔獣ガノンの唸り声に中断される。
後ろからやって来ていたマルスに手を引かれて庇われ、仲間達も私を庇うように立ち塞がりつつガノンから距離を取った。


「おーい、大丈夫か!」


魔獣ガノンの背後から聞こえて来たのは、我らが任天堂のスーパーヒーロー・マリオの声。
ピカチュウは私を気にして振り返りながら彼らの方へ。
彼らも私に気付いたようで。


「ねえあれ、ひょっとしてコノハじゃない!?」
「って事は政府のアンドロイド……!」


ピーチ姫とフォックスの言葉に何も反応できない。
何を言った所で疑いがあるだろうし、今はゆっくり説明して誤解を解く時間も無い。
更にルイージとピットが他の仲間達にも反応する。
やっぱり彼らもレジスタンスと一緒に居たんだ。


「待って、リンク達も一緒だ!」
「ルキナ先生まで……何でこんな所に居るの!?」


疑問を口にしても、今はそれを考えている場合じゃない事はこの場にいる全員が分かってる。
咆吼を上げたガノンが今度はレジスタンスに向かって行った。


「フォックスとファルコは距離を取れ! ピーチとルイージはレッドと共にポケモン達と行動して、他は俺に続け!」


指示を飛ばす声はアイクのもの。
一応シェリフなのにレジスタンスの陣頭指揮取ってんの? はーすごい。
戦い始めた彼らを見たロイが興奮した様子で口を開く。


「なあアレ手伝った方が良くないか!?」
「いいえ、ここは彼らに任せましょう。わたし達はコノハさんを守る事に徹底しなければ」


ゼルダ姫の返答に突然申し訳なさが込み上げてしまった。
お、おうゴメンねロイ君、英雄になる機会奪っちゃって。
一応こちらで戦えないのは私だけでなくルキナもだ。
シュルクもまだ完全には回復し切ってないみたいだし、ここはレジスタンスに任せよう。

更に距離を取り、繰り広げられる凄まじい戦いを遠くから見守る。
どこか見えない場所で戦われるより、視界に入る場所で戦われた方が蚊帳の外感が高まる気がした
もし私に特殊能力や戦闘能力があったら、今あそこでレジスタンスと共に戦っていたんだろうか。

任天堂キャラが敵と戦う姿なんてスマブラや元のゲームで散々見た。
なのに違和感や不思議な感覚を覚えるのは、既に彼らが見知った友人だからだろう。
画面越しでも紙越しでもない、同じ空間で共に生きている友人達。
決して“キャラクター”ではない、動いて喋って、自我と感情を持った“人物”達。


「(……やっぱり凄い場所に居るんだなあ、私)」


蚊帳の外なのは寂しい。
けれど、例え一緒に戦えなくても、美少女でなくても特殊能力持ちでなくても、この世界や重要な出来事に必要とされていなくても。
彼らは私を、“コノハ”を大切な友人の一人に数えてくれている。
それはとても素晴らしい奇跡。


「(……大好きだよみんな。どうか頑張って、絶対に勝って)」


祈りながら、彼らの戦いを見守っていた。





−続く−



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