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見事に総悟の風邪が移ってしまい、風邪の症状と夏の暑さでどうにかなってしまいそうだった。
私に風邪を移したことにより回復した総悟は、今日も元気にバズーカを放っている。
昨日の総悟との事は思い出すと余計にしんどくなるので、なるべく考えないようにしていた。
しかし、寝てるだけってのも暇だなあ。
何か暇つぶしになることないかなって部屋を見渡すと、昨日近藤さんに戴いたお酒が目に入る。
「風邪ひいてるときってお酒飲んじゃいけないのかな……」
ちょっとくらいならいいよね、一杯だけ一杯だけ……とさっき山崎さんが持ってきてくれた、水が入っていたコップに酒を注いで味わいながら飲む。
うーん、昼に飲む酒は美味いっ!
もう一杯だけ、と酒瓶に手が伸び、ついついまた飲んでしまう。
気が付くと酒瓶の中身は半分くらいに減っていて、熱のせいなのか酒のせいなのか、頭がぼーっとし瓶が何重にも見える。
酒が増えた……だと……
いつもより早い酒の回りに危機感を覚え、水を飲まなくてはと覚束無い足取りで部屋を出た。
「……ヒック」
縁側がやたらとぐにゃぐにゃに歪んでみえる。
けどなんか楽しい……こんなの初めて!
するとなにやら黒い物体が向こうからこちらに向かってきて、それは私の目の前で止まった。
「病人がほっつき歩いてんじゃねェ」
「あー土方さあん!今日もヤニ臭いねェ!」
「あ゙!?ってか酒臭っ!」
「えへ、アルコール消毒して風邪治そうと思ってぇ」
「アホかテメェは!ふらふらじゃねーかよ!大人しく寝てろ!」
「水ぅ」
「あとで持って行ってやるから寝ろ!」
無理矢理部屋に押し込まれ、暫くして土方さんが持ってきてくれた水を飲み干して布団に入った。
「あぁー、頭クラクラするー……世界が歪んでるよー土方さんも歪んでるよー作画崩壊だよー」
「……ったく、熱がある時に酒飲むバカがいるかよ」
「土方さんだってもし熱出してもタバコとマヨネーズはやめないでしょ?」
「酒よりマシだろーが!マジで体調悪いときの酒はやめとけ、死ぬぞ」
「……死ぬ前にバーゲンダッシュが食べたいなあ」
「治ってからいくらでも食え」
「今がいいです」
「そんなの買いに行く暇なんてねーよ」
「今食べたいなあ……」
土方さんの目をじっと見つめる。数秒見つめ合うと観念したかのようにため息をつき、ちょっと待ってろと部屋を出ていった。
暫くして息を切らして帰ってきた土方さんの手にはバーゲンダッシュがたくさん入ったスーパーの袋。
そんなに急がなくたって良かったのに。
「これで満足か」
「ポカリも飲みたいです」
「……テメェそういうのは纏めて言えや」
「あーポカリ飲んだら治りそうな気がするなー」
「……まってろ」
また部屋を出ていったと思えば、今度は数分で帰って来た。汗だくになってV字の前髪が額にぴったり張り付いている。
鬼の副長とも呼ばれる土方十四郎をここまでこき使えるとは……病人の特権だろうか。
面白くってちょっとわがまま言ってしまったけど、嫌な顔しながらもちゃんとわがまま聞いてくれる面倒見の良い優しい人だ。
そんな包容力のある土方さんについ甘えてみたくなった。
「ポカリ飲んでアイス食って寝ろ」
「あの、もう一つお願いがあるんですけど」
「まだあんのか!次で最後な」
鬼の女中とも呼ばれる私は、鬼の副長土方十四郎に過酷な命令を下した。
いや、別に鬼の女中なんて呼ばれてないけどね。
「もう少し、ここに居てくれませんか」
「………アイス食い終わるまでだからな」
病気してると人に甘えたくなるよね、総悟も昨日そうだったのかな。
結局、土方さんは私が寝付くまでそばに居てくれた。
お陰で熱は下がったけども、完全に治るまで飲酒禁止令を出されたのであった……
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