第4話 束の間の平和



一体、自分達が何をしたと言うのか。何故、こんな事になったのか。
……そもそも、一体、何が起こっているのか。誰も分からない。
既に8人のメンバーが消え去り行方が分からず、こんな事をした犯人と思しき人物……、

・人間の形をしていた
・フード付きのローブを着ていた
・手には何か武器のような物を持っていた

……この人物の事さえ、分からない。
今、スマブラファイター達は危機に瀕していた。


++++++


「アキラ!」


突然聴こえた自分を呼ぶ声に、アキラは驚いて顔を上げた。
振り返ると、マルスが慌てて走って来る。


「マルス……」
「何やってるんだ、犯人はまだ捕まってないのに!」


アキラは、広間を出た廊下の先の突き当たりにある窓から外を眺めていた。
どうにも遣り切れなくなって、1人になりたかった。
心が押し潰されてしまいそうで、ギリギリと苦しくて、耐えられそうにない。
マルスは、広間からアキラの姿が消えていたため探しに来たようだ。


「何かあってからじゃ遅いんだよ。頼むから心配させないで欲しい。……君が死んでしまったら僕はとても……」
「……有難う、マルス」


自分を心配し、気遣ってくれる者が居るのは心地良い。
アキラは静かに微笑みを向けると、再び窓の外に顔を向ける。
そのままアキラは、少し寂しそうにマルスへ話しかける。
窓の外を眺めているため表情は見えない。


「ねえマルス。次々と仲間が消えて……私、これからどうしたらいいと思う?」
「アキラ……」


どうやら仲間を助けられない自分を悔やんでいるようだ。
そんなの、アキラのせいではないのに。
マルスは彼女を安心させるように微笑んで、優しく励ます。


「これ以上、皆を悲しませないようにすればいい。仲間を助けられないのが悔しいのは分かるけど、それで無理して死んだりしないで」


きっと、みんなが悲しむ。
大事な事はただ3つ。
早く犯人を捕まえる事、消えた仲間を見つける事、そして何より、これ以上犠牲者を出さない事だ。
しかしアキラは……。


「……ごめん、マルスに訊いたって仕方ないよね」
「え……?」


どこか冷めたような様子を見せ、アキラは「忘れて」と呟く。
どう対応していいのか分からないマルスはただ名を呼ぶしかできないが、アキラは次の瞬間には平常に戻った。
心配かけてゴメンね、広間に戻ろう、と力なく微笑む。

アキラは、すっかり疲れてしまっている。
マルスは、そんな彼女の手を、労るようにそっと握った。
一瞬ビクリと驚いたアキラだったが、抵抗は無かった。


++++++


「マルス! アキラ見つかったんだね!」


カービィの弾けるような声に、アキラとマルスは笑みを向ける。
広間に戻ると、ファイター達が駆け寄って来た。


「もう、アキラったら無事で良かったわ、心配しちゃったじゃない!」
「ゴメン、ピーチ姫……」
「マルスも、1人で探しに行くなんて事はしないで下さい」


とにかく、無事ならそれでよかったとホッとする。
さぁ、早く犯人を突き止めなければならない。
大体フォックス達4人が相手でも、犯人は彼らを倒してしまった。
ひょっとすると、犯人は1人ではないのかもしれないというアキラの言葉に、周りは頷く。
Dr.マリオも口を挟んで来た。


「もしかして誰も敵わないくらい、もの凄く強いのかも……」
「こら、縁起でもない事を言うな!」


クッパが突っ込むが、そう言う事も充分に有り得るのだ。
暗くなる一同の雰囲気を払拭するかのように、ロイが声を張り上げた。


「あーもう、犯人が誰だろうが強くなんないとダメだろ! 特訓行くぞ!」
「え、今!?」
「今だよ。最近誰も戦ってねぇし!」


確かにそうだ。
事件の事にかかりきりでここ数日、誰も乱闘や鍛錬をしていない。
正直それどころではない、何て不謹慎な…と思っても、今の状況を打破するきっかけがない以上、雰囲気を変える為にも違う事をするのは悪くないだろう。


「確かに、このままじゃ体が鈍っていくばっかりだと思う。行こうよ」
「……そうだね」


アキラの一言も後押ししてファイター達は鍛錬を兼ねた乱闘へ行く事にした。
体が鈍っていてはいざと言う時に危険だし、鈍らなくとも、溜まったストレスを発散する事は必要だ。


「よっしゃ、アキラ! 俺と組もう!」
「へぇ……? リンク、この僕を差し置いて、そんな事を言っちゃうわけだ」
「お前ら邪魔だっての! 俺がアキラと組んで戦うんだからな!」


毎日のように繰り広げられていた、この3剣士の口論がやけに懐かしく感じる。
ただウンザリするだけだったアキラも苦笑いするだけだったファイター達も、久々の平和な雰囲気に、自然と笑みを浮かべた。


++++++


「じゃあピーチ姫、準備は完璧なのね?」
「えぇ、アキラ。城のセキュリティはばっちり強化してあるし、ファイターも全員揃ってるわ」


留守中に何も無いよう、城の守備は以前より遥かに完璧にしてある。
そして、乱闘に行くのもファイター全員だ。
乱闘に行って、犠牲者が出たのでは元も子もない。


「じゃあアキラ、犯人の他にも危ないのが居るから僕と手を繋いで」
「マルス! 勝手な事言うなよ!」
「明らかにお前の方が危険だっつーの!」
「ん? いつ君達の事だって言ったっけ?」
「……」
「まったく3人とも…」


久し振りに楽しい気分になりながら、ファイター達は仮想空間の乱闘ステージへ向かう。


……この行動が、「犯人」の計画のうちとも知らずに。





−続く−





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