第6話 脱出に向けて 



クッパに捕まりクッパ城に囚われたマキアート。
逃げ出したが見つかってクッパと対峙していると現れたのは、ロイと言う名の少年だった。
ロイはマキアートを助けると言うが、提げている剣を取ろうとはしない。


「あ、えっと……ロイ君、だったっけ」
「なに?」
「どうすんの、今から」


剣を取らないと言う事は戦わないのだろうか。
ならば考えられる行動は残り少ない。
マキアートが不安になっていると案の定、ロイが急に彼女の手を取り走り出す。


「わ、わわっ!」
「マキアートさん、しっかり付いて来いよ! 面倒だから逃げるが勝ち!」


赤い髪を揺らしながら走る前方の少年。
転びそうになりながらも付いて行くと、ふと、何だか懐かしい感覚が甦る。
以前にも、こうやって誰かに手を掴まれ、何かから走って逃げたような。

……アイクだ。もうずっと小さい頃の話だが。
確か、野犬に追い掛けられていたマキアートの手を引っ張って、アイクが共に逃げてくれた。
もう随分と昔の、無邪気だった頃の思い出。
今マキアートの手を引き走る少年は、アイクの蒼髪とは違う赤髪だった。


「よしマキアートさん、何とか逃げられるっぽい!」


ハッと気付けば、前方に大きな両開きの扉が。その扉の両脇に付いている窓の向こうは外。
ようやく出口に辿り着く事が出来て自然と速度が早まっていく。
もう逃げ出せたも同然と安心し、マキアートとロイが扉前の大きな絨毯の中央を踏みしめた瞬間。
ただの絨毯だと思っていた部分に硬い感触がしたかと思うと、そこが思いっ切り開いた。
下には深い穴が開いており……こんなナレーションをしている間に、2人は落下してしまう。


「嘘ぉぉぉっ!?」
「何で俺がぁぁっ!!」


声は瞬時に小さくなって行き、すぐに下の方から墜落した音が響く。
ようやく追い付いたクッパは、自分が仕掛けた罠を思い出していた。


「入ってすぐ落とし穴がある事を忘れていたな。危うくワガハイが引っかかる所だったのだ!」


もう忘れないようにするのだ、と満足げなクッパは、マキアートを追う事も忘れて戻って行った……。


++++++


一方、マキアートとロイが落下した先は牢獄のような部屋だった。
薄暗く苔むしたような剥き出しの石の壁、前方には重そうな鉄の扉。
その扉の窓には、鉄格子を装着している。


「ちょ、出口ナシ!? どうしようロイ君!」
「助けを待つしかないな……はは、悪いマキアートさん」
「あ、いいや、怒ってはいないけど」


申し訳なさそうに沈んだ笑いを出すロイだが、寧ろ初対面なのに助けてくれた事に感謝だ。
確かにこうなっては助けを待つより他ないので、取り敢えず冷たい石の床に座り込む。
きっとそのうち、助けに来てくれるだろう。
スマブラファイターの仲間達や、弟が……。


「いや、別にアイクに助けて貰いたい訳じゃないんだけどね!」
「え? なに?」


思わず思考を声に出してしまい、事情を知らないロイが疑問符を浮かべる。
慌てて、アイクって言うのはスマッシュブラザーズって団体の一員で…と取り繕うと、ロイが少々懐かしそうに目を細めた。


「俺の代わりに補充されたメンバーか。あいつらは元気にしてんのかな」
「代わり? ロイ君ってまさか、スマブラファイターの一員だったの?」


マキアートの質問に頷くロイは、何だか寂しそうだ。
ロイは第2期からファイターの一因になったそうで、アイク達は第3期のファイター。
事情があって元の世界に帰ったそうだが、やはり未練はあったらしい。
仲良くなったファイターとも別れなければならなくなった時は胸が引き裂かれそうだったと言う。

だがロイは、その寂しそうな表情をすぐに消す。
元気のいい笑みをマキアートに見せて、いつまでも落ち込んでいられないと告げる彼は素敵だった。


「ロイ君は前向きだね」
「いやいや、そんな事は……あるけど!」


今の状況も忘れて、2人は笑い合う。
そんな中、ふとロイが何かに気付き、自分が羽織っているマントを外した。
それを自然な動作で隣のマキアートに掛ける。


「ん?」
「いや、ここ何だか肌寒いなって思ってさ。被ってるといいよ」
「え、でも悪いよ、このマント上物じゃないの」
「マントってのは防寒具だからさ、寒さを防げないと意味が無いワケ。俺は寒くないし、マキアートさんちょっと震えてるし」


どうやらマキアートが震えている事に気付いたらしい。
やんちゃそうな外見からは想像しにくい意外な気配りに甘える事にした。
こんな一面も見せるロイに心惹かれるものを感じ、ありがとう、と彼を見つめるマキアートの瞳は何だか熱っぽくて…。


『あーあーあーあー!』
「!?」


瞬間マキアートの脳内に響いた大きな声の主は、只今マイクのテスト中なのかと訊きたくなる程わざとらしいアルフォード。
ごめん、今から凄い独り言喋るから、とロイに断って話しかけた。


「何よアルフォード、いま確実に邪魔するタイミングで割り込んだよね!?」
『気のせいだ、気のせい。……時にマキアート、お前、逃げないのか?』
「見りゃ分かるでしょ、閉じ込められたの! 扉が開かないのよ!」
『確認したか?』
「それは……!」


してない。
いやだって、ここは牢獄だし……と思いつつ、ちょっと躊躇いながら扉の傍まで歩み寄る。
何事かと自分も傍へ寄るロイに、マキアートが……。


「ロイ君、この扉、確認してないけど開いたりはしないよ、ねっ!?」


言いながら扉を押すと予想外に軽く開いて、マキアートは扉の外へとつんのめってしまう。
ロイはそれを呆気に取られて見ていたが、やがて起き上がりかける彼女に手を貸しながら笑った。


「開いたよ」
「……そのようで」


気を取り直し、2人は駆け出した。


++++++


それから少し後、クッパ城の入り口。


「まぁ色々と省略したが、ついにクッパ城だ! 絶対に姉貴を助け出す!」
「うん、出発から道中までをゴッソリ省略したよね」


いつの間にか、マキアートを助けに出た一部のスマブラファイター達がクッパ城に辿り着いていた。
メンバーはアイク・マルス・リンク・ピット・マリオ・カービィ・ピーチの7人。
大きな両開きの扉を前に意気込んでいる。
特にアイクが。

マリオはピーチに、姫は来ない方がよかったんじゃ……と告げるが、ピーチは、私のせいでマキアートが捕まっちゃったんだからと引き下がらない。
意外に頑固なピーチ、彼女のせいではないが責任を感じているようだし、ここまで来て言う事でもなかったな、と、マリオもそれ以上言わなかった。
女が1人でも居た方が、姉貴の身の安全になるだろうと言う、アイクの言い分が通った訳ではない。
決して。

ちなみにカービィは、ほぼ好奇心で付いて来た。
更にネスからの、「カービィ連れて行くと色々便利だよ!」と言うアドバイス? を受けての参戦だ。
確かに色々便利だった。いや、マジで。


「よし行くぞ! マキアートを助けにっ!」
「リンク先輩、勝手に仕切るとアイク先輩にぶっ倒されますよ」


先陣を切ろうとするリンクに突っ込むピット、チームワークも抜群だ!
すぐさまアイクが割り込んで扉を開き、他のメンバーもすぐ後に続く。
大きな絨毯を踏みしめて勢い良く駆け出すが……。

ただの絨毯だと思っていた部分に硬い感触がしたかと思うと、そこが思いっ切り開いた。
下には深い穴が開いており……こんなナレーションをしている間に、前を走っていたアイク・リンク・マリオが落ちてしまう。


「ええっ!? 先輩っ!」
「ピット、カービィ、3人を助けられない!?」


ピーチが叫ぶが、そうしている間に開いた床が閉じ、元通りになった。
カービィがもう1度踏んでもビクともしない。
これでは、飛ぶ事の出来るピットやカービィでもお手上げだ。


「床が開かないよー、どうしよう、壊す?」
「駄目だ、何があるか分からない。マキアートを探しながら他の道を探そう」


マルスの意見に、他に残った3人も頷く。
躊躇う事なく、城内の更に奥へと駆け出した。


++++++


一方、アイク達3人が落下した先は、牢獄のような部屋だった。
薄暗く苔むしたような……まぁ皆様にはもう説明したからいいか。
前方の重そうな鉄の扉は開いていて、これはアイク達は知らないが、次に誰かが落ちた時、扉は開かないと勘違いしない為のマキアートの心配り。
良かったねアイク、間接的にお姉ちゃんが助けてくれたよ。

…それはいいとして、リンクが床を見つつ、所々に埃が無い事に気付く。


「なんか、埃が所々拭かれたみたいになってる。最近誰か居たのかもな」
「もしかしてマキアートだったりして」
「姉貴はどこかに連れて行かれたのか…!?」


マキアートの事が心配になるアイクだが、瞬間、頭に直接誰かの声が響く。
……いや、誰かではなく、姉にソックリな声の……。


「ジュリアか」
『アイク、あんたのお姉ちゃんはさっきまで、ここに居たって。もう逃げ出して城の中を走り回ってるらしいわよ! 今は3階に居るってさ』
「本当か? 何故わかる」
『信じてよ、絶対に間違いないから』


本来なら怪しいものだが、ジュリアの声がマキアートにソックリなのも手伝って信じたくなる。
アイクはジュリアを信じて階段を探しに駆け出した。
突然の行動に、リンクとマリオが慌てて後を追うハメになったが。


++++++


「奴らしつこいな……疲れてないか? マキアートさん」
「大丈夫、走りっぱなしって訳でもないんだし」


逃げ出してからもクッパの手下達に見つかり、逃げたり隠れたりしながら移動する2人。
いつの間にか3階まで昇ってしまい、どうやって降りようかと悩む。
階段前は陣取られ、やはりこうなっては戦うしかないだろう。

マキアートさんは隠れててと言うロイに、マキアートは首を振って拒否する。
あたしこう見えても闇魔法を使えるのよ、と得意げな表情を見せ、ロイも感心したように笑った。
壁際に隠れつつ、階段前の見張りの様子を窺う。
暫らくそうして、見張りが目を逸らした瞬間……。


「いっただっきまーす!」
「えっ!?」


…下の階からカービィがやって来て、見張りを吸い込んでしまった。
マルス達もすぐ後に続きカービィが綺麗にした通路を進んでいる。
どうやら、マキアートを助けにアイク達が侵入した事は伝わっていなかったようである……。
しかしそれはマキアート達も同じで、突然現れた仲間達に心底驚いた。


「マルス、ピーチ姫、ピット、カービィ! 助けに来てくれたの?」
「あ、マキアートさん! 無事だったんですね……ってロイ!」


ファイターから外れた筈の友を見つけ、マルスの表情が驚きに染まる。
ピーチも驚いていて、ロイはニッコリ微笑んでみせた。
しかし、まさか4人で助けに来たのだろうか。
どうにも気になってしまったマキアートは、少々躊躇いがちに訊ねる。


「ねぇ、あたしを助けに来てくれたんでしょ。ありがとう、4人だけで来てくれたの?」
「マキアート、そんな心配なんかしなくても、アイクも来てるよ」
「カ、カービィ、そんな事は訊いてないって……」


余計な事を言うカービィに反論するが、何だか弱々しくて説得力が無い。
話を逸らして、ピーチ姫も来てくれたんだと彼女に笑いかけると、すぐ笑みを返してくれた。


「マキアート、ごめんなさいね。私の代わりに捕まっちゃったのよね……」
「気にしないで。ピーチ姫が無事で良かったし、絶対助けに来てくれるって思ってたから」


マキアートの言葉に、ピーチの心も軽くなったようだ。
ピットがロイを見つつ、知り合いですかと訊ねて来るが、今は説明している場合ではないだろう。
聞けば他にもメンバーが助けに来てくれたようで、どこに行ったのか訊ねようとした矢先、例のアイクに似た声が頭に響いた。


『マキアート、アイク達の居場所なんだが…さっきあんたが落ちた場所に落ちたみたいだな。今は脱出してる最中らしい』
「え……アルフォード、何でそんな事が分かるの?」


他の者に聞こえないように小声で訊ねる。
幸い、先程のように2人きりではなく、他にもファイターが居るので気付かれはしなかったようだ。
アルフォードは黙り込んでしまい、どうやら質問に答える気は無いらしい。
信じていいのかは分からなかったが、何となく疑ってはいけない気がした。
マキアートは気を取り直し、マルスに訊ねてみる。


「ねぇマルス、アイク達って、入り口のすぐ入った所にある落とし穴に落ちちゃったんでしょ?」
「えっ…よく知ってますねマキアートさん。そうなんです、どこかに道はありませんか?」
「そこなら俺とマキアートさんも落ちたから分かるよ。こっちだ!」


ロイが駆け出し、マキアート達も後に続く。
先程落ちたのは地下、ここは3階だが、向こうも脱出しているならすぐに会える事だろう。


「マキアートさんって、もしかして居場所が分かる魔法でも持ってるんですか? それとも姉弟だから分かっちゃうとか……」
「うーん、魔法みたいなものかな。多分ね」


ピットの質問を、軽くはぐらかすマキアート。
今はまだ、説明の必要はないと判断した。

階段を駆け降りるマキアート達6人、再会と脱出は間近に迫っている。





−続く−





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