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「あー!!!くそー!また負けたー!!!」
何回目の敗北だろうか。
私は苛立ちのあまり座布団に向かってコントローラーを投げつけた。
「おい、物に当たんじゃねェ」
「ううう」
強い雨の中出かける気もせず、暇を持て余した私と総悟はマ〇オカートで遊んでいた。
総悟に勝てば首輪を外してくれるらしいが、全く勝てる気配がない。2周目まではむしろ私の方がリードしているはずなのに、アイテムで狙われ続けて順位を追い越されるという……
「もう終いかよ」
「勝てないもん、楽しくない」
大人気もなく不貞腐れて畳に突っ伏してると、その上に総悟の頭が乗ってきてお尻を枕にされる。今おならしたら総悟にダメージを与えられるのでは?
「屁ェこいたらぶっ殺す」
「………するわけないでしょ!これでも一応女の子だよ!」
ちっ、先手を打たれた。てか人のお尻を枕にすな。
「硬ェ枕だな」
「じゃあ座布団を枕にした方がいいんじゃないですかねー」
「あー暇だー」
「スルーすんな。てか暇ならこの首輪取ってくれませんかねー」
「やなこった」
「なんでよー」
お尻に総悟の頭を乗せたまま足をジタバタさせる。総悟は何も動じない。
私も諦めて動かないでいると、なんと寝息が聞こえてくるではないか。すうすうとそれはそれは可愛らしい寝息であった。
「……総悟?寝たの?」
「………」
「ちょっと!!人のお尻の上で寝ないでよ!」
返事はない。
雨の音と総悟の寝息以外には何も聞こえない。なんだか私も眠くなってきたかも。少しだけ、少しだけ目を閉じよう。閉じて少ししたらすぐ開ける。だから、少しだけ………
「女中が戻って来たってぇのは本当かァ!!??」
勢いよく戸が開く音でもう殆ど落ちかけていた意識がハッと戻る。
聞き覚えのある渋みの強い声、舌を巻いた喋り方、タバコのにおい。私は恐る恐る顔を上げた。
「パ、パパ……!」
「あんれぇ、名前ちゃんなんでこんなところに」
「えっと、」
パパにはここで女中してることは話してなかったし、総悟たちにもパパとの関係をまだ話していない。
真選組に戻った時点でいつかこうなることは予想は出来てた。もっと早くてもおかしくはなかった。
あーなんでこうなる前に話しておかなかったんだろう。今更後悔しても遅いけど。
「名前ちゃん……金に困ってるなら言ってくりゃあ、おじさんいくらでもドンペリ開けるのによォ……」
「え、」
「総悟もデリへル呼ぶなら戸に張り紙でもしてろってんでィ。首輪なんてつけちまって、ハードなSMは程々にしとけ」
呆れた顔で言うパパ。
いやどういう勘違いなのそれ。
「あのね、パパ」
総悟の体がない方向に体をスライドさせて立ち上がると、私の尻で寝ていた総悟が畳に頭を強打した。
「……痛ぇ」
「あ、ごめん」
総悟は頭を押さえながら起き上がり、私とパパの顔を交互に見ると怪訝そうな表情を浮かべた。
「とっつぁん、そいつと会ったことあったっけ」
「俺ァ、名前ちゃんとはもう長ァーーーーい付き合いで何度も朝帰りよォ」
ドヤァ、って聞こえてきそうな顔。
てか総悟にも勘違いされそうな言い方やめて。何度も朝帰りは事実だけど、お店で朝までドンペリ開けまくって潰れてるだけでしょうが!
「と、とっつぁん……今なんて……」
タイミング悪くやってきた近藤さんと土方さんにどうやら聞かれてしまったらしい。
近藤さんはわなわなと青ざめた顔をしている。
事態はめんどくさい方向へと進んでいく。ああ、頭が痛い。
「あの、ちゃんと話すのでまず座りませんか」
***
「つまり、とっつぁんはオメーが江戸に来る前に働いてたキャバクラの客ってことか」
そう言うと土方さんは指で煙草をトントンと軽く叩き、灰皿に灰を落とした。
「真選組を離れてから、少しだけキャバで働かせてもらってた時にパパと再会しました」
「なんでィ、そういう事なら早く言ってくりゃあ良かったのによォ。おじさん、総悟がデリへル呼んだのかと思っちまったぜ」
パパはそう言って胡座を組みなおし、お茶請けの煎餅をバリボリと音を立てながら食べている。
「こいつを指名する客なんて物好きしかいやせんよ」
「オメーみたいなガキにゃ名前ちゃんの魅力はわかんねえよ」
ガキと言われたのが気に食わなかったのか、総悟はむっとする。
お茶を啜ってから、パパは懐からタバコを取り出した。
私はその場においてあったライターを持ち、左手を添えてタバコに火をつけた。
「おおー!今のキャバ嬢っぽかったぞ!名前ちゃん!」
やや興奮気味の近藤さんにそう言われて自覚する。
パパやお客さんによくしていたから勝手に体が動いてしまったらしい。ドラマでもよく見る、水商売の女の人がやるアレ。
チラッと土方さんに目をやるとなんとなく不服そうな表情を浮かべて愛用のマヨライターでタバコに火をつけていた。
えっ、もしかして土方さんして欲しいの?思わず笑ってしまいそうになったが唇を噛んで耐えた。
「しかし、忙しくて屯所に顔出していなかった間に名前ちゃんが女中として働いていたとはなあ」
「私もまさかパパが真選組の長官だなんて、再会するまで知らなかったよ」
「あり?言ってなかったけかァ。昔うちで働かねェかって言おうと思った矢先に名前ちゃんがキャバに出勤しなくなっちまったからよォ」
「え、そうだったの?」
「あの頃も人手が不足しててなァ」
そうだったんだ。
もし、その時に誘われていたらもっと早くに真選組や万事屋の皆と出会えてたのかな。いや、あの頃の私は断っていたかもしれないな。
「この前は再会したってのに寂しそうな顔してたけど今はそうでもないみたいで、おじさん安心した」
「パパ……」
ニッと歯を見せて笑うパパ。
そういえばお互いシラフでこうやって話すのは初めてかもしれない。変な感じ。
「これからもこいつら芋侍に美味い飯食わせてやってくれ」
そう言って咥えていたタバコを灰皿に押し付け火を消すと、どっこいしょとおっさん臭い掛け声と共に立ち上がった。
「今日はすまいるにでも行くか。オメーらもどうよ?」
「行く行く!お妙さんに会いに行く!」
ノリノリな近藤さんをよそに土方さんと総悟は首を振った。
「なんだよオメーらつれねェな。名前ちゃん、次来る時ァドンペリ持ってくっからよ」
「やった!一本じゃ足りないからね!」
「あたぼうよ」
雨の中、キャバクラへと向かう男二人の哀愁漂う大きな背中を私達は見送った。
雨はさらに強くなってきている。
「続き、やろーぜィ」
「えー、どうせ負けるし……そうだ!土方さんも一緒にゲームしませんか!」
「いや、俺は……」
「土方さんが負ければ副長の座は俺が頂きまさァ」
「譲らねェよ!?」
なんだかんだ賑やかな楽しい一日だった。
こんな日がずっとずっと続けば、私はそれだけで幸せだ。
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