▼ (土方) 地獄まで
「土方さーん、構ってよぉ」
「うっせ、テメーは非番かも知らねえが俺ァ仕事中なんだよ。邪魔をするなら出ていきやがれ」
「ヒュー、相変わらずクールだねえ」
「暇なら手伝うか?」
「いえ、結構です」
土方さんとお付き合いを初めてもうそろそろ半年が経つ。
好きになったのは私で、全然相手にされてなかったけど押して押して押しまくってやっと手に入れたのである。
まあ、今も殆ど相手にされていないけど。
今は土方さんのタバコの臭いが染み付いた部屋に2人きり。土方さんは始末書や報告書の処理をしていて、特に用事もない私は横でごろごろしながらマガジンを読んでいる。
「イチャイチャしたいー」
「…」
「土方さん無視ですか!?」
「…」
「ねー!土方さーん!ねー!聞いてるー?」
「あー!!!!うるっせえ!!!出ていけ!!」
ポイッと捨てるように部屋から締め出された。
ちぇー、これじゃ付き合う前と何も変わらない。
土方さんの周りで私がギャーギャー騒いて、土方さんがうるせえって怒って…
付き合ってくれたのだって私がしつこかったからとりあえずOKしてくれただけで、別に好きでもなんでもないんだろう。
そう考えるとなんか辛くなってきた。
私はその場で三角座りし、膝に顔を埋める。
「おい、そんなとこで寝てっと風邪ひくぞ」
私は三角座りをしたまま寝ていたようだ、腰とお尻が痛い。まだ頭が寝ているのか動けずにいると、顔にタバコの煙を吹きかけられて咽せる。
「おい、寝ぼけてんのか?」
「……土方さん、私のこと好きですか?」
「はァ!?なんだいきなり」
「答えてください!!」
「……」
つい口にしてしまった。
けど、彼は答えてくれない。やっぱり舞い上がってたのは私だけだった。
「もう!土方さんなんて嫌い!」
それだけ吐き捨てて全力で走った。暫く走って振り返ってもやっぱり追いかけてくる人は居なくて、なんだか腹が立ってまた土方さんの部屋に走って戻った。
「なんで追っかけてきてくれないんですかァァ!!!!」
「なんでって、走って行ったのオメーだろうが!!!」
「こういう時は追いかけるんですよ!!!女の子は追うより追われたほうが幸せなんです!!!私は土方さんのこと地獄まで追いかけますけどね!!」
「女ってめんどくせぇ…」
「あと嫌いって言ったのは嘘です!!ほんとは…!」
「…いい、言わなくていい」
土方さんは頭をボリボリと掻きながら小さくため息を吐く。大きな手のひらが私の頭に触れ、そのまま引き寄せられ少し荒れた唇が私の唇にそっと触れた。
一瞬何が起きたのか分からなくて思考が停止する。土方さんは顔を真っ赤にして仕事の続きをするからと部屋の戸を閉めてしまった。
「……ひ、ひじかたさんが!土方さんが初めてちゅーしてくれたァァ!!!!!!!」
嬉しくて嬉しくて叫ばずには居られなかった。
あまりにも大きな声を出すからまた怒られたけど、もうそんな事でへこたれません。
だってあの土方さんがちゅーしてくれたんだから!
これからもついていきます!地獄までね!