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看病戦記! 



季節の変わり目に体調を崩して寝込んでしまった。
まあ大した事は無いし、数日間安静にしていれば回復するとDr.マリオに言われたから安心している。

……安心、していたかったんだけどなあ、僕。


「しっかりしろマルス、オレが看病するから! だから死ぬなよぉ……!」
「気をしっかり持て。俺が付いてる」
「あまりに大袈裟だよロイ。あと気はしっかりしてますよアイクさん」


何故ですか。
何故この二人が片時も僕の側を離れないのですか。
いつも付き纏われてるから久し振りに解放されてゆっくり休めると思ったのに何この嫌がらせ。
取り敢えず眠れないからさっきから握ってる両手を放してほしいんだけどなあ。
大した事は無いとは言え、熱があるし体もだるいから強く出たりは出来ない。
それに彼らは僕のためを思って看病しようとしてくれているのだし、邪険に扱うのも悪い気がして……。


「っつーかアイク、何でテメェが居るんだよ! 折角オレが看病を装ってマルスにセクハラして、あわよくば押し倒したかったのに!」
「それはこっちのセリフだ。下の世話からの流れでアレやコレやしようと思っていたのに邪魔だ」


前言撤回。
こいつら頭の天辺から爪の先まで自分の事しか考えてないよ。
しかも病人に無体な事するとか下衆かお前ら。
お願いだから休ませて下さいお願いしますお願いします、回復したら何でも言うこと聞きま……。

危ない危ない、精神的死亡フラグを立ててしまう所だった。
何でも言うこと聞くとか言ったらこの二人がどんなおぞましい要求をして来るか分からないからね。


「で、マルス何かして欲しい事は無いのか? ……そうか、お前も好きだな。喜んでやってやろう」
「あなたの脳内で僕は何と言ったんですかアイクさん。いい加減僕を脳内彼氏にするのやめて下さい」
「どちらかと言うと脳内彼女だがな。言ってる内容は放送禁止用語が多いんだが、聞くか?」
「そんなキリッと男前な表情されても、尿瓶持ってる事と言ってる内容で全てが台無しです」
「キリッと男前!?」
「駄目だこの人自分に都合の良い部分しか聞いてない」


大体僕はそんな重症じゃないからトイレくらい行けるし、どんな妄想してるか分からないアイクさんのお世話になりたくない。
ほんと普段はストイックで男前なイメージなのに、その実態がコレとか全世界の乙女号泣だろ。
取り敢えず握ってる手を放して欲しい旨を告げるとアイクさんは放してくれたが、ロイが一向に放してくれない。
なんか面倒な事になったのかなあと溜め息を吐き、不満そうな表情のロイに再度要求する。


「ロイ、手、放して。ゆっくり休めない」
「……オレは」
「なに」
「オレは男前じゃねーのかよ、アイクばっかり!」


いいえアイクさんはセクハラ魔神です。そして君も。
男らしいと言ったら男らしいんだろうけどね。認めたくはないけど。断じて。
ロイはムスッとしていて拗ねているらしい。
僕がアイクさんばかりを褒めるから(ぶっちゃけ褒めてるつもりは無い)嫉妬したんだろうなあ。
うーん、こういう所は可愛いヤツなんだけど。
駄目だ駄目だ、そんな事を言ったら調子に乗る。


「あのねロイ、僕は今だるくて休みたいんだ。手を放してくれないとゆっくり眠れないし、好きな体勢になる事も出来ないだろ」
「へえ、興味あるな。お前はどんな体勢がいいんだ。前から? 後ろから? いっそのこと騎乗……」
「禿げろ」
「お前あからさまにオレに対して冷たいよな!?」


そんなセクハラ発言をかましても冷たくされないという自信があったのか?
いつも思うんだけど君達は僕の意思ガン無視だよね。
本当に僕の事を好きなんだったら、体調が悪い時ぐらい早く治るように休ませて欲しいんだけど。


「ロイ、お前は調子に乗り過ぎなんだ。自重しろ」
「その言葉、名前だけ変えてそのままあなたに言っていいですかアイクさん」
「何故だ!!」
「その何故という思考が何故ですか」


もう疲れた。後は二人で勝手にやってて下さいと言い、なにも言わせずブランケットに潜り込む。
無視無視、何を言われても無視。セクハラされたら無言でぶちのめして無視。
僕が相手にしないと分かったか、アイクさんとロイは二人で言い合いを始めた。


「ほんとアイクお前さあ、新参のくせにマルスに馴れ馴れしいんだよ! 序列ってもんをわきまえろ!」
「過去は過去だ。ロイこそリストラされたんだからさっさと居なくなれ」
「お前だって次回作じゃほぼ確実にリストラだろ!」


……目を閉じてブランケットに潜り込んで、なのにうるさくて眠れない。
頼むからどっか行ってくれないかな二人とも。
でも今そんな事を言ったら相手にしてもらえると勘違いして、余計にうるさくなってしまう気がする。
眠れないし眠くもない。
そんな所に二人の言い合いは思い切り耳に入る。
怖いから聞きたくないんだけど、この分だと耳を塞いでも無意味だろう。


「くっそー、前までマルスを取り合うのはせいぜいリンクくらいのもんだったのに、お前とかピットとかメタナイトとか増えまくりやがって!」
「さっさとマルスをモノに出来なかったお前の甘さだ。俺は新参だからと遠慮も容赦もせん、必ずマルスを手に入れてみせる」
「オーレーだーってー!! マルスを諦めたりなんかしねえ、お前や他の奴に渡してたまるかってんだ!」


……駄目だ、恥ずかしくなってきた。どうしよう。
どうして彼らはこんな事を恥ずかしげも無く言えるのか、信じられない。
ここに他の人が居ないのがせめてもの救いだ。
しかし二人の言い合いは止まる所を知らない。
相手への牽制し合いだったのにいつの間にか、いかに僕が魅力的かの言い合いになっている。


「マルスはっ、マルスはなあ、この世に舞い降りて来た天使だ! 女神だ! あいつほど素敵な奴は居ねえ!」
「天使だの女神だの思ってるなら崇拝でもしてろ。マルスはそんな存在じゃない、生身の人間だ。俺の手の届く、俺が捕まえられる位置で輝く存在なんだ」


何この羞恥プレイ、拷問?
本当に他の人が居なくて良かった、こんな所を見られたら何て言われるか……。
その瞬間、感じる違和感。
何だろうと思って何気なく自室の入口へ目をやると、少し開いた扉の隙間から顔を覗かせる二人の姫、その手にはビデオカメラ。

バッチリREC。

きゃあきゃあ言いながら去って行った二人の姫を呆然と見送り、しばし怒りを溜め込んで一気に吐き出す。


「アイクさん、ロイ! いい加減二人とも出て行けーーーーッ!!!」


響いた怒号は他の仲間にも聞こえただろう。
だけど気にせず二人を部屋から追い出し、僕は鍵を閉めてゆっくりベッドに入った。
今の状態でどっちかを勝者にする気は無いからね、二人とも敗者だ!
憤ったまま、そんな事を考えながら……。






*END*







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