短編 | ナノ
▼ (沖田)アンハッピーバースデー

※ハッピーエンドじゃないです 沖田くんが失恋します






「私、結婚するかも」

昼下がり、2時間2980円、二人並んで寝ても余裕のある大きなベッドの上。
さっきまであんなに乱れていた息も落ち着き、生まれたままの姿で微睡んでいると、唐突にそんな事を言いだした。

「……は?何寝ぼけたこと言ってるんでさァ」
「総悟には言ってなかったけど、この前親にお見合いさせられてさ。その人と結婚するかもしれないんだよね」

本当に何言っているんだこの女は。
寝ぼけているのは自分の方かもしれないと、舌を軽く噛んでみるとしっかり痛かった。

「…………」
「もうこうやって遊べなくなるね。けど、総悟なら女の子選び放題でしょ?」
「俺たち遊びの関係だったのかよ」
「え、違うの?」

まあ好きだとか、付き合おうだとか、言ったことは無かった。
初めて体を重ねた日、あの日は無性に苛立っていたから、街でこの人に逆ナンされてついて行った。
普段はそんな事はしないが、誰でもいいから無茶苦茶にして、屈辱に歪む顔を見て発散したかった。けれど骨抜きにされたのは俺の方で、体の相性が結構良くて定期的にホテルで会っていた。普通のデートとやらはした事がないけれど、外で会う口実が無かっただけで。
柄にもなく会えると嬉しくて、これからもずっとこんな関係が続くと思ってたんだ。

「さすがに私もそろそろ遊んでいられる歳じゃないのよ」
「俺、アンタの歳知らねえんだけど」
「何歳に見える?」
「さあ」

もう今更歳なんて関係ねえだろ。
お互いの表情が分かる程度に薄暗く調整した照明は、丁度良い肉付きのアンタの体をより艶やかに見せた。歳なんて気にする余裕も無くアンタを夢中で抱いていた。

「今日で終わりにしよ」

初めに寄ってきたのはそっちなのに、なんか俺が振られたみてーじゃねえかよ。彼女は冷えた手で俺の頬を包んで、唇を重ねてくる。
最後だから、と悲しげな目で何度も何度も。そんな顔すんのなら結婚なんてしなきゃ良いのに。

「……なあ、結婚ってそいつとじゃなきゃダメなのかよ」

俺と、なんてそんな言葉が出かけては飲み込んだ。
俺はきっと幸せになんてしてやれない。
ごめんね、と頭を撫でられる。こんな子ども扱いも、今となっては心地良いと思い始めていたっていうのに。

もっと早く素直になれていれば彼女は側に居てくれただろうか。今からでも間に合うだろうか。
けれどもう決めたんだろう。普段キスに関しては積極的ではない彼女が、俺が話す隙を与えない程に唇を塞いで来たから。

最後だと言いながら俺たちは交わった。
切なくて、痛くて、どうしようもなくて。

「ごめん、ごめんね、総悟のこと忘れない」
「俺だって、アンタのこと忘れてたまるかよ」

なあ、知ってたか?
今日は偶然にも俺の誕生日なんだぜ。アンタは知らないだろうし、わざわざ自分から言うのも格好悪いし言わねえけど。何もめでたくない。こんな最悪な誕生日は初めてだった。俺は誕生日の度にアンタのことを思い出すだろう。

アンハッピーバースデー、俺。


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