第7話 犯人を追って



許して欲しい。

……いや、許せるわけなんかないよな。
こんな事をした俺を。
もういいさ、許してくれなくったって。
俺だって、こんな事をやり始めた時から、許してもらおうなんて思ってなかったしな。

いいんだ、許してくれなくても。
俺は後悔なんかしてない。


許さなくていいから、


早くみんな、消えてくれないか?


++++++


スマブラファイター達は、全員が医務室に集まっていた。
あの惨劇から、未だに意識の戻らないアキラを囲んで沈んでいる。
アキラは、神殿で骨折した部分からその周辺にかけての骨が砕かれていた。
応急処置をして強力な痛み止めを投与したが、きちんと処置をしなければならないだろう。


「ねぇドクター、もしかしてアキラはもう歩けないの?」
「心配するなカービィ、今の医療技術なら、また歩けるようになる。手術は必要だけどな」


何にしても、生きていてくれただけで有り難い。
マリオも血に染まったルイージの帽子を握り締め、アキラを見ている。
ルイージとピカチュウの事をアキラが知れば、きっと落ち込むだろう。
しかしスマブラファイター達は、この状況にある期待をしていた。


「アキラ、絶対に犯人を見てる筈だよな」


ロイが呟いた言葉に、メンバー全員が頷く。
アキラをこんな目に遭わせたのは、きっとこの一連の事件の犯人だろう。
ならばアキラは、犯人を見ている筈なのだ。
アキラが目覚めれば犯人の正体がきっと分かる。
期待と不安が入り混じり鼓動が高鳴った。

やがてアキラが呻いて身じろぎ、ファイター達は急いで彼女に声を掛ける。
ゆっくりとした動作で目を開けたアキラは、しばらく天井を見つめてからファイター達の方へ視線を向けた。


「……私」
「大丈夫か、アキラ!」
「気分はどう?」


リンクとマルスにも声をかけられ、アキラは自分の状況を思い出す。
ハッとして、慌てた様子で辺りを見回した。


「心配しなくて大丈夫よ、アキラ。ここには私たちしかいないわ」


ピーチが話すと安心したようだ。
一通り体の具合を問答してから、いよいよ、犯人について訊ねる。
この一連の事件の犯人は、一体どんな人物なのか。


「アキラ。お前をこんな目に遭わせたのは、一体誰なんだ?」


マリオがルイージの帽子を強く握り、アキラへ問い掛けた。
すると彼女は、一瞬、視線を変に彷徨わせる。
何だか3剣士の方を見ていたようなのだが、3剣士の誰を見ていたかは分からない。
アキラは息を吐き出すと躊躇いがちに告げた。


「……分からないの。私に攻撃して来た人、フードのついたローブを着て顔を隠してたから」
「何だって……!?」


やはりこれで犯人が分かると考えるのは甘かった。
ファイター達は落胆と、不謹慎ながら少しだけの安堵を覚える。
アキラは1度深く深呼吸をして、確信を持って告げた。


「強かった。怪我をしていたとは言え、全く歯が立たなかったから」
「そうか……」


不安がよぎる。
アキラが助かったのは幸いだが、もし戦いになったら敵わない可能性が出て来た。
だから、強者揃いの仲間達もやられてしまったのだろうか……?
アキラも不安になったのか自分の腕を掴み、自らの体を抱き込んだ。


「……あれ? アキラ姉、腕の傷口が開いてない?」
「え?」


抱き込んだ時に見えたのだろうか、子供リンクの言葉に腕を見るアキラ。
確かに、包帯に血が滲んでいた。
ドクターが処置をやり直そうとしたが、アキラは断る。
次の瞬間、彼女が開いた傷口に手を翳すと、淡い光が発生して傷口を塞いでしまった。


「! 凄い!」
「神殿で見たあのシールドといい、アキラは魔法が使えるのね?」
「ええ。骨折も治せればいいんだけど、私、そんなに大きな魔力は持っていないから…」


他の傷口も治せればいいのだが、アキラはそんな大きな魔力を持っていないらしい。
残念だが仕方ない事だ。
犯人について思いを巡らせるメンバー達だが、ふとゼルダがある事を告げた。


「私、少し気になるのですけれど。これだけ沢山の人を消したのにどうして今まで、犯人の影も見えなかったのでしょうか……」
「……言われてみれば」


今までの血まみれの惨劇からして、犯人はかなりの大暴れをしている筈だ。
それなのに、何故、犯人の事が少しも分からなかったのだろうか?
その質問には、マルスが答えた。


「皆、この事件の事を始めからよく思い出してくれ。事件は全て、僕らがどこかに集まっていて、現場となった場所から離れている時に起きただろう?」


確かにそうだった。

最初に犠牲となったアイスクライマーは、プリンとピチューの2人と乱闘していたようだ。
その時、他のファイター達はピーチ城の広間に居た。
次に犠牲になったプリンとピチューは、話の最中に休憩時間を取り、ダイニングへ行った時に消えた。
その時も、ファイター達は全員広間に居たのだ。
フォックス達の時も、広間には他の誰も居なかった筈だ。

問題は、ルイージとピカチュウが消えた時。


「……考えたくはないが」


クッパの言葉にファイター達の表情が沈む。
ルイージ達の時、一部のファイター達は見回りに出ていて、ポリゴンの襲撃を受けてバラけていた。
……つまり、

"アリバイ"が無い。


「僕たちの中に、犯人が居るって言うの……?」
「そんな……」


ネスと子供リンクの悲嘆に満ちた言葉。
だが、ルイージとピカチュウは、誰かと話をしたがっていた。
この危険な状況の中、ルイージとピカチュウが全く知らない者と密かに会って話をするとは思えない。
やはり、知っている者だったのだろう。

自分たちファイターの中に犯人が居るなんて、考えるのも嫌だが……。
もう1度、事件を始めからよく思い出そうと、ファイター達は記憶を手繰り寄せた。


「何か……手掛かりは無いのか!? 今までの事件から……犯人の……」


マルスの呟きに、メンバー達は必死な思いで記憶を探る。
もう1度始めから、全てを思い出す。
何が起きたか、どんな状況だったか、細かい部分までを……。


「……なぁ、取り敢えず今は、やめにしないか?」
「リンク?」


リンクが突然、犯人探しを中断させた。
ここまで来て何を言っているのかと、メンバー達が怪訝な表情で彼を見る。
リンクは何故か、いつもより少しだけ大人しくなっていた。
声のトーンも下がり視線をファイター達から逸らす。


「疲れてるアキラの前でこんな事しなくていいだろ。また誰か数人だけ残して、残りは広間に戻ろう」
「……それもそうだな」


ロイが頷き、他のファイター達も同意する。
ドクター、ネス、クッパ、子供リンクを残して広間へ戻る事にした。

……その時アキラの傍から立ち去るリンクが、ぽつりと、一言だけを呟いた。


「……ごめんな、アキラ」


それはアキラにしか聞こえなかったようで、他の誰も、その言葉には反応しない。
何故、リンクが自分に謝罪をするのか気になってしまうアキラだが、どうしても訊く事ができずに彼を見送ってしまった。


「(リンク……まさか……)」


うっすらとした恐怖が、少しずつアキラを蝕んでいく。


++++++


「(……リンク、君は……)」


あの、リンクの謝罪。
どうやらマルスにも聞こえていたようで、心の中、密かにリンクを気にしていた。


「マルス? どうしたんだ」
「あ……ロイ。いや、何でもないよ」


マルスは平静を装い、ロイには何も言わなかった。
マルスは先ほど仲間達と同じように、この事件を最初から振り返ってみた。
事件が起きた時、起きる前後、どんな状況だったのかを思い出し、考えているうちに恐ろしい可能性が出てしまったのだ。
事件が起きた時や、その前後の事、そして先ほどの医務室での言動。
マルスの中で、犯人は決まった。


「(でも……それだと少しおかしい事がある……)」


しかし、それを除けば犯人は決まったも同然だ。
何故こんな事をしたのか動機が分からないし、信じたくはないが……。


「……みんな、僕、もう1度アキラの所に行って犯人の特徴を聞いて来る!」
「えっ……マルス!?」


マルスはファイター達の言葉に反応せず、もう1度医務室へ駆け戻る。
そんなマルスを、リンクがじっと見ていた。


++++++


マルスが救護室に戻るとネスと子供リンクが慌てた様子で、医務室から出ようとしている所だった。
何があったのか尋ねると、何と、アキラが犯人について、言い忘れていた事があるらしい。
皆に言いに行こうと、医務室を後にしかけていたようだ。
それなら、自分が話を聞いて皆に伝えるからと、マルスは申し出た。
ネスと子供リンクは、じゃあお願いしようかなと、マルスを医務室へ招き入れる。


「あ、マルス」
「アキラ、犯人について言い忘れてた事って?」


マルスが訊ねると、彼女は少し言い難そうにしていたが、意を決して口を開いた。


「襲われた時に、抵抗して暴れたら少しだけ声が聞こえたんだけど……。聞く限りは、男だった」
「男……。間違い無い?」
「間違い無いと思う。何となく、体つきも男っぽかったから……」
「……」


犯人は、男。
これがアキラの主張だと言うのなら。

間違い無い。
犯人は、やはり……。

分かった、皆に伝えておくからと、マルスは医務室を後にした。
不安そうなアキラ、Dr.マリオやクッパ、ネスと子供リンクにも見送られ、マルスはメンバー達がいる広間へ向かう。

もう、犯人は分かった。
後は少しだけある、おかしい部分の謎を解けば……。
しかしそれは、謎と言う程のものでもないだろう。
マルスはもう、全てに目処がついていた。
動機が全く不明だが、それは本人に訊かねば分からない筈だ。

決着は、近い。





−続く−





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