短編 | ナノ
▼ (銀時) まんぷくバースデー2018


「あーあ、今週号も読み飽きたなあ」

ソファーに寝っ転がってジャンプを読みながらだらける毎日。
夏は蜂の巣駆除とかプールの監視員だとか何かと依頼があったが、涼しくなってからは閑散期で怠け放題。そんな時、一本の電話が鳴る。

「はい、万事屋でーす」
『あ、銀さん?今ひま?いつものファミレスに居るから来てよ』
「ハァ!?どちら様ですか仕事の依頼ですかァ!?」
『とりあえず待ってるから来てね!』

まあ名乗らずとも声で分かるけど、言いたいことだけ言ってすぐ切りやがって。
定春の散歩に行ってる神楽に一応書き置きをして家を出た。

ファミレスに着くと、窓際の席には気味の悪いくらいにニコニコした名前と大量の料理。
いちごパフェ、プリン、ハンバーグ、ステーキ、オムライス、パスタ、フライドポテト、ピザ、ドリア、サラダ、ソーセージ等……メニュー全制覇とまではいかないが、人気メニューが勢揃い。見てるだけで胸焼けがする。

「……えーと、あと何人か来る予定?」
「銀さんだけだよ!さあ、たーんとお食べ!」
「まじでか」

こいつはいつも節約と言って、豆苗の再生栽培だかなんだか知らねーが、豆を水につけて育てて食ってるような女だ。なのに唐突な大盤振る舞い、何か企んでるに違いねェ。
怪しいなと思いながらも、目の前にある溶けかけのいちごパフェに食らいつきながら様子を見ることにした。

「おいしい?」
「おう」
「良かったー!」

パッと大輪の花が咲いたような笑顔。
こいつの笑顔には癒し効果があるんだが、今日は嫌な予感しかしないのは何故だろう。

「名前は食わねーの?」
「私はいいの!」
「……ちょっと神楽呼んできていい!? あいつ腹空かせてると思うんだよねェ!」
「銀さん、今日はね、二人で居たいの」

手を伸ばしてきて、ぎゅっと握られる。
お前こういうこと滅多にしないじゃん!!え、なに、怖い、何かしたっけ俺ェ!?浮気なんてしてねーし、もしくは……逆に浮気されてるゥ!?
浮気してる奴は罪悪感で相手に優しくするって言うし、何かと勘繰ってしまう。いやいやこいつぁそんなタマじゃねえよ、違う違う。
あっ、もしかしてこの前客の依頼でやらしい店に行ったの見られたとか!?確かに店には入ったけどそういうサービスは受けてないからね、勘違いしないでよね。

戸惑いを誤魔化すようにドリアを掻き込むと、思った以上に熱くて口の中を火傷した。

「次はソーセージでも食べな?」

フォークでぐさりと刺したそれを俺の口元に運んでくる。
お前のソーセージもこうなるぞ、と言われているような気がした。怖い怖い怖い怖い怖い。

「ちょ、ちょっと待てって。順番に食べてるからさァ?」
「んー、まあゆっくりでいいか。急かしてごめんね」

まずは重めのやつから潰していくかとステーキにがぶりつくと、その様子を頬杖を付きながら目を細める名前。
そんな嬉しそうな顔、久々に見た気がする。

「……急にどうしたんだよ。なんかあったか?」
「へ?」
「いきなり呼び出してこんな量の飯頼んで何企んでんの?お前金あんの?」
「……もしかして、覚えてないの?今日は大切な日なのに」
「あ?あー……、覚えてる覚えてる!アレだろアレ!あの日!」
「そんな女の子の日みたいな言い方しないでくれる?」

正直わからん。
大切な日ってなんだよ記念日か?いちいち付き合った日とか覚えてねェし、一年以上付き合ってんのに今までそんなの一度も無かっただろうが。思い当たる事と言えば、

「あーアレだよな、俺とお前が初めてセッ……すみません」

目の前のソーセージがまたグサッと一突きされ、俺のソーセージも縮み上がってしまう。

「……はあ、なんで自分の誕生日忘れちゃうかな」
「え、は?」
「今日は!銀さんの!誕生日でしょ!」

そう言えばそうだった気がする。
この歳になると誕生日とかどうでもよくなるし、別にめでたいモンでもねーしすっかり忘れていた。

「私あまり料理得意じゃないしさ、せめて誕生日だけでも美味しいものたくさん食べて欲しくて。貧乏だからファミレスになっちゃったけど」

そう言う名前の腹が鳴る。
ぱっと腹を抑え恥ずかしそうに目を逸らした。
誕生日祝いたいなら最初からそう言えばいいのに。腹が減ってんなら一緒に食えばいいのに。いじらしい名前がたまらなく愛おしくなってしまう。

「こんな量一人で食い切れるわけないからよ、一緒に食ってくんね? それに飯は一人で食ってても美味くねーだろ」
「……もー、仕方ないなあー!」

相当腹が減っていたのか、勢いよく食らいつく。
俺ァお前の美味しそうに食ってる時の顔が一番好きだせ。

「あ、」
「ん?」
「……お財布も家に忘れてきちゃった」
「………」

嫌な予感が的中した。
300円しか手持ちになかった俺は頭が真っ白になった。元々真っ白だろってツッコミは後にしてくれ。

結局通りすがりのお妙に二人で頭を下げて貸してもらい、なんとか食い逃げだけは免れた俺たち。

「ほんとお前どんくせェな」
「へへ」
「なーに喜んでんだよ。別に褒めてねえよ」
「銀さん、」
「あー?」
「来年も祝わせてね」
「おう、来年は財布忘れんじゃねーぞ」

もう時期冬が来る。
少し冷えた風が首を掠め、「寒いね」と名前が冷たい指を絡ませてくる。
街中の顔見知りに冷やかされながらも、二人手を繋いで歩いた。


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