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「見たい映画があるんです、山崎さん一緒に行きませんか?」
名前さんに映画に誘われるなんて驚いた。
副長や隊長や旦那や新八くんではなく、俺を誘うなんて………
理由を聞いたら一番誘いやすそうだからとの事。
複雑な気持ち。まあでもこれってデートだよね?デートって思っていいんだよね?
「山崎さん、おまたせしました!」
準備が出来たと俺の部屋に呼びに来る。
出かける時は基本ミニの着物らしい。正直刺激が強いです……耐えろ耐えるんだ山崎退!
もたもたしていると早く早くと急かされる、可愛い。
まあそんな訳で山崎退、デートして参ります!
「あのね、銀さんにオススメされた映画でね」
楽しそうに隣を歩く名前さん。
柔らかい笑顔に日頃の疲れが癒されていく。実は初めて会った時から陰ながら良いなとは思っていた。
この人と話しているとヒーリング効果があるようなそんな気がする。他の隊士から人気があるのも頷ける。
「もう、聞いてます?」
「うおあ!き、聞いてる!聞いてるよ!あ!そのヘアピン可愛いね!」
「これこの前買ったんです!」
話を聞いていなかったのを誤魔化すために、あまり見覚えのないヘアピンのことに触れたが、当たりだったようだ。
普段つけないのにこういう時だけ付けるの本当にずるいなあ。
「すごく似合ってるよ!」
そう言うと、はにかんだ。
釣られて俺も口元が緩む。ふと建物のガラスに反射した自分の顔を見ると、それはそれは気持ち悪かった。
映画館に着くと色んな映画のポスターが貼っていて、旦那がおすすめしてた映画ってなんだろうって考えてると……
「アレ勃ちぬ、大人二枚で」
え、見たい映画ってポルノ映画ァ!?
しかもこれSM物だよね!?旦那なんつー映画おすすめしてんだ。
「名前さん本当にこれ見るの……?これどんな映画かわかってる?」
「面白そうじゃないですか?銀さんは万事屋の仕事で映画館の見周りした時にちょっとだけ見たんだって!」
全部見てないのかよッ!せめて全部見てから人に勧めようよ!?
てかこれ見終わってからなんだか気まずい雰囲気になったりしない!?
アレ勃ちぬを見に来ている人は小汚いおっさんばかりで、女の子なんて名前さんしかいない。
やっぱ普通の女の子はこんなの見ないよね……
しかも特典の変なフィルムを貰ってしまった。名前さんが、要らないなら欲しいと無邪気に言うのであげた。
照明が暗くなり、映画が始まる。もう覚悟決めて見るしかない。
***
映画が終わると、名前さんは顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。
「名前さんどうしたの!?」
「良かった、良かった……!感動した!」
「え、泣くところなんてあった!?」
「勃たねばって台詞のとこで涙出た……私、涙脆くって」
「涙脆いにもほどがあんだろ!てか女の子なんだから下ネタにもっと恥じらいもってェ!?」
まあ楽しかったみたいで良かった。たしかに想像していたよりは良い映画だったかもしれない。
俺達は映画館を出て、丁度昼時なので近くの定食屋に入った。
「生ビールと唐揚げ定食で!山崎さんはあんぱん定食?」
「いや、あんぱん定食とかないから!」
ビールと唐揚げ定食と、俺の頼んだチキンカツ定食が来て、名前さんはお腹が空いていたのか口いっぱいに唐揚げを頬張る。
唐揚げの油で潤った唇をペロっと舐めとる仕草がとても色っぽいと思った。
「唐揚げとビールって最高よね」
と喉を鳴らしてビールを飲むのは男らしいというかおっさんらしいというか……
食堂で食べてるのを見ていつも思うけど、ほんと美味しそうに食べる人だ。よく食べてよく笑って、よく飲む。時々体調とか心配になるけれど。
そういえば、デートに誘われて浮かれて忘れていたが、聞きたいことがあるんだった。
「あの、名前さんって新八くんと付き合ってるの?」
「えっ!?なんでそれを」
「この前ファミレスで……」
「あー……えっと」
名前さんは少し言いづらそうにしていたが、新八くんに恋人のフリを頼まれて姐さんに挨拶に行ったのだと説明してくれた。
「というわけです」
「なるほどね、じゃあ今は付き合ってる人いないんだ?」
「そうなりますね」
「よかった……」
「へ?」
「い、いやいや!!なんでもない!!!」
思わず、よかったなんて口走ってしまいハッと我に返って誤魔化してしまった……ヘタレか俺は。
はあー、と深いため息をつく。
残りの飯も掻き込んで、店も混んできたのでお会計を済まし定食屋を出る。
奢りたかったのだが、名前さんが手を握るようにして自分の分のお金を渡してきたので負けた。
「山崎さん、今日は付き合ってくれてありがとうございました!」
「いやいや、楽しかったしまたいつでも誘ってよ」
「山崎さんといると落ち着く」
「え……」
「私、将来結婚するとしたら、山中さんみたいな一緒に居て落ち着く人がいいな」
「……ちょっと!キュンとする台詞だけど名前ぇ!名前が違うから!つーかさっきまで普通に山崎って呼んでたよねぇ!?わざとなの!?」
名前さんは悪戯っ子のような悪い目をしてニッ笑う。
この子は小悪魔なんだと確信した日であった。
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