奇奇怪怪 | ナノ
最初に読むはなし


「束鎖ちゃん所の鬼が、またサボっているよー」
 店内に置いてある古びた木製の椅子に座っている僕に、サヨ婆が話しかける。
 どこか懐かしく思える店内の壁には、木の商品棚が壁の下半分を隠すように並んでいる。
 一昔前の駄菓子屋さんの店内。

「歪人が増えて迷惑だよー。束鎖ちゃんからも何か言ってやっておくれよー」
 店主のサヨ婆に僕は苦笑を浮かべて、そうですねとだけ応える。

「そうだ、束鎖ちゃん。折角遊びに来てくれたんだから飴ちゃんあげるよー」
 差し出された棒付きの丸いそれ。御礼を言って僕は受け取る。
 丸い白い眼球が僕を見上げる。黒い瞳孔は動く気配など微塵も感じられない。
 僕はそれを口に入れる。
 うん、甘い。シンプルな砂糖の甘さがふわりと口に広がる。

 寥烙(りょうらく)某所。
 こちら側では“禍”の強さが全てだ。
 強い禍は“歪”をつくる。
 例えば、飴玉を眼球に見せたり。眼球を飴玉の味にしたり。あとは、実際に無いものを形にしたり。用途は様々。
 まぁ、僕はあまり詳しくないんだけれども。
 サヨ婆の言う鬼は気紛れで、ちゃんとした話は聞いたことがない。

 サヨ婆は病神で、寥烙内に店を構えている。
 サヨ婆はアレさえ口にしなければ大人しい。

 人には言ってはいけない言葉が有ったりする。所謂、禁句って奴だ。
 例えば、「嫌い」だとか、「死ね」だとか。
 「頑張れ」も人によっては禁句だったりする。
 サヨ婆は確か、「何も無いの?」だったかな。
 「○○有りますか?」とかも駄目だった気がする。
 とにかく、サヨ婆には何かが無いといった意図の言葉が禁句なのだ。
 もし言えば、バラバラにされて棚に並ぶ事になる。
 僕は三回ぐらいバラされた。
 長年溜め込んだサヨ婆の禍はちょっとやそっとじゃ渇かない。僕が一万回挑んだところで無駄だ。
 三回バラされたところで、僕は何故かここの常連さんになっていた。
 その時の話はまた今度にしよう。そろそろ帰らないと。
 僕は椅子を立ってサヨ婆に挨拶すると、店を出た。


 外に出ると、僕は“アメダマ”を地面に放って、ぐしゃりと踏み潰した。



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