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最近、名前がキャバクラで働き始めて、早朝にべろべろになって帰ってくることが多くなった。
泥酔してても二日酔いでも万事屋の家事は完璧にこなしてくれるし、家賃も半分払ってくれるし文句はないけれど……
こいつ、仕事以外でもずっと酒飲んでやがる。
「みんなおかえりーー!!」
「うわ酒臭ァ!!また飲んでんのかよ!」
「銀さんも飲むうー?」
「飲む」
仕事終わりの一杯は美味いからね、仕方ないね。
神楽と新八にジトーっとした目で見られてる気がするが、あいつら元々そういう顔だってことにしておこう、うんうん。
「銀ちゃん、ちょっと来るアル」
名前に酒を次いでもらおうとしていると、神楽と新八に腕を引っ張られ別の部屋まで連れていかれる。
「なんだよテメーら。そんなに引っ張ったら腕伸びるだろうが!」
「腕は伸びるわけないじゃないですか。それより銀さん、名前さん大丈夫なんですか?最近酔っ払ってないところ見てないですよ」
「名前、何か無理してるアル。これ女の勘ネ」
なんだ、こいつらも名前を心配してるんだな。
正直、名前はすぐにうちなんか出ていって真選組に戻ると思っていた。もしくはあいつらの誰かが迎えに来てあっさり帰っちまうと思っていた。まあ、俺はずっと居てくれても良いし、むしろ居てほしいくらいなんだけど、ああやって酒でテメーの気持ち誤魔化してんのは見てらんねェ。
「はあー、しゃあねえな」
耳の穴かっぽじって小指についた耳垢をふうっと息を吹きかけ飛ばす。
部屋を出て、名前がラッパ飲みしようとしてる酒瓶を取り上げ、荷物を纏めるように言うと一瞬何かを察したような表情をし、寝床にしていた部屋へ行き荷物をまとめ始めた。
荷物が少ないせいか、数分経てば名前は部屋から出てきた。
「まとめた」
「おー、行くか」
神楽と新八が心配そうに見てる中、俺たちは万事屋を出た。スクーターの後ろに名前を乗せ、ヘルメットを深く被らせる。そういや、こいつが真選組で働くってときもこうやって送ってやったっけ。世話が焼ける女だな。
「もうすぐ着くから心の準備しとけー」
「……」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
いやいやいや、ちゃんと後ろにいるよねェ!?屍じゃないよねェ!?なんか怖くなってきたんですけど。
後ろを気にしつつ暫くスクーターを走らせていると、屯所が見えてきた。名前はぎゅっと俺の着物の裾を摘む。なんだよ!帰したくなくなるだろーがッ!!
「おい、着いたぞ」
「……」
無言でその場から動こうとしない名前の手首を掴み、強引に引っ張って屯所に入っていく。
その辺で素振りしていた隊士達がざわつき始め、中には嬉し泣きしている奴も居た。愛されてんだな、こいつ。
「おいなんの騒ぎだ!?って……お、まえ」
「おたくのバカ犬、返しに来たんですけどォ」
呑気にタバコを咥えながら現れたこの男のところに返すのは癪だけど、名前はずっとこいつのこと待ってたんだろ?相変わらずいけ好かねえ野郎だぜ。
「万事屋、オメーのところにいたのかよ」
「解雇されて家も職も無いっていうから拾った。な、名前」
「……」
「あのー、名前ちゃん?」
「……きそう」
「へ?」
「吐きそう」
えええ!?さっきから黙ってると思ったら吐くの我慢してたのかよ!!!早く言えよ!!!!!
「お、おい!誰かキタロウ袋用意しろォ!!!」
「も、もう、無……理……」
***
吐くだけ吐いて大分落ち着いてきた名前。
ゲロの処理は山口だったか山寺だったか、地味な子に任せて、俺たちは客間に通された。
名前は今の状況を把握できてきたのか、吐く前より顔が青ざめてやがる。
「おい、うちはアル中更生施設じゃねーぞ」
「元々テメーんとこの女中だろ、こんなアル中はうちのガキの教育に悪いし引き取ってくれや」
俺の隣で縮こまってた名前が勢いよく立ち上がり、口論は中断。
「わ、私一人暮らしするから!もう万事屋にも真選組にも甘えないし!」
じっと名前の目を見ると視線が左右に目まぐるしく泳ぐ。おもしれーくらいに泳ぐ泳ぐ。
「嘘つけ、本当はここに帰りてえんだろ。毎日泥酔してテメーの気持ち誤魔化してんだろうが」
「ち、ちが」
「逃げてねェでちゃんと話しろや」
名前の腕を掴み座らせると、分かったと力のない返事をした。多分もうこいつは大丈夫だ、もう大事なもん手放すんじゃねーぞ。
土方の方をチラッと見るとばつが悪そうな顔をしている。
今回だけはテメーらに譲ってやらァ、次は俺だって手放さねぇからな、と意を込めて睨みつけた。
「じゃあ邪魔者は退散すらァ」
よっこいしょ、と立ち上がると手を掴まれ、何かと思えば名前がじっとこちらを見ていた。
「……行かないで」
それはこっちの台詞だっつーの。
俺は無言でそれを振り払い、屯所を後にした。
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