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「副長ぉおお!!名前さん、とっくに退院してたみたいです!」
「何ィ!?すぐにあのバカ探せェ!」
縁側で昼寝をしていたらザキと土方コノヤローがギャーギャー騒がしく、睡眠を阻害される。
「って、おい総悟何サボってんだ、巡回行け」
「うるさいなあ土方さんは。今から行こうとしてたんでさァ」
「言われる前に行動しろボケェ」
あーあ、これだからニコチン中毒は年中イライラしていけねえや。
軽くため息をつき、睡眠のお供であるアイマスクを外し重い腰を上げ屯所を出る。巡回がてらバカ犬の捜索にでも行くかね。
***
「な、なんの用かな?沖田くん?」
「テメー!!手土産の一つも無しにうちに何の用ネ!帰るヨロシ!」
「め、珍しいですねえ、沖田さんがうちに来るなんて。何かあったんですか?」
喧嘩腰のチャイナは別として、動揺しまくりなバカ二人。別の部屋に隠れているのか、名前は顔を見せない。まあそうだろうとは思っていたけれども。
「実は、うちのバカ犬が脱走しちまって旦那たちに捜索してもらおうと思いやして。」
「へ、へぇー?君ら犬なんて飼ってたっけェ?」
「誰にでも尻尾振るようなバカ犬なんで、旦那のところにでも来てると思ったんですがねィ」
「君らがしっかりリードで繋いでおかねえから逃げたんじゃねぇの?」
逃がしたのは土方さんだがな。
ヘタレてなかなか謝りに行けずに居るみたいだから、仕方なく俺がこうやって出向いてやってんだ。感謝しろ土方コノヤロー。
「あの犬は他の隊士達にも可愛がられてましてね、よくオナペットにされてまさァ」
「ペットってそっちのペットかよォ!?」
「やっぱり男はケダモノネ!最悪アル!」
「まあ、とりあえず見かけたら連絡してくだせェ」
「自力で探すネ!このチンピラ警察がッ!」
悪いが今日はチャイナと喧嘩してる暇は無ェ。構うと面倒だからスルーして万事屋を出た。
まだ暑さが残る江戸の街。黒い制服はどんどん日光を吸収していき、歩いてるだけでも汗が滲む。シャツが肌に張り付いて不快だし、冷房がかかった店にでも行ってサボるか、なんて考えていると
「総悟……!」
久しぶりに聞いた俺の名前を呼ぶあいつの声。振り向くと、探していたバカ犬が息を切らして万事屋から降りてくる。一体どこに隠れてやがったんでィ。
「やっと出てきやがったな」
「…………」
自分から追っかけて来たくせにバツが悪そうな顔をして俯く。入院する前は毎日顔を合わせていたのに、少し会わなくなるだけでこんなにもよそよそしくなるのかよ。
「なんでィ、ご主人様が恋しくなったか?」
「……だ、誰がご主人様よ!!犬になった覚えもないわ!」
「じゃあ何で追いかけてきたんでィ。帰る気無ェならずっと隠れてたら良かったろ」
「せっかく総悟が来てくれたのに、ずっと隠れてるのもずるいかなと思って……まだ帰れないし帰っていいのかもわかんない。だからもう少し考える時間が欲しい。ごめんね」
今にも零れ落ちそうな涙を目に溜めながら、真っ直ぐ俺を見る。少しでも涙が溢れれば、強引にでも引き寄せてしまうかもしれないと思った。
「あと、土方さんにはここに居ることまだ言わないでほしい……」
「誰があの野郎に助言するかよ。まあバレるのも時間の問題だぜィ」
「うん、わかってる。ありがとうね」
結局茶色がかった瞳から涙は溢れず、名前は一瞬だけ困っような笑顔を見せたと思えば、踵を返して万事屋へと掛け戻った。以前とは違うあいつの残り香が鼻腔をくすぐり消えてった。
涼みに行こうとしていたが、予定変更。バカ犬が帰ってきたときのために色々用意しておかないと。
俺はその足でペットショップへと向かうのであった。
帰ってきたら覚悟しろよ。
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