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今日の私はご機嫌である。
鼻歌を歌いながらウインナーをタコさんにしたり、米をいつもより多めに盛ったり、オムライスにケチャップで絵を描いてみたり、とにかくサービス(?)をしまくっていた。
なんたって今日は銀さんと飲みに行く日なのだ。


「名前ちゃん今日はなんだか一段と笑顔だねえ」

「あっ、近藤さん!私今日は帰りが遅くなりますので!」


トレーに載せた生姜焼き定食を近藤さんに渡しながら報告した。
はしご酒するだろうから遅くなって心配させてはいけないと思ったのだ。

近藤さんはトレーごとガシャーンと床に落として固まってしまい、その音で食堂にいる人たちはなんだなんだと注目し始める。


「あの、近藤さん?大丈夫ですか?今すぐ新しいのを……」

「名前ちゃん」

「はい?」

「それってももももしかして、デデデッデデート!?!?」

「へ?」

「デートは昼にしなさい!夜になると男は狼になるんだから!!お父さん朝帰りなんてまだ許しませんからね!!!」


近藤さん、声が大きい。
周りから名前ちゃん朝帰りだってよ!ラブホ泊まるってよ!とか色々聞こえてくる。もう、男ってすぐそういう方向に持っていくんだから。


「違います!!銀さんと飲みに行くだけです!!朝帰りはしません!」


わざと食堂に響き渡るくらいの大きな声で言ったけど逆効果だった。
一瞬だけ静まり返ったもののすぐにザワつきはじめる。


「やっぱ万事屋の旦那とデキてたり……?」

「それはちょっとショックだわ」

「まだ副長や沖田さんなら良いけど万事屋はなー」


そんな声がちらほら聞こえたが、もうめんどくさいので私は無視することにした。
近藤さんには帰る前に絶対に連絡入れなさい、と念押しされた。手の空いてる人が迎えに来てくれるらしい。
しかし真選組での銀さんのイメージは一体どうなってんだか。







「っていうことがあったの!!」


私は二杯目のビールを一気に飲み干し、カウンターに勢いよくジョッキを置いてハイボールを注文。
私の愚痴を鼻をほじりながら聞いていた銀さんもビールを飲み干して焼酎の水割りを注文した。


「なに、お前そんなに楽しみだったの?」

「そりゃあ飲みに行くの久しぶりだし、ここのビールはキンキンに冷えてて美味しいし」

「なんだよ、ビールかよ」


銀さんは少しいじけたようにマヨネーズをつけたイカの一夜干しを咥えた。

すでに頬が少し赤い私たち。
それはお酒のせいであって、デートだなんてお互いに思っていない。何度もこうやって飲みに行ってるし、なんならお互いの吐瀉物を見たことだって……


「そういや携帯買ってもらったんだっけか?」

「そうそう!これ!」

「へー写真も撮れんのかそれ」

「うん!」


カメラを起動して銀さんを撮ってみる。
……ブレた。酔ってるわ私。


「貸してみ」

「ほい」


銀さんに携帯を渡すとなんか色々いじってたから何してんのかと覗き込んでみたらカシャっと撮影音が鳴った。

内カメラになっていたので酔っぱらいと酔っぱらいのツーショットが撮れて、それがなんだかおかしくって二人でゲラゲラ笑いながら何枚も写真を撮り土方さんに送り付けるなどした。





***





「もう無理、もう飲まない、酒辞める……」


今にも死にそうな声で便器に向かって言っている銀さんの背中をさする。

二軒目のお登勢さんのお店で飲みすぎて、話している途中に急に厠に駆け込むもんだから心配で来てみると案の定ゲロっていたのだ。


「もう飲まないって言っていつも飲んでるじゃん」

「うるせー」

「今日はもう帰るから、銀さんも部屋戻ってゆっくりしな?」


厠を出て近藤さんに連絡すると、これから迎えに来てくれるそう。
ついでにお登勢さんにお冷をもらって銀さんに渡した。潰れた時はとにかく水。


「大丈夫?」

「おう……なんとかマシになってきた」

「立てそう?」

「肩貸してくれぇ」


肩を組み銀さんの体を支えながらなんとか階段を上がって戸を開けると、寝ぼけまなこでパジャマ姿の神楽ちゃんが寝室から出てきた。


「神楽ちゃんごめんね、起こしちゃった?」

「……だいじょうぶネ。銀ちゃんまたこんななるまで飲んでたアルな」

「かぐらぁ、みずう」

「ほんとダメな大人ネ。名前は今日泊まってくの?」

「ううん、お迎えが来るからもう帰るよ。銀さんに水たくさん飲ませて寝かせてあげて。念の為枕元にポリ袋とか置いといてあげて」

「わかったアル」


神楽ちゃんが銀さんを引きずって寝室に入るのを見送ってから私は万事屋を出た。
酔いが冷めてくるとやっぱ寒いなー。
手を擦りあって温めながら階段を下りると、パトカーにもたれて白い煙を吐く土方さんが居た。


「あれ、土方さんが迎えに来てくれたんですか?」

「なんだよ、俺じゃあ不服か」

「そういうわけじゃないですけど」

「たまたま手が空いてただけだ」


ほらよ、と缶を手渡された。
手に熱が広がる。ほうじ茶と書いたそれをカシュッと開けて飲みほっと一息つく。


「あったまるぅぅ……」

「体冷やさねェうちに乗れよ」

「はあい」

「なんだよニヤニヤして」

「なんでもないでーす」


ほうじ茶もだけど、土方さんの気遣いが温かい。

迎えに来てもらうのも良いもんだな。
そんなことを考えながら車に乗り込んだ。タバコの煙を逃がす為か、窓が少し空いている。夜の街をぼーっと眺めて話さないでいると土方さんが先に口を開いた。


「そういえば、何だあの写真は。二人して間抜け面しやがって腹が立つ」

「あ、」

「酔っ払って写真送りつけてきた事忘れたか?」

「……すみません」

「まあいいけどよ」

「待ち受け画面に設定してもいいんですよ?」

「誰がするかよ」


また沈黙が続くけど話さなくても何も気まずくはない。
むしろなんだか心地よい。

こうやって二人きりでゆっくりな時間を過ごすのは久しぶりな気がして、道路工事で遠回りになっちゃったりとか、毎回赤信号に引っかからないかなとか、そんな淡い期待を抱いていたけど都合よくそんな事は起こらなくて、車を降りてもまだほうじ茶は生温く私の手を温めていた。


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