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ミーンミンミン……


今日も蝉はうるさい。どれくらいうるさいかっていうと、かなりうるさい。語彙力が無くなるくらいうるさい。

子どもの頃はよく捕まえたりもしてたけれど、大人になってからは、その肉厚なボディに触れるのはなんだか気持ち悪くって抵抗がある。

買い出しへ向かう途中、力尽きて転がっている蝉を見てそんな事を考えていた。

スーパーに着き、買い物をしながら冷食コーナーで涼むのが最近の楽しみである。
大分汗も引いたのでレジに向かいお会計を済ませると、買い物した分のレシートで福引きに参加できるらしい。

そういえばスーパーの入口で何かやってたなあ。
ビール一年分とか当たらないかな、なんて淡い期待を抱きそこへ向かった。


「お姉さんガラガラ回していくかい?」

「回します!」

「二回出来るから頑張ってね!」


とりあえず私は1等の旅行券でもなく、2等の遊園地入場券でもない、3等の5000円分の商品券が欲しい!!!
それでお酒を買うんだ!

意を決してゆっくりと回す。ガラガラと良い音が鳴り小さい穴から白い玉がコロンと出た。


「あー残念!ティッシュだね!」


なあんだ、残念賞か。
ポケットティッシュでも出てくるのかと思いきや、5箱のティッシュが一塊になった物。主婦なら大喜びだ。


「……もう一回!」


次こそは!と回す。すると今度は緑色の玉が出てきた。


「緑……なにこれ鼻くそ?」

「緑の玉は花火セットだよ!おめでとう!」


出てきたのは結構大きな花火セットで、買い出しの袋と花火セットとティッシュでなかなかの大荷物になってしまった。

てかティッシュ別に要らないんだけどなあ……
この前買ったばかりなんだよね。

そうだ、銀さんとこならティッシュ貰ってくれるかも。
私は少しでも荷物を減らしたく、万事屋のインターホンを鳴らしに行った。


「はーい、どちら様で……って何だその荷物。」


出迎えてくれた銀さんにさっそくツッコまれる。
さり気なく荷物を持ってくれて身軽になった私は、下駄を脱いで部屋に上がった。


「お邪魔しまーす」

「てか急にどうした?銀さんに会いたくなっちゃった?」

「いや、福引きでティッシュ当たって、銀さんたくさん使うだろうし貰ってくれるかなって」

「おいおい、銀さんそんなにティッシュ使わないから。トイレットペーパー派だから。そのまま流せるからァ」

「銀ちゃんが入った後のトイレはウンコ臭いかイカ臭いかのどっちかネ」

「……まあとりあえず持って帰るの大変だから貰ってくれると嬉しいなー」


新八くんが冷たい麦茶を持ってきてくれた。
喉が渇いていたのでありがたい。


「丁度ティッシュ切れかかってたんですよ!ありがとうございます名前さん!」

「名前、こっちは何アルか?お菓子アルか?」


神楽ちゃんは花火セットを、碧い目をキラキラ輝かせながら興味深く見つめていた。


「これも福引きで当たったんだよー。花火セット!」

「花火!!でっかいやつアルか?」

「手持ち花火だから、多分神楽ちゃんが想像してるのとは違うかも……」

「花火、やりたいアル!!一度銀ちゃんのケツに刺してやってみたかったネ!」

「おいおい神楽ちゃーん?銀さんのケツをなんだと思ってるの」

「みんなでしよっか、花火!」

「けど、花火できるような場所ありますかねぇ」

「うーん………あ!」





***





「おい、買い出しリストに万事屋なんて書いてあったか?」


花火できるような場所って言えば、屯所の庭しか浮かばなくって、万事屋の三人を連れて戻ると土方さんにバッタリ会ってしまった。


「今晩みんなで花火しようと思って!」

「屯所が火薬臭くなるだろォが!」

「既にヤニ臭いから平気だろ。な、名前?」


銀さんの手が私の肩にポンッと触れると、土方さんの眉間のシワが深くなる。


「テメェ!なに気安く触ってやがる!」

「え、ダメなの?名前に触るのにいちいち副長さんの許可取らないといけないわけェ?」

「新八くん、神楽ちゃん、バカは放っといて行こっか」


まだ外は明るいし、夜になるまでお菓子でも食べてて貰おうと神楽ちゃんと新八くんを客間に案内する。


「ごめんね、まだ仕事あるから急いで終わらせてくる!良かったらこれ食べてて」

「さきいかに柿ピーに小魚アーモンドって……完全に酒のあてですよねこれ」

「えへ、バレた?」

「柿ピーのピーは新八にあげるネ」


お酒を割ろうと思って買っておいたコロナミンCを神楽ちゃん達に出して、洗濯物を取り込みに向かう。

シーツを取り込もうとしたとき、シーツ越しに誰かの影が写った。

シルエット的にこの人は……


「銀さん?」

「せいかーい。キャラクターはシルエットだけで読者に見分けがつくように描き分けようってな」


居酒屋の暖簾みたいにシーツをくぐってニッと笑う銀さんに、こっちも釣られて笑顔になる。


「なにやってんのー?」

「名前の仕事っぷりを見ようと思ってな」

「もう、邪魔するなら手伝ってよね」


何だか銀さんが屯所にいるなんて変な感じだな。
シーツを物干し竿から抜き取ると、銀さんに奪われふわっと私の頭に被せてきた。


「わっ、なに!」


被さっていたシーツをまるでウェディングベールのように後ろ側へ捲る。
なんだこれ……なんだこれ……


「花嫁みてえだな」


私もね、そう思った。そう思ったけども!
口にされると急に恥ずかしくなって、顔がかあっと熱くなる。


「こ、こんな貧乏くさい結婚式やだし!」


照れ隠しでそう言って被っていたシーツを籠に突っ込み、顔が赤いのを見られたくなくて背を向けた。


なんでそんな恥ずかしいこと平気で言うかな!?
反応見て遊ばれてる?


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