それはまさしく、一目惚れだった。




「新羅はけっこう猫っ毛なんだよ。そうは見えないけど触ると気持ちいいんだよ」
「ふぅん…」
「ドタチンは逆に剛毛なんだよね。でもあれはドタチンに合っててカッコいいんだよね。コシが強くてさぁ」
「ほぉ…」
「波江さんの髪もサラサラしてて触りがいあるんだよ。拝みに拝んで拝み倒して漸く触らせてもらってさ、ついでにちょっと髪をいじらせてもらったんだけど、それを弟に褒められたらしくって、次からも触らせてくれるってなったんだ〜」
「…そうか」
「あ、勿論シズちゃんのが一番だよ!硬すぎず柔らかすぎず、俺の手にフィットするこの髪質!まさに理想そのものだよ!」
「…それは解った。解ったから、いい加減降りろ」
 静雄の膝の上に乗り上げて躯を密着させたまま、静雄の髪に頬ずりしそうな勢いで愛でている臨也に、静雄は溜息をついた。
「やだ。久しぶりなんだからもうちょっと」
「襲うぞ」
「後でね」
 素っ気なく返して、臨也は静雄の髪をいじっている。
(あー…くそっ、なんでこうなった…)
 臨也とは、久々の逢瀬だった。会えなかった期間を埋めるようにのんびりいちゃついて、甘い空気を醸し出していた筈なのだ。
(「お風呂入ろう」なんて誘われたら、そっちの誘いだと思うだろうが!)
 それなのに…
「シズちゃん、髪の手入れサボってたでしょ」
 そんな言葉で、ピンク色の空気は一瞬にして流れてしまい、今のこの状況が出来上がってしまった。
 恋人にくっつかれて、嬉しくないわけがない。しかも、その恋人は大きさの合わないシャツ一枚―――所謂、彼シャツ状態だ。そんな扇情的な格好の恋人にくっつかれればやる気もアップしそうな筈なのに…




 その恋人の意識は、今全て『髪』に持っていかれているのだ。




(泣いてもいいよな、これ…)
「シズちゃんは元々がいいんだから、手入れ怠ったらダメだよ。まぁ、染めて傷んでた髪が俺の手で元気になるのは快感だけど」
「…なぁ、臨也…手前俺と俺の髪とどっちが好きなんだよ」
「は?」
 呆気にとられたように目を瞠る臨也を、静雄はジーッと睨みつける。
 その拗ねたような表情に、臨也は思わず吹き出した。
「ぷ…っ、あはは!シズちゃんってば自分の髪に嫉妬してんの?」
「…うるせぇよ…」
 自分でもどうかと思うが、気になってしまうのだからしょうがない。
「莫迦だね、シズちゃんは」
 臨也は苦笑しながら、静雄の頬を包み額を合わせるようにして静雄の瞳を覗き込む。
「俺は人の髪が好きだけど、その中でもシズちゃんの髪が好き。シズちゃんの髪だから、好きなんだよ」
「……」
「そもそもさ、シズちゃんの髪って手入れもロクにしてなかったから結構傷んでたんだよ。好きじゃなかったら、わざわざ手入れするなんて面倒な事しないよ。俺は」
「…手前は少し髪から離れろ」
「シズちゃんこそ、俺を襲うの少し控えてよ」
「無理だ」
「じゃあ、俺も無理」
 愉快そうに混ぜっ返す臨也に、静雄は溜息をつく。
(…仕方ねぇか)
 臨也のこれは筋金入りだ。なにせ、喧嘩という名の殺し合いを繰り返していた高校時代から、静雄の『髪』は好きだといって憚らなかったのだから。




 今でも思い出す。『大好き』と笑った顔と髪に絡められた指先。
 信じられない程優しい顔をした臨也を見たのが、この想いの始まりだったのだから。




「この髪も含めて、俺の大好きなシズちゃんなんだからね」
 クスクスと笑って、臨也は静雄の髪に接吻けた。



運命だと思わないか





(ところで、あの流れだったら普通口にするもんじゃねぇ?)
(シズちゃんのエッチ〜)
(…よーし解った。手入れの礼にいーっぱい気持ちよくしてやるよ)
(あ、あれ?シズちゃん顔怖い…って、ちょっ、ま…っ!)


合掌




素敵企画『君色中毒』様に提出させていただきました。
シズちゃんをイジメるのは楽しかったです←
そして髪フェチな臨也も楽しかったです(笑)
参加させていただけて楽しかったです。
ありがとうございました〜!



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -