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『隊長、対象は甘味処に入って行きました、どーぞ』
『うんこしてくるからそこで張り込み続けとけィ、どーぞ』
俺、山崎退と沖田隊長は、今名前さんを尾行している。
何故かと言うと、今日お休みの名前さんは朝から何やらおめかしして屯所を出たのだ。一瞬どこの娘かと二度見してしまったくらいに雰囲気がガラリと変わっていた。
いつもは丈の長い着物なのに今日はミニの着物にニーハイ。露出された白い太ももに何人の隊士が振り返っただろうか。
髪は高い位置でポニーテールに。
それを見た沖田隊長が男と出掛けるんじゃないか、と尾行を提案してきたのだ。
断ると面倒臭いことになりそうだし、俺自身も名前さんがどこへ出掛けるのか少し気になるのもあってこうやって尾行することにした。
しばらくすると名前さんは甘味処の袋を持って出てきた。
『隊長、対象が店から出てきました。尾行を続けます、どーぞ』
『うんこが肛門から出てきやした脱糞続けやす、どーぞ』
『あの、そんな情報要りません、どーぞ』
まだうんこしてるのかあの人は……仕方ないなあ。
次に名前さんは簪やらヘアピンやらそういう類のものが売っているお店に入る。
色んなヘアピンを付けては鏡でチェックしてを数回繰り返し、会計を済ませ出てくる。普通にショッピングを楽しんでいる様にも見えた。
『おい、今どこでィ。どーぞ』
『普通ショッピングしてる様にも見えますけど……あ、ファミレスに入っていきました!どーぞ』
てかどこ行ったんだ隊長は!!尾行するって言い出したの隊長でしょーが!
名前さんは窓際の席に座り、ビールを飲みながらたまに時計をチラチラ確認して誰かを待ってるようだった。
昼間っからビールとは思ってた以上に呑んべぇだ……
俺は気づかれないように名前さんの真後ろの席に座った。話を盗み聞きするためである。しばらくすると沖田隊長もやってきた。
「おい、山崎ィあいつぁ誰待ってんでィ」
「知りませんよ!バレないように小声で喋ってくださいね!」
「……お前ら何してんの?」
「何って名前さんの尾行……って万事屋の旦那ァ!」
いつのまにか隣に座っていた万事屋の旦那が、ニヤリと悪い顔をした。、
「面白そうなことしてんじゃん。俺も入れてくんなーい?」
一瞬旦那が待ち合わせ相手かと思ったけど、偶然名前さんを見かけてファミレスに入ってきたという。
尾行している訳を話していると、名前さんの向かいの席に人影が。
「名前さん、お待たせしたかしら?」
「お妙ちゃん!全然待ってないよ!」
現れたのは姐さん、局長の想い人であり、新八くんの姉上である。
全然待ってないよ!と言いながらもビール二杯目なのを俺達は知っている。
「なんでィ、男じゃねーじゃねえか」
「良かったじゃないですか、男じゃなくて」
沖田隊長が名前さんのことを何となく気にかけていることは気付いている。
もしかして万事屋の旦那もそうなのだろうか。
「名前さん、新ちゃんとは最近どうです?」
「あ、実はそのことで今日お話があって……」
え?どういうこと?新八くんと名前さんが何!?最近どうって聞くって事は親しい関係……付き合ってるとか…?いやいやいやさすがに新八くんはないよね、年下だし地味だしメガネだし。
あれ、でも新八くんでもいけるなら俺もいけるんじゃね?地味キャラでも希望持っていいのかな!?
「ふふ、気づいてましたよ私」
「えっ!」
「だって私、新ちゃんが生まれた時から新ちゃんのお姉ちゃんなんですもの」
「……ごめんなさい」
「いいのよ、新ちゃんに頼まれたんでしょう?」
え、どういうこと?全然話が見えない。
旦那は俺らの反応見てニヤニヤして何か知っている様子だ。
「あのね、お詫びというかお土産というか、良かったら新八くんとこれ食べて?」
そう言って名前さんはさっき買い物をしていた甘味処の袋を渡す。自分用じゃなかったのか。
「くっそー、新八羨ましい俺も食いてぇー」
「旦那ァ、話が全く見えないんですが何か知ってやすかィ」
「さあね、本人に聞けば?」
「チッ」
今にも喧嘩になりそうな雰囲気だ。
やめてくれよ、尾行がバレてしまう。
「銀さんたちも、こっちに来てお茶しません?」
と姐さんの声。まさかそっちにバレているとは……さすが姐さんいつもストーカーにあってるだけある。
「あれ、総悟に山崎さんもいる!何してんの?サボり?」
「男子会してやした」
「えっ、なにそれ楽しそう」
「ボーイズトークに女は要らねえんだよしっしっ!」
「じゃあ私達はこっちでガールズトークしましょうか、名前さん」
「隣のクラスの坂田くんってさあ陰毛みたいな頭しててウケるよねぇー」
「オイ、誰の頭がちん毛だコラ!!??」
結局何だったのかはわからなかったけど、それはまた本人に聞くとしよう。
俺達はしばらくファミレスでお茶していたけど、副長にサボっているのがバレて仕事に戻らざるを得なかった。
とりあえず、今日分かったことは女の人は髪型や服装でがらりと雰囲気が変わるということ、あとライバルは思った以上に多いということ。
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