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『江戸は今日から梅雨入り、出かける際は傘を忘れないようにしましょう』
空はどんより曇り空。いつ雨が降ってもおかしくない天気である。
さっきテレビでも結野アナが梅雨入りするって言ってたし憂鬱だ。低気圧のせいか頭も少し痛い。
「名前ちゃん、雨が降る前に買い出しお願いできる?」
「えーなんで私があ」
「アンタ慣れてきたからって口答えするようになったわね……いいから早く行ってきなさい!」
「いたっ」
芳江さんにお尻を叩かれて渋々買い出しに行くことに。
まあサボれるからいっかあ。
今日も大量のマヨネーズ……と食材。一本くらいペペローションの容器を混ぜててもバレなさそうなマヨネーズの量である。マヨネーズの定期便とか無いのだろうか。
大江戸スーパーに着いていつものようにマヨネーズを買って、レジのおばちゃんに「そんなにマヨネーズばっかだと肥えるよ!」って言われた。
いやマヨネーズは私が食べるわけじゃないんだよ、おばちゃん。
スーパーを出ると結構な土砂降りで、私はその場で立ち尽くす。雨が降るって分かっていたのに傘を忘れてしまった。
「はあー、最悪だ」
「おーおー、でっかいため息ついてっと幸せ逃げっぞ」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると銀さんがいた。
「銀さん!よく会うね!もしかしてストーカー?」
「誰がストーカーするか!お前んとこのゴリラとはちげーんだよ!つーかお前もしかして傘無ぇの?」
「あー忘れちゃってさー」
「朝から天気悪かったのにアホかよ。結野アナの天気予報見てないのかよ。今日も可愛かったな結野アナ」
「うるさいなー!見たけど忘れたの」
「ふーん、じゃあ狭いけど……入ってくか?」
「いいの!?じゃあお言葉に甘えて!」
銀さんと一つの傘に二人、俗に言う相合傘をする。
狭いから肩と肩が触れ合って少し照れくさいな。
荷物は半分持ってくれた。
「濡れてないか?」
「んな、いきなり何!?エッチ!」
「そっちじゃねーよ!お前の頭がエッチだわ!肩濡れてないかって聞いてんの!」
「なんだ、濡れてないよ。銀さんこそ濡れてるんじゃないの?」
「男は多少濡れようが大丈夫なように出来てんの!女は体冷やすと色々大変だろ」
「へーきへーき!」
「……もっと寄れよ」
そうやって銀さんの温かい手が肩に触れて引き寄せられる。ベタな少女漫画みたいなシチュエーションに少しドキッとしてしまった。
あれ、銀さんってこんなに紳士だった?
「銀さんの手、あったかいね」
「お前が冷えてんじゃね」
それから何となく私達はずっと無言で歩いていて、手は屯所に着くまでずっと肩に触れたままで、なんだか胸がそわそわしてしまった。
「あ、ありがとねっ!」
「お、おう。ちゃんと拭いとけよ」
どうしてこんなにぎこちなかったのか。後で思い出しては中学生の男女みたいで笑えた。
「肩濡れてっけど傘持って行って無かったのか」
買ってきたマヨネーズを棚に並べていると、マヨネーズを摂取しに来た土方さんに指摘された。
別に何も悪いことはしていないのにギクリとする。
「まあ……けど何とかなりました」
「天気予報ちゃんと見とけよ」
「はあい」
銀さんの傘に入れてもらったとは言えなくて、笑って誤魔化した。
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