腕の中の躯を抱きしめて、匂い立つ甘い香りを肺いっぱいに吸い込もうと首筋に顔を埋めれば、持ち上がった手に髪を掴まれる。
 ダメージがあるわけではないが、地味に痛い。その行為に静雄は不満そうに顔を上げた。
「んだよ」
「いい加減どいてよ。俺シャワー浴びたいんだって」
「後で洗ってやるから、もうちょっと待て」
「やだよ。シズちゃんにしてもらうとそれだけじゃすまないもん」
 早くどけと促す臨也を苛立たしげに睨みつけても、臨也はどこ吹く風だ。
(んっとにこいつは…)
 先ほどまで、静雄の腕の中で可愛く鳴いていたというのに、終わってしまえばこれだ。二週間も会えなかったのだから、その分堪能させてくれてもいいではないか。そもそも、二週間も会えなかったのだって臨也の仕事のせいなのだから。
「シズちゃん、聞いてる?」
「うっせぇよ」
 強制的に黙らせてしまえ、と顔を近づければ、なぜか臨也の唇より先に、指先が静雄の唇に触れた。
「だーめ。その手には乗らないよ」
 唇を押さえた臨也は、してやったりと得意げに笑うが、まだまだ甘い。


 その程度で、静雄が引き下がるわけがないのだ。


「ちょっ…!」
 唇を押さえる指に舌を這わせれば、臨也は慌てて手を引こうとする。だが、腕を掴んでしまえば臨也にはもう抵抗する術はない。舌の這う感触を、唇を噛んで耐える臨也を横目に見ながら、静雄は見せつけるように丁寧に指の一本一本に舌を這わせる。
 唾液でべたつくから臨也は嫌がるが、静雄はこうして臨也に触れるのが―――臨也を舐めたり噛んだりするのが好きだった。
 だって、臨也は甘いのだ。
 人間が物理的に甘いなどあるわけがないが、静雄にはいつだって臨也は甘く感じられた。それこそ、臨也とこういった関係になる前から、ずっと。
 甘い匂いを振りまいて静雄を誘うくせに、けっして静雄のものにはならない臨也が憎らしくて、苛立って。いっそのこと、殺してしまえば手に入るかと、本気の殺意を向けた。
 臨也とこういった―――所謂恋人という関係になっても、未だに手に入れられたという実感はない。
 いっそのこと、全部全部―――骨まで砕いて溶かして、己の内に取り込んでしまえば。そう考えた事は、一度や二度ではない。
 けれど―――
「シズちゃん、も…離してよ」
 指がふやけちゃう。
 この甘さを含んだ声や、切なそうに見上げてくる濡れた瞳が無くなるのは我慢できないから。
「臨也」
 好きだ。愛してる。
 そう囁いて、飢えを満たすために静雄は再び臨也をベッドへと押しつけ、噛みつくように接吻けた。





あれくらいで僕が満足するとでも


(俺がいなきゃ息も出来ないくらいに溺れさせるまで、満足なんて出来るはずがない)




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企画サイト「きみがいない世界なんて、」様に提出
しず→→→→→いざは正義!


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