16
夜、風呂から出て部屋に向かう途中、縁側で酒を飲んでるあいつをよく見かける。
てか毎日見かける。毎日飲んでるぞあいつ。
でもそんなに酔っているようには見えなくて。
酒に強いのか、酔ってもあまり変わらないのか。ほんのり頬が赤くなってるくらいで、いつもと何ら変わりない。
「副長さん!」
目が合うといつもふにゃっとした笑顔で手を振ってくる。この気の抜けた顔が、なんかのゆるキャラっぽくて笑ってしまう。
「その呼び方やめてくれ、なんか痒い」
「どこが痒いんですか?お尻とか?」
「そういう意味じゃねーよ馬鹿かオメーは」
「トッシーって呼ぼうかな」
「絶対やめろ」
「十四郎さんは長いし…ま、普通に土方さんでいいか」
雰囲気は清楚な感じなのに口を開けば下ネタ。
初めて会った時はもう少し大人しい非力な女だと思った。酒もよく飲むし完全に中身はおっさんだ。
まあこいつのこういう性格のおかげで気を使わないでいられる。
「土方さんもお疲れでしょ、飲みます?」
おちょこを顔の横に持ってきて顔を少し傾ける。
こいつも風呂上がりなのか、湿った髪が頬に貼り付いている。
「……一杯だけな」
「お!珍しいー!」
酒を注いでもらって口をつける。
飲んでる様子をじっと見つめてくる視線がうざったく、目が合うとまたふにゃっと笑った。
「……ゆるキャラみてぇな顔」
「ゆるキャラ!?そんな顔してました!?」
「してた」
そんなゆるんでる?表情筋鍛えたほうがいいかな、とブツブツと言いながら、両手を頬に当てグニグニしだして余計に面白れぇ顔になる。
「ふっ……」
「あ、土方さん笑いましたね?」
「笑ってねーよ」
「笑ったでしょ!土方さんも笑うんですね」
俺をなんだと思っているんだ。
そんなにおかしいかと訊ねると、親近感が湧いたと笑った。
「あっれー、トシと名前ちゃん2人で飲んでるの?俺もいれてよぉん」
近藤さんも現れて、名前を挟んで横並びに座った。
その場は更に賑やかになる。
「土方さん、ゴリラにお酒与えても大丈夫なんでしょうか?」
「あんまり飲ませると脱ぐから少しだけな」
「公然猥褻」
「名前ちゃんがなかなか俺に懐いてくれないよトシ!」
「アンタは第一印象が悪すぎるんだろ」
こいつが来てから屯所が明るくなった。
悪く言えば生温くなったけども、俺らは常に気を張って生きている。
精神的にキツい時もある。そんな時にこういう気の抜けた笑顔で迎えられるのも悪くない。
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