アゲハさま | ナノ


Will you married me?


「ねぇシズちゃん、結婚指輪の意味って知ってる?」

とある日の夕方のことである。いつものように臨也宅で二人向かい合い、臨也の作った夕飯を食していた時のこと。話題の発端はつけたままの状態であったテレビから十数秒間だけ流れた結婚情報誌のCM。静雄も臨也も、目当てはこの後放送されるクイズ番組だったのだが、臨也の興味は完全にその数秒のCMに持っていかれてしまったらしい。
「結婚してくれって意味だろ」素っ気なく返した静雄は味噌汁を一口啜る。今日のはなんだか味噌味が濃い気がしたが、まぁ許容範囲内だ。
先の素っ気なさからも窺えるようにもうこの話題に興味はない静雄に対し、臨也は終わらせる気がないのだろう。「そのまんまじゃないか」と嘲りの笑みを浮かべたあと、手に持った箸を振りながら話を続ける。

「あのさ。結婚指輪ってよく給料三ヶ月分って言うじゃない?それだけ彼女を思って、色々なものを我慢して、男は彼女にそれを贈るわけだ。それはプラチナだったり、あるいはダイヤだったり形は違えど、男の思いの…彼女への愛の塊であるわけだ。それに女は感動して、男との結婚を決める。言わば男から女への愛の証明。でもね、実際は違うんだよ」

「違う?」

「そう、あれはさ…束縛なんだよ。男から女への愛の鎖さ。俺はお前のためにこれだけ我慢したのだから絶対に逃がさない。そういう宣告が込められているんだよ。いやぁ、恐いよね!そんなおぞましいものは、俺はあげたくもないし、貰うなんてもっとごめんだよ!」

楽しそうに笑う臨也に、冷めた視線を寄越す静雄。常からこういう口上を好まない静雄は臨也の語りにいつも冷めた視線を送ってはいたものの、今日は普段とは少し違うようだ。あまりにも見つめてくるものだから、臨也もまた不機嫌そうな声音で「…なにさ」と問う。すると静雄は臨也を見つめていた視線を机上に戻すと、その箸でたくあんを摘みながらボソリと言う。

「んじゃ、いらねぇんだな」

「え?なにが?」

「だから、結婚指輪」

静雄の言葉に、臨也は絶句する。よりにもよってそんな大事なこと…口内でたくあんぱりぽりさせながら言うなんて…と二の句が繋げない臨也を置いて静雄は続けた。

「一応貯めてた。式も、誰も呼ばねぇし呼べねぇけど…小さな教会とか探して…そっちはまだ見つかってねぇけど、いつか…夫婦みてぇなもんになれればいいか…とか…。つかもう俺達新婚飛び越えて老夫婦みてぇだよな…晩飯にたくあんとかよぉ」

「好きだけど」と言った静雄は今度は白米を口に放り込む。そんな平素と変わりない静雄の隣に移動した臨也は静雄の左腕の服をきゅっと掴むと顔を俯けたまま言った。

「く…ください…」

「いらねぇんじゃねぇの?おぞましいんだろ?」

「し、し、シズちゃんなら…束縛しても…」

臨也のその言葉を聞いた途端、静雄は箸を机上に置いて大きく溜息を漏らした。数秒黙り込んだ静雄に、臨也も我慢の限界を感じたのか「ちょっとぉ」と握っていた服を強めに引く。そんな臨也の手をやんわりと外した静雄は「ちょっと待ってろ」とぶっきらぼうに告げて、二階への階段を上がって行く。
なにがなんだかわからぬまま大人しく静雄の帰りを待つことにした臨也は、先程の自身の発言を思い出し、思わず卓袱台返しを敢行したい衝動に駆られたが後片付けをするのは自分であると思い至り、なんとか衝動を堪えた。しばらく後、静雄が降りてきた様子に視線を投じたと同時に視界を覆う白に驚く。

「うわっ!え?なに!?」

「式、すっぞ」

「はぁ!?」

「おら!さっさと被れ!」

静雄に頭を掴まれた。結構痛い。視界の利かぬままズルズルと布がずれていく感触。どうやら寝室から持って来たのは白いシーツのようだ。やっと視界が開けた先に居たのはもちろん静雄である。その顔はすごく赤くて、不覚にも可愛いと思ってしまったのは内緒だ。その、自分の気持ちを誤魔化すために臨也は静雄にからかい混じりの言葉をかけたが、むしろそれが仇となった。

「赤くなるぐらいならしなきゃいいのに」

「手前が、悪いんだろ…。束縛しろなんざ、どんだけ殺し文句だと思ってやがる…」

再度自身の発言を思い出し、恥ずかしくて視線を逸らす。だって、そう思ったのだ。静雄になら…この先、生涯ずっと…。

「臨也。指輪は今度だ。けど…今…」

――結婚、してくれるか?――

自身満々にシーツを被せたくせに、最後は不安を拭いきれない静雄が可笑しくて仕方ない。

(俺の答えなんて決まってるのにね…)

臨也は静雄への答えを唇に乗せた。しかし、それは音になることはなく、静雄の唇に直接吸い込まれるように消える。

だってほら

結婚式に誓いのキスは付きものでしょ?


Yes of course!






*大変遅くなり申し訳ありません!シズイザ結婚式ネタでした!白いシーツで結婚って素敵だな…って思ってこんなハンパな形ですが、一応自分の中では結婚式ネタのつもりです。
アゲハさま、リクエストありがとうございましたぁ!


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