18


「新八くん、手伝わせて」

「いえ、お客さんなので座っててください!」

「ううん、手伝わせて?」


恋人のフリをしてと無理を言ったのは僕なのに。
一切嫌な顔せずに承諾してくれた名前さん。

こうやって夕飯の準備まで手伝ってくれるなんて、出来た人だ。中身がアル中のおっさんじゃなければ完璧だ。

なんか、こうやって2人で台所に並んでいると恋人同士っていうか、夫婦というか、僕に将来お嫁さんが出来たら…………


「新八くん、鼻の下伸びてるよ?なんかやらしいこと考えてる?」

「か、考えてないわァァ!」

「本当かなあ?」


やらしい事は決して考えていない。
ただこんな風に姉上以外の女の人と、並んで料理なんてしたことが無いのでほんの少しだけ鼻の下が伸びただけであって。


「あらあら、仲がよろしいこと」


姉上も名前さんが彼女だって信じてくれてるみたいだ。姉上を騙すなんて事はしたくなかったけれど、安心させてあげたかった。

とりあえず姉上の知らない人物で、恋人のフリをしてくれそうな身近な人は名前さんしかいなかったのだ。
名前さんにはお礼として、あとでお酒でも出してあげようかな。

他愛のない会話をしながら夕飯を作っていたらあっという間に夕飯が出来あがった。


「んー、いいにおい!お腹すいたあ」

「お酒も出すんで今日は飲んじゃってください!」

「本当!?嬉しい!!」


姉上と三人で食卓を囲む。姉上が名前さんにお酌する。そういえば名前さんのが年上なんだよな。
よく食べて、よく飲む。次第に名前さんの顔は鼻の先まで赤くなっていく。


「新八くうん、飲んでるうー?」

「いや僕は飲めませんよ!酔ってんですかアンタ!」

「新ちゃん、この人物凄い飲むわあ。見ていて気持ちがいいわあ」


さすがキャバ嬢、飲ませるのが上手い。
名前さんが酒飲みなだけなのかもしれないけれど、酒瓶を何本も何本も空にしていく。


「姉上、そのへんにしときましょう。この人完全に目が据わってます」

「そうね、寝室に連れて行ってあげなさい」


そう言われ、でろんでろんの名前さんに肩を貸し寝室に連れていく。
戸を開けると布団が2組くっ付けて敷かれてあり、照明もピンクに変えられていてとてもアダルティーな寝室になっていた。姉上、何やってくれてんだ。


「うわー!すごーい!ラブホみたーい!!!」


なにはしゃいでんだこの人!!自分の置かれている状況わかってんのか!!??


「と、とりあえず名前さんはここで1人で寝てください、僕は自分の部屋で寝るので」


そう言って部屋を出ようとすると裾を引っ張られて潤んだ目で僕を見つめる。お願いだからそんな目で見ないでほしい。僕は童貞なんだぞ!


「一緒に寝ないの?お妙ちゃんに怪しまれちゃうよ」

「な!な!ななな何言ってるんですか!!どどどどど童貞をからかうのも大概にしてくださいよ!!!」

「新八くんのそういうところ、可愛い」

「な…!やめてください、本当に」

「ツッコミキャラなのに……突っ込んだことないところ、可愛い」

「喧嘩売ってます!!??」


時々ひっく、ひっく、と肩を跳ねさせる。
これだから酔っぱらいは……


「新八くんはさ。家庭的だし、優しいし、眼鏡だし、ぜったい、いつかかあいい彼女がれきるよ」


途中からほとんど呂律が回っていない。
ごろん、と布団に寝転がると、すぐに寝息が聞こえてきた。うちのお客様用の浴衣が少しだけ肌蹴て白い鎖骨が露わになる。
なるべく見ないように布団をかけて、部屋を出た。

本当、酒を飲むとだらしない人だな。
銀さんとウマが合うはずだ、と短くため息をついた。

朝起きると、彼女は昨晩のことなんて全く覚えていないのかケロッとしていた。僕はあの白い鎖骨が頭から離れず、悶々として眠れずにいたと言うのに。
結局最後まで恋人らしい振る舞いをしてくれてはいたものの、彼女が帰ってから姉上に、


「新ちゃん、今度は本当の恋人を紹介してね」


と言われてしまい、昨日の気苦労はなんだったのだと落胆したのであった。


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