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梅雨も明けて気温が高くなってきた。
私にとっては少し暑いが、前みたいにぶっ倒れて迷惑かけないためにも水分補給はしっかりしなくては。
買い出しを頼まれて、スーパーに行く途中に水分が欲しくなり、自販機を探していたら自販機の横で一服している土方さんを見つけた。
「土方さん、こんな所でサボりですか?」
「サボりはオメーだろ、こっちはちょうど一仕事終えたところだ」
「それはそれはお疲れ様です」
「オメーは何でこんなところに居る」
「自販機で飲み物買おうと思って」
すると土方さんはポケットから財布を取り出し、小銭を何枚か自販機に入れる。
「どれだ?」
「えっ!買ってくれるんですか!?」
「このぐらい構わねえよ」
「フー!さすが土方さん男前!」
「早くしねーとこのコーンスープのボタン押すぞ」
「それだけは勘弁してくだせえ!冷たいお水がいいです!水!」
土方さんがボタンを押すとガコンッと音がして、そのペットボトルを取り出し「ほらよ」って私に向かって軽く投げる。キャッチしようとしたがタイミングが遅く、顔面にクリーンヒットしてしまった。
「んぶっ……!」
「あ……わ、悪ィ」
「いてて……もう何で投げるんですか」
「悪かった。お前、昼飯まだか?詫びに飯でも奢ってやる」
土方さんオススメの定食屋に来た。
この店で一番美味いものを食わせてやるとか何とか言って、おばちゃんに「いつもの二つ」と頼んでいた。
一体何がくるんだろうと胸を躍らせて待っていたら、
「はいよ、土方スペシャル二丁!」
出てきたのは屯所の食堂でも散々見てきた犬のエサだった……
「あのー土方さん?お詫びじゃなくて嫌がらせですか?」
「さっきはわざとじゃないとは言え、女の顔にペットボトルぶつけるなんて事をしてすまなかった。遠慮せず食ってくれ」
「いや、遠慮したいんですけど」
土方さんはさっそく男らしくガツガツ食べているが私は全く食べる気になれない……
けど店のおばちゃんが折角出してくれたものに手を付けないのも気が引ける。吐き気を催しながらもマヨネーズの下に埋まってるご飯だけほじくりながら食べた。
「うぇっぷ……ごちそうさまでした……」
「マヨネーズが残ってるぞ」
「土方さんのために残しておきました。食べてください」
「そ、そうか。すまないな……」
いやなにちょっと嬉しそうなの、なに顔赤らめて照れてんの?そういう意味じゃないんだけど!馬鹿なの!?
私の残したマヨネーズも全部食べ終わりお会計を済まして店を出た。
「土方さんのお気に入りのお店に連れてきてくださって、ありがとうございました」
「良い店だろ、昼は大体ここで食う」
「私今度は普通のメニューも食べてみたいです。買い出しも頼まれてるのでスーパー寄って帰りますね、ご飯ご馳走さまでした」
「おう、あまり遅くなるなよ」
頭をポンポンされる。
近藤さんがお父さんだとしたら土方さんはお兄ちゃんだ。
いつのまにか真選組の皆を家族みたいに思ってる自分がいる。今幸せだな、私。
「何ニヤけてんだ」
「別に!じゃあいってきます、お兄ちゃんっ!」
タバコを口からポロッと落として、誰がお兄ちゃんだコラって怒鳴ってたけど無視して逃げるようにスーパーへ向かった。
屯所で過ごす夏はどんな夏になるだろうか。
暑くて苦手な夏だけど、少しわくわくしてる。
もうすぐ、夏が来る。
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