田島さん | ナノ


池袋的平和論


「平和っすね〜」

「本当だねぇ〜」

午後の一時。空は快晴。雲一つなし。都会だからこその喧噪も慣れてしまえばうるささなんて感じない。そんな乙女の聖地池袋では今日も平和の証拠として…

自販機が宙を舞う。

「いぃぃざぁぁぁやぁぁぁ!!!!」

直後に起こった自販機の落下音に負けない程の怒号を耳にしながらも平和である、などと言う後方の二人に門田京平は呆れながらのツッコミを忘れない。

「お前ら…この状況でよく平和だなんだと言えるもんだな…」

門田の言う『この状況』とは、前方を走る二人の人物。折原臨也と平和島静雄。それを追いかける一台のワゴン。後方には破壊し尽くされた街。門田達は渡草の運転するワゴンに乗って、もはや公害と呼んでも差し支えない迷惑コンビを追いかけている真っ最中なのだ。普段なら関わることもなく『あぁ…今日もやってんなぁ…』と傍観決め込む門田達だが、今日はそうも出来ない理由があった。

「くっそぉぉ!!なんであの二人のために俺がルリちゃんのイベント諦めなきゃなんねぇんだよぉぉぉ!!」

涙を流しながら、悪態をつく渡草のハンドルを握る手は力を込めすぎているせいか白く変色している。それを横目で見ながら、門田は心の中で何度目になるかわからない謝罪を渡草へと送った。
渡草が熱狂的に崇拝しているアイドル聖辺ルリ。全国的にファンの多い彼女の凱旋イベントが本日行われるのだ。場所はこの池袋。凱旋の名の通り、パレード形式の大型イベントには多くのファンが訪れており、池袋は今日だけは乙女の聖地ではなくルリちゃんの聖地となっている。
それだけの大規模イベント。警察ももちろん多い。池袋だけではなく近郊の警察官も相当な数が借り出されている筈である。それはつまり…

『あの二人に耐性のない警官も多くいるということだよ。池袋の警官はもはや諦めの境地かもしれないけれど、常識で考えれば静雄の行為は公共物破損で連行されてもなにも文句は言えない。だから今日だけは大人しくしていてもらわないと困るっていうのに…。セルティは交機が恐くて止められないんだ。だから頼むよ!門田くんしかいないんだ!あの、人の苦労を顧みなさすぎていっそのこと一度じゃなくて四、五回は警察のお世話になってもいいんじゃないかと本当は思うけど寝覚めが悪そうだからしょうがなく馬鹿二人を止めてくれ!』

一瞬門田は、これは本当は放っておいてくれという意味のフリなのだろうかと考えたが、いやいやたしかに寝覚めが悪そうだし、仮にも友人がそんなところのお世話になんてなったら自分が嫌なので、新羅の依頼を引き受けいつもの三人を連れて池袋の中を爆走する二人を追走中なのである。

「え〜?だってさぁ、いつものことじゃん。シズちゃんとイザイザの追いかけっこなんて。これこそ池袋の平和の証じゃない?」

「そうっすよ。逆に仲良く歩いてたりしたらどうしたことかと思うっす」

「え?なにそれ?仲良く?手を繋いで?きゃあ!デートじゃん!初々しくてそれもまたいいねいいね!」

「狩沢。勝手に脚色するな。それに今は、あれをどうやって止めるかを考えてくれよ」

門田は後部座席の二人に声をかけつつも視線は前方より外さない。静雄は一方通行の標識を振り回し、臨也が頭を下げてそれを躱す。いつもと変わりない風景ではあるが、今日はこの風景がどんな悲劇を招くかわからない。早く止めなければ。臨也が後方を振り返るその瞬間、門田はふと違和感を感じた。

「今日の臨也…。なんか変じゃねぇか?」

「べつに普通に見えるっすけど…」

「どっちでもいいから早く考えてくれよ!ルリちゃんのイベントマジで終わっちまうよ!」

渡草の悲痛な叫びに門田の気持ちが焦る。どこだ?なんだ?なにが違う?
必死に違和感の正体を探ろうとする門田に狩沢がぼそりと答えを出した。

「イザイザ…怒ってる?」

そうか。表情が違うのだ。いつもなら怒っているのは静雄だけで、大抵臨也は梳かした余裕の笑みを見せている。だが、今日の臨也は狩沢の言う通り怒りがその顔を支配していた。

「おい!窓開けろ窓!」

物が飛来してはいけない、と締め切っていた窓を全開にして二人の会話を聞き取ろうと四人は耳を澄ます。
最初こそ喧噪に紛れていたが、だんだんと二人の会話の内容が明らかになってきた。

「だから!手前の誤解だっつってんだろ!なんべん言わすんだこのわからずやが!!」

「そうやってムキになるのが怪しいって言ってんだよ俺は!『サクラです今度はおみやげ持って来てネ』ってどういうことだよ!今度ってなに!?約束したわけ!?信じられない!」

「してねぇし!ありゃあの手の女の常套手段だろうが!取り立てで行った先で貰っちまっただけだっつうの!」

「それを持って帰るっていうのが本当ありえない!彼氏の仕事着洗濯してあげようとしたらそんなの出てきたんだよ!?キャバ嬢の名刺だよ!?俺の気持ちになってみなよ!」

「俺は手前じゃねぇんだからわかるわけねぇだろうが!!」

「開き直るとか最っ悪!もう知らない!俺だって、浮気する相手いるんだからね!シズちゃんと違って四木さんは包容力もあるし大人だから!俺幸せにしてもらうんだから!」

「てめっ!四木って誰だぁぁぁぁ!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!痴話喧嘩よ!痴話喧嘩!!」

外に呼応して車内も果てしなくうるさい。続く眼前の迷惑…カップルの言い合いにその内容にいちいち悲鳴を上げつつもメモをとる後方の甲高い声。加えてパレードがすぐ近くまで来たらしくド派手な音楽まで聞こえて来た。それに反応して渡草が勝手にハンドルを切った。視界が変わり、迷惑カップルとは反対方向へと進むワゴン内で、今度は狩沢と渡草の言い合いが始まった。遊馬崎が止めに入るがその制止は全くの無意味に思える。
全ての音を遠く感じながら門田は思った。

もう…いいか…。





後日のことである。
今日は仕事の関係で徒歩移動中だった門田の前に現れたのは、静雄と臨也であった。二人並んだ状態で。並んだ二人というのが驚きでありつつも、門田の脳内には先日の出来事が去来したため、少しだけ冷静に二人のことを迎えることが出来た。

「二人そろってなんて、めずらしいな」

穏やかに声をかけてやる。すると、臨也が手に持っていた紙袋をこちらへと差し出してきた。なにがなんだかわからないままにそれを受け取ると、臨也がもじもじしながらこの紙袋の意味を説明してくれた。

「新羅から聞いたんだ。ドタチン、俺達を思ってあの日俺達のこと追いかけてくれてたんだってね。ごめんね。俺はシズちゃんしか視界に入ってなかったから全然全くこれっぽっちも気付いてなかったんだけど、本当に持つべき者は親友だなって思ってさ。コレはお礼のつもりで焼いたクッキーだよ。まぁ、シズちゃんに作ったやつのあまりなんだけど、ついでに言うと何枚かこげちゃってるんだけど、ドタチンなら大丈夫だよね!なにより俺の感謝の気持ち受け取らないなんてことドタチンがするわけないって俺は信じてる!」

「………サンキュウ」

ツッコミたいことが多すぎて、もはや門田は諦めるのが最前の策であると悟り、なにも言わずに多少こげついているらしいクッキーを受け取る。
でもまぁ、その後何事もなくパレードは終わったし、渡草も少しだけだったが聖辺ルリの姿を見られて満足そうだった。翌日、静雄が普通に仕事をしているのを見かけたから、大事なくあの日が終わった事がわかってはいたが、こうして本人達に感謝(かどうかは微妙なところだが)の気持ちを表されることに、門田も嬉しい気持ちにならないではなかった。
ふと、静雄を見ると、静雄も今日は大人しい。なにか声をかけるべきだろうか?

「あ、と…仲直り出来て…よかった、な?」

とりあえず静雄の機嫌を取ることが出来そうな話題を振ってみたが、門田にはめずらしくも彼は選択を間違えた。

「お?おぉ、まぁこいつが俺にベタ惚れだってのは今に始まった事じゃねぇから、いつまた似たような喧嘩になるかわかんねぇけどよ」

「ちょっと…聞き捨てならないんだけど?シズちゃんが俺に惚れてんでしょ?臨也くん愛してるって言ってごらんよ」

「馬鹿か手前。結局キスの一つもすりゃすぐ納得するくせに逃げ回りやがって。しかし、キス一つで納得するなんて簡単な奴だな手前は」

「簡単な奴ってどういうこと?騙したの?俺のこと騙したの!?シズちゃんはやっぱり浮気者だ!一度死んだらその浮気症治るんじゃないの!?」

臨也が袖口から取り出したナイフが一閃静雄の頬を撫でた。静雄の表情が…
変わる。

「い〜ざ〜やぁぁぁぁ!!!」

門田の目の前で繰り広げられ始めたいつもの光景。看板が飛び、標識が抜け、コンクリートが剥き出しの地面。それを見て門田が思ったことは一つ。

あぁ、確かに、平和だな…。






*大変お待たせして申し訳ありません!
戦争カップルがあまり出てなくて、鬼ごっこもあまりしてないし…ドタチンが主張激しくてすみません!
リテイクはいつでもお気軽にです!
田島さん!企画ご参加本当にありがとうございました!らぶっ!

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