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「私!明日から仕事探す!!」
下のババアのところへ二人で飲みに来て、結構いい感じに酔いが回ってきたってところで、名前が唐突に真面目な顔で切り出してきた。
「いつまでも万事屋で寝泊まりするのも良くないし、銀さんうさんくさいし足臭いしうんこ臭いし」
「いや、途中から悪口になってんだけど」
「まじで臭いよ。神楽ちゃんも足臭いって言ってたよ。銀ちゃんの靴下とは一緒に洗濯しないでって」
「ブーツだからな、蒸れんだよ。てか神楽そんな事言ってたの!?世のお父さんの気持ちが分かってきたわ、泣きそうだわ……」
ヤケになってグラスに入った酒を一気に飲み干した。
名前もそこそこ酔ってるのか顔がほんのりと赤いし、こっちにもたれ掛かって来るもんだから触れたくなってしまう。
家にいる時も酔うと距離が近くなる。
理性を保つのに必死で、よく真選組の野郎どもは我慢出来たなと少しだけ感心した。
「お登勢さん、焼酎水割りください。7:3で」
「アンタまだ飲むのかい、ほどほどにしときなよ」
「ババア、俺も同じやつ」
「アンタもここで吐いたりでもしたら承知しないよ!」
今日いつもより酒のペースが早いのは、沖田くんに会ったからだろうか。部屋で隠れとけって言ったのに、沖田くんが万事屋を出て少ししてから泣きそうな顔して追いかけてった。
何を話してたのかは知らねェが、仕事探すってことは真選組に帰る気は無いってことだよな。
「お前、仕事って言っても何すんだよ」
「えー、うーん、わかんなーい」
「あーもうこいつ酔ってるわ。ダメだわ。会話になんねぇわ」
「よってないよお!!」
「嘘つけ、酔ってんだろ」
「ワタシウソツカナイ」
「何で急に片言になんだよ。片言キャラはもうお腹いっぱいだっての」
すっかり目が据わっている名前を見て、さっき頼んだ焼酎を奪い取り一気に飲み干し、手持ちの小銭をカウンターに置き名前を連れて店を出る。
「ちょっと銀時!!こんなんで足りると思ってんのかい!?こら銀時ィー!!!」
ババアがギャーギャー言ってたけど無視して、千鳥足の名前を支えながら二階へ上がる。あーやばいさっきの焼酎が効いてきた。一気飲みは良く無ェな。
よろよろと何とか戸を開けて玄関で二人して倒れ込む。神楽ももう寝ているのか部屋は真っ暗でほぼ何も見えない。
「あーもう立てなーい」
「飲みすぎだコノヤロー!俺もやべーよ二日酔いコースだよこれェ」
「てかとりあえずお水飲みた……ぅおわっ」
台所に行こうと立ち上がった名前はふらついて俺の上に覆いかぶさるように倒れる。目が暗闇に慣れてきて、名前の顔もぼんやりと見えるようになってきた。
「……ちかい」
「オメーが倒れてきたんだろーが」
「ごめん、すぐ退く」
「いや、いい」
俺の上から退こうとした名前の腰をぐっと引き寄せ、完全に密着した状態に年甲斐もなく心臓が跳ねまくる。
「ねえ、動けないし酒臭いよ」
「いいから」
「水飲みたいんだけど」
「だめ」
段々とお互いの体が熱を持ち始め、着物越しでもそれが分かるほどだった。糖分の摂りすぎてED気味の俺の息子が元気になっちゃいそうだぜ。
「……なあ、お前このまま俺んとこに居ろよ」
「え?」
「坂田さんちの子になれよ」
「こんなお父さんやだーあしくさーい!」
「ちげーよ!!嫁に来いって言ってんの!」
「やだ」
「即答かよ!」
最近の新婚夫婦みたいなやり取りに少し幸せを感じていた。おかえりなさい!って玄関まで笑顔で出迎えてくれるとほっとする。
それに台所に向かってる時の後ろ姿がなんかそそる。
もうどこにも行かせたくねえし真選組にも帰したくねえなって、酒の勢いでプロポーズ紛いのことを言ってしまったが、即答で断られ撃沈。
項垂れていると名前がもぞもぞと動き出し、俺の耳元でボソッと言った。
「そういうのはお酒入ってない時に言って」
吐息混じりの声に耳がゾクゾクした。
その感覚に理性が飛びそうになった時、名前の全体重がのしかかり寝息が聞こえてきたので何とか理性を保てた。
「寝んなや」
目が覚めればきっとお互いに忘れているだろう。
俺の上で眠っているバカを抱きしめ目を閉じた。
***
「お前ら玄関で何してるアルか」
朝、起きてきた神楽により起こされた俺たち。
昨日のあの体勢のまま床で寝てたからか、あちこち痛えし頭も痛いし気持ち悪い。
二人して頭を抱えながら起き上がる。
「「もう二度と酒なんて飲みたくない」」
「あ」
「ハモったアルな。アル中同士お似合いネ」
「う、うるせー!オメーも年中アルアル言ってアル中だろうが!」
二度と飲みたくないなんて言いながらも、明日にでもなればまたアルコールが欲しくなるのはいつもの事。
まあ、名前と一緒なら二日酔いも悪くねえかもな。
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