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「「よろしくお願いしまーす!」」


今日は、寺子屋に通う子どもたちが社会見学をしに屯所へとやってきた。
男の子は土方さん、女の子は私が女中の仕事について教えることに。子どもは好きなので全然抵抗はないけど、土方さんは大丈夫なのかな……
あの人ああ見えて面倒見良いし大丈夫か。

まあ子どもって言っても、今の子は色々と進んでるようだし、女の子はお化粧してたりする。

ううっ、若さが……!!肌ツヤが眩しいっ!!


「えー、女中のお仕事は基本炊事や屯所内の掃除をしています。あとは買い出しに出かけたり……」

「はーい!質問いいですかぁー?」


簡単に仕事内容を説明したところで、一人の女の子が挙手した。


「はい、どうぞー」

「えっとぉ、隊士の人を好きになったりしますかぁ?」


さすが年頃の女の子は恋バナ好き……
私もこのくらいの時は少女漫画に夢中になったものだ。ちなみにりぼん派だった。


「お仕事だからね、無いかな」

「えー、つまんないのぉ」

「あはは、ごめんね」

「じゃあ、あのイケメンのお兄さん達、どっちがタイプですかぁ?」


女の子が指を差す先には、土方さんと総悟。
隣に近藤さんも居るんだけどな。総悟とばっちり目が合ってしまって、見てたと思われるのが恥ずかしくてすぐに逸らした。


「え、えーっと……」


困ったな。答えなきゃいけない?
子ども達の恋バナだし適当に答えとく?


「可愛い系?それともかっこいい系?」

「私迷うー!!」

「けどかっこいい系のお兄さんはちょっと怖そうかもぉ」


ガールズトークに花が咲く。キャッキャしてる彼女たちを見て、女の子だなあ良いなあと思いつつ、どうにかしてこの話題を切り抜けたい。


「オイ、人の顔ジロジロ見て何話してるんでィ」


きゃあー!と女の子達の黄色い悲鳴。
キラキラとしたオーラを纏って登場する王子様、に見えてるんだろうな、彼女たちには。


「あのぉ、私達、お姉さんにあの怖そうなお兄さんとどっちがタイプかって聞いてたんですぅ!」

「私はこっちのお兄さんがいいかもー!」

「で、お姉さんはどっちって?」


総悟は女の子達の目線に合わせて少し屈んで、私と話す時より柔らかい口調で話す。意外とそういうのちゃんとしてるんだ、少し見直した。


「お姉さん、なかなか答えてくれないんですぅ」

「それはいけねぇや、あとで説教しといてやらァ」

「……仕事内容に関係のない質問にはちょっと答えられないかなあ」


本当のこと言うと、顔は可愛い系が好きですよ私は!
けど絶対言わない!色々と面倒だろうから絶対言わない!



「ちなみにぃ、お兄さんはお姉さんのことどう思ってるんですかあ?」


こら!そういうのやめなさい!
ちょっと気まずくなるやつだからやめなさい!


「……犬かな」

「犬……?」

「誰にでも尻尾振るバカ犬」

「?」


彼女たちが首を傾げている間に、総悟は巡回に行くからとヒラヒラ手を振り颯爽と去っていった。
てか犬って何、あんた達幕府の犬に言われたくないわ!


「……なんかよくわかんなかったけどカッコいい!!!」

「逮捕されたーい!!」


彼女たちはもう総悟の虜。大きくなったら女中になる!とか言ってるよもう。その頃には総悟はもういい大人になってるんだろうな。


「お姉さんってば、あんなかっこいいお兄さん達とお仕事できていいなあー!」

「うーん、まあね」

「私だったら絶対好きになっちゃいますぅ!」


好きに、か。
ドキドキさせられることが無いとは言えない。認めたくはないけれど。
好きになっちゃったらどうなってしまうんだろうか、ここにはもう居られなくなるのではないか、そんなことをたまに考える。




***





社会見学は無事終了し、慣れないことをして精神的にも疲れた私を癒してくれるのは、やっぱりアルコール。


「よう、」

「あれ、今日は土方さんも飲むんですか?」

「まあ、たまにはな」


いつものように縁側で一人飲みでもするかと腰掛けたところ、土方さんが珍しく瓶ビールとグラスを持ってやってきた。
お酌し合って、カチンと軽く音を鳴らして乾杯。こうやって土方さんと飲むのは久し振りな気がする。


「今日の社会見学どうでした?」

「…疲れた」

「ですよね。あ、でも女の子達が土方さんのことイケメンって言ってましたよ!」

「何を見学しに来てんだか……」

「隊士の人を好きになったりするかとか聞かれてしまって、ちょっと困っちゃいました。ほんと最近の子はませてますよねえ」

「へえ………で、どうなんだよ」


土方さんは手に持ってるグラスをじっと見つめる。
まさか突っ込まれるとは思わなかった。不覚。


「……す、好きになるわけないじゃないですか!社内恋愛とか拗れたら大変なんですよ!?そもそも皆はもう家族みたいなもんですしおすし!!」

「……家族ねえ」


目を泳がせる私を横目で見ながら土方さんはグラスに再び口をつけ酒を流し込む。

私も動揺を隠すようにグラスにビールを注ぐと、月が反射してゆらゆらと揺れた。
まるで私の気持ちみたいだと、それを一気に飲み干した。


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