第3話 少女の想い 



スマブラの世界へやって来たアイクの姉・マキアート。
弟アイクの仲間たちに迎え入れられ、城の中を案内して貰っていた。
そんな彼女に突如聞こえた、今より少し幼く感じるアイクの声。


『すまん、とにかく自己紹介する。俺は……』
「……」
『……アルフォードだ。訳あって……なんだ、その、あんたに声を届けてる』


聞きたいのはその肝心の“訳”とやらなのだが、訊いても言葉を濁すばかりで答えてくれそうにない。
アルフォード……つまりアイクではないという事なのだろうか、しかし声は確かにアイクのような感じだ。
マキアートは溜め息をついて声を掛けた。


「アルフォード、だっけ。何にしてもあんまり喋らないでね。気になるから」
『分かってる。ただ、…あんたに何かありそうな時とかは喋らせて貰う』
「あんたが何者か、何の為に声を届けてるのかはいつか教えてくれる?」
『あぁ。約束する』


これ以上、何を訊いても答えてくれないだろう。
ならば無駄な押し問答をやるべきではない。
話にひとまず決着をつけたマキアートが、異様な視線を感じて振り返ると……。

アルフォードの声が聞こえない仲間達が、マキアートが独り言を言っているように聞こえ、唖然としていたのだった……。
慌てて、何でもないよ! と取り繕うマキアートに、リンクが怪訝な表情で口を開く。


「だ、大丈夫かマキアート。疲れてるんじゃ」
「そうかもねーあはは……でも、もう大丈夫」


何かが引っ掛かるのだがマキアートが大丈夫と言うのなら追及はしない方がいいだろう。
案内を再開する事にした。


++++++


一方、アイク。
マルス達と共に資料室の片付けをしていた彼にも、突如、今より少し幼く感じるマキアートの声が聞こえてきた。


『あちゃー……。えっと、あたしは、その……』
「……」
『……ジュリアって、言うんだけど……あはは』


何だか焦っているような彼女もやはり、理由があって声を届けているが今はまだ教える事が出来ないと言う。
姿は見えないのに脳内に声が響くなんてまるで病気になったようで気が滅入りそうになった。
だが今の所害は無さそうだし、正直、愛しい姉にそっくりの声なのでちょっと嬉しかったりするのも事実。
仕方無しに、アイクもこの状況を飲み込む事にした。


「アイク、どうしたんだ」


マルスが心配そうに声を掛けて来るが、何だか言うのも躊躇われて、アイクは何も言わなかった。
あの声は……魔法の類だろうか。女はジュリアと名乗っていたが、マキアートと声がソックリなのが気にかかる。

誰か魔法に詳しい奴は居ないかと周りの仲間に訊ねると、ゼルダ姫辺りが詳しいだろうよ、とマリオが答えてくれる。
アイクは片付けが終わりかけている事を確認すると、資料室を立ち去りかけた。
ピットが慌てて引き止める。


「アイク先輩、まだ片付けが終わってませんよ!」
「任せる。用事ができた」


あっさり言い放って、資料室を後にするアイク。
少しでも知らなければ、気が済まない。


++++++


その頃、マキアート達。
城内の案内も終わり、広間へ戻ろうとしていた。
そこへ、上の階からゼルダが階段を降りて来るのが目に入る。
ゼルダはマキアート達に気付くなり、にっこりと微笑んで近寄って来た。


「皆さん、お疲れ様です。マキアート、城内の事は分かりましたか?」
「うん。ゼルダ姫は何をしていたの?」
「私は、少し瞑想を。空気がざわつくものですから」


ゼルダの不思議な言葉に首を傾げるマキアート。
一体何なのか、こちら側に居る仲間達に視線を送ると、リンクとフォックスが応えてくれた。
ゼルダは“神に選ばれた姫”とも言われる程で、魔法を使える上に色々特殊能力があるそうだ。
きっと、他のファイター達には分からない雰囲気の変化があったんだろうと。

魔法……。
それを聞いて、マキアートはハッとする。
空気がざわつく……とはどういう事なのか、ゼルダに詳しい説明を求めると、何だか昨日から、今まで感じなかった不穏な力を感じるらしい。
害は無さそうなので、仲間達には心配させまいと黙っていたそうだが。
その話を聞き、ヤバい、と気まずくなるマキアート。
その不穏な力とは……。


「ゼ、ゼルダ姫。その不穏な力って…、あたしの力かもしれない」
「えーっ? なんでー?」
「マキアートって、何か特殊能力でもあるの?」


カービィとネスが興味津々で訊ねて来る。
マキアートとしては、こんな禍々しい力は人に見せない方がいいのではないかと思っているのだが、隠しているこの力を感じ取れる者が居るのなら不安にさせてしまうし、教えた方がいいだろう。


「えっと……みんな、ちょっと離れてくれる?」
「なになに? マキアート、何を始めるの?」


ピーチが楽しそうに訊ねて来るが、こんな力、本来は軽い気持ちで見せるものではないのだ。
少々気が重いが、マキアートは目を閉じ、精神を研ぎ澄ませて集中する。

実はマキアートも魔道を往く者で、いわゆる“魔道士”と呼ばれる存在だった。
故郷の世界では珍しい闇の力の魔法を備えていて、魔力にも自信がある。
本来は魔法を使う為に“魔道書”と呼ばれる書物が必要なのだが、何だかそれが無くとも使えそうな気がした。
実験的に、精神をいっぱいに集中させる。そして。


「……ミィル!」


片手を突き出して魔法名を唱えるとマキアートの体から闇が溢れ出て、その方向に真っ黒い闇が襲い掛かった。
仲間達は突然の出来事に呆然とそちらを見ていたが、やがてゼルダが我に返り、マキアートに問う。


「マキアート。今のはもしかして、魔法ですか?」
「……うん。“闇魔法”って言う……そのまんま、闇を操る魔法なんだ」


唖然とこちらを見る仲間達に、見せて失敗だったかと不安になる。
闇魔法なんて、禍々しくて恐ろしいもの。
光を蝕み、消し去ってしまう……忌むべきものだ。
そんな闇を操れるなんて恐怖や嫌悪の対象にしかなり得ないだろうに。

……が。


「凄い凄い! ねぇ、もっかいやってもっかい!」
「え……」
「見たい見たい!」


ネスとカービィが、また闇魔法を見たいと強請り始めた。
それをキッカケに、黙り込んでいた他のファイター達も元に戻る。
驚いた…と言うよりは感心したように、リンクが話し掛けて来た。


「マキアートって魔法使いだったんだな。他に何か使えたりするのか?」
「えーっと、魔力を込めた杖があれば……治癒魔法とか状態異常を引き起こす魔法とか使えるよ」
「凄いのね、私、魔法習っちゃおうかしら」


冗談めかして笑いながら言うピーチ姫の言葉にも、嬉しくなったマキアートの心が軽くなっていく。
恐怖されるか嫌悪されるかだと思っていたのに。

雰囲気も和やかになった所でマキアートは、向こうから誰かがやって来るのに気付く。
見れば弟のアイクで、こちらから声を掛ける前に向こうから声を掛けて来た。
アイクが声を掛けたのはマキアートではなくゼルダだが。


「ゼルダ、少しいいか?」
「あら、アイク。何かご用ですか?」
「ちょっと、訊きたい事があってな……」


言って、アイクはチラリとマキアートの方を見た。
知らない女の声……しかもマキアートにソックリな声が聞こえるなど、あまり沢山の者には言い難い。
何故か、特にマキアートには絶対言えないと思った。
ここで話す訳にもいかずアイクはゼルダを誘う。


「ちょっと、ここじゃマズいな。付き合ってくれ」
「ええ、分かりました」
「……」


ゼルダをどこかへ誘っているアイクを見たマキアートの心が、ちくりと痛んだ。
そのまま2人して立ち去って行く様子を見ていると、益々胸が痛む。
一度感じた痛みはじわじわと広がって行き、心の中をいっぱいに埋め尽くした。
辛くなって顔を俯けていたマキアート、次にフォックスとリンクが言った事で、更に胸を痛める。


「何なんだアイクの奴、ひょっとしてゼルダに気があるんじゃないか?」
「ほ、本気か……女なんか……っつーより恋愛なんか興味ねぇって態度してたのに、意外とやるな」


そんな会話が耳へ入り、胸の痛みは強まる。
一体なんなのか、ズキズキと痛み続ける胸の理由が分からずに困惑していると、例の声が響いた。
勿論、マキアートだけにしか聞こえない訳だが。


『好きなんだろ』
「わっ! な、何よ急に……びっくりするでしょ!」


……びっくりしたのは、急に大きな独り言を言い始めたマキアートを目の前で見るハメになった仲間達の方だ。
このアイクにそっくりな少年の声は自分にしか聞こえない。
思い出したマキアートは、慌てて仲間達から離れ小声で会話を始める。


「あんた……アルフォード! 何が言いたいのよ、好きなんだろって」
『言葉の通りだ。その……アイクが他の女を好きなんじゃないかと思って嫉妬してるんだろ』


だから胸が痛いのだと。
自分は嫉妬しているのだと言われ、マキアートは頬を真っ赤に染める。
そんな事、……絶対に、あるハズがない。
そもそも自分はどうして顔が熱くなっているのかと自己嫌悪さえ浮かんでしまった。
生き別れていたと言うならまだ可能性は無きにしも非ず、かもしれないが、生まれて物心ついた時には既にアイクが居て、ずっと一緒に生きて来たのだ。


「あのねアルフォード。あたしとアイクは姉弟なの。そんな、好きだなんて事がある訳ないでしょ」
『姉弟だからだなんて、そんな事が関係あるか。現に俺達は……』


言いかけて、アルフォードはとっさに口を噤んだ。

……危ない、もう少しで言ってしまう所だった。
危うく自分達の正体をバラしかけ、アルフォードは焦る。

一方マキアートは、アルフォードが言った事が気になって仕方ない。


「俺“達”って……あんた、他に誰か仲間でも居るの?」
『……姉貴が、1人。今言った事は忘れてくれ、いつか教えるから』
「本当でしょうね」


まぁマキアートとしても、今はそんな追及より、アイクの事が気になる。
血の繋がった実の弟なのに……好きだなんて有り得ないはず……なのに。
アルフォードが変な事を言うから、馬鹿みたいに意識してしまっている。


「もう、アルフォードが変な事言うから!」
『別に俺のせいじゃない、必然だ。素直になれよ、あんた達には幸せになって欲しいんだ』
「……なんで?」
『……いつか教える』


詳しい事を訊いても、そればかりのアルフォード。
その“いつか”まで待たねばならないのは癪だが、本当に今はそれどころではない。


「アイク……」


1度意識してしまえば妙な感覚が体中を駆け回り、心を満たしていく。
その感覚を持て余しつつ、マキアートは実弟アイクの事を考えていた。





−続く−





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