第8話 少年の葛藤



既に10人が消え、更にはアキラまで深手を負ってしまった現状。
もう犠牲者を出す訳にはいかない、早く犯人を見つけなければと焦る反面、仲間内に犯人が居る可能性が高くなって、スマブラファイター達は躊躇っていた。
動機も何も分からない今は一刻も早く犯人を見つけて訳を聞くのが最善だ。
……分かってはいるのだが犯人を知るのが怖い。

そんな中、犯人が分かってしまったマルス。
犯人が男だったという事をアキラから聞き、スマブラファイター達に伝えようと広間へ戻っているところだ。
しかし、彼も勿論、犯人を言いたくない。
まさか仲間が犯人だったなんて、"あの人物"が犯人だったなんて……信じるのも辛い。


「どうしよう……」


マルスは、大いに迷い躊躇っていた。


++++++


「あ、お帰り」


悩んでいるうちに、広間へ帰りついたマルス。
カービィに出迎えられ、笑みを零した。
すぐにファイター達が寄って来て、マルスに詰め寄る。


「マルス、アキラに犯人の特徴を聞いたんだろ!? どんな奴だ!」
「リ、リンク落ち着いて。話すから」


話したくはない。
"犯人は男"なんて大まかすぎる情報だが、それを聞いた誰かが、何かを感づくかもしれない。
犯人を誰にも知られたくはなかった。
だが、アキラに頼まれ約束した手前、破るのも躊躇われる。
僕は何をやっているんだと自己嫌悪に捕らわれたが、ついに話してしまう。


「アキラが言うには…体格や偶然聞こえた声が男だったらしいよ。間違いは無いんだって」


ファイター達が息を飲む。
役には立ち難い情報かもしれないが、今まで何も分からなかった犯人の事が少し分かった訳だ。
すぐにロイが、犯人を探そうといきり立つ。


「ロイ、落ち着け!」
「そうだよ、こっちが無理な行動を取って、もし犯人がヤケになったら……」


ミュウツーとマルスが慌ててロイを止めるが、ロイは怒って聞きそうにない。
仲間を次々と消し去った犯人の事だ。
早く見つけ出して、この惨劇に終止符を打ちたい。


「皆を消しただけじゃない……アキラも怪我した! あんな、ナイフであちこち切り裂かれて、足の骨まで粉々に…!」
「ロイ……」


ロイの怒りに、ピーチが悲しげな顔で呟く。
好きな少女に怪我をさせた犯人を、許すわけにはいかないのだろう。
アキラが怪我をしてから3剣士の様子が変わっていた。
……尤も、マルスは犯人が分かった事による緊張で様子がおかしいのだが。


「(僕が犯人の正体に気付いたって、バレてないだろうな)」


自分が犯人に気付いたと知られれば、間違い無く次に自分が狙われる。
……自分は何かおかしい行動を取っているだろうか。
不安だ。
緊張で心音が聞こえそうな程高鳴っていて、不審さに気付かれないか……。


「マルス!」


急に名を呼ばれ、ビクリと体を震わせるマルス。
見ればリンクが、どこか真剣な顔で自分を見ている。


「もう一度アキラの所に行かないかって、みんな言ってるんだが」
「あ……いや、今はやめておこうよ。アキラだって疲れてるだろ」
「……だよな」


言葉少なに同意したリンクが、マルスから離れて仲間達にそれを伝える。
…この動揺に気付かれていないかと、マルスは心臓が破裂しそうな思いだ。

やがて、ロイとカービィ、そしてMr.ゲーム&ウォッチがアキラの付き添いを交代しに行く。
先程、烈火の如く怒っていたロイが少し心配だが、今は割と落ち着いていた。
本当に大丈夫ですか…とゼルダが聞くと、ロイは薄く微笑み、答える。


「ああ。考えりゃ今、一番大変なのはアキラだよな。神殿で突き落とされるし犯人にまで襲われるし……」


いつもの笑顔に戻るロイ。
大丈夫そうだと判断したファイター達は、こちらも笑顔で3人を見送った。

それから…時間が過ぎる。マルスはずっと、広間の隅にある机である文を書いていた。
ノートにペンでしっかりと……消えないように、犯人の名前を、この事件で起きた分かる限りの事を。

……自分に、もしもの事があった時のために。
もう、マルスの心は決まっていた。
これを書き上げたら、犯人の事を皆に話す。
ノートを閉じ、意を決して椅子から立ち上がるマルス。

……実はその時、リンクがこっそりと広間から出ようとしていた。
しかしマルスが急に立ち上がった事、そして更に、

「みんな、聞いてくれ」

と広間に居た仲間達の注目を集めた事により、誰も気付かない。
リンクはあっさりと、誰にも知られず広間を抜け出す事に成功した。

誰にも気付かれず広間を抜け出したリンクが向かうのはアキラの所。
手には、マスターソードをしっかりと握って。


「(ごめんな、アキラ)」



俺、


お前を殺すから。


++++++


そして、広間。
突然注目を集めたマルスの周りに仲間たちが集まり、どうしたんだよ……と、マリオが口を開いた。
答えようとするマルスなのだが、いざ言うとなるとやはり緊張する。
嫌な汗が伝い落ちるが、何とか声を絞り出した。


「僕……犯人が分かった」


メンバー達にざわめきが走る。
次々に詰め寄られるが、マルスは仲間達を落ち着かせると深い溜め息をついた。


「でも実は迷っているんだ。言いたくない……」
「それって、まさか……」
「やっぱり仲間内に犯人が居るから?」


ネスとピーチの言葉にゆっくりと頷くマルス。
ファイター達は暗くなるが、マルスの苦しそうな様子に急かすのはやめた。

沈黙が続く。
緊張が仲間を包み、嫌になるくらいの重く長い時間が過ぎた。
やがて、マルスがゆっくりと口を開く。


「みんな、この事件を始めから思い出してくれ。……仲間内に1人、本当にただ1人、全ての事件にアリバイが無い者が居る」


メンバー達が息を飲むのが分かる。
マルスも、緊張と心臓の高鳴りが酷くなった。
ついに言うんだ、と改めて息を吐き出したマルスは、ふと、仲間達全員の顔を見回す。

……心臓が止まるかと思った。
リンクが居ない。


「……!」
「マルス…?」


目眩がして、マルスは思わずふらついた。
慌てたマリオ達に支えられて、何とか堪える。
今この状況でのリンクの行き先なんて、マルスには1つしか思い当たらない。
アキラの所だ。

まずい。
リンクがアキラを殺しに行ったのは明白。
今アキラの所に付き添いで居るのは、常駐する事になったドクターと、カービィ、Mr.ゲーム&ウォッチ、そしてロイ。
彼らの命も危ない。

呆然と考え込んでいたマルスはハッと我に返り、広間の出入り口へ向かって駆け出した。
声を掛けて止めようとする仲間達を振り返って広間の隅にある机を指差し、叫ぶ。


「あの机の上に、表紙が水色のノートがある! それに犯人の名前と事件の事が書いてあるから!」
「待てよマルス!」
「絶対……絶対に誰も来ないでくれ! 頼む!!」


引き止めようとする仲間達を振り払い、マルスは広間を後にした。
きっと、二度と戻れないであろう事を覚悟して。
早くリンクを止めなければアキラが殺されてしまう。

……いや、リンクがいつ出て行ったのかが分からない以上、今更行っても間に合わないだろう。
少なくともアキラに付き添っていた仲間達は殺されていると思われる。
しかし、きっとリンクはアキラの事が好きだったハズだ。
彼女を殺すのは躊躇ってくれると信じたい。
リンクを止めるのはもう間に合わないが……マルスにはまだやる事がある。


「(こんな事をした理由……動機を聞かないと)」


このままでは死ねない。
訊いたら殺されてしまうだろうが、冥土の土産のつもりで……何としてでも理由を聞く。


「ん?」


不意にマルスの耳に物音が届いた。
今のは階段の方……階段を上る音だ。
医務室は1階にあるのに一体誰が。


「(まさか……!)」


決着は、すぐそこ。





−続く−





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