グランドホープ

act.12 私にも出来る事



コノハ達がシェリフに連行された先はノースエリア。
グランドホープを形作る円形の巨大な島の北端、5000mもの高さを誇る政府中枢のタワー。

ピカチュウ達はコノハと別々にされ、更にピット達 孤児の面々とも離された。
閉じ込められた部屋の中、特に拘束されてはいないが、コノハやピット達を危険に晒す可能性があるので今は何も出来ない。
窓の無い真っ白な部屋は長く居ると気をおかしくしてしまいそう。
ふとピカチュウに目を向けたルカリオは、彼が薄くではあるが嬉しそうに笑んでいる事に気付く。


「ピカチュウ、こんな状況で何を笑っているんだ」
「いや……嬉しくってさあ」
「は?」
「コノハの事だよ」


逃げろと言ったのにエイネを庇い撃たれてしまったコノハ。
結果的に足手纏いになってしまった訳だが、ピカチュウはそんな事などお構い無しのようだ。


「コノハさ、自分は保身の事しか考えてない、いざとなったら友達も見捨てる、とか言ってた事があるんだよ。その上 今の事ばっかり優先して先の事を考えない癖もあるんだ」
「……」
「だけどそんな彼女の、先の事は後回し精神、今の事しか考えない精神は、悪い意味だけじゃなく良い意味も含んでる。コノハは自分の安全の為なら友人さえ見捨てる、ヘタレでクズだって自称してるけど……。あ、これボクが言ったんじゃないよ? 彼女の自称だよ、じ・しょ・う」
「分かったから先を話せ」
「……今の事しか考えられない、先の事は考えられない。つまり、いざとなったら友人さえ見捨てる……なんて主張は、現実に危機が迫っていない時の感情や感覚しか考慮してないから出て来る主張なんだ。実際はどうだい。彼女は自分が撃たれる事も厭わずにエイネを庇った」


あの行動に関してはコノハ自身が驚いているのでは、とピカチュウは考える。
何より自分が大事で、危ない目に遭いたくなければ痛い思いもしたくない。
けれどいざ危機が目の前に現れた時、彼女は己より他者を優先した。
無我夢中で無意識下だったのかもしれないけれど、だからこそコノハの本当の行動だと言えるはず。


「ボクは知ってる。あの子は本当は、他人を助けられる子だ」
「……ああ、同意する。私はコノハ様を過小評価していたようだな」
「コノハと会って一週間ぐらいなんだから、分からなくても仕方ないって。ま、だからといって誰でも助ける訳じゃなく、自分の友人や知り合い優先だろうけど」
「それは大抵の者がそうじゃないか?」
「そうだね。だから出来ればコノハには、もっと友人を作って欲しいな。あ、でも一番の友達の座はボクのものだからね! 誰にも譲らない!」
「奪わないから安心しろ。私は従者という立場で構わない」
「……今まではヤケ半分だったんでしょ? 本格的に仕える気になった?」
「なった。やはり彼女は、私の主で間違いない」


ルカリオは窓も無い部屋の中、どこか遠くを見るような目をする。
彼が元々仕えていた主は、もうこの世を去ってしまった。
仕えるべき主には二度と巡り会えない……そう思っていたが。

主の居ない騎士とは惨めなもの。
そこを脱せただけでも有り難いのに、新たな主は仕えるに値する人物。
これを幸福と言わずして何と言えば良いのだろうか。

だからこそ、コノハには無事で居て貰いたい。
シェリフ達が彼女をどうするつもりかは分からないが、会話していた内容からしてすぐには殺されないだろう。
機が熟せばこの身を犠牲にしてでも必ず助けると、ルカリオは心中で誓った。
そしてその気持ちは、ピカチュウも同じ。
今はただ、コノハと、そしてピット達の無事を祈るふたりだった。


++++++++


ここに連れて来られてから10時間ぐらい経過した。
ノースエリアには初日 生態情報登録の為に来たけど、あの時は余裕が無かったからあまり色々見れなかった。
そして二度目の訪問である今回は、まさかの連行でまたも余裕が無い。
何より連行されて来た場所が問題すぎる。

政府の中枢と言われる5000mもの高さのビル。
いや、これはもうビルじゃなくて“塔”と言った方が正しいような気がする。

なんでこんなに巨大で高い塔を作ったんだろう。
バベルの塔ってやつですか? 天まで届きたいんですか?
残念ながら5000mじゃ天には届かないかなー。
って、こんなに文明が進んだ世界なんだからそんなの分かり切ってるか。

それに山だってこの塔より高いのが沢山あるだろうしね。
もしかしてこの世界には、そんなに高い山が無いのかな?
グランドホープには山なんて無いから分かんないなあ。

与えられたのは初日に入れられたような真っ白な部屋じゃない。
高級マンションのような豪奢な部屋だ。ドルフィンホテルよりずっと広い。
VIP待遇だと思うけど、理由が分からないから不気味この上ない。
すっかり夜も更け、窓から覗いた下界には煌めく夜景。
凄まじい程の壮大さと美しさ……だけど高さ的に私 今、相当高い場所に居る気がする。
(この塔を除いて)グランドホープで一番高いビルがどれくらいか分からないけど、少なくとも夜景は遙か下、星空の方がよっぽど近く見える。

……3000mぐらいの所に居たりして。
いや、ひょっとしたらまだ上……?
だって下界の距離との差で本当に星に手が届きそう。
大袈裟かもしれないけど、それくらい夜空の迫力が夜景に負けてない。
満天の星空ってこういうのを言うんだよね、すっごい綺麗……!
グランドホープはまさに不夜城だから星なんて見えなかったし。
こんなに綺麗な星空だったんだなー……。

そうして現状を忘れようと景色を見て感動していると、ピンポーン、と呼び鈴の音が聞こえた。
え? この部屋?
……多分この部屋だったと思うけど……誰だろう。

ピカチュウやルカリオが助けに来てくれたと楽観して良いだろうか。
あれだけピカチュウ達を疑った手前かなり気まずいんだけど、口には出してないし、私が改心すれば問題ないよね、うん。
正体が分かるのが一番良いんだけど。
彼らが“ポケモンの姿をした何か”ではなく、そのままピカチュウやルカリオである事を祈るしかない。

なんて考えていたらもう一度呼び鈴。
やっぱりこの部屋だ、間違いない。
壁際にあったインターホンへ寄り、拙く操作しながらマイクをつけた。


「は、はい……どちら様ですか」
『コノハさんですね。私は政府補佐官のルフレと申します』
「……」


聞いた事のある女性の声。そして私が知っている名前。
モニターがあるので点けたかったけど操作方法が分からない。
え、ルフレってFE覚醒のルフレだよね。
でもこの世界って“任天堂”というより“スマブラ”って感じじゃなかったっけ。

いや待てよ。
あれは夢だったけど確かマナが持ってた新しいスマブラ……、スマブラforだっけ、あれに出てた。
まさかあの夢、マジで正夢になるんだろうか。
私の動揺は伝わらなかったようで、ルフレは気にする事なく続きを話す。


『少しお話ししたい事があるのですが、入っても宜しいですか?』
「……はい、どうぞ」


そういえば鍵とか掛かってたかな? と思ったのも束の間、カチャリと音がして扉の開く音。
あー……鍵は掛かってるみたいだけど外から開け放題かー……。
つまり完全に閉じ込められてるパターンだよ!
あれでしょ、内側からは開かないやつでしょ!

あーもー、と心の中で唸っていると、壁の向こうからルフレが現れた。
高級マンションの一室よろしいこの空間は部屋が幾つかあって、広いリビングからは入り口が少し遠い。
で、あれはFE覚醒の女ルフレで間違いない。


「夜遅くにすみません。何もお伝えしていないようなのでご説明に上がりました」
「……そうですねー……ほんと何も聞いてませんよ」
「我々はあなたをグランドホープ市長の客人としてここにお呼びしました。市長から帰宅の許可が得られるまではここで過ごして頂く事に……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」


市長の客人!? 知らない知らない、ってかそもそも市長って誰だよ!
それにその言い方、まるで初めから私が目当てだったような。
ひょっとするとあのシェリフ達は私を狙っていて、ピット達は巻き込まれただけの可能性も……。
それに思い至った瞬間、自分でもサッと血の気が引くのが分かった。
自分は市長なんて知らないとか、こういう事をされる覚えは無いとか、そんな事を言うより前についついピット達の事を訊ねてしまう。


「じゃあ、シェリフがピット……孤児達を連行したのは私のついで!? 彼らはこれからどうなるんですか、今も無事なんですか!?」
「……自分より真っ先に他人の心配をするんだね」


喋ったのはルフレじゃない。男性の声だった。
聞こえたのは入り口の方からで、私とルフレは同時にそちらを見る。
先程のルフレと同じように壁の向こうから現れたのは……。


「……」
「シュルクさんじゃありませんか。説明に来られたんですか?」
「ああ。ごめんね勝手に入ってしまって。鍵、開いてたから」
「えっ!? すみません、うっかりしていました」


シュルク……だね、ゼノブレイドの主人公の。
彼も夢の中で見たスマブラforに出ていたはず。マナがたいそうお気に入りだった。
何なのこれ、本当にあの夢が予知夢だったっていうの?
それともただ単に関わりがあるから夢に見ちゃったってだけの話?
私としては今のこの状況が夢であって欲しい派なんだけど、さすがにそこまで都合の良い展開にはならないだろうな。

シュルクも名乗ってくれ、ルフレと同じように状況の説明に来たと言う。
ルフレが来てるって知らなかったみたいだ。
彼らの話によると、ピット達もピカチュウ達も無事のよう。
ただしピット達はこれから政府が運営する孤児院に送られ、ピカチュウ達の処遇はまだ決まっていないとか。


「ピカチュウ達の事、傷付けないで帰してあげて下さい。彼らには何の用も無いんですよね? 私に対する人質なら問題ありません、彼らに何もしないなら逃げたりしませんから」
「うーん、僕らとしてはそんな脅すような事はしたくないんだけど」
「市長の決定ですからね……帰宅の許可が下りるまで辛抱して頂ければ、あのペット達もきっと一緒に帰る事が出来ると思いますよ」
「お願いします……」


彼らが居るならピカチュウ達は恐らく無事でいられると思う。
シュルクもルフレも原作ゲームとは違う人生を歩んだ違う人……なのかもしれないけど、やっぱり原作のイメージが先行する。
大丈夫、二人はきっと原作通りの優しい人だ、大丈夫大丈夫……。


「そう言えばコノハさん、あなたは市長をご存知ないんですね」
「確か余所のポリスから来たんだよね。グランドホープに来た後のデータしか無いから詳しくは分からないけど。市長はあまり人前に出たり顔出しする方じゃないし、知らなくても無理は無いか」
「す、すみません……っていうか私、客人として呼ばれたんじゃ……?」
「市長はたまに何を考えてるか分からない所があるからね」


言いながらシュルクが市民証を出す。
……これ多分市民証だよね? ガラケーみたいな私のと違ってスマホみたいだけど。
ひょっとして新型か、政府関係者専用の市民証なのかもしれない。ちょっと羨ましい。

シュルクは手に持った市民証を差し出して画面を見せて来たので、私は少し身を乗り出すようにして画面を覗き込んだ……ら、その画面に映った顔を見て悲鳴を上げそうになった。
だけど耐えたよ、耐えたよ私!


「この方が市長のガノンドロフ様だよ。顔と名前は覚えておいてね」


ガ、ガノ、ガノンドロフ……!?
駄目だよこれ大丈夫じゃないよいくらシュルクとルフレが良い人でも危ないよ!
待って何で、どうしていきなりラスボス登場するの!?
こんな人が私を呼んだって絶対良からぬ考えがあってだよね!
うわああ折角この世界での生活も軌道に乗ったのに、こんな所で人生詰みかねない状況になるなんて……。
やだやだ意味分かんない、何の能力も無い私に何の用があるっての!?

シュルクの言葉にロクな返事も出来ず黙り込んでしまう。
ちょっと顔が青くなってるんじゃないかと思えるほど頭が冷えて来た。
二人はそんな私に気まずそうな顔をして、気をしっかり持つように言ってくれる。
でもそういう事しか言わないってことは、ガノンドロフはシュルクやルフレが「大丈夫」って言えないほど悪人だって事だよね?
ひょっとしたら厳しいだけとか、シビアな性格をしてるだけって可能性もあるけど、原作ゼルダのガノンドロフを鑑みるとその考えは楽観的すぎる。

ロイみたいに原作と性格が違う可能性に賭けるしか無いか。
でもロイも性格が違うだけで、悪人サイドになったりしてないしなあ。
性格が変わる事があったとしても、善人⇔悪人の入れ替わりはあるんだろうか?

何にせよ危険極まりない。
クッパやデデデと違って、あの人一度も主人公サイドにデレた事無いからね。
スマブラでのチーム戦は確実に論外だろうし、亜空の使者終盤のアレは共闘と表現するには足りないだろう。

実際にはそんな時間は経っていないけど結構ぐるぐる考えてしまう。
そんな私に申し訳なく思っているのか、どうにも出来ないなりにフォローを入れてくれるルフレ。
本当、あなた達が原作通りっぽいのがせめてもの救いだよ……。


「あなたは一般市民のようですし、早く帰宅許可が下りれば良いのですが……。私達も結局はちょっとした補佐程度の役割しかありませんので、市長にあまり意見する権限が無いんです、ごめんなさい」
「ああー……私なんかの為に危険な事をして頂く訳にいかないし、構いませんよ。っていうかこんなクズは助ける価値すら無いんで」
「? どうしてご自分の事をそんなに卑下するんですか?」
「だって私、基本的に自分の身しか案じない奴ですよ。危険な目に遭いたくないし痛い思いもしたくない。君子危うきに近寄らず、危険な事は誰か他人がやれば良いんですよーってな女です」
「その割にさっき、自分の身より例の孤児達やペット達の事を真っ先に心配しましたよね」
「そうそう、自分の処遇なんて後回しだったじゃないか」
「……」


そう言えば。さっき自分の事なんてさほど頭に無かったなあ。
とにかくピカチュウ達やピット達の事が心配で……。
ん、あれ? 私ってそんなキャラじゃないよね、危険になったら友達すら見捨てて自分を最優先するドクズの筈だよね?
ちょっと混乱していると、シュルクが私の右腕を示しながら言う。


「その腕の傷も孤児の子が撃たれるのを庇ったんだってね。君はそんなに卑下する程の人物じゃないと思うよ。会ったばっかりで何が分かるんだって言われれば、言い返せないけど」
「……私、なれるんでしょうか。誰かを助けられるような人物に」
「もうなってるだろ? コノハ、君は他人を助けられる人だよ」


言われ、呆然として彼らを見る。
私は自分を卑下する事で、他人からの評価に開き直ろうとしていたのかもしれない。
いざ逃げ出したり友達を見捨てたりした時に、そら見た事か、普段から私はこういう人物だって言ってたでしょ、それに自覚してるんだし周りから文句言われる筋合い無いからね、って。
ただ言い逃れの材料にしたかっただけ。

その証拠に、いざとなれば私は他人を助ける事が出来た。
やれば出来る……っていうのとはちょっと違うかもしれないけど、似たようなもの。
私も誰かの助けになる事が出来る人間だったんだ……。


「なんか……はは、信じられない」
「だけど事実だ。君は自分を後回しにしてでも友人を心配して、助ける事が出来る」
「じゃあちょっと、自分を卑下するの自重しようかな。あんまり卑屈すぎると口から出ちゃった時、聞いててウザったいだろうし……」
「自分を卑下するのをやめる理由も他人の為ですか。コノハさん、思いやりがありますね」


うわああ、今のも無意識に出ちゃってたよ!
なんか直前まで自分をゴミクズだと思ってたから、褒められ過ぎて照れで爆発しそう!
さっきガノンドロフの存在を聞いた時とは逆に、顔が赤くなってるだろうなと思えるくらい熱い。
微笑ましげなルフレとシュルクの視線も恥ずかしい、あああ。

その後、二人から部屋の使い方(機器類とか)を聞いたり生活のルールを聞いたりした。
やっぱり自由に外出は難しい……っていうか外出自体不可能みたい。酷い。市長が。
欲しい物がある時は備え付けの電話で申請すれば与えてくれるらしいけど、そういうのって調子に乗ると立場が危うくなりそうだから控え目にしとこう。
帰宅許可も市長次第で何も聞いていないから、いつ帰れるかの目処は全く立ってないって。
やだなあ怖いなあ、ガノン様は利用価値なんて無さそうな私に対し何をお考えなのですか。

そうしてげんなりした態度を出していると、シュルクが あ、と呟く。
忘れてた、とはにかみながら部屋の外へ出て、すぐに何かを持って来る。
それは私の肩ぐらいのサイズがある小型の樹木。
大きな植木鉢に植えられたそれを下から抱えて、リビングの窓際に置く。


「これ、コノハの部屋に置くよう市長からの指示なんだ」
「そうなんですか、ありがとうございます。良い木ですねー」


一応お礼と感想言っとくかー、ぐらいの気持ちで言ったら、二人が驚いた顔で私を見た。
え、何も変な事は言ってないよね。
ガノン様の意図が分かんないけど波風は立てたくないし……。
と考えた後、ふとシュルクが持って来た物をもう一度よく凝視してみた。
大きな植木鉢に植えられた小型の樹木…………樹木? 木?

あ、これ、植物じゃん……。


「コノハさん、植物を見ても驚かないんですね」
「木を知ってる上で驚かないなんて凄いなあ。僕達だって本物を見たのはこれが初めてで、驚いたんだよ。市長が君に興味を持って招待した理由が分かった気がする」


招待っていうか連行、もっと言うなら誘拐ですけどねー……。
結局また植物関連だったんだ。それは私の能力でも何でもないからなあ。
今回の騒動で、もしかしたら自分にも夢小説の主人公みたいな特殊能力があるのかも……!
なんて期待した私がお馬鹿さんでした。

でも植物関連だとして、直接知識を訊ねもせず植物を近くへ置くだけ、だなんて。
ガノンドロフは一体何がしたいんだろう。
そんな回りくどい方法取らなくても、尋問でも拷問でもすれば……あ、嫌だ。それは嫌。
だけど他に私と植物の関連性を聞き出す方法なんて、いくらでもありそうなものだけどなあ。
ただ私の側に植物を置くだけ……何がしたいんだほんと。

その後立ち去るシュルクとルフレを見送ってから、一人リビングのソファーへ座る。
窓の方を見ると嫌でも目に入る小型の樹木。
ガノンドロフが市長って事は、彼は昔の王国を亡ぼした人の末裔なのかな?
それなら植物と関連がありそうな私を放置は出来ないよなあ。

で、問題はそれをどうやって知ったかって事なんだけど。
グランドホープには自然食物生産工場が堂々と存在している。
あそこには銃を持った監視員が沢山居た。
今思えばあれって、それなりに植物を警戒してるって事なんだよね。
でも長い時間……2000年だっけ? そんなに経過してるんだったら、何がどう危険なのかの伝承も廃れて、言い伝えがほんの少ししか残っていない可能性もある。
本気で植物を嫌っていたら、自然食物生産工場自体が存在してないだろうし。

じゃあ問題なのは植物じゃない?
そこで一つ思い至ったのが、ピカチュウの存在だった。
彼は昔に亡んだ王国の象徴たる存在……ああ、これなら警戒するわな。

ガノンドロフからしたら、私がピカチュウを従えているように思えたんだろうか。
自分から動く事の無い植物よりはよっぽど警戒に値する。
どこで知ったのかは……そう言えばステップストアでバイトしてる最中、付いて来てウロチョロしてたピカチュウがちょっと有名になっちゃったんだっけ。
これは迂闊だったなァ、自分に夢主人公みたいな特殊性が無いからって油断してたわ。

こうなってしまったのを、ピカチュウのせいだなんて思いたくない。
ピカチュウとルカリオの事を一時は疑ってしまったし、今も分からない事だらけだけど、こうして離れてみると彼らの不在が不安で仕方ない。
やっぱり私には、あのふたりが必要だ。
必要なら信頼しなくちゃ、それが出来ないと私も彼らもマイナスにしかならない。

何にせよ、ピカチュウとルカリオの無事を祈りたい。
ピット達の行き先は孤児院だって分かってるし、ピカチュウ達よりは行く末も明るいはず。
孤児達の連行はついでだったみたいだし。
後はピカチュウとルカリオを知っていた事がバレなければ良い。

そして私には、あと一つ懸念があった。
マリオ達レジスタンスの事だ。
万一拷問でもされれば吐かない自信が無い。
私でも自分より他人を優先して助ける事が出来ると分かったけど、訓練された存在でもない以上、痛めつけられた場合はまた別問題だと思う。
私は殆ど今の事しか考えられないからなあ……その時にならなきゃ分からない。
その時なんて永遠に来て欲しくないけどね。

取り敢えず今はまだ何も出来ないんだから、考えるのは よそう。
こういう鬱になりそうな時こそ、嫌な事は後回し精神を発揮するんだ自分!

私は立ち上がって窓際に寄る。
そしてピカチュウ達の身を案じつつ、遙か下方に広がる夜景を眺めていた。





−続く−



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