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仕事を探すって言っても、特に何もやりたい事が無かった。
一日中家事をしていたかった。お洗濯や買い出しやご飯の支度や掃除をして寝る前にはお酒を飲んで……ってそれ前までの私じゃないか、いつまで真選組引き摺ってんだ。

とりあえず一日中何かしていないと落ち着かない。
万事屋だと一通りの家事を済ませて皆が帰ってくるまでの間、何もすることがない。
特に依頼が無い時は一日皆でぐーたらしてることも多いけれど。

それに、いつまでも万事屋に居るのも良くないってのは本当に思ってた。神楽ちゃんも新八くんも懐いてくれているけど、本当の家族のようなあの三人と一匹の間に私なんかが割り込んじゃいけない気がした。

ちゃんと貯金もして一人で生きていけるようにならなきゃ。思い立ったらすぐ行動!私はテーブルの上に置き手紙をして夜の街へと繰り出した。






「こんばんはあ!初めまして、名前です」

「あれ、見ない顔だね。新人さんかな」

「今日からなんです。初のお客様がこんな優しそうな方で安心しましたぁ」

「嬉しいこと言ってくれちゃってぇ!何か飲むかい?」

「いいんですか?じゃあ遠慮なく……ドンペリ入りまーす!」


短期間で稼ぐには夜のお仕事をするしかないと思った。経験者だと言えばすぐ雇ってくれる。
お妙ちゃんが店に誘ってくれたけど、すまいるは近藤さんが頻繁に出入りしてるからと断った。

水商売なんてもう懲り懲りだったんだけどな。


「名前ちゃん、ご指名入りました」

「はーい」


ドンペリありがとね、と客の耳元でなるべく甘めの声で囁き席を立つ。次の客の席へ向かう途中、店長に「お偉いさんだから飲めるだけ飲んで」と耳打ちされた。よっしゃ、任せろ。正直二日酔いで辛いけど、三日酔いでも四日酔いでもしてやる。


「こんばんは、ご指名ありがとうございま……」


100%の営業スマイルで席に着いて客の顔を見ると、見知った顔だった。
昔住んでいた田舎で一店舗だけあった小さなキャバクラ。人気でも不人気でもない微妙な立ち位置の私を一晩でNo.1にしてくれた、遊び方がとんでもなく派手な客。
出張の数日間だけだが、かなりお世話になったのだから顔を忘れるわけないのだ。


「やーっぱり名前ちゃんじゃねェか。名前が一緒だったから一か八かで指名してみたんだが、こりゃあ大当たりだ」

「パ、パパ!」

「元気にしてたかァ?まあ、とりあえず好きなの頼みなァ」

「じゃ、じゃあドンペリいっとこ!」


この人は飲ませれば飲ませるほど派手にお金を使ってくれる。オープンからラストまでドンペリを何本も何本も開けていき、最終的にはお互いに潰れることもよくあった。この人はこんな私の飲みっぷりをすごく気に入ってくれていたのだ。


「まさかこんな所で会えるなんてな。オジさん嬉しくて今日はいっぱい飲んじゃうかもォ」

「私も嬉しくていっぱい飲んじゃうかもお!」

「飲みたいだけ飲めえい」

「やったー!そうだ、パパは今日も仕事だったの?順調?」

「ああ、仕事は順調だが最近屯所の女中がトンズラこいちまったらしくてなァ。若いおなごって言うから会ってみたかったんだがなァ」

「へ、へえー???……あの、パパの仕事って」


やばい、嫌な予感しかしない。トンズラした屯所の女中ってもしかして。


「あり、言ってなかったっけ?オジさん、警察庁の長官してるんだわ」


やっぱりーーー!!!
いやでもトンズラしてないんですけど!クビなんですけど!何でトンズラしたことになってんの!?てかパパ真選組の人だったのー!?ええー!!!

混乱した頭を冷やすためにドンペリを一気に喉に流し込む。それを見たパパは大喜びでどんどん追加で開けていく。


「……パパ真選組の偉い人だったんだ。知らなかった」

「ありィ?言ってなかったけェ?」

「う、うん」


世界は狭い。

いやー、こんな偶然ってあるの?
私が女中してた頃にパパと再会してたらどうなっていたんだろう。

一気に飲んだ酒が回りだんだんと気持ちよくなってくる。とろんとした頭で真選組のみんなの事考えていたらつい声に出していた。


「真選組……」

「なあに名前ちゃん真選組のファン?オジさんのサイン要るぅ!?」

「うーん、サインは要らないかなあ。でも、真選組ってかっこいいよね」

「なんでィ、名前ちゃんにそんな事言われちゃあ、もう一本開けざるを得ねえなァ!?」


皆に会いたくなってしまった。
そんな気持ちも誤魔化したくて、また浴びるように飲み続けた。







気づけばパパのお迎えが来て、他のお客さんも帰って、今日の営業はもうおしまい。
これからも頼むよ、と店長から今日の分のお給料が入った封筒を受け取る。初日からパパや他のお客様達のお陰で結構な厚さだ。


「相当飲んでたけど大丈夫?送ろうか?」

「いえ、大丈夫でえす!ひとりで帰れます!」


店を出るともう外はもう薄ら明るく、紫がかった空が綺麗だった。ふらふらと覚束無い足であっち曲がるんだっけー、こっち曲がるんだっけーと適当に歩く。

暫く歩いていると見慣れた門が見えホッとする。門の前に立った瞬間、キィーと軋んだ音を立てながら開いたので、いつ自動ドアにしたんだろうなどと首を傾げたがそうではないらしい。


「おま、え……」

「ひっ、土方さん!?」


なんで、どうして、何故、why?
回らない頭で必死に考える。万事屋にこんな立派な門はない。門があるのは屯所。
つまり私は酔っ払って屯所に帰ってきてしまったのだ。やらかしたと思うと急激に酔いが覚める。出来れば今この瞬間の記憶も飛ぶくらいに酔っていたかった。


「テメェ……今までどこほっつき歩いてやが……」

「ひええええああああごめんなさいいいいい!!!間違えましたあああああ!!!」

「お、おい!待ちやがれッ!」


逃げた。走るの苦手なくせに、これでもかってくらい一目散に逃げた。こんなに走れたんだって自分でも驚くくらいだった。
着物もぐちゃぐちゃ、髪もぐちゃぐちゃ、胃の中もぐちゃぐちゃ。


酔って間違えて帰ってしまうほどに、あの場所が好きだったんだ。


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