20


土方さんが近藤さんを探してるなんて大嘘で、本当はサボりたくて適当なことを言って追い出した。

「名前さんがぶっ倒れたらしい」
隊士達が話しているのを通りすがりに聞いた。こいつの事が心配で来た訳では無い、決して無い。
からかってやろうと思った。


「おいクソ女、何寝てるんでィ」

「ちょっと暑くて、へへ」


力なく、ヘラッと笑った。いつもはキャンキャン言い返して来るのに、なんか調子が狂うな。

薄暗い部屋に障子の隙間から光が入る。
汗で濡れて張り付いた髪、暑いからか少し肌蹴させた浴衣から見える真っ白な首、ほんのりと赤い頬、力の入っていない潤んだ瞳や唇。
何故か息を飲むほど全部が色っぽく見えた。いつもは色気もクソもねえのによ、笑っちまう。
俺も暑さにやられてしまったか。


「何笑ってんの」

「いや、弱ってるの見てっと面白いなって」

「何それ……サイコパスじゃん」


弱って転がっている虫を見つけると、動かなくなるまで暫く観察していたくなる。多分それと同じ。


「扇いでやろうか」

「……うそつき」


散々嫌がらせをしてきたのだ、警戒されても仕方ねえ。
けど優しい言葉をかけると、いつも一瞬だけ嬉しそうに目を輝かせるが、すぐに騙されまいと警戒する。
それがツボだった。


「今日だけ特別でィ」


さっきの近藤さんみてーに優しく扇いでなんてやらねえ。前髪がめくれてデコが丸見えになるほど激しく扇いでやった。


「ふ、気持ちいい」


喜ばせるつもりでやった訳では無いのに、コイツは弱々しくも目を細めて笑った。姉上もよくこんな風に笑っていたっけ。まあ、姉上とは似ても似つかないがな。


「今日の気温でバテるなんて夏になったらどうするんでィ」

「……その時はまた近藤さんや総悟に扇いでもらう」

「そんなのお断りでィ」


そうだよね、知ってた、とまた笑う。
腕がだるくなってきて、何故いつまでも扇いでやってるんだと自分に問う。


「ねえ、アイス食べたい」

「甘えんなクソ女」

「病人なんだからさ、ちょっとは優しくしてよ」

「やなこった、調子に乗るんじゃねえ」

「ちぇ」


風で前髪がふよふよ、と揺れる。


「てめーは早く体治せィ」

「……てめーとかクソ女って言うけど、私にも名前があるんだよ」

「……名前」

「ふ、よくできました」


どんどんこいつのペースに巻き込まれている気がしてイライラする。

喋らなくなったなと思うと、小さな寝息が聞こえてくる。
ブッサイクな寝顔を見ていたらまた腹が立ってきたから無防備な額に軽くデコピンした。



[*prev] [next#]
top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -