第3話 不穏



ピーチ城に重苦しい空気が蔓延している。
既に4人が消え、城の使いのキノピオ達も、半分以上が消えていた。
血だけを残して。


「何なんだよ……。一体何なんだ!」


マリオの悲痛な叫びに、ファイター達が暗くなった。
あれから数日。
最近は出来るだけ団体で行動するようにし、今も城の広間に全員が集まっている。
一体自分達が何をしたのか、誰が何の目的でこんな事をしたのか、やりきれない思いが巡る。
アキラは惨劇を目撃したのがショックだったのか、あれから沈んでいた。
元々あまりテンションが高い方ではないのだが、最近は更に元気がない。


「アキラ、大丈夫か?」
「……消えたみんなは、生きてるのかな……」
「無理に考えるな。辛くなるだけだ」
「うん……分かったよフォックス」


とにかく何故アイスクライマー達が消えたのか、何故血だけが残り体は無いのか、そして、こんな事をした犯人は誰なのか。
それを突き止めなければならない。
ピチュー達が見た怪しい人影の特徴を整理してみる。

・人間の形をしていた
・フード付きのローブを着ていた
・手には何か武器のような物を持っていた

たったこれだけだが、ピチューとプリンの脅え切ったあの様子、絶対に何かを見ている筈だ。
アキラは思い、何かほんの少しでも手掛かりが無いか考えてみる。
サムスが顔を見なかったかと訊いた時、2人は相当に緊張していた。
きっと、何かを見ていたに違いない。

人の形、つまり人間。
フード付きのローブは顔や体を隠すために着ていたのだろう。
一番曖昧なのは、その人物が持っていた武器のような物だが……。
武器『のような』物とは一体何なのか。


「曖昧……。見ても何だか分からなかったのかも」
「うーん……。見ても分からなかったって言うより、小さくて良く見えなかった、とか?」


ルイージの言葉に、それもあると一同は頷く。
とにかく、今はこれ以上犠牲者を増やさないようにしなければならない。
取り敢えず何か行動を開始しようとした瞬間、アキラの体がぐらりと揺らいで倒れかけた。
慌てて、傍に居たリンクが抱き止める。


「おいアキラ!」
「ごめ……何か……ちょっと横になっていい?」
「あぁ。寝てろ」


ソファーに横になるアキラ。
可哀相に、疲れていたのかすぐに寝込んだ。
明らかにあの惨劇を目撃してから、顔色も悪く、食も細くなっていた。
このままでは彼女が先に参ってしまいかねない。


「……そうならない為にも、対策を考えないとな」


フォックスの言葉に、メンバー達は考え出す。
小さくても、出来る事はやっておいた方がいい。
彼らは取り敢えず、1人部屋の者を他の者と同室にし、常に二人以上で行動する事を決めた。
理想は3人以上、多ければ多い方がいい。


「ピーチさん、各部屋の扉や窓の鍵も、もっと丈夫な物に変えましょう」
「そうね、ゼルダ。今日中に頼んでおくわ」


これ以上犠牲者を出す訳にはいかない。
一同が、決意を新にした瞬間だった。


「なに、あれ!?」


カービィの突然の叫びに、彼が指差す方を見るメンバー達。
大広間の奥に、いつの間にか画面のような物が浮いていた。
暫く荒れていたが、突然映像が表れる。
メンバー全員の顔が、パネル状に並んでいる映像。
乱闘をする時、参加メンバーを決める物と同じだ。


「ねぇ……ポポとナナとピチューとプリンの所、×マークがついてるんだけど…」


ネスの言う通り、消えてしまった仲間の所に×印が付いている。
このパネルを出した者がメンバー達を始末しようとしているのだろうか?
誰もが、不気味な物を見る目で画面を見ている。

長い沈黙を破ったのは、アキラだった。


「そのパネルの出所を調べれば…、犯人が分かるんじゃ?」
「アキラ、大丈夫か?」


心配して駆け寄って来る一同に、アキラはゆっくり体を起こす。
そしてすぐに、真剣な表情で画面を見据え告げた。


「居なくなったファイターに×印。犯人しかいないでしょ」
「そうだね……」
「電波を逆に辿ってみる。俺に任せてくれ」


フォックスが名乗り出、ファルコやサムス、C.ファルコンも協力する事になった。
他のファイターは、各部屋の鍵などを頑丈にする為、数人ずつに分かれて各部屋を回る事に。
犯人がどんな能力を持っているか分からない以上、気休めでも出来る事はやっておいた方がいい。


「部屋だけじゃなくて、色んな入り口も頑丈にしないといけないわね」


アキラは、ロイ・マルス・リンクと一緒に、部屋を回っていた。
皆といる時は不謹慎だから大人しくしているが、いつものこのメンバーだけになると、雰囲気が少しはマシになる。
余り重苦しい雰囲気ばかりが続くと、本当にこちらがダメになりそうだ。


「にしても、フザケてるな犯人。俺達に何の恨みがあるんだ?」
「まだ分からないよ、リンク。消えた皆もどうなったのか分からないし……」


ポポ・ナナ・ピチュー・プリン。
彼らは何処に居るのか、どうなってしまったのか。
もし何者かに捕らえられているのなら、一刻も早く助けたい。


「取り敢えず、これ以上犠牲を出さないように……、……ん?」


ロイがふと向こうを見ると、ヨッシーに乗ったマリオがやって来た。
リンクを呼んでいる。


「何だよ……俺?」
「あぁ。何だか向こうの部屋に、変な力が掛かって入れなくなってるんだ」


一緒に居る仲間に調べて貰うと、ゼルダが、マスターソード、すなわちリンクの力が必要だと言ったらしい。
アキラ達は先に広間に戻っていろよと、リンクはマリオ達と行ってしまう。
残されたアキラ達も、彼の言う通りに広間に戻る事にした。
その途中、今度はカービィとDr.マリオがやって来てマルスを呼ぶ。


「……僕?」
「うん。なんだか、向こうの部屋にシールドみたいなのが張ってあるの」
「なかなか壊れなくてな。マルスのシールドブレイカーなら、壊れるかと思って」
「分かった。行くよ」


リンクと同じように、先に広間に戻るように告げ、マルスが去って行く。
それを見送ったロイが、同じく隣でマルスを見送っていたアキラに声を掛けた。


「……なかなか本格的になって来たな、アキラ」
「……」


不安を感じたのか、顔を曇らせるアキラ。
ロイはそんな彼女を安心させるように手を握る。


「んな顔すんなって。お前は俺が守るから」
「……うん」


アキラの手を握ったままロイが歩き出す。
少し、安心出来た。


++++++


「あ、リンク」
「マルスか」


やがて、他のメンバー達と一緒に手伝いに行っていた2人が戻って来る。
なかなか上手くいかず、一度休憩して、今度は皆で挑戦する事にした。
今は広間へと向かっているところだ。


「本当に犯人の奴、何が目的なんだ……」
「私達、どうなっちゃうのかしらね」


マリオとピーチの言葉に、みんな一様に不安な面持ちをしている。


「大丈夫だよきっと!」
「そうそう、カービィの言う通り! いなくなった皆も戻って……、あれ?」


言葉の途中で、ピカチュウが違和感を覚えた。
鼻をヒクヒクと動かし、怪訝な顔をする。
ゼルダが彼に、一体どうかしたかと尋ねると、怪訝な顔で「何か生臭い」と答えた。
……瞬間、一同の頭に嫌な予感がよぎる。

生臭い……。


「ピカチュウ、どっちの方から!?」
「広間の方から!」


全員、息を飲んだ。
今の状況で生臭いと言ったら、真っ先に血が浮かんでしまう。
それが広間から……。


「急ぐぞ!!」


一同は、急いで広間へ向かった。
広間にはフォックス達が居るのに、何が起こったというのだろう。
頭に浮かぶ最悪の光景を必死で払いながら、広間を目指す一同。
確かに、広間に近付くにつれ嫌な臭いが漂いはじめた。

広間へと辿り着き、すぐにリンクが扉を開け放つ。
瞬間に固まったリンクを見て、ピカチュウが横から覗き込んだ。
しかし、彼もすぐに固まってしまう。
そして他のファイター達も、広間を覗き込んで固まってしまった。


「おーい、お前らー!」
「どうしたの?」


丁度ロイとアキラがやって来るが、誰も反応を示さない。
怪訝に思った2人が同じように広間を覗くと……。


「……」


広間の一部の床やソファーが、赤く染まっていた。
画面の出力元を調べていたはずのフォックス達は何処にも居ない。。

そして、メンバーの顔がパネル状に並んでいる画面の、フォックス・ファルコ・サムス・C.ファルコンのパネルに、×印が付けられていた。





−続く−

++++++

補足。
広間に突然出てきた、
「メンバー全員の顔が、パネル状に並んでいる画面のような物」とは、スマブラでキャラを選ぶ時のあの画面です。

さて、もしかしたら今この状態で犯人が分かった人もいるかもしれませんね。
割と簡単な話です。
推理モノではないので、深い推理は全く必要ありません。

話は変わりますが、何だかヒロインの影が薄くなっていますね……。
しかしヒロインの存在もちゃんと意味があります。
そのうち分かりますので気長にお待ち下さい。

ここまでお読み下さって、有難うございます!





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