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朝、厠で用を足して縁側を歩いていると、土方さんの部屋から着物を肌蹴させた名前が出てきた。
昨日着ていた、いつもと違う着物のままで。
細い肩を露出させて、髪も乱れていた。
「おい、どこぞの遊女が出てきたのかと思ったぜィ」
「総悟、おはよう」
言ってる意味が分かってないのか、寝惚けてるのか知らねえが、アホ面でおはようと返してきて腹が立つ。
「なに着物肌蹴させて土方の部屋から出てきてんだって言ってんだよ」
「あ。直すの忘れてたわー」
「……ちょっと来い」
着物を直そうとする名前の手を掴み、自分の部屋まで引っ張って連れていく。
「ちょっと……!総悟どうしたの」
「黙れ」
部屋に敷いてある布団まで突き飛ばして、部屋の戸を閉めた。
「いったあ……」
呑気にケツさすってる場合じゃねえぜ。
逃げられないように両手首を頭の上でまとめて、片手で押さえつけて馬乗りになる。
「ちょっと……何すんの」
抵抗しても無駄だと分かってるのか、無理矢理腕を解こうともせず大人しい。それともこの状況がどういう事か分かっていないのか。
「こんな格好であいつの部屋から出てきて何してたんでィ」
「寝てた」
「へぇ、一晩共に過ごしたってか」
「まあ、そうなるね」
「あの野郎も隅に置けねぇや」
「何か勘違いしてない?酔っ払って寝てただけでそれ以上のこと何も無いよ?」
「オメーは酔っ払ったら誰とでも寝るのかよクソビッチ」
「……何も言い返せないや」
押し倒されて馬乗りされてるのに平然としやがって。
抵抗するんなら無理矢理唇でも奪ってやろうかと思ったが無抵抗で萎えたので、思いきりデコピンして体を解放してやった。
「いっだあ……!」
「酒臭ぇから歯でも磨いてこい。あと屯所をその格好で歩くのは隊士の目に毒でさァ」
「目に毒って失礼じゃない!!??」
「それと」
「ん?」
「もっと色気のあるパンツ履けよ」
「な……見たの!!??ドSのSってスケベのSだったの!?」
「見たくて見たんじゃねえやい、テメーが股おっ広げてだんだろィ」
「突き飛ばしたの誰よ!あー総悟にパンツ見られたのなんか悔しいー!」
悔しいってなんでィ。
こいつはどうしようもない馬鹿なんだと呆れる。
そんな奴を構いたくて仕方ない自分も、救いようのない馬鹿なのかも知れない。
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